2021年4月30日金曜日

初夏までの時間

 





甘いだけではない独特の爽やかな香り。


ニッキ。そうとも言えるし、そうでもないとも言える。とにかく、それだけではない。


アニス。どうだろう。夏になると、そんなに好きじゃない癖に、どうも欲しくなる飲み物、パスティス。ジダンが活躍していた頃のワールドカップを観戦する時に、細長いグラス作って、氷を入れて飲んだものだった。あの独特の香り。似ているとも言える。


フヌーイュ。そうだ、フヌーイュの香りだ。英語ではフェンネル。日本語ではウイキョウ!太った丸い根を薄切りにしてサラダとして食べた時の、爽やかながらも甘みがあり、同時にちょっと苦みが感じられる、大人の味覚が思い出される。ホタテ貝のクリームソースを作った時も、フヌーイュの葉を香りづけに使った。


そうか。フヌーイュの香りだったのか。


濃い赤紫のこんがりコーンの様に膨らんだ花房から、甘く爽やかで、それでいてちょっと苦みのある大人の香りがかすかに漂う。


感覚だけに頼っていたものが、言葉で表現されると、急に存在感を増す。つかみどころのないものが、手に取ってみることができるようにさえ思われてしまう。


しかしながら、香りは香り。


手でつかんだと思った瞬間から、指の先からこぼれ出てしまう。


せめて体全体で感じていよう。初夏までは未だもうちょっと時間があるのだから。





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