好奇心旺盛のトンカは、森の中を時には鹿のように、時には兎のように駆け回る。崖や急斜面が好きで、わざわざ登っていく様子は山羊を思わせる。確かに子ヤギの様にぴょんぴょん飛び跳ねる時があるので、ひょっとしたら父親は山羊なのかもしれない。
好奇心が勝り過ぎて、農場や工事現場に入り込んでしまうことがあるので、要注意なのだが、森の中で自由に駆け回るトンカを見ていると、こちらまで気分が高揚し嬉しくなってしまう。だから要所、要所で声を掛け、必要あればリードをし、上手に誘導するよう心がけている。
相手は時々狡猾な真似をするので、こちらは裏切られた思いをすることもあるが、そこは好奇心が勝っているのだと割り切ることにしている。幾つもの小径が入り混じる場所で、どの径を通るのと言わんばかりに首をかしげて待っていることもあれば、勝手に行ってしまっていて、声を掛けて漸く戻ってくることもある。
大抵は戻ってくるので安心をしていると、油断も隙もあったものではない。トンカの好奇心を大いにくすぐる工事現場の箇所を通らないように配慮し、小径に入ったところでリードを外してやったところ、ほいさ、とばかりに工事現場にまっしぐらされたことがある。当然門は閉まっているのだが、田舎の古い建物の改築工事なので小動物が入れる程の隙間はいたるところにある。下手をしたら、奥の方ではバリアもなく、森に繋がっているのかもしれない。
これまでじろじろと見たことはなかったが、今回ばかりはトンカの姿を探すためにも、しっかりと覗いてしまった。想像以上に敷地は広く、水仙の黄色い花が咲き乱れていた。石造りの家を構造だけ残しての改築工事なので、作業が終わると誰も残っていない。
作業現場にもお国柄が現れる。恐らく作業員はフランス人ではないだろう。いや、フランス人であっても結局は同じことかもしれない。作業道具は野ざらし状態だったし、たった今まで誰かが材木にカンナを掛けていたと思われる様子で、削りカスとともに材木が放置されていた。
中庭にはコンテナのようなものが置かれていて、そこに廃棄物が入っていると思われた。なぜなら、周囲には廃棄物が散乱していたからだった。恐らくコンテナに入れる際に、取りこぼしがあったのだろう。ゴミ箱の周囲には必ずと言っていい程、紙くずや食べ屑があることと一緒で、廃棄物を放り投げる習慣があるのだろう。
やれやれ。これでは、トンカが大喜びするわけである。宝の宝庫。
以前、ジンバブエで自動車の整備工場に行ったことを思い出していた。サイズの違うビスも、バケツにごっちゃ混ぜに入っていたことが印象的だった。同行した日本の自動車メーカーのエンジニアは、埃がたまっていて、あまりに不衛生で乱雑な現場にため息をついて驚いていた。
料理をする時も同じ。先ずはシンクを綺麗にし、包丁を研ぐことから始まる。洗い物が残っていたり、片付けていないお皿があるような場所で、良いものが作れるはずもない。
さあ、トンちゃん。そろそろ家に帰ろうよ。どんなに声を掛けても、口笛を吹いても、私がいることに安心してなのか、ちっとも出てこない。仕方ない。犬の遠吠えの真似をしてみたところ慌てて出て来たので、その効果の程に逆にこちらが驚いてしまった。何事かと思ったのだろう。
暖かくなってきたとはいえ、日が沈むと急に肌寒くなる。トンカのきりっとした尻尾を見ながら、家路を急ぐ。
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