連日、朝から晩まで試験に臨んでいる末娘バッタ。二週目中盤に入った昨日、「芋虫ムード」とメッセージが入る。
ゴロゴロしているといったところか。すかさず長女バッタが、白熊が氷の上を大儀そうにずるずると滑っていく動画を送ると、「そう!その通り!」と返ってくる。
芋虫かぁ。
どうやら毎回息子バッタには試験内容を写メしている様子。難易度の確認といったところか。歯が立たなかったと嘆いているらしい。息子バッタにだけ送るのは、正解だろう。試験後はもう過去は振り返らずに、次の科目に頭を切り替えるべき。変にずるずるするのは良くない、なんて母親から余計なメッセージを受け取るのは鬱陶しいだけに違いない。
それでも、芋虫の気持ちになるのだろう。
そして、今夜は「皆でちょっとエンジョイ」といったメッセージとともに、お皿にチップス、チキン、ワカモレを盛った写真が送られてきた。
仲間同士でテイクアウトしたのだろう。皆でワイワイとにぎやかに、エネルギー充電!たまには、チップスも食べたくなるのだろう。いいじゃないか。
分かっちゃいるけど、冷凍庫に入っている旨さ抜群のチリコンカルネ、カラフルでお野菜たっぷりのラタトゥイユ、しっかりと炒めてお米一粒一粒がさらさらで、細かいみじん切りの人参と玉ねぎと微妙に絡まって口当たりが良く、最高に美味しく仕上がっているチャーハン、醤油ダレに漬かっている半熟、炒めたブロッコリー、等々、食べていないのか、との思いが強く出てしまう。
母親失格。楽しんでね、とか、エネルギー充電だね、とか、メッセージを送ればよかった。せめて、サムズアップの絵文字でも送ればよかった。思ってもいないことは、書けない性分。
うだうだと考えているうちに、ふと父の作ってくれたお弁当を思い出した。今はすっかり週5日制になっているらしいが、私が中学生の頃は土曜に午前中だけ授業があった。給食は月から金のみ。従って土曜の午後に特別授業や行事がある場合は、お弁当を持っていくことになっていた。
母がいれば、母が作ってくれたであろうが、その時は出張かなにかで家を空けていて不在だったのだろう。ある時、父が作ってくれた。いつもの箸ケース、弁当箱を包む大きなクロスがどこにあるのか、分からなかったのだろう。或いは、いつも何を使っているのか、なんて知らなかったのかもしれない。お弁当は父の大きめのハンカチでしっかりと包んであった。そして、ぴんと張ったハンカチから箸の先がずぶっと突き出てしまっていた。
箸の先でぶっすりと穴が開いてしまったハンカチ。ハンカチからちょこっとだけ突き出ている箸を見て、心が痛んだ。父に対して、ひどく悪いことをしていると思った。父を傷つけてしまったような思いがした。
中学生だったのだから、私自身は箸箱がどこにあり、どのクロスを使っているのか、分かっていた筈である。なぜ、父がハンカチを使ったのか、今となっては記憶にない。ただ、生々しく、痛々しく、ハンカチに突き出た箸の先だけを覚えている。
あの小さい穴が二つ開いたハンカチはあれからどうしたのだろう。
弁当の中身は真っ白なご飯に大きな炒り卵。醤油での味付けは、見た目は今一つ。でも、ご飯のおかずとしては最高に美味しい。
子供とは、自覚なしに親を傷つけることもある。そして、親に対して素直になれない時もある。優しさが鬱陶しく思える時もある。まさしく親の心子知らず。あの時ちゃんと父に、美味しかったと伝えたのだろうか。感謝の言葉を発したのだろうか。
なんだか急に醤油味の炒り卵が食べたくなってしまった。熱いフライパンにバターを落とすと、じゅっと音がして、豊かな香りが立ち込める。
さあ、ご飯を炊こう。
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