貴女をこの手に抱いて、もう14年という歳月がたったことに、心底驚いている。
クリニックでも、看護婦さんから掃除のおばさんにまで、皆に大人気だった貴女。
どのお店に行っても、貴女と一緒だと声を掛けられ、世界が広がった。
いつもと同じ街にいるのに、貴女と一緒だと別の街にいるようで、世界が多面的になったように感じられた。
今でも覚えている。
雪が舞うかと思う程の凍てついた日。貴女を真っ白なマントに包み、ふっかりとした毛布をかけ、こんもりと乳母車に乗せ、毎日のお散歩コースを鼻を真っ赤にしながら、一時の自由な時間を楽しんでいた時。
公園はひっそりとしていて、黙り込んで寒そうに震えている遊具を通り抜け、細い道に入る。と、一本の長いその通りに、所謂ホームレスと思しき人が座り込んでいる。
どうしようか。
治安が悪い場所ではない。
それでも、生まれたばかりの赤子を連れ、初めて我が子を守る本能に心が燃え立つ。そして、異国の地にいる外国人の自分を強く感じる。
長い通りには横に逸れる道もなく、途方もなく続いているかに思えた。
ユーターンしようかとも思った。
それでも、何かが前に向かって進ませた。
乳母車と足音だけが通りに吸い込まれていく。
と、その通りに座っていた人が声を掛けてきた。
「赤ちゃんだね。おめでとう。この子が世界を照らしてくれるよ。幸多からんことを!」
なんてこと!
母親としての誇らしさ、幸せを体一杯に感じる。満面の笑み。感謝で言葉もでない。。。
そして、心細く思って、警戒心さえ抱いていた自分を恥じる。
陽射しが一斉に降り注いできた、そう、ヴィヴァルディの協奏曲が突然流れ出したかの様に。
貴女はママを守ってくれた。
貴女はママに多くのことを教えてくれた。気づかせてくれた。
貴女はそうやって、生まれたときから、既に貴女の人生を歩み始めていた。
その小さな手と小さな足で。
小さいけれど、太陽の灼熱のエネルギーを持って。
そう、貴女は、そんな秘めたエネルギーを抱いて生まれてきたのよ。
いつか飛翔していく、その日まで、ゆっくりと、着実に準備し、自分を磨きなさいね。
14歳、おめでとう。
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