2013年7月29日月曜日

ブルターニュの風





のんびりとホームメードのクエッチカクテルを楽しんでいると、
携帯が震える。
長女バッタからの着信音でもなく、
デフォルトで設定されているもの。

見れば、ブルターニュの島でバカンスをバッタ達と送っている筈の彼らの父親から。

斜め読みをすると、悲痛、怒り、石、息子、などといった物騒な単語が目に飛び込んでくる。
慌てて、姿勢を正し、じっくりと読む。
二度読み、三度読み、ため息が漏れる。

どうやら、息子バッタと喧嘩をしたらしい。
息子バッタが友人宅へ夕食に行った帰り、彼の自転車の片付けを巡って父親と口論になったと思われる。これは、勿論、父親バージョンではあるが、近所に響き渡る大声で父親を罵倒し、揚句、石で脅し、荷物をまとめて、母親のもとに帰ると居直ったとか。先ずは謝るべき話であって、バカンスを途中で勝手に終えて帰ることは罷りならない、とすごい剣幕。これが僕たちの息子なんだよ。と締めくくっている。

やれやれ。『僕たち』ときたか。
そりゃあ、僕たちの息子であることは確か。しかし、彼が石で父親を脅すなんてこと、考えられない。一体全体何があったのか。

「ちょっと驚いているわ。信じられない話だけれど、大変そうね。大丈夫?彼と話そうか?」
そう書き送る。
息子バッタのバージョンも聞かねばなるまい。そして、長女バッタは一体何をしているのか。彼女にも「パパたち、喧嘩?どうした?」と書き送る。

すぐに長女バッタから電話が入る。
友達の家にいるけど、とにかく帰って様子を見るという。

今度は、父親から電話。

外から帰ってきた息子バッタが、自転車を家の中にいれたがるので、家の中は困る、自転車は家の裏に置くか、近所のパピー、マミー(祖父母)の家の物置に置くか、どちらかだと告げると、息子バッタが自分の好きにすると、激怒。
庭に回って、自転車にビーチタオルをかけているところに、父親が怒って出ていくと、
足元の石を拾って威嚇したとか。
「警察を呼ぶところだったよ。」
そういう彼に、こちらが驚く。
それから、荷造りをして、ママのところに戻ると宣言し、部屋にこもっているらしい。

先ずは、石について確認。
彼は投げていない。
自分の図体が大きくなっていることに気が付かず、
父親の剣幕に対して、怒りを発散するために、足元の石を手にしたに違いない。

興奮している父親の話をじっくりと聞き、
それから、ティーンの特徴を指摘。
大人のような身体。
大人として扱われる場合がある一方で、子供として求められる行動もあり、
それに対する反抗がどうしても出てきてしまう。
そして、自分をコントロールする精神がまだ育っていない。

そう告げると、
「君の時も、そうなの?君に対しても、こんな態度をとることがあるの?」

「そりゃあそうよ。そんなこともあるわよ。その時には、しっかりと伝えてあげるの。怒らないで話しかけるのよ。」

そう言いながら、実は息子バッタとは、滅多に、いや一度も口論していないことを思う。
慌てて、長女バッタとは何度も口論に至り、大変なこともあると伝える。

「そうか。僕は彼女とはうまくいっているよ。」

ちょっと落ち着いてきた様子。
いかに彼がパパとのバカンスを楽しみにしてきたか、パパのことを尊敬しているか、について伝える。

「だったら、なぜこんな。。。」

だから、素直になれないところがティーンなのよ。
怒らないで、静かに、どんなにパパが驚いて傷ついたかを伝えてみてよ。
彼の方も、パパの気持ちまで考えられていなくて、でも、辛くて悲しい思いをしていると思うよ。

