2022年10月18日火曜日

悲願のガトーバスク

 







どの分野にも、何故か上手くいかないというものがあるのではなかろうか。私にとって、ガトーバスクが数ある中のひとつ。


まだバッタ達が幼くて、パパも揃ってパリに住んでいた頃のこと。フランスではよくあることで、長女バッタが通っていた地元の幼稚園は公立の小学校に属していて、年長組だけは小学校の年末行事のお祭り、kermessケレメスに参加することになっていた。


その日は小学校の校庭にテーブルと机が所狭しと並べられ、各クラスは子供たちの展示会場となり、コーラスがあったり、マキアージュのコーナーがあったりと、それはそれはにぎやかになる。


各家族はそれぞれにアペロ用の一皿、肉料理、魚料理、キッシュ、パイ、サラダ、ケーキ、など好きなものを持ってきて、食堂コーナーに並べる。それを事前に購入しておいた食券で皆で好きなものを選んで、特設ダイニングテーブルでいただく、といったシステムになっていた。


なぜ、あの時、ガトーバスクを作ろうと思ったのか。ちらし寿司や手毬寿司など作って持って行ったら、大人気になったかもしれない。まだまだ新米ママで、三人のバッタ達の子育てと仕事でてんやわんやしていた時代。それこそ、末娘バッタは二歳になっていなかったのではなかろうか。


それでも憧れのレシピ本を数冊持っていて、その中で選んでしまったのが「ガトーバスク」。バスク地方に行ったことがあるわけでもなく、実際に食べたことがあったのか、なかったのか。


結果たるや惨憺たるもの。当時、何故、近くのパン屋さんで美味しいケーキを買って、それを持っていくという発想をしなかったのか。とにかく時間に押され、情けない様子のガトーバスクなるものを袋に入れ、バッタ達を引き連れ、パパも一緒に皆で繰り出した。


長女バッタの仲良しの友達と、その家族と一緒に席を確保し、さあ、何を食べようか、と皆でわいわいと食べ物を選びにいく。あなたは何を持ってきたの?と、当然のことながらママ達は囁き合う。


子供達の人気はなんといってもチョコレートケーキ。皆の元気な手が競って選んでいく片隅で、誰からも見向きもされない、恐らく誰もガトーバスクだとは思わない、「自称ガトーバスク」がぽつんと残っている。


そうだよね。そうだよね。


長女バッタの親友のママが、それであなたのケーキはどこ?と。既に失敗してしまったことを告げていたが、失敗したと言っても意外と思ったほどには悪くはないものよ、と励ましてくれて、無理しなくていいのに、とお願いしても、いいから、いいから、と半ば強制され、仕方なく「自称ガトーバスク」を指さし、彼女はそれを手に取ってしまった。


ああ。穴があったら入りたいとは、正にこういう時のこと。


当然私自身も手持ちのデザートの食券で、「自称ガトーバスク」を一切れ手にし、食べてみたが、ああ、本当に悲しい程に、そして、「ガトーバスク」の名前に申し訳ない程に、大失敗であった。


あれから何度か本場物の「ガトーバスク」を食べる機会もあったが、あの時の「自称ガトーバスク」とは似ても似つかない美味しさ。レシピに問題があったとは思えない。私の作り方に問題があったのだろうし、恐らくプロには当然のことが私には分かっておらず、何かを見落としたのに違いあるまい。


もう一度、と試してみる気も起らない程の大失敗だったし、長女バッタの親友のママの、ちょっと驚いた顔が脳裏にこびりついてしまい、こればかりはどうしても作ることができないもののカテゴリーに収めてしまった。


そんな苦い思い出のあるガトーバスク。今回、とても分かりやすく丁寧に説明している動画を発見し、チャレンジしてみることに。


中身はクリームではなく、無花果の実を入れて、ちょっとアレンジ。


正直満足できるものではないが、次に向けての改善点が見えた。いつか悲願の手作りガトーバスクなるものが手に入るだろうか。日々是精進。努力しかあるまい。



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