Ammaと相棒がいつ部屋を出て行って、そして再び戻って来たのか、記憶にない。それでも、「お粥を作ってもらったわよ。」とのAmmaの言葉に驚いたことを覚えている。
Ammaは私が前夜頻繁に下痢でトイレに駆け込んでいたことを知っていた。何か食べないとエネルギーが湧いてこないし、こんな時はお粥が一番、とのことで、Rajさんに一握りのご飯にお水でお粥を作ることを伝授したとのことだった。
どうやってRajさんはリゾート側と交渉したのか分からないが、とにかく厨房に入り、私の為にお粥を作ってくれたという。そうして部屋まで届けたくれた熱々のお粥を、ありがたく、ゆっくりと口に運んだ。
相棒は相棒で、頭、肩、とお願いをすれば、快く丁寧にマッサージをしてくれた。秘密兵器を持っているとかで、大切に袋に仕舞っていた細長い水晶の塊を取り出し、両手に一つずつ握らせてくれた。それは驚く程冷たく、ずしりとしていて、むしろ体温を急激に奪われていくようで、恐ろしくなってしまった。相棒には大いに感謝しつつも、暫くすると、水晶の塊を袋に仕舞って恭しくお返しした。
多分、夕食まで寝ていたのだと思う。その間の記憶も定かではない。夕食も、食堂には行かず、今度はリゾートのスタッフが作ったというお粥を部屋に持ってきてもらって食べた。やはり、厨房に部外者を入れることを良しとしないのだろうか。熱々だったRajさんのお粥とは、似ているようで違っている、そんな気がしてしまった。
一方Rajさんのお手製フルーツサラダは健在で、丁寧に皮が剥かれていて、綺麗に形が揃っているくし形の林檎、白い筋が除かれている蜜柑そして、柘榴の粒が鮮やかに盛られていた。ビスターレ、ビスターレ。ゆっくりと、ありがたくいただいた。
確か、この時に、Ammaから、無理せずに明日から下山していくことを告げられた。Rajさんは、ディディの意見も聞かないと、と言っていたけれど、高山病にはとにかく標高を下げることが効果てきめんなのだから、下山に限るとのことだった。
えっ?クムジュンには行かないの?あそこは標高も今と変わらないし、と言ったのだが、即却下。ナムチェに戻るという。ただ、問題はナムチェのロッジで、前回行ったところは既に満室とのことだった。
大きなことは言えない。ここは素直に従うしかない。現に、未だ食堂に行って食事ができる状態ではなかった。この頭痛さえなんとかなれば、そう思いながら、高山病の予防薬と痛み止めを二時間ずつずらしてそれぞれ飲み、ひたすら寝た。
夜中、ふと目が覚めた。ちょっと待てよ。今頃、外は満天の星空なのではあるまいか。あの高台で夜空を仰いだら、と想像しただけでも、その壮大さに眩暈がする程だった。居ても立っても居られなくなり、カーテンの端から真っ暗な外を眺めると、ぼつりぼつりとした星がわっと目に入った。
外は凍てつき、氷点下の世界にあることは窺い知れた。流石に外には行くことはできまいが、窓からなら写真ぐらい撮れるだろうか、そう思ってカメラを構えた。その時、漸く頭から痛みが消え去っていることに気が付いた。

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