そうして、慌てて加える。
何かパパと問題があれば、ママのところに帰ろうとするって考えは、いただけないわよね。

それを聞いて安心したことが音波に乗って無言で伝わってくる。
今、外から電話をしているけど、雨が激しく降ってきたから、とにかく、家に戻る、と言って、電話が切れる。

彼がひと月借りた家の大きさも、庭があるのかも、そんなことは分からない。
自転車を雨から守る、そんな息子バッタの思いは、私には分かる。
でも、借りた家の玄関に入れることは駄目だとの父親の判断も分かる。

一人、部屋で泣きじゃくっているだろう息子バッタを思う。
長女バッタが話を聞いてあげられればいいが、きっと喧嘩になるんじゃないかと思われる。

息子と問題があるたびに、
途方にくれて母親の私に連絡をする父親。

息子バッタに言ってあげたい。
しっかりと抱きしめて。

ママは、すぐにも迎えに行ってあげたいよ。
でも、それって、今あることから目を背けることになるよ。
先ずは、パパと話をしないと。
パパはいつだって命令口調で指示をする。
それが嫌だってこと、分かっているよ。ママも嫌よ。
でもね、
それがパパ、なの。
そういった相手と、上手にやりあうことも、していかないと。

息子バッタに携帯を持たせていないことに、
初めて、ちょっとだけ後悔。
でも、
きっと、彼なら分かってくれる。

開け放たれた窓から
暗闇の世界から涼やかな夜の風が届く。。。



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2013年7月24日水曜日

一人の時間



20130724_161509.jpg

「一人は美しい」
数年前に読んだ友人のブログ。
彼が一人、ギリシャに旅行して、
地中海を前にしてつぶやいたセリフ。

とてもじゃないけど、そんな境地には未だなれそうにもない。
でも、誰かが一人だと、周りは心配するのだろうか。
このところ、立て続けに不思議なことが起こる。

先ずは、仲間から夕食の誘いを受け、
陽気も良いし、さて、と出かけていけば、
彼は会社の同僚を連れている。
すぐに、ピンとくるものがある、そして、咄嗟に困ったな、と思う。
その人は気さくな男性で、私たち三人の話は弾む。
友人が席を立った時に、
君に会えて嬉しい、といったことを言われ、
ついては、ぜひ、これからも会って欲しい、と言われる。
正式なお付き合いをしたい、らしい。

ちょっと、待って。
なんでそうなるの?

彼は、バツイチ。もう成人した子供が二人。
誰かとの出会いに飢えているのだろうか。それで、友人に誰か紹介して欲しいと頼んだのだろうか。
真剣な表情に戸惑う。
そして、曖昧に返事をはぐらかす。

人との出会いに、正式なお付き合いの申し込みなんて必要あるだろうか。
視線を交わしたり、
ちょっとした仕草でお互いに分かり合うものなのではないだろうか。

相手の魅力に惚れ込んでしまった時は、
いつでも、ふつふつと思いが滾ってきて、
隠すのがやっと。
相手の強い視線が、更に熱き思いを冗長する。

きっと、今回の彼は、私からは何も感じ取れなかったのだろう。
だから、正式なお付き合い、なんて言葉が出てしまったのだろう。
そんな彼に何が言えようか。

帰りに、駐車場まで見送ってくれ、ついでに、コンコルド広場まで乗せて欲しいと言う。

夏の夜とはいえ、その夜のコンコルド広場は、いつも以上の混雑。
一体、この車の流れを遮って、どこに停めればいいのか。
シャンゼリゼまで、いや、もっとそれ以上もついてきてしまいそうな感じが急にして、
往来の真ん中で、赤信号で停止した時に、
今が降りるチャンスよ、とばかりに、さよならを言う。
周りの車からは、珍しげな視線が飛ぶ。
最後まで紳士の彼は、ありがとう、ここで十分だよ、と降りていく。

また別の話として、
長女バッタのクラスメートの父親からメール。
仕事の話がしたいから、空いている夜に会わないか、とのお誘い。
しかも、美味しいワインを冷やしておくから、と書いてある。
更には、携帯に連絡が欲しいと、携帯番号まで明記されている。

これには、一体どう応ずべきか大いに迷ってしまう。
知らない仲ではないが、一対一で会って話をする仲でもない。
ましてや、家族のいないところに誘われて、ワインを飲む相手でもない。
考え過ぎなのだろうか。娘のクラスメートのお父さん。
下心なんて、あるはずがない。
いや、どう考えても変だし、母親が後で知った時のことを思うと、危険信号がなり続ける。

彼は、私が一人だから、誘ったのだろうか。
下心があったにしろ、ないにしろ、一人だから、放っておけない、と思ったのだろうか。

そうして、今日。
週末に台湾の姪っ子甥っ子たちが遊びに来る前に、
伸び放題のお庭をなんとかしなきゃ、と
芝刈り、雑草取り、松や杉の木の伐採をしていると、
前の家のマダムが、真剣な顔で寄ってくる。
「今晩は一人なの?」
えっとぉ。
答につまっていると、夕食のお誘い。
大変ありがたいけれど、そして、本当に一人なんだけど、
びっちりと予定があって、とても食事には寄れそうにないことを
丁寧に話してお断りする。
ちょっとだけで、簡単な夕食にするし、時間なんか取らせないわよ、と尚も誘われる。
先日、ご主人をなくしたマダムの名前を挙げて、彼女も呼んでいるという。
「だから、ぜひ来て頂戴。一人で、寂しいでしょう。」
辛そうに、こちらを見つめる。
暇ではない一人もいるのだし、本当に今晩は一人なんだけど、忙しい。
だから、丁寧に、丁寧に、もう一度お断りする。
というか、したつもりだった。
と、18時半。
電話が鳴ると、前の家のマダム。
夕食の時間だから、待っているとのこと。
慌てる。
80歳のマダムをがっかりさせたくない、と、出ていくことにする。


不思議と言っては甚だ失礼なこと。
この三人の方々には本当に感謝しないと。
多分、ちょっと前までは、一人が辛かったに違いない。
与えられた自由なんて、自由ではない、なんて嘯いていた気がする。

実は、今は、ちょっと違っている。
愛する人々、仲間たち、友人たちとの一緒の時間は勿論、貴重だが、
その合間の、一人の時間も悪くない、と思っている。

そう思うのも、今日は一日中の庭仕事で、体の芯から火照る程に疲れているからか。

さっぱりと刈り取られ、
呼吸を再開したかの様な庭には、
暑さのためか、このところ見かけなかったルージュゴージュやピーが遊びに来ている。





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早朝のドライブ




鬱蒼とした木立の中の道を下り、
ヘアピンカーブをギアを落としてゆっくりと回る。
と、
新たなジェットコースター並の急勾配。

慎重にアクセルを踏み
カメラから逃げるように制限速度を守った走り。

トトロの仲間達のマーチの格好にぴったりのエンブレムを付けた前走車が
ロータリーの手前で左ウインカー。
こちらのカーナビは直進を示している。

ぐるりと回る時に
前走車の運転席から投げキスが飛ぶ。
直進するこちらの動作が見えにくいだろうと、
とっさに、いや、必死に
窓から左手を高く上げる。
届いたろうか。。。

道はぐんとなだらかになり、
大きく開けた草原と
壮大なる青空が迎えてくれる。
バッハのヴァイオリン協奏曲第一番イ短調が突然降ってくる。

「ねぇ、覚えている?
君は『エネルギーの交換』って言葉を使ったよね。」
昨夜の会話が思い出される。
「最初はちっとも何のことか分からなかったよ。」

今、は?

「ああ、良く分かるよ。とっても良く。」

制限時速をぴったりと守り、
朝の緑の風を車内にいっぱいに入れて
きらめく艶やかな音の波の中を走っていく。。。



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2013年7月23日火曜日

11時05分




「あの子達、みんな英語が上達して帰ってきたのね。」
つぶやく隣のマダムの声に思わず笑ってしまう。
土曜の北駅は人、人、人。
ユーロスターの出口は迎えの人混みと、
到着したばかりの乗客で膨らんでいる。
これから出発する人々も
その隙間を縫って行き来するから
とにかく暑さと喧騒で混雑は大変なもの。

奥の方にダリアの様な笑顔が見える。
長女バッタ。
そのすぐ後ろ、頭一つ分高いところに息子バッタの笑顔。

二週間のイギリスでの語学研修を終えた彼らを車に乗せて帰宅。

同じスーツケースの中身で翌日のブルターニュに行くと言う息子バッタ。
中身の点検は一応するけど、翌朝にすると言う長女バッタ。
一晩だけの逢瀬。
喜ぶかと、サーモンのチラシ寿司を予定していたが、
ベジテリアン一家に滞在した息子バッタはプレ(鶏)を所望。
プレの足にかぶりつきたいらしい。
一方、一人暮らしのマダムとお食事に出てばかりいたという長女バッタ。
デトックスしなきゃ、とため息。
OK。今夜は君たちの好きなようにしよう。

翌日、久々にバゲットのサンドイッチが食べたいとのリクエストに、
朝からパン屋さんに一っ走り。
息子バッタの大好きな生ハムとチーズのサンドイッチを作る。
桃を洗って、冷やした麦茶をペットボトルに入れる。

9時半には出発すると宣言していたが、
どうやら長女バッタの点検は終わっていないらしい。
それでも、何とか10時15分前には皆で車に乗り込む。

夏の日曜。
道路はどこも空いていて、
30分もするとモンパルナス駅に到着。
駅パーキングの一つに駐車するが、
どうやらプラットホームの中間点の駐車場だったらしく、
メインゲートに辿りついた時には既に10時30分。

TGVの乗車券はe-チケットを既に印刷済みながら、
乗り換え後のローカル線の乗車券は、駅にある切符販売機から予約分を印刷しなければならない。
目ざとく見つけて、コードを押すが、反応が今一つ。
息子バッタが、TGV専用切符販売機であることを発見。
慌てて、切符売場に行こうとするが、
その手前に並んでいる一般切符販売機で、再度コードを入れる。
支払いに使用したクレジットカードを挿入するように指定される。
暗証番号の確認後、この支払いにはこのカードが使用されていません、と明示される。
困ったなぁ。
息子バッタが、心配そうに、先日、チップが読みにくくなったから、カードを変更したことを指摘。
そうかなぁ。その後で切符を購入した気がするのだけど。
とにかく、ここでは拉致が明かない。
やはり切符売場に並ぶしかない。

親切な駅員さんが、列に並ぼうとする人々に声を掛け、アドバイスをしたり、並ぶ列の指示をしている。
と、「おや、バイオリンですね。先ずは一曲。」
若い駅員さんの呑気な声が掛かる。
既に10時40分。こちらは焦ってきている。
バッタ達にTGVの乗車券を手渡し、荷物もあるし、とにかく先に行っているように伝える。
イライラしても、列の長さは変わらない。
とにかく、ここは冷静に待とう。

漸く順番がくると、説明をし、昔のクレジットカードを差し出すと、ビンゴ。
慌ててもぎ取るように切符を奪い、
持っていた長女バッタのサンドイッチの入った紙袋に入れ込む。
とにかく、9番線まで走る。

それから、今度は長いプラットホームを走り続ける。
18号車。
なんだってTGVを二台もドッキングさせているんだろう。
最終案内が構内に流れている。

息が切れるころ、
迎えに来てくれた息子バッタと出会う。
「ママ、ありがとう。」
何度も連発。
そりゃそうだろう。額からは玉の汗。
「ママ、お金が欲しいって」長女バッタのリクエストを伝える息子バッタ。
そうか、昨日は一銭も使わなかったとポンドを全部返してもらっていたが、
その代わりにユーロを手渡してもいなかった。
慌てて、お財布から20ユーロ札を取り出す。

と、18号車のドアの前で、長女バッタが荷物と一緒に待っている。
先に、荷物ぐらい入れておけば良いのに、と思うも、そこは子供なのだろうか。
バッタ達にしてみれば、ママを待っていたのだろう。
息子バッタが大きな身体を屈めて、抱きついてくる。
ママを残してバカンスに行ってしまうことが後ろめたいのだろう。
楽しんできてね、声を掛ける。

さあ、早く荷物を入れて中に入らないと。
座席は入口のすぐ近くらしく、息子バッタが大きな重いスーツケースを
棚に上げている様子が窓越しに見える。
二人が漸く腰を下ろしたところで、笑顔でバイバイ。

と、長女バッタが急に驚いた顔をして立ち上がり、ドアの方に走り寄る。
何事かと、ドアまで行ってみると、
「ママ、フェリーのチケット!」
あら、渡したわよ。
「どこに?もらっていないよ。」
泣きそうな声。

あ、ああ、まだか。彼女の机の上に置いておいて、
心配だからと私の鞄に入れておいたのか。
慌てて鞄からチケットの入った封筒をつかみ、
彼女に手渡す。
と、同時に扉が閉まる。
危機一髪。
11時05分。

電車はブルターニュに向かって、ゆっくりと動き始める。
汗びっしょり。
大事に至らずに、ぎりぎりでチケットを手渡せたことに安堵の大笑い。
どうやら、他の乗客も笑っている。
ちょっと寂しげな息子バッタと、ほっとした表情の長女バッタの顔が遠ざかる。

Bon voyage、そして、Bonnes vavances!




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2013年7月17日水曜日

ある夏の日




暫く前から誘われていて、
アジェンダにしっかりと印をつけていたものの、
当日になってみても詳細ちっとも連絡なく、
このまま夕方まで音沙汰なかったらと思うと、
まさかとは思うも、
胸が押しつぶされそうになる。

その時は、その時、と
今しなければならないこと、
いや、厳密に言えば、
今しなければならないと思っていることを
淡々とこなす。

と、いつの間にかメールが入っている。
先日、私が送ったメールに返信する格好で、
メッセージなしの添付資料のみの送信。
PDFをクリックすると住所と地図が踊りでる。

それからは、
猛スピードで全てのことに取りかかり、
慌ててパールのマニキュアをし、
片付けたアイロンを引っ張り出して、
洗い立ての真っ白なコットンにあて、
二時間近くの運転で皺くちゃになるだろうからと、
丁寧にたたみ、ふんわりとネットに入れて鞄にしまう。

夕方、本を返しに来てくれるという友人には、
明日のお茶に招待し、
ちょっと迷ってベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のCDを鞄に放り込み、
さて、出発、
と、二件のメッセージ。

一つは先程の友人。
明日はプールに遊びに行くので、また別の機会に、とのこと。

もう一つは200km先の友人。
1時間前に送った、待ち合わせの時間を確認する私のSMSに対する返事。
どうやら、いや、やっぱり、期待した時間の1時間後を待ち合わせの時間として告げている。

ふむ。
随分前にトスカーナで買ったヒールを脱ぐ。
友人一家を訪れた夏の週末。
あの時のかっきりとして動かない青い空がよみがえる。
偶然にして、いや、必然たる偶然によって同じ村を訪れ、
お互いの足跡を探し求めた、あの日。

こんな時こそ、書類整理がはかどる。
山の書類を一つ一つ崩していく。
非常に機械的に、かつ見落とさずに。

玄関脇の衣装棚前の山が片付くと、
ハンガーラックに忘れられたかのように取り残された、
数週間前までは手放せなかったオーバーやコートを
衣装棚に仕舞う。
一緒に手袋、マフラー、厚手の靴下、毛糸の帽子なども袋に詰めて仕舞いこむ。

すっかりシャッターを閉めた屋内は
ひんやりとして心地よい。
掃除機をかけたばかりのフローリングは
裸足に気持ちいい。

キッチンにある我が家で唯一正確な時を刻むオーブンの時計を見て、
慌てて外に出る。
暑い日差しが焦燥感にも似た熱い思いに転換していく。

これから共有する時を思い、
これから出会う場所を思う。
思わぬ渋滞に、
クラッチに足を、ギアに手を載せながら、
何てついているんだろうと笑みが漏れる。
前方に、信号も障害物(走行車)もなければ、
優に時速200kmは出してしまっていようか。

永遠に続くかと思われた車の波も
いつの間にか途絶え、
集落を過ぎるたびに、
走行車の数は少なくなっている。

思わぬタイミングで幹線道路から抜け、
スコットランドかと思わせる田園風景が広がり、
羊の群れに遭遇する。
そうして、
今度は森の中を走る。
爽やかな緑の風が車内を吹き抜ける。

空の青にのんびりと
ところどころに浮かぶ雲が色を染め始めるころ
目的地にたどり着く。

そうして、
ようやく大地を踏みしめ、
太陽に向かって大きく駆け出す。



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2013年7月16日火曜日

記憶と出会いの交錯





住所を見た瞬間、
記憶の断片がよみがえり、
21年前の夏、
毎日のように歩いた場所じゃない、と
地図を確かめずに出かける。

不思議なくらい昔と同じように若者でにぎわい、
通りに所狭しと並べてあるブラッスリーやカフェのテーブルで
皆それぞれにそれぞれの時を過ごしている。

いつの間にか、本格的な夏がパリにも訪れていて、
明るい日差しがまばゆい。

確か、ここに道があるはず、
記憶をたどりながら自信を持って歩いていたはずなのに、
どうやら記憶はそこまで厳密ではない模様。
約束の時間に遅れてしまう。

小走りになると
爽やかなパリでは珍しく、
汗がじんわりと感じられる。

キオスクに駆け込む。
それこそ21年前に、必死で何度も繰り返して覚えた丁寧な言い回しで道を尋ね、
煙たがれ、悲しくなった思い出がよみがえる。
きっと、ボンジュール、と笑って声を掛けるなんてできずに、真っ青で、早口で、何を言っているのか分からない口調だったのだろうと当時を振り返る。

「そこの道を入って真っ直ぐ行くと、すぐに分かるよ。」

にっこり笑って、お礼を言って、慌てて駆け出す。

そうか、この道なんだっけ。
なんだか、とっても嬉しくなる。
記憶って本当にあてにならないし、
どんなことでも、いずれ忘れてしまうという、当たり前のことが、
今はなんだか嬉しい。

新たな出会い。
いや、改めての出会い。

目指した通りはすぐに見つかる。
結婚式の為に駆けつけてくれた祖母を始め家族と泊まったホテルが見える。

今回は、そこではなく、
ちょうど斜向かいとなる別空間に。
ほら、
凛とした笑顔がもう見える。

遅れちゃってごめんなさいね。
急いで駆け込む。
芍薬の芳しい香りがひんやりとした中、静かに迎えてくれる。



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2013年7月11日木曜日

あらゆる世界で




弓が自由自在に弦から音の粒を弾き出すように、
人生を大いに楽しんでね。

お誕生日おめでとう。



さりげないメッセージ。
真意は伝わっただろうか。

弓の持ち方、
力の加え方、
動かす方向、
動かし方。

あらゆる要素が内混じって、
一つの音となり、音の繋がりとなる。

それを受け止める弦 。
膨らませ響かせるボディ。

あなたの弓と
私の弦で、
あらゆる世界をボディとして
これからも一緒に音楽を奏でていこうよ。

心から、お誕生日おめでとう。


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2013年7月9日火曜日

夢は拓く





道端で知り合いに会う。
息子の卒業式の帰りとか。
明るいワンピースと、薄化粧。

そうして花束が手渡される。
会場を飾った花を丁寧に分けたもの。

こじんまりとした赤い薔薇の花。
白くて可憐なかすみ草。
そして、黄緑の蕾。

グラスに挿しながら、
高校卒業の時に担任の先生にいただいたボケの花の小さな植木を思い出す。

そうして、
ちょっと枯れそうな危うさをