2023年3月5日日曜日

パンドカンパーニュの魅力

 





日曜の昼下がり、のんびりとトンカと森の散策に出掛け、久しぶりに大回りをして幾つもの森を抜けて、小川に沿って歩いて行った。学校のバカンスの最後の週末にしては、曇天で寒々としているからだろうか、子供たちの姿は全く見掛けず、時々ランニングをしている若者や、マウンテンバイクをしているサイクリストに出会うだけだった。


それでも車道に出てみると、他県ナンバーの車が数台空き地に駐車をし始めていて、これから散歩に出掛ける人々で、いつもよりも賑わっていた。こんな時はさっとトンカにリードをつけるに限る。一番厄介な連中は、固定観念で犬を怖がる大人、子供だった。


最後の丘をリードを付けながら上り切ると、後は大きな緑あふれるマンションの敷地を横切るだけだった。と、急にトンカがリードを強く引っ張った。叢にしきりに入りたがっているが、その勢いたるや尋常ではない。兎か、ハリネズミか。


こちらも引っ張られそうになるので、頑張って引っ張り戻すが、トンカの意思の強さは、私のそれを数倍上回っているようだった。仕方ない。長さが調整できるリードをつけていたので、こちらが引きずられない様に踏ん張りながら、這う這うの体でロックを解除した。


と、勢い良く叢の中に入り込み、ごそごそやっている。一体何事かと近寄ってみると、あに図らんや、大きな塊に齧りついている。よくよく見てみると、大きなパンドカンパーニュの半分だった。


フランスのパンドカンパーニュの大きさは度を越えていて、一つあれば一週間は家族皆で食べることができる程なので、それを半分にしてスライスしたものを購入することが多い。が、これはスライスしていない塊で、どうやら全粒粉を使っているのか、ライムギ粉で焼いているのか、かなり色の濃い、ずっしりとした重みを感じさせるものだった。


トンちゃん、すごいものを見つけたねえ。これはトンカの戦利品以外の何ものでもない。やれやれ。一体、トンカの嗅覚はどうなっているのか。改めてその凄さを目の当たりにすることになった。トンカが意地でも獲物を逃したくなく、リードを引っ張って頑張ったわけが漸く分かった。


こうなると、トンカからこのパンを取り上げることは無理なことは明白だった。毒など盛られていないことを祈るしかないが、しかしなんだってパンの塊を叢に放ってしまったのだろうか。誰も未だ手につけていない、綺麗なパンの塊。足があるわけでもないのだから、誰かが放らないと、叢の中には置かれていない。


想像力を逞しくしても、ちっとも場面が浮かび上がらなかった。自転車の荷台に括りつけてあった、ピクニック用に準備した袋から転がったのだろうか。或いは、ドライブ中のカップルが喧嘩になって、つい、パンを投げてしまったのだろうか。いや、いや、いや。


そんなよしなし事を考えている中にも、トンカは必死になって塊にかぶりついている。塊を口に咥えたまま、促されては歩き、時々口から落として唾液で柔らかくなったところ食べ、また口に咥えては歩くものだから、ちっとも前進しない。


赤ずきんちゃんに出てくる、おばあちゃんを食べてグーグー寝こけている狼のようにお腹が膨らんできているように思われた。ああ、とんちゃん。今日の夕食は、もうこのパンでお仕舞ね。


それが分かったのか、分からなかったのか。散歩から帰って来てからずっと、赤ずきんちゃんの狼よろしく、ソファーで正体不明で寝こけている。パンドカンパーニュの魅力は底知れない。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

0 件のコメント:

コメントを投稿