ちょっと太目の焦げ茶色の木製。
フルサイズのように長過ぎず、
バイオリン向けよりも重いもの。
「今日一日お貸ししますから、試してみてください。」
ルチエのサビーンはくりくりとしたすみれ色の瞳を一層丸くさせ、他の品も幾つか見せてくれる。
来年1月の全国大会の練習があるからと、今年のソロのコンサートが急遽今度の土曜に決まったのが先日。その話を聞いて、思わず声を上げてしまった私の顔を、パパの週末でスケジュールが合わないのかと、心配そうに先生のマリが覗き込む。
準備の時間が余りないから、との私の返事に、マリは大笑い。
バッタ達はそれぞれに今仕上がったばかりの曲を弾くらしい。
私は進行形のSeitzのconcerto No.2 第3楽章。
今年の夏、末娘バッタがコンサートで弾いた曲。
彼女は、あんなに軽々と弾いていたのに、中間の小舟が川下りをしているようなリズミカルな部分は透明な音が出ない。
その後のスタッカート。何度繰り返しても、躓く。気ばかり逸って、左手と右手が合っていない。
重音。二つの弦を弾く時に、何故か力が入り過ぎてしまう。
コンサートなので、ピアノの演奏が入る。
大切なことだけど、間違ってしまっても、音楽は止まることなく、弾き上げねばならない。
しかも、先週は高熱にうなされ、ほぼ一週間は練習が出来なかった。
それなのに先週の土曜は、ピアニストのトマと合わせるリハーサル。
皆が帰る最後に弾こうと思っていたのに、早々と先生のご指名を頂戴し、子供達と親達の前に出る。
一週間病気だったと言うと、小学校教師であるシルヴィアンヌの「親でも言い訳を見つけたわね!」に、教室は笑いに包まれる。
恐れていた通りにぼろぼろの演奏(弓がガチガチと弦にぶつかり、左手が出鱈目に)。皆、無言で激励の拍手。穴があったら入りたいとはこのこと。せめては、子供達が、大人でもこんな演奏か、と自信を持って演奏してくれれば有難い、と、自分を慰める。
それでも、
そんな演奏でも、その後、マリ(バイオリンの先生)は私に対して非常にポジティブで明るく、カーボン弓ではなく、ぜひ木製の弓を使ってみてはどうか、と勧めてくれた。そして、小柄な私がアルト(ヴィオラ)を弾く上で、弓の長さを4分の3で試してみてはどうか、と。Seitzのコンチェルトは木製の弓の方が求めている音が出しやすいのでは、と。
彼女は、心からそう思ってアドバイスをしてくれたのかもしれない。
そうであれば、天才的教育者である。
私のへこんだ気持ちを十分受け止めつつも、全く違った話題を提供し、全く別の次元の話をすることで、私がSeizのコンチェルトを演奏することに別の色合いを持たせてくれた。
息子バッタのバイオリン向けの4分の3サイズの木製弓で練習をすることで、フルサイズのカーボン弓の扱いに梃子摺っていた私は、その扱い易さを発見し嬉々となる。
長女バッタの木製弓はフルサイズ。私のアルト用と比べて、長さが同じであることを知り驚き、これまた感心する。
こうして、慌ててルチエのサビーンの元を訪ねることになる。
幾つかの弓を前にして、選択肢は幾つもあるようで、実は一つしかないことが明らかであった。サビーンは一日家に持って帰ってよいと言ってくれている。
私が選んだ弓は一つだけ。それを取るか、取らないか。
その日は無理をして会社からこっそり抜け出してアトリエに寄っていた。翌日、同じようなことが出来るとは限らない。
「いただきます。」
しっかりと松脂をつけ、音を出し始めると、バッタ達が寄ってくる。皆がそれぞれに自分のバイオリンで弾いたり、私のアルトを弾いたりと試したがる。
息子バッタの弓より、気持ち長く、十分な重みを持っていた。
バッタ達が寝静まってから、おもむろにアルトを弾きだす。16部音符の連続、スタッカート、スラー、、、。小舟の川下り。。。
気がつくと、午前零時を回っている。
天才的な教育者マリよ。
どうやら貴女の魔法は私に上手く効いたみたいよ。
今も早く練習したくてウズウズしている。
ユーディーか。弓は生まれたばかりの雛をつかむ如く持つべしと言ったのは。
にほんブログ村 クリックして応援していただけますと嬉しいです。
皆様からのコメントお待ちしております。
くっかばらさん元気で何よりです。なんか、似てますね。私とクッカバラさん。実は私も子供達のバイオリンのコンクールがあるのでピアノ伴奏を練習していて夜中の2時になってしまいました。私の場合伴奏なので主役の子供たちに迷惑をかけてはいけないのですが
返信削除なんとも手が動かない。情けないです。クッカバラさん、コンサートの成功をお祈りします。
あかうなさん!
返信削除夜中の2時ですか!ご無理なさって体調なぞお崩しになりませんように。生姜とレモンのスペシャルドリンクで乗り切ってください。
応援ありがとうございます。
あかうなさんも、お子様達がコンクールにて最大限のお力を発揮されますこと、お祈り申し上げます。