2021年4月10日土曜日

エルミタージュにて

 






それは何の兆候もなくやってきた。

駅から自転車に乗って帰って来たと思ったら、お土産のエクレアのお菓子をテーブルに置いた途端、カタツムリの様にうずくまってしまった長女バッタ。


真っ白な顔にほんのりとピンク色の頬が可愛らしいのに、苦しそうに顔面蒼白となっている。


吐き気がし、寒気がし、腹痛がひどく、とにかくうずくまらずにはいられないらしい。


生理痛ではないかと疑った。そうなると早めに痛み止めを飲み、とにかく嵐が過ぎ去るのを待つしかない。


ティーンになると生理が始まり、気分もホルモンに大いに左右され、身体も丸みを帯び、次第に生理痛に悩まされる回数も増えてゆく。やはり男女とはそれぞれ全く違った個体であるとしかいいようがない。お互いに違いを尊重し合う、そんな関係が大切であって、決して女性が男性と同じことをしたり、逆に男性が女性と同じことをすることが、人権の尊重の基本とは思わない。


そんな思いに囚われながら夕食を終え、寝込んでいる長女バッタの様子を見にいくと、どうもよろしくない。じっくり話を聞いてみると、どうやら生理は既に終わりに近い段階で、今頃これほど苦しむのはおかしいことが判明する。


吐き気がひどいらしく、なんだか産気づいたお腹の大きな女性のような呼吸をし始める。


素人判断はどうもよくない。熱も出てきている。


どうしたものか。まあ、とにかく寝ているしかあるまい。


二階でお風呂に入っていると、どうも階下が騒がしい。かなり派手に下痢と嘔吐を繰り返した模様。食あたりか!聞けば、ランチに近くのパン屋でフムスのサンドイッチを買って食べたらしい。フムスのサンドイッチ?香辛料が効いていて、味が濃いであろう、ひよこ豆のペーストが悪くなっていたとは考えにくいが、他には考えられようがない。本人はフムスがどんな味付けだったかを思い出す余裕もない程に苦しんでいる。


しかしまあ、一体なんでこんな時に。


この週末は一緒に末娘バッタの見送りの準備をすることにしていたのに。


かくして、二人で楽しもうと予約したエルミタージュで、今は一人で明日の算段をしている。明日は朝から買い物をして、ラタトゥイユ、チリコンカン、チャーハンなど、6人分程度作る予定にしている。長女バッタからは、先ほど漸くおかゆを食べたとの連絡があり、ほっとしてはいる。


さあ、そろそろ俄かシェフは明日に備え眠るとしようか。






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2021年4月8日木曜日

香辛料の魔術

 






深く考えもせずに外に出て、BIOの店に向かった。香辛料の棚が充実していたのは、一体どこだったろうか。隣町の八百屋かもしれないとの思いが過るが、もう既に歩き始めてしまっていた。


コリアンダーの粒はこの間買ったばかりだった。クミンも未だ十分ある。気がかりはカルダモンの実と黒のマスタードシード。それから、できたら新鮮な青唐辛子も手に入れたかった。


歩きながら、先日送られてきたメッセージを思い出す。


「Hi 」


それ以上でもそれ以下でもない。

送られてきた時に、すぐに返事を書かなかったからだろうか。翌日、桜の花の写真と一緒にメッセージを送るが、それへの反応はなかった。


らしいと言えば、彼らしい。しかし、このコロナ禍で、随分と影響を受けているのではないだろうか。元気にしているのだろうか。そういえば、一度日本でコロナ陽性者数が少ないのは、偏にスチームで喉を消毒しているからだとのスチーム器のPRビデオを送ってきた時があった。あの時は呆れて無視を決め込んでしまったが、そんなでっち上げの嘘を信じて、馬鹿な買い物をしないでね、とでも言ってあげれば良かっただろうか。


今なら遊びに行けば、時間の余裕があって会えるのだろうか。それこそ、日本に絶対行くと言っていたのは、どうなったのか。いずれにしても、このコロナのお陰で、身動きのとれない状況ではあることに思い至る。まったく、ため息ばかりが出てしまうではないか。


そうか。彼からのメッセージが発端で、深層心理が働いたのかどうか本当のところは分からないが、どうしても急にかの地のカレーを作りたくなってしまっていた。ひょっとしたら、植木鉢からマンゴの芽が漸く出てきたからかもしれない。


