丘の中腹で地元のおばちゃんからアクセサリーを買ってからのシェルパリゾートへの道は、思った以上に時間がかかった。途中で「標高3 775m地点」と明記された水色の看板があった。そこで記念写真をとでも言うのだろうか。
エベレストシェルパリゾートは目の前まで迫って来ているのに、そこに到達するまでのなだらかな道のりが永遠に続くかのように思われた。富士山の頂上を上回る地点にきているからだろうか。Ammaは慎重に、一歩一歩、呼吸を整えながら歩みを進めている。
Ammaは驚く程に健脚で、全く高山病の気配はなかった。パクディンからナムチェまでは、午後からのひと踏ん張りが大変だったが、足腰に問題はないと言っていた。従い、ネックがあるとすれば、息が上がってしまうことだろうか。
時折頭が割れるように痛くなったりする以外は、足腰にも、心肺機能も全く問題がなかったので、さくさくと登ってしまいたい思いがある一方、しんがりを務めねばなるまいとの思いもあり、Ammaのペースが私のペースでもあった。
自覚こそしていなかったが、高山病を患っていた私には、こうしてゆっくりペースで標高を上げること自体非常に有効なことであった。従い、Rajさんではないが、本当にAmmaのお陰であり、Ammaに感謝しなければならないことは多い。
漸くたどり着いたリゾートの入り口には、相棒がちゃんと待っていた。リゾートと言うのは大袈裟で、これまでのロッジと大差はないように思えたが、Rajさんに言わせると大いに違いがあるとのことだった。その違いというのが、その後色々と判明し、成程と思うのであったが、取り敢えずは大きな食堂で一休みをした。
壁に大型の写真のパネルが数枚飾ってあり、恐らくここのリゾートから撮影したものと思わせる、朝日に輝く峻険な山並みだった。パネルの隅に、写真家のサインがなされていたが、我々と同じ姓だったので、ちょっと驚いてしまった。
恐らく、この時、遅い昼食を食べたのだと思うのだが、全く記憶にない。ここでは「ホットシャワー」が出るということだったが、あまり当てにしていなかった。前日のナムチェのロッジでもそうだった。Rajさんは得意そうに、そして嬉しそうに、「ホットシャワー」が出るので楽しんで下さいと言っていた。
ところが、どっこいである。最初はぬるく、2、3分したら熱いお湯になるとの触れ込みだったものだから、Ammaは早速裸になってシャワーを試したものの、出てくるぬる湯は段々冷たくなっていってしまい、結局震える身体を慌ててタオルで拭き、急いで着込み、ホッカイロで足先を温めていた。
かくいう私も、相棒がすぐに熱くなるよと先にシャワーを出してくれて、悪寒で震える身体を温めようと、先ずは足先からシャワーを当てたところ、その冷たさに恐怖でひきつってしまっていた。だから、山の「ホットシャワー」は存在しないと思っていた。
Rajさんの話によれば、いい加減なヨーロッパのトレッカーが、お湯を出しっ放しで外に遊びに行ってしまったので、ロッジのお湯タンクが空になってしまったとのことだった。ロッジのおやじさんは怒り、件のトレッカーに通常の10倍の部屋代を請求したという。仲介役のガイドさんが平謝りに謝って、なんとその場は収まったそうである。
お湯が出ても出なくても、我々は通常の部屋代を支払っている訳で、冷静に考えれば、ロッジのおやじさんには損害は一つもない。しかし、全くなんて話であろう。ナムチェで如何にお湯が貴重なものなのか分かっていないなんて。いや、良く考えてみれば、我々こそが、いい加減なトレッカーから、申し訳なかったと飲み物の一杯でもご馳走になるべき話ではある。
とにもかくも、Rajさんもここのところ「ホットシャワー」と言う度に、ちょっと気まずそうにしていた。しかし、今回は流石の「リゾート」である。しかも、リゾートのスタッフが、ボタンをオンにして、タンクにお湯が溜まるまで10分かかると説明をしてくれていた。
そう、リゾートではロッジにおける「ガイド」の役割が、専属スタッフに取って代わられている。いつも嬉々として厨房で活躍していたRajさんだったが、どうやらリゾートでは厨房も立ち入り禁止らしい。おっと、「ホットシャワー」の話に戻ろう。
こうして、ちょっと期待値が高まりながらのリゾートでの「ホットシャワー」であったが、あにはからんや、いや、想像通りと言った方がいいのか、いわゆる「ぬる湯」の域を出ないものであった。お育ちの良い相棒と私は、一番風呂はAmmaに譲っていたので、それを悲しくも体験したのはAmmaであった。
後10分待とうか、となり、次に私が試してみたが、それは「ぬる湯」以外の何者でもなかった。しかも、お風呂場は恐らく外気温とそう変わりのない冷たさで、実際に、毎朝トイレの水が凍って使えなくなる始末だった。
この「ホットシャワー」もとい、「ぬる湯シャワー」は、我々に、特に相棒にとって命取りになりかねない結果を招くのだったが、その話はもうちょっと先のことになる。

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