ナムチェの村の階段を上り、サガルマータ国立公園の入り口に向かって、ゆっくりと歩いて行った。薬局に寄り道をしたからだろうか。道には人影がまばらで、我々4人だけの世界が続いていた。
前夜ナムチェのロッジで旅装を解いたトレッカー達の多くは、高所順応のためにナムチェで一泊する。そして、翌朝は誰もが競うようにサガルマータ国立公園にある広場に行って、エベレストを始めとする名峰を仰ぐであろうと思われた。すべてにおいてビスターレ、ビスターレの我々は、大勢のトレッカーの波にもまれることなく、静謐なヒマラヤの神秘な世界を楽したむことが出来た。
前日は飛び跳ねるように軽やかに先を行き、姿が見えなくなってしまった相棒は、今日は少しペースダウンし、皆と一緒に歩みを進めていた。相棒に前日は検問所で足止めを食い、そこでポーターさんに会ったのかと聞いてみたのだが、ちっとも要領をえない返事しか返ってきていなかった。
彼女は検問所などなかったと言い張るのだった。いや、どう考えても、あそこの検問所を見過ごす筈はない。であれば、一体どこにいたのか。相棒はポーターさんに会って、すぐにロッジに連れて行ってもらったので、既にナムチェの村に入っていたと主張する。
おい、おい、おい。そんな筈はないだろう。彼女は、彼女で、通常一緒に行動しないポーターさんが、彼女のことをすぐに見つけて声を掛けてくれたことの方に感動していた。ロッジの名前も知らなかったのに、一体どこまで一人で行く気だったのかと問えば、そんなこと何も考えていなかったという。
途中で待っているうちに汗が乾いて寒くなって来たので、丁度通っていたゾッキョの集団の後について、一緒に歩いてきたという。ほほう。ゾッキョと一緒にねえ。
待てよ。そういえば、途中でゾッキョ達がトレッカーとは違う回り道をしていたことを思い出した。それに、ゾッキョの集団が検問所で右往左往している様子は考えにくかった。それに、である。あの検問所はトレッカー達のためのものであり、地元の人間であるポーターさんたちはスルーであろうと思われた。
となると、相棒は嘘を言っているわけではなく、恐らく検問所を通らない道を、確かにゾッキョ達の集団と一緒に通ってナムチェの村に入ったことになる。おい、おい、おい。そんなこともあるのか。ゾッキョを率いていた地元のお兄ちゃんも、トレッカーが一人混じっていることに、そう気も留めなかったのだろうか。
相棒はすっかりゾッキョのファンになっている。いや、ファンというよりも、むしろこの地の人間として振る舞おうとしているようにさえ思われた。そう、彼女こそがゾッキョを引き連れてナムチェに入って来たかのように。
サガルマータ国立公園の正門で、祈りを捧げる相棒の写真を撮りながら、頭に鈍痛があることを自覚していた。それでも、そんな痛みなど気にしていられない程に、透明な大気に日の光がきらめいていた。この透明感を写真にどうやって収めようか、そんなことを考えて痛みを忘れようとした。

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