緑色の瞳がきらりと光る
こうやって面と向かってまともに彼と話をするのは何年ぶりだろう。
ひょっとしたら、もう6年以上になるのかもしれない。
フランクフルトでのカンファレンス会場で、
ばったり出くわしたドイツの同僚。
ばったりといっても、実はドイツのオフィスが主催するカンファレンスだし、
たとえ600人はいる会場でも、
彼と会わない方がおかしいかもしれない。
今でこそ、リストラの名の下にコスト削減やレイオフが大々的に発表されるが、
ちょっと前までは、世界に散らばるオフィスのスタッフを集めて、
モナコやリスボン、ストックホルムで社内のセミナーが年に一度企画されていた。
ある年、チームビルディングとやらで、数人がチームになってジープに乗り、難解なる質問を解きながらのオリエンテーリングをすることに。
ちょっとした計算ならお手の物なので、かなり重宝されたことを覚えている。
その時、ジープで隣に座ったドイツの同僚が、先ほどの彼。
美人の妻が他に恋人を作ったので泣く泣く離婚。
ティーンの子供二人は元妻が引き取ったので、ちょっとした独身貴族の生活を楽しんでいる、といったふうな話をしてくれた。
当時、バッタ達の父親が出て行ってしまい、誰にも話もせず、暗く呆然としていたので、
あっけらかんに自分の私生活を話し、笑っている彼が不思議に思えた。
埃の中をガンガン進むジープの動きが手伝ったのだろうか。
つい、誘われる格好で、会社では誰にも話したことのないプライベートな話を彼にしていた。
その晩、仮装パーティーの席で両手を取られ、
君こそ僕が探していた、知的で優秀な女性だ、と打ち明けられ、
この巡り会いに神に感謝するとまで言われ、
正直、どうやって、手を引っ込めようかと困ってしまった。
まさか本気じゃあるまい、と
やんわりと受け流し、
同僚であることからくる一定の節度を持って、
その場はやり過ごす。
悪い人ではなさそうであったし、
知性も溢れていたが、
どうしてだろう、彼に手を握られても、電流が体内を駆け巡ることはなかった。
そうして、
何度かの社内メールの交換で、
彼も私に一切その気がないことを悟ったのであろう。
パリとフランクフルトとの距離も程よく、
余りうるさくは言ってこなかった。
それでも、翌年のセミナーで、
ディナたけなわのさなか、すっと寄ってきて、やっぱり手を握られる。
電流が流れない。
そんなこんなで、
月日がいつしか流れ、年に一度のセミナーも催されなくなり、
メールのやりとりもなくなってしまった。
時々、カンファレンスで相手を確認すると、
挨拶を交わす程度の、同僚としての粋を出ない関係となる。
いや、もともと、何の関係も発展もなかったのであるが。
その彼が、
今回、改めて新年の挨拶をして、会場の隅であったからか、ちょっとはにかみながら、子供達は元気?と聞いてくる。
ありがとう。お陰さまで子供達は順調に成長しているわ。そちらは?もう、お子さん達、随分大きくなったのでは?
「21歳と、19歳になったよ。それから、、、。」
ちょっと間を置いて、
「3歳の息子がいるんだ。」
あら!おめでとう。それは知らなかったわ。
「うん、再婚したんだよ。」
まあ、おめでとう。上のお子さん達はパパの新しい人生を喜んでくれている?
「まあね。もう、大きいから。それから、未だ誰にも話していないんだけど、」
そう言いながら、緑の瞳が一層輝く。
「妻のお腹に、新しい生命が宿っているんだ。」
わあ、それはビッグニュース。これからますます元気で、仕事に励まなくっちゃね。頑張ってね。
「君は?新しいパートナーとの出会いはあった?」
この手の質問にはウィンクで応じることにしている。
不思議な安堵感と、出会いの不思議さと、こそばゆさを感じながら、笑顔が満面に広がる。
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