最初に気が付いたのは、いつのことだろう。もう二週間も前のことだろうか。
トンカとの散歩で、近所の森に行く時に必ず通る道がある。朝は未だ薄暗いので車道にトンカが飛び出さないことに神経を集中させるため、周囲のことは余り目に入ってこない。しかも、その通りはちょっとした坂になっていて、行きは下り坂、帰りが上り坂となる。下り坂の場合、ひっぱられないように気を張ることもあり、なおさらのこと、歩いている道とトンカ、そして通り過ぎる車しか目に入らない。
更に、そこは森に行くときに通るのであって、帰りは別の道となる。従い、未だ明るい時に、その坂を上ることは非常に低い確立でしかない。だから、一瞬気になっても、忘却の彼方に葬り去られることが常だが、二週間経ても状況が同じで、一週間前に自分の中でアラームが鳴った以上に、これは異常事態とのアラームが高鳴るに至った。
そこはとても整然とした邸宅で、門は南京錠で閉められている。しかし鉄の柵の一本一本の幅は大きく、高さも2メートルもなく、門の中が問題なく見渡せる。楕円のような形をした前庭は中央に円い花壇があり、門に沿った形で花壇が続いている。車が出入りできる大きな玄関アプローチはお洒落な石畳で、この季節には珍しく枯れ葉一つ落ちていない。花壇にはマリーゴールドのような黄色や朱色の花が咲いていて、手入れが行き届いていることが感じられる。
そういえば、随分前に友人が家を探している時に丁度「売物件」との看板が出ていたので、知らせてあげたことがあった。すると、部屋数も多く、しかも地下にプールがある、かなりの豪邸であったらしく、冷やかしで訪問することもしなかったとか言っていたことを思い出した。
そんな落ち葉一つ落ちていない豪勢な前庭に、2、3歳ぐらいの子供の赤い運動靴がぽつんと片方だけ落ちていた。
初めて見た時は、父親に抱っこされた、ぐっすり眠ってしまった男の子の姿が目に浮かび、とても微笑ましく感じられた。家族皆で車で遠出し、帰りが遅くなり男の子は疲れて眠ってしまったのだろう。家に着いたと揺り起こしてても、この年齢の子供たちはちょっとやそっとでは起きない。
しょうがないな、と父親が男の子を抱っこする。そして、駐車場から家に抱っこしながら男の子を運ぶ際に、男の子の足から、運動靴がぽとんと落ちてしまったのだろう。
そんな風に、運動靴はころりと落ちていた。
翌日、きっと男の子は外に出ようとして運動靴がないことに気が付く。父親が笑って、前日の顛末を教えてあげる。男の子は笑いながら、靴を探しに車まで行くときに、玄関アプローチに転がっている運動靴に気が付く。そんな風に思っていた。いや、もしかしたら、母親が笑いながら一緒に探してくれるかもしれない。
ところが、それが一週間たっても運動靴は同じ場所にある。おかしくないか?
一瞬だけ、誘拐された子供の姿を想像した。まさか。
そして、二週間が経った今、未だ運動靴は持ち主に探してもらえずに、同じ場所にある。花壇の花はやや枯れかけている気がするが、それは季節柄なのか。それにしても、門に南京錠とは物々しくはあるまいか。
はてさて。
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