5月。
さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする
柏餅を作ろう。
前回桜餅を作った時のように、漉し餡を作る時間もエネルギーもないので、今回は粒餡としよう。粒餡には、蓬を入れた草餅が合う。蓬の代わりにほうれん草を使って、草餅にしよう。そして、柏の葉もないが、庭の木の大きめの葉を使おう。必要は発明の母とはよく言ったもの。
手作りの柏餅というと、父を思い出さずにはいられない。
大学一年の春から初夏にかけて、入院している父のもとに毎日通った。5月の節句には、なんちゃって柏餅を作って持っていった。柏の葉の代わりにアルミホイルを使い、色気はなかったが、真っ白でふっくらとした餅生地が美しかった。
それが最後の手作りの差し入れとなってしまった。
もう少し不真面目で、適当な性格であれば良かった。そうしたら、カロリーとか、食事制限とか、何も考えずに、父の好きそうなお菓子やお料理を持って行ったのに。
一口だけでも食べてもらえば良かった。目で楽しんでもらえることも出来た筈。
ちらし寿司、茶巾寿司、だし巻き卵、シュークリーム、チーズケーキ、グズベリーパイ、ガトーショコラ、ブランディ―ケーキ。
手作りじゃなくても、色々買って差し入れをすれば良かった。ちっとも気の利かない、ずぼらな学生だった。
鰻、バッテラ、鮑、甘海老、雲丹、キャビア、タルタルステーキ!
愚直にも、病院の決められた食事をし、治療を受けていれば、病気は治り、退院し、晴れて父は好きな食事ができるものと思っていた。信じ込んでいた。父もそう信じていた、と思う。
あの時、誰かがお父さんの好きなものを食べさせてあげなさい、と言ってくれたら。
父が、リクエストしてくれたら。
柏餅。
手渡した時、父がどんな反応をしたのか、それを食べたのかどうだったのか、今となってはちっとも覚えていない。ただ、父の為に柏餅を作り、柏の葉の代わりにアルミフォイルを使ったことだけは鮮明に覚えている。ちょっぴり見える餅生地はふっくらとして真っ白だった。
父に関する記憶は曖昧になっていくのに、父への思いは、いつだってこんなにも熱い。
今年の柏餅はほうれん草が入った草餅。それを庭の葉っぱで包んでいる。先ずはご先祖様にお供えしよう。
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