トンカとちょっと長めの朝の散歩を終え、ソファーに転がって柔らかな秋の陽射しをのんびりと楽しんでいると、「息子バッタ君、今、見ています」とのメッセージが届く。送り主は、トンカを心から愛してくれる大切な友人の一人だった。
息子バッタは大学のキャンパスの近くで、友人達5人と共同生活をしているので、彼がいつ何をしているのか、これまで以上に全く把握できていない。テニスを始めると言っていたので、テニスの試合があったのだろうか。或いは、サッカーの試合、それともマラソン大会だろうか。
すぐに思い浮かぶのは、どれもスポーツのイベントだった。しかし、どれも当たらなかった。
「進路フォーラムです。息子と一緒に見ています。」と、友人は教えてくれた。
えええ?全然聞いていない。友人の息子君はバッタ達が通った学校の、高校2年生。そうか、進路フォーラムの時期なのね。それにしても、息子バッタが進路フォーラムにスピーカーとして登壇するなんて!その事実に先ず驚いてしまった。
人前でバイオリンを弾きたくないとコンサートへの出場を嫌がり、口頭試問は苦手で、近所で知っている人に会っても、ろくに挨拶もしなかった、そんな彼が、母校の進路フォーラムに卒業生として参加している。
その後本人に連絡をしてみると、体調が悪くて準備もあまり出来ず、発表の時はひどく咳込むこともあり、大したプレゼンにならずに申し訳なく思っていたのに、保護者会からお礼にと商品券が送られてきて、ちょっと戸惑っているとのこと。
時間の許す限り卒業生が母校のイベントに無償で貢献することは当然のことで、現役諸君にとって役に立つのであれば喜んで馳せ参じる、という彼の姿勢を目の当たりにし、心震えてしまった。
数日後、フォーラム担当の方が偶々以前からの知り合いであったことから、当日の動画のリンクが送られてきた。確かに咳込むところがあったが、理数系プレパに進学を考えている生徒達に向けて、真摯なアドバイスがなされていて、とても分かりやすくまとめられていた。プレパがいかに楽しかったか、の箇所には笑ってしまったが、コンクールがいかに苦しく、何千人もの学生の問題を解く音、紙をめくる音にすっかり飲まれてしまったことを、これも正直に話していて、心打たれた。
昨年、末娘バッタの進学で本人以上に本当に何が一番彼女にとって良い道なのだろうかと思い悩んでいた時、息子バッタが、悩み続けること、それが人生ではないか、と言ったことを思い出した。
それでも、選んで前に進んでいく、その繰り返し、それが人生だよね。ママだって、フランスに来なかったら、あの仕事をしていたら、あの時こうしていたら、って悩むことがあるでしょう。それが普通なんだよ。僕も、あの時もう一年プレパをしていたらと思う時があるよ。
その時初めて息子バッタの口から彼の進学について後悔らしき言葉を聞いたが、その言葉は既に苦悩から脱し、達観している者が発する響きとなっていて、目を見張ってしまったことを覚えている。
困難を乗り越え、辛い経験を我が身の血と肉とし、逞しくなってくれている。辛い時期を乗り越えたからこそ見えるものもあり、感じることができるものもある。そして何より、どれだけ彼の言葉で私自身が救われたか!悩むことが当たり前、そうだよね。それでいいんだよね、と。
今日は、そんな彼の23歳の誕生日。おめでとう。君の輝かしい未来に幸多からんことを!
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