冷たくなってきた外の空気と一緒に玄関の鍵を開けて中に入る。
バッタ達はお昼に出ているから、雨戸が閉まっていない窓からは暗闇が迫っている。
慌ててサロンの雨戸を閉めようと踏み込むと、バイオリンがご丁寧にソファに飾ってある。いや、単に片付けておらず、ちょっと前まで皆で演奏していたかの様子。
テーブルにはノートや本が散乱している。息子バッタの数学のノートが開いたままで放置されている。
キッチンには、水色のリボンで結ばれたオレンジ色の筒が「私を見つけて」と主張していた。
もうすぐお誕生日を迎える従兄弟に送ろうと数日前からバッタ達がカードを書いたり、プレゼントを手作りしていることを知っている。でも、末娘バッタが、どうしても終わらないので、皆で送れずに困っていた。ははん。漸く書き上げたのかな。
筒の中をちらりと覗くと、「まま」の文字が飛んでいる。
え?
慌てて水色のリボンを解く。
水色の万年筆で、ていねいな文字が連なっている。
「まま、しゅくだいをおねがいします。」
おいおい、ママの宿題じゃあないよ。でも、例の感想文の添削のことだな、と思う。
「とまとちゃん、ぞうちゃんとねずみちゃんとねてくれますか。ありがとうございます。」
末娘バッタがいつも一緒に寝ている子達。いや、厳密には、彼女と同じベッドに寝ている子達。他の子と違って、末娘バッタは所謂『ドゥドゥ』を欲しがらない子だった。ベッドの脇に寝かせているだけ。だから、彼女のお友達は皆比較的保存状態は小奇麗。
「ままといっしょにのこりたいです。」
「まま元気で。」
そして、女の子が泣いている絵が描いてある。ままがいないと、とてもかなしい、と解説付きで。
次の文章に釘付けになる。
「なんで、子どもは、やりたい事ができないのでしょう。」
「さようなら」
そう手紙は締めくくられている。さようなら、なんて、なんて悲しい言葉を使うんだろう。
そして、『ねこ』とサインオフ。
そうか。彼女は自分が『バッタ』とママに呼ばれていることを知らない。「ねこちゃん」なんて、時々呼びかけるので、自分のことを『ねこ』としたのか。
ねこちゃん、
悲しい思いにさせちゃってごめんね。バカンス、とっても楽しんできてね。ママはねこちゃんが楽しい時を過ごしますように、ねこちゃんがハッピーでありますように、って願っています。ママも、楽しい時間を過ごしますよ~。
ボンバカンス!ビズ ビズ ビズ!!!
ボンバカンス!ビズ ビズ ビズ!!!
ママより
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皆様からのコメント心よりお待ちしております。
クッカバラさんの思い、ねこちゃん、バッタさんたちに絶対届いていますよ。
返信削除あかうなさん
返信削除お心遣いありがとうございます。ちゃんとママは元気に遊んでいます。ですから、きっとバッタ達も!