先ずはベースのカレー粉作りから。そのためにはコリアンダー、クミン、黒コショウ、コメ、黒マスタードシード、クローブ、カルダモンシード、フェンネルシードが必要だった。


他にも、カイエンヌチリーパウダー、シナモン、ターメリック、ココナツミルク、ココナツ。


ベースのカレー粉の材料を炒め始めると、香ばしいにおいがキッチンを満たした。焦がすちょっと手前で火から下ろし、冷ましたら、ブレンダーで粉砕する。何回かに分ければ良かったのだろうか。ぱんぱんに入れたブレンダーから真っ白な粉が出てきてしまった。しかし、得も言われぬほのかな甘い香りが立ち込める。


短冊切りの玉ねぎ1個をオリーブオイルで炒め、薄切りにしたニンニク6個を入れる。青唐辛子はなかったので、今回はパス。そこに先ほどのローストしたカレーベースを大匙2杯、予め粉にしたマスタードシードを大匙1杯半。今回は黒がなかったので、黄色で代用。カイエンヌチリーパウダー小匙2杯、シナモン小匙1杯半、ターメリック小匙1杯。しんなりと玉ねぎと絡み合うまで炒める。


予め大きめのさいの目に切っておいたカボチャを入れ、混ぜ、ココナツミルクを2カップ入れる。塩、胡椒で味つけ。鍋の蓋をせずに、のんびりとカボチャに火が通るまで炒める。


ココナツ大匙4杯を別に炒めておき、出来上がる直前に入れる。


カボチャの実はとろりととけ、カボチャの皮はしっかりしていることが美味しさの秘訣か。青唐辛子が入っていないからか、急激な舌にくる辛さはないが、奥行きのある、豊かな味わいとじんわりとくる辛さに思わず唸ってしまう。


果たして、本場のカレーの味に近づけたのだろうか。一体、彼との距離はいつかは縮まるのだろうか。


マンゴの芽が答えを知ってか知らずにか、すくっと立ち上がり、威風堂々たる姿が見事に様になっている。春爛漫。



どうぞよろしかったらご参照下さい(関連記事):

初恋の相手との再会

マンゴ カルナンデ

Life is busy and going on and on

ログアウト

逡巡

思わぬ展開

辛夷を思って

天空に放たれた言葉



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2021年4月7日水曜日

はにかみ屋さん







ここ数日、春爛漫かと思っていたら雪が舞う。

早々にリラが花房を付け始めているのに。

初夏の陽気と思わせる日もあったので、オリーブの木も外に出してしまっているのに。





膨らみかけていた蕾が、

色づこうとしていた蕾が、

朝の冷たさに負けずに、

ちょっと恥じらいながらも勢揃い。


はにかみ屋さんたちの笑顔が楽しみになる。





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2021年4月5日月曜日

蔦との格闘

 






一寸の虫にも五分の魂 而して

一寸の雑草にも五分の魂なのか

そうかもしれないが、雑草イコールpest(ペスト)であることには変わりはない。

高校時代のホストファミリーの父、ジョンが憎々しげに、吐き捨てるように言う「PEST!」である。


あの当時、生意気で、反抗期で、天邪鬼だったから、それこそ、一寸の雑草にも五分の魂、なんてことを言って雑草を擁護していた。そんな自分の浅はかさに赤面し、辟易してしまう。今ならジョンと一緒に「PEST」駆除に駆け回るのに。若いということは、思慮に欠け、独り善がりになりがち。


当時ジョンは仕事から帰ってくると、ブルーのオーバーオールのままで庭仕事をしていた。そして週末に芝刈りをしていた姿を思い出す。菜園を作るには水不足で、ダムからポンプで水を汲んでいたようにも記憶している。


そういえば、日陰でミントの爽やかな香りがする肉厚な葉を持つ植物を育てていた。表面がうぶ毛で覆われていて、ビロードのようだった。一枚ありがたく失敬し、押し花よろしく、押し葉をしたはずだが、どの本に挟んでいたのか、今では忘れてしまった。


今度、園芸店に行った時にでも、このミントの香りのする植物を探してみようか。


蔦の話を書くつもりが、ジョンとの思い出になってしまった。久しぶりに電話をしてみようか。元気にPESTと闘っているだろうか。できるなら、こちらに遊びに来て、一緒に庭の蔦と格闘して欲しい。そうだ。そうお願いしてみよう。




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2021年4月3日土曜日

返信

 






