「ママ、またいなくなっちゃうのかと思った。」
そう呟く末娘バッタの言葉にはっとする。2月に戻った時は、「もう帰ってこないのかと思っていた。」と言われて、耳を疑った。まさか!ここがママの家じゃない!
高校の頃は生意気で、特に長女バッタも息子バッタもいなくなってからの2年間、彼女が高校2年と3年の時、いっぱしの自立した大人の様な言動に閉口したものだった。彼女なりのつっぱりだったのだろう。
「ママは好きなことをしてね。私はいずれこの家を出ていくから。」
そう言い放った高校時代の彼女。もちろん、その言葉を真に受けたわけではないが、昨年一年は運命の奔流に身を任せ、メアリーポピンズよろしく、鶴の恩返しの様な、むしろ出稼ぎ母ちゃんの如く必要とされる地に赴き、フランスの地を離れていた。
時差の問題もあったし、兎に角朝から晩まで、毎日一日中駆け回っていたこともあり、バッタ達との連絡は途絶えがちだった。
No news is good news.
そう自分に言い聞かせていたし、そうでもないとやっていけなかった。
何度か末娘バッタからはSOSのメッセージをもらったり、電話をもらったりしたが、折り返すと彼女の授業中であったり、タイミングが合わず、元気でいてもらわないことには困るものだから、勝手に元気だと思い込んでいた。
今年の2月に戻った時も、実は短期滞在ですぐに戻る予定だった。バッタ達に会いたい。ぎゅっと抱きしめたい。そう願ってちょっとの期間戻ってきた。
1年ぶりになる再会はとても嬉しかったし、皆それぞれにしっかりと生活してくれていて、大変頼もしく思ったものだったが、末娘バッタにいつもの笑顔が見られないことが一番気がかりだった。取り付く島もなく、固く心を閉ざしてしまっている様だった。
次に戻るのは夏になる。いや、出来たら5月に戻ろうか。ねえ、どうしようか。
そう聞いてみたところ、「コンクールが終わる夏までずっといて欲しい、」とポツリと言われて面食らった。
ママが帰ってきたからと言って、ママとずっといるわけではない。勉強をしているか、時間があるとすぐに友達に会いに出かけてしまう。
「でも、それが家族でしょ。」
この言葉は胸を貫いた。
そうだ。せめて夏まではフランスに留まろう。そう決心した。バッタ達は皆フランスにいる。皆それぞれ自分たちの道を歩み始めてはいるが、いつだって羽を休めに戻ってくることが出来る家が必要ではないか。そのために親がいるのではないか。
バッタ達のパパが家から出て行ってしまい、私の人生からも出て行ってしまってから、とにかくバッタ達のお陰で元気に、楽しく、明るく、前向きに生きてこれた。バッタ達の成長を願っていたが、彼らがあまりに自立し、しっかりとそれぞれ歩み始めると、それはそれで心さみしいものがあった。私自身がバッタ達の存在に大きく頼って生きてきてしまっていたことを反省し、断腸の思いで昨年は家を後にした。
その間、何があったのか、息子バッタと末娘バッタはパパとそれぞれに大喧嘩をして、今ではパパの存在を完全に無視している。それまでは、離婚したことで、却ってパパがバッタ達と本気で向き合い、愛し、彼らを教育し、素晴らしい親子関係を築けたと思っていた。あんなに大切に育ててきた愛すべき我ら独自の「家族」を、私の不在で、私自身が崩してしまったことに気が付いた。かくも一瞬にして失ってしまうものなのか。慟哭。
無理な強がりはしないでおこう。もう少し穏やかな流れに乗ろう。バッタ達の成長がすぐ間近で感じられる、この地で生きていこう。
末娘バッタにお願いされた夏はもうすぐそこまで来ている。その後はどうしようか、と、ゆるりゆるり考えながら、いつも草むしりをしていたが、漸くここにきて、一つの答えが出た。
そろそろ、ママは仕事を見つけようと思っているよ、と言うと、「ママ、またいなくなっちゃうのかと思った。」と呟く末娘バッタ。
「以前のように早朝から夜遅くまで、一日中働く仕事じゃなくて、もっとのんびりしたものでいいんじゃない。」そう彼女が続ける。
そうだよね。何が何でも、キャリアアップだとか、背伸びした職場とか目指さずに、自然体でいいじゃないか。そう思えるようになった。
荒れた庭の手入れをし、雨漏りする屋根を修理する。車の冷房装置を買い替え、自転車を修理する。そろそろ、新たな出立の準備が出来てきている。それでも、まだまだ蔦の根っこは、庭の片隅で蔓延っているし、前庭のリラの木の伐採が終わっていない。もうちょっと、か。
静かに闘志が燃えてくるような、久々の感覚を味わう。悪くない。のんびりと、ゆっくりと時が満つるのを待つ。
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