私が小学生の頃、祖父母の代から大変お世話になっている方のご子息が、我が家の家業のアルバイトということで、夏休みに泊り込みで来ていたことがあった。まだ古い木造の家に住んでいたころだから、小学生の低学年の頃だったのだろう。ご子息は大学生だったのだろうか。年子の兄と、双子の妹、言わばぴったりくっついた団子三兄妹は、体格も大きく、頼もしく、だけど両親よりはぐんと若くて、一緒に遊んでくれるお兄さんの突然の出現に小躍りして喜んでことは言うまでもない。
「お兄ちゃん」、「お兄ちゃん」といっては、いつも後ろをついて回ったように記憶している。お兄ちゃんのアルバイトには、ひょっとしたら幼い3人の子供たちの面倒を見ることも入っていたのかもしれない。実際、お兄ちゃんと近くの湖に湖水浴に行ったり、庭で皆で一緒にバーベキューをしたり、夜の縁日をおんぶしてもらってぶらぶらしたりしたことや、いたずらをして怒られたことを覚えているが、お兄ちゃんが何のバイトをしていたのか、子供だったから全く覚えていない。
お兄ちゃんの名誉のために付け加えるが、三人の子供たちの面倒は本当に根気よく、優しく、時に厳しく見てくれた。私と妹が湖で、ばしゃばしゃと浮き輪で楽しく泳いでいる様子を浜辺で見ていて、時々変な泳ぎをすると、ぱっと飛び出して、もしもの為に様子を見に行ってくれた話を、母が感心してしてくれたことがある。
お兄ちゃんは、夏休みの度に来ていたように思うが、実際は何年続いたのだろうか。お兄ちゃんは泳ぎが得意で、海が大好きで、遂に、長いこと陸には戻らない海の男となってしまったので、新しい家に引っ越した時には、もう夏休みにお兄ちゃんは来なくなってしまっていた。
お兄ちゃんが乗っている大きな船の写真が写っている下敷きをもらったのはいつの頃だったのだろう。A3サイズで、とてもしっかりしているので、下敷きとしては非常に使い勝手が良く、なんだか大人になったような気がするので、あの当時の私の宝物だった。ここぞ、と言う時に、あの下敷きで勉強をすると、とてもうまくいくので、大切に大切にしていた。
その後、私自身が地元を離れてしまったし、海の男となって世界中を航海しているお兄ちゃんと会う機会というのは皆無に近かった。
それが、二年前ぐらい前からお兄ちゃんの方から実家に連絡が入り、今はシンガポールに家族と住んでいることが分かった。それから、時々メッセージを交わすようになっている。
最近のメッセージに「70歳過ぎ」と記されていて、新鮮な思いに捕らわれる。この時ほど「70歳」という響きが若々しく思えたことは無い。何故なら、私にとってのお兄ちゃんは、あの時の20代前半の、眉毛が濃くて、優しい瞳を持った、若々しくて頼もしい青年なのだから。
そして、そのお兄ちゃんを前にして、私はいつだって真っ赤な林檎のほっぺをした、いたずらっ子の小学生なのだから。
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皆さんからのコメント楽しみにしています
私はあなたのお兄ちゃんです。海の男になって、20年は船に乗っていた。そこには10か国の人種と暮らし、ヨーロッパ以外を彷徨い、シンガポールに流れ着きました。あなたのこと、ご祖父母、ご両親、兄妹のことは決して忘れたことはない。今もあなたの姿は4歳のままのかわいい女の子です。いつかあなたに会えたら、優しく抱きしめたい。「よく頑張ったね。今のままずうっと人に愛を与えてください。」またおいしい手作り料理とトンカ、そしてバッタたちの様子を教えてください。一仕事したら会いに行きます。
返信削除『神様、あなたと皆様をお守りください。』
「海の男になったお兄ちゃん」様、
返信削除お兄ちゃん本人からコメントいただけて、とても嬉しく思っています。ありがとうございます。私、4歳だったのですね。幼稚園児だったのかと、笑いながら安心しています。おんぶしてもらった記憶があるので、小学生でおんぶしてもらったのであれば、随分と大きくなっていたのにな、とかなり恥ずかしく思っていたのですが、4歳でしたか。人間の記憶とは、こんなものなのですね。お兄ちゃんが「海は無限だから好きだ。」との言葉に、母が「海だって無限であるわけがないじゃない。」と反論していたことを覚えています。お兄ちゃんが言いたい「無限」とは、大自然の雄大さのことだったのだろうと今にして思えば分かりますし、恐らく母だって分かっていだたろうのに、若さからくる生真面目さがそうさせたのでしょうか。大人同士の真面目な論争を不思議な思いでぼおっと聞いていた、林檎ほっぺの幼稚園児でした。
そう、幼稚園児は過去のこと。今では当時のお兄ちゃんの年齢は勿論、両親の年齢もはるかに超え、ひょっとしたら祖父母の年齢に差し掛かっているのかもしれません。あ、それは未だないかな?へへへ。いつでも遊びにいらしてください。そして、無限の海について語って下さい。楽しみにしています。
時節柄、と言いたいところですが、常夏の国にいらっしゃるのですよね。それでも、どうぞお身体を大切になさってください。そして、是非またよろしかったら記事にコメントしてください。お待ち申し上げております💞