満開に咲き誇る、さくらんぼの沢山の真っ白な花束の塊の中から、勢いよく鳥が飛び立つ。と、はらりと花束が一つ落ちた。


その時、この返事をどんなに待ち望んでいたのか、思い知らされる。

予期せぬ感情の現われに、自分自身が戸惑ってしまう。


ゆっくりと、この感情を楽しもうか。

まだ朝は明けたばかり。







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2021年4月2日金曜日

蕎麦粉の香り

 




今日はブルターニュのガレットにしよう。

もちろん、中身はお定まりのチーズ、ハム、卵のコンプレッ。


蕎麦粉をボールに取り出した時、芳醇な香りが立ち上がる。香ばしいと言おうか、なんという上品な香りなのだろう。


グルテンがないからか、水を注いで生地を作るにしてもダマができなく、取り扱いはとても簡単。光沢あるグレイの生地がねらりと出来上がる。


前回蕎麦を打とうとした時の苦労を思い出す。日本の蕎麦粉と種類も違うだろうし、水だって日本のものとは全く違って硬いし、石灰が入っている。だから上手くいかなかったのだと自分に言い聞かせるものの、あれは本当に難しかった。結局は水を増やしてガレット生地にしてしまったのだから。


蕎麦屋がパリに数えるほどしかないのは、パスタ好きのフランス人にはグレイ色の蕎麦が受けないからかと思っていたが、蕎麦粉で作るガレットは大人気なのだし、考えてみればイカ墨パスタだってレストランの人気メニューである。


日本のように美味しく蕎麦を打つことが、フランスの水のせいで難しいのだろう、と勝手に結論付けてしまう。ブルターニュの地で育った蕎麦粉にはガレットが一番合っているのだろう。


蕎麦粉の香りを楽しみながら、ブルターニュの荒々しい土地に思いを馳せる。





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2021年4月1日木曜日

やっかいな話




 


気持ちよく好き嫌いなく何でも食べる大食漢であった末娘バッタ。


いつの間にかアレルギーとかで、あれはダメ、これはダメとなってしまった。厄介なことに、いや、有難いことにバッタ達は三人とも早い段階から自立しており、特に末っ子ということもあってか、末娘バッタは早々と親離れ宣言をしていた。従い、アレルゲンを調べる血液検査も一人でやってしまったし、結果も自分で保管している。


いや、それもこれも、出稼ぎ母ちゃんをしていた私に気遣ってのことで、一人で全てを背負ってしまったとも言えようか。


この2月に急遽帰郷し、今は末娘バッタのために料理をする楽しさを取り戻してはいるが、これも彼女の強化合宿期間中に限られる。そんな俄かシェフに対し、食事制限をしているものとして、グルテン、牛乳、穴のあいたチーズ(エメンタル!)以外のチーズ、林檎、ヘーゼルナッツ、と早口に告げる。


そうですか、そうですか、といそいそと活力あふれるような食事をと食材を求め、キッチンに立つ。


そうだ、今日はブラジルのPao de queijo、ポンディケージョにしよう。タピオカはそもそもグルテンフリーだし、牛乳は豆乳で、チーズは、例の穴の開いたエメンタルでOK。


いや、まてよ。


そこで、いつもの探求心が湧いてしまう。


ラクトースフリーであるなら、ラクトースの含有量を調べてみれば、他にも食べることができるチーズがあるのではあるまいか。


ある、ある、ある!やっぱりね。


エメンタルはもちろん、グリュイエール、グーダ、ミモレット、カンタル、そしてパルメザン。パルメザンがOK!これは凄い発見。そもそも、固めのチーズなら大丈夫なのか。


張り切ってスーパーに飛んで行き、ポンディケージョのためにエメンタルとパルメザンを買う。チーズが大好きな末娘バッタの顔を思い浮かべ、適量なら問題ないのよね、と、グリュイエール、グーダ、ミモレットを買い物籠に入れる。


ふんふんふん、と鼻歌交じりにキッチンで本日の発見と購入物を長女バッタに披露する。


「ママ、ラクトースがダメなんじゃないと思うよ。本人に聞いた方がいいけど、確かパルメザン、ダメだった様だよ。」


え?えっつ?ええええっつ?


なんだって、はっきりと教えてくれないの!さっさと検査結果を見せてくれれば、こんなことにはならないのに。


やっかいな話!まったくね。では、エメンタルだけのポンディケージョとしましょうか。


春爛漫。





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