午前中に末娘バッタと二人で水着とビーチタオルを持って近くの浜辺に行くことにする。リモートワーク中で、日中はそれぞれに仕事をしている長女バッタや息子バッタは驚く程真面目で、決して小休憩と称しての散歩をしなかった。
近くの海岸は3か所既に制覇しているので、せっかくなら未だ行っていないところにしようとなった。二ヶ所検索に引っかかるが、超速攻で末娘バッタが一つに絞った。まったく根拠を示さずに、こちらの方が良いとのこと。ふうん、まあ、良しとするか。彼女の意思を尊重しよう。
彼女の運転で緑の風の中を飛ばす。砂利道は突然行き止まりとなり海辺に近いことを知らせていた。車を停めて細い道を歩くと、真っ青な海が緑の葉陰から姿を現した。岸壁の隙間にしっかりと階段が作られてあり、そこを降りていくと果たして海原が眼下に広がった。
前日の凪いだ海の様子とは様変わりで、海は白波を立てて荒ぶれていた。高い断崖が影を作っていて、海岸は陰になり寒々としている。あちこちに真っ白な小ぶりの岩が落ちていて、階段の入り口にあった危険の標識が決して大袈裟ではないことを物語っていた。
実はその標識のメッセージがふるっていて、一人こっそりと笑ってしまっていた。これまでは「落石注意。断崖の下歩くべからず」といったものが多かったことに対し、ここでは「命を大切に」といったものだった。
今思えば、それは冗談でもなんでもなく、冬など誰もいない海岸によからぬ思いで来る人向けのメッセージなのだろう。
どんなに海水が冷たかろうが、風が吹いていようが、ブルターニュの海で育ち、自らブルターニュ出身を誇っている末娘バッタは、いつもだったら何の躊躇もせずに海に入っていくのだが、今回ばかりはビーチタオルを体に巻き付け、荒ぶれた海を見ているだけだった。
一通り色々な角度で写真を撮り、満足げな私に、いつ断崖から岩が落ちてくるかもしれないから、もう帰ろうと末娘バッタが声を掛けた。実際、海水は足元に来ていて、海辺は猫の額ほどに狭かった。
階段を上がっていくと小さな子供連れの家族が車から出てくるところだった。子供だけでも5人はいる。大勢でにぎやかになるので、小さめの海辺を選んだのだろうか。あの階段を下りるだけでも、ひと騒動になるだろう。それはそれで楽しいのかもしれない。寂しげな海辺が急に華やいで感じられた。
せっかくだから、もう一つの海辺に行こうと末娘バッタを誘う。海辺は電波が届かずに、少し村に戻ってから検索すると、そこへは車でのアクセスはできずに、歩いて小半時間という。それなら前日に夕日を見に行った海辺に行くことにし、その寂しげな村を後にした。
👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。
0 件のコメント:
コメントを投稿