2021年4月27日火曜日

ファラフェルが見せる夢

 





以前の職場が、パリ市内であってもパリではないような、異国情緒に溢れた場所だった。


パリと言えばエッフェル塔、シャンゼリゼ通り、コンコルド広場、アンヴァリッド、オデオン、サンジェルマンデプレ、サンミシェル、チュイルリー、ルクセンブルク公園。トロカデロも忘れてはならない。ルーブルだって。一つ一つの場所に、それぞれの思い出があり、たくさんの足跡が残っていて、以前は地雷だったものが、今では懐かしさと愛しさで、のんびりと楽しく散策できる場所となっている。


そんなパリらしさに満ちていない、アフリカか中東に紛れ込んでしまったのではと思わせる地区。


メトロの階段を駆け上って地上に出てみたら、色とりどりの衣装を身にまとった女性たちや白色の長い服をまとった男性たちばかりで、ぎょっとした経験は好奇心旺盛なものにとっては悪くない。


散歩がてらにランチを買い求めて歩いて行けば、アフリカ女性向けの美容院がずっと並んでいて、そこから出てくる女性をナンパするのか、若い男性たちがわんさか通りにたむろしている姿にぶつかる。怪しげな海外送金専門店があったり、誰がくるのか、閑散とした、いつ焼いたのか分からないパン屋があったり、見たことのない品物を店頭に並べている店があったりする。身の危険を感じるどころか、ここでは自分が透明人間になったかの様に錯覚してしまう。香辛料の香りが排気ガスとともに乾いた空気に交じっていて、楽しい気分にさせてくれる。


そんな通りの一つに、時々休んでいたり、開いていたりと気ままな、レバノン料理の食堂がある。開いている時はドネルケバブが見えるので、すぐに分かる。ランチのテイクアウトにピタパンのサンドイッチはうってつけ。寿司のネタではないが、ガラスのケースに色々な料理が並んでいて、サンドイッチの中味を選べるようになっている。しかし、正直何がなんだか分からないし、説明を聞いてもちんぷんかんぷんだろう。


はて、と思っていると、気のよさそうなお兄さんが、「ファラフェルにするかい?」と聞いてきた。ウィ!


ファラフェルが何か、なんて一切気にならずに、もうここはお兄さんお任せ。「トマトも入れるかい?好き嫌いはないの?」


こんがり焼けた丸い球のような揚げ物を二つ、温めたピタパンの中に入れ、ぐいぐいと潰し、レタス、トマト、玉ねぎのスライスを入れ、たっぷりと何やらソースを塗り込み、ほいっと渡してくれる。


おおっ!一口食べて、大いに気に入ってしまった。揚げ物は苦手、なんて気持ちはどこかに吹っ飛んでしまった。たっぷりのソースはゴマの味がして、酸味があり、こんがり揚がって、クミンの香りが豊かなファラフェルにぴったり。


それが、ファラフェルとの出会い。


ファラフェルを手作りしてみると、これがまたたまらなく美味しい。材料も実にヘルシー。水で戻した乾燥ひよこ豆をブレンダーで粉砕し、たくさんのパセリを入れ、コリアンダーもあれば入れ、クミンで香り付け。カイエンヌを振りかけて、ちょっと辛めとする。


じゅっと揚げるらしいが、ここはフライパンでコロコロと炒める感じに自分勝手にアレンジ。


白ごまペーストにレモンをたっぷり入れたタヒーナソース、ミントの葉で香りを出したヨーグルトレモンソース、ギリシャ風きゅうりのザジキを作って、ファラフェルをいただく。


紛争絶え間ない母国ではない海外で、自国の料理を楽しみながら、明るい日差しに、透き通った真っ青な空ときらめく青い海を思い浮かべるであろう彼らのように、未踏の地レバノンに思いを馳せる。





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