一日中寝ていたからだろうか。朝はかっきりと目覚めることができ、Ammaと相棒と一緒に、ご来光とまではいかないが、夜明けの気配が広がりつつある外の世界の扉を開けた。相棒は大切なブルーのクリスタルボールを抱えていて、いかにも彼女が放つ音の粒で朝をもたらすかのように意気込んでいる様子が、おかしくも愛おしかった。
そこは墨絵の世界で、薄墨色の靄が全体に広がっており、ところどころの隙間から白墨色の厳つい山並みが見え隠れしていて、魂を揺さぶるのだった。相棒の奏でる音の粒が天空に舞い上がり、生命をもっているかのように靄が躍り出し、跳躍し、走り去ったかと思うと、また戻って来た。
山頂がオレンジ色に染まり、次第に桃色になっていく様に、魂を吸い取られる思いがした。夢中でシャッターを切る。
山はあけぼの。
やうやう白くなりゆく山際 すこしあかりて
薄桃だちたる空の 大きく広がりたる
Rajさんに復活したよと、親指を立てて片手を大きく空に上げて知らせる。がっちりとしたハグが返って来た。Rajさんのお粥と、林檎と蜜柑と柘榴のお陰で元気になりました。本当にありがとう!
「シバ神にお願いしていましたから、神様のお陰です。でも、その前にAmmaのお陰です。Ammaに感謝しましょう。」嬉しそうな、優しい笑顔。本当にまたAmmaに、相棒に、そしてRajさんに助けてもらった。ありがとう。ありがとう。ありがとうございます!
太陽が輝きだし、空の青色が深みを増してくると、靄はすっと消えてしまい、世界最高峰が姿を現した。その姿を拝みながら、朝食にしようとなった。ほんの先ほどまで氷点下の世界であったのに、太陽の日差しはまるで春のように暖かかった。
朝食の飲み物は、マサラティーにしてみようかと思った。端的に言えば、スパイスの効いたミルクティーのことで、相棒はネパールに来てから何度も飲んでいた。私と言えば、カトマンズでは珈琲、山に来てからはジンジャーレモン蜂蜜一辺倒だった。
ところが、マサラティーを注文しようしたところ、Rajさんからストップが掛かってしまった。牛乳は消化器官が弱っている時には避けた方がいい、とのこと。御意。パワーアップの為にも、今朝も熱いジンジャーレモン蜂蜜をいただこうか!
Ammaが、昨日はRajさんがディディの為に馬を用意しないと、と言っていたのよ、と教えてくれた。ふらふらで歩けないようだったら、馬に乗せないと、と思っていたらしい。どの村でも、緊急の為に馬は一頭必ずいるとのことだった。
冗談ではなく本気だったようで、馬君のお世話にならずに良かったと、胸を撫で下ろした。高山病になっただけでも情けないのに、村人にとっての大切な移動手段であり、かつ生活必需品を運んでくれる重要な役割を担っている馬のお世話になるなどしたら、自己嫌悪に陥って暫くは浮上不可能になってしまっただろう。
Rajさんは、別の手段として大きな籠に荷物を入れて、その上に座ってもらい、それを私が背負って山を下りることもできますよ、と笑って言った。歩けない病人の移動手段として、村では当たり前のようにしているようだった。とんでもない、とんでもない!もったいない、もったいない!ああ、本当に回復して良かった。
この地点を今回の最終地とし、これから折り返すのかと思うと、なんとも言えなかったが、Ammaも相棒も始終にこやかで、むしろ素通りをしてしまった感の強いナムチェに戻って、一泊できることを楽しみにしている様子に、少しだけ慰められた思いがした。
いや、確かにAmmaは始終にこやかだったのだが、なんとなく相棒の反応には違和感を感じていた。どうもつっけんどんなのである。ひょっとするとひょっとして、これはあまり良くない兆候ではあるまいかと感じたが、それが現実になるとは、その時には思いもしていなかった。
崇高なるヒマラヤ山脈の天空を、シバ神と天照大御神が手をとって優雅に御舞いになっている御姿が、見えるようだった。そして、そこに父の笑顔を見た気がした。

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