霧深い朝、トンカのピンと元気に立っている尻尾に神経を集中させて歩道を歩き、野原の手前で養蜂家のおじさんとボーダーコリーのマロに会う。早速トンカとマロは鼻をくっつけて挨拶をし、仲睦まじく尻尾を振り合った。
最近、生意気盛りのトンカに手を焼いていたので、ゴミが落ちてそうな体育館の入り口やゴミ箱付近ではリードを外さないことにしていたが、マロと一緒なら大丈夫だろう、そう判断し、リードを外す。
と、トンカはぱっと身を翻し、逆方向に走り去ってしまった。
トンカぁ!
霧の中に私の声だけが吸い込まれ、消えていった。
驚いた様子の養蜂家のおじさんとマロに挨拶さえもせず、トンカの後を追いかける。怒りで胸がいっぱいになると同時に、どこかに行ってしまったのだろうか、ちゃんと見つけられるだろうかと、心配で心が震える。
子供達の水飲み場の脇を走り、奥まった建物の陰に足を向ける。以前、夕方の暗闇の中、そこでひっそりと息をひそめて立ち尽くしていたトンカを見つけたことがあった。霧が晴れ上がってきたのか、その建物の容貌が浮かび上がって来た。
扉が取り外されていて、その奥に剥き出しになったトルコ式トイレが隠れ見え、そこにトンカが立ち尽くしていた。水飲み場と思っていたそれは手洗い場で、建物自体は公衆便所であることが漸く分かってきた。
ああ、とんちゃん。
罪のない真ん丸の瞳を大きくさせ、じっとこちらを見つめているトンカ。トンカには、どこかに逃げようとか、隠れてしまおうとか、そんな感情が一切ないことが瞬時に分かり、大いに安堵した。それでも怒りは収まらない。
リードをつけ、有無を言わせず家に帰る。脱力感に襲われ、しばらくはベッドの上に身を投げ出し、呆然としていた。
時間がたち、冷静さを取り戻してくると、明らかに私の判断ミスであったことが思われた。
とにかく好奇心旺盛で、何かを疑うことを知らないので、気になるものは全て口にする。鼻が利き、遠くの匂いであっても敏感に察知し、確認したがる。私のそばを離れても、また戻ってくる自信があるので、平気で遠くに行ってしまう。そして、私がいつも待っていてくれると勝手に信じている。
それがトンカなのである。
理性的に行動せよ、など思うこと自体が間違っていて、そのように行動させ、成功体験を重ねさせることが重要であり、そうさせることが私の務めではないか。
とんちゃん、ごめんね。よっしゃ、相棒よ。霧もすっかり晴れ上がって来たよ。森に遊びに行こうじゃないか。さあ、いざ行かん。
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