2014年1月26日日曜日

バックス降臨―四日間ぐつぐつ煮込んだチリコンカーン







道祖神の招きにあひて取るもの手につかない芭蕉よろしく、啓示のようなバックスのウィンクを受け、取るもの手につかず、レッドキドニーを手に入れようと外に出る。

ローマ神話のバックスはどこにでも出没する。今回はバンコク在住の友人のところに降臨。チリビーンズを作るべく豆を戻した翌日に旦那が風邪に倒れる。されど戻した豆は調理せねばと台所に立ち、玉ねぎのみじん切りと格闘し、ホールトマトを入れ込み、ぐつぐつと豆を入れ煮込むこと数時間。待てど暮せど豆は理想の柔らかさにならない。そうこうしているうちに、今度は我が身が熱を発する。熱で味見がままならないながらも、ひたすら台所でぐつぐつ煮込む。それでも頑固な豆はちっとも柔らかくならない。期待が先走ってか、チリをたっぷり最初に入れ過ぎてしまったのが敗因と分かった時には後の祭り。その間、暴動続きのバンコクで旦那は避難の為外出(む?非難するなら自宅待機ではないか?)。風邪で味見もできないと苦しみながらも、ひたすら煮込む。漸く旨みがたっぷりと染み込み、豆が理想の柔らかさになった時には、旦那も出張から戻り、風邪も治っていたとか。まる四日。

その話を聞いて、無性にチリコンカーンを作りたくなる。赤いんげん豆、レッドキドニーを先ずは手に入れないと。そうして取るもの手につかず状態で、外に走り出る。

二個で1キロはあるだろう玉ねぎを一心にみじん切り。ニンニク4片、細長い人参2本もみじんにする。ピーマンのお化け、緑のポワブロンを1個、これまたみじん切り。ニンニクが香ばしくキッチンを満たし始めた頃に、玉ねぎのみじん切りを入れ炒める。透明感が出たところで、挽肉、ベーコン。しっかりと焼くためにも、別のフライパンで焼こうかと思うも、特大サイズの中華鍋に放り込んでしまう。それから、人参、ポワブロン。そしてホールトマト。ぐつぐつのいい感じ。白雪姫の魔法使いが毒りんごを作った鍋は、こんな感じだったのかな、とひとりごつ。弱火にして蓋をする。

小一時間後に今度は水で戻したレッドキドニーを入れる予定となっていた。大きな玉ねぎに穴を開け、クローブを幾つか刺し、それを一緒に豆を固ゆでしておかねば。そう思う間もなく、郊外でハンドボールをしている息子バッタを迎えに行く時間に。慌ててキーを持って飛び出す。

我が家に戻ると、トマトの温かく優しい香りが嬉しく迎えてくれる。さすがの中華鍋。ちょっと焦げ付いた程度で、ぐつぐつ楽しそうな音を立てている。豆を入れて一時間は煮込まねば。時計を睨む、その脇で、空腹に耐えかねた息子バッタがビスケットを口にしている。急がねば。水で戻され、ぷっくらと膨らんだ豆を一気に鍋に入れる。そう、あと、せめて40分は煮込まないと。

その時には己の誤りに気が付いていなかった。トマトソースがぽてぽてとなり、これは、と思い味見をしてみて、漸く気が付く。豆が固い。芯があるわけではない。生煮えでもない。ただ、純粋に固い。

おおっ。バンコクの友人はチリを最初にどばっと入れたことを敗因としていたが、下ごしらえの段階で豆を固ゆでしておかねばならなかったのでは。うろたえてしまう。空腹でなくとも、食欲をそそる香り。バッタ達は期待に目を輝かせている。まさか、今夜はお預けになろうなんて思いもしていない、そのひた向きな目。ままよ。豆が固くとも、味が染み入ってなくとも、一品じゃわい。

そうして、毎日、少しずつ量は少なくなっても、中華鍋でチリコンカーンはぐつぐつと煮込まれ、豆はゆっくりと柔らかくなっていく。食べても、食べてもなくならない、魔法の鍋か、と疑いたくなった時もあるが、実に四日目にすっかりと平らげる。初日はクスクス、二日目はピタパン、三日目はご飯、四日目はピラフに添えて。

さて、次回こそ下茹でをしてから、と思うも、暫くは今の余韻に浸っておこうか。さすがの四日連続。余韻は思っている以上に長引こうか。






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皆さんからのコメント楽しみにしています





2 件のコメント:

  1. やっぱり4日間だったんだ…。
    初日の硬い豆はどうなったの〜⁇
    我が家は2食分だけその場で食べて、残り6袋が冷凍室に入ったまま。
    茹でた豆で作り直す日は遠い…。

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  2. Muffinちゃん

    我が家のバッタの食欲は旺盛なのよ。乾燥した状態で500グラムを戻して、全部4日間で食べちゃった。硬い豆、ちょっと柔らかい豆、柔らかくなってきた豆、柔らかい豆を味わったよん。
    まだまだ、余韻は続くわ。。。

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