森の中はいつだってひんやりとしている。爽やかなハッカの香りがする小径は、特にお気に入り。尻尾がきゅんと上に上がっていて、嬉しそうにフリフリしながらあちこちに鼻を突っ込み大地の香りを楽しんでいるトンカの姿は、本当に愛らしい。
そんな森の散策を終え、市が無料で希望者に抽選で貸し出している家庭菜園の区画の脇を通る、細い小径に入る曲がり角で、突然トンカが立ち止まった。トンカが息を飲んだ瞬間が分かる程、私も息を飲んだ。目の前には角をつけた美しい若い牡鹿が、こちらをひたっと見つめていたからだった。
トンカと若い牡鹿が、お互いじっと動かずに見つめ合い、それを第三者の私が見守っている格好となった。どれぐらい時間が経ったのだろうか。牡鹿は恐がる様子もなく、かといって、近付いてくるような馴れ馴れしさもなく、毅然としていた。犬仲間と出会った時なら、カンガルー跳びをしたり、怖がって私の後ろで跳ねたりするのだが、この時ばかりはトンカも不動だった。
張り詰めた空気を破ったのは、沈黙に耐えられなくなったのか、トンカだった。トンカが吠えた瞬間、牡鹿は見事に姿を消してしまっていた。あたりを見回しても、どこかの草が揺れているわけでもなく、一切の気配がなくなってしまったのだから、驚いてしまう。
雨一滴降らない暑さ続きで、森の中の沼や水溜まりも干上がってしまいそうである。野菜や果物が収穫時期にある菜園に食物でも探しに来たのだろうか。
いや、森の神の使者ではなかろうか。となると、メッセージはなんだったのだろう。トンカはしっかりと受け止めたのだろうか。爽やかな涼風を頬に感じながら、トンカと帰路につく。
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