島の朝は静寂に包まれている。それでも、耳を澄ませばあちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる。さあ、トンカ、朝の散歩に行こう。
今回末娘バッタが探した我々の隠れ家のような小さな家は、島の南部の浜辺の小さな村にあり、そこはパピーの生まれ育った村でもあった。通りの先には、彼らの住まいがあり、パピーの親戚の家があちこちにあるはずだった。毎年夏に一月は過ごす末娘バッタは、もう島っ子と言っても良い程、島のことを熟知していた。
パピーとマミーの家は、今ではボルドーに住む娘、つまりバッタの父親の妹が管理していると聞いていた。彼女たち家族と鉢合わせしないかとの末娘バッタの懸念は杞憂だった。二階の窓こそ雨戸が開いていたが、一階の窓は全て雨戸がしっかりと閉じてあり、ひっそり閑としていた。庭は思った以上に手入れがしてあって、このところの好天続きで芝生はやや伸びてはいたものの、きちんと刈られた跡があった。それよりも家人のいない庭で、薔薇が見事に咲いている様に、思わず鼻の奥がつんとなる。
マミーを亡くしてしまったことが、家族の求心力を失わせ、こんなことになってしまったのだろうか。感傷的になる私のそばで、トンカが元気に跳ね回り、先を急がせる。そう、岬まで行こう。
初めて島に来た時は真夏だったと記憶している。熱い日差しの下で通った道を思い出しながら歩いて行く。あの時からもう何年たったのだろうか。以前よりは道端の雑草が手入れをされていて、歩きやすくなっているようだが、気のせいだろうか。
海岸線沿いは海風が強いことで有名だが、海は穏やかで風は爽やかだった。トンカが大喜びで疾走する。日の出までは若干時間があったので、周りは未だ薄っすらと夜の気配を残している。真っすぐの道を走っていたトンカが、急に立ち止まり、大草原に踊り出す。どうやら兎を見つけたらしい。兎たちとの追いかけっこが始まった。
トンカのことだから、すぐに戻ってくるだろうと思っていた通り、置いて行かれてはなるまいと思ったかのように、正に脱兎のごとく戻って来た。その様に、思わず大笑いをしてしまう。
海岸線は細い小径が続いていて、少しでも足を外せば大海原が待っている。トンカはまるで子供の様に下を覗いて、思わず落っこちそうな姿勢を保ちつつ、また跳び上がって走り抜けていく。トンカ、落っこちても助けに行かないし、行けないからね。
海はどんどんと日の光をまとって変わっていく。なんと神秘的な時間だろう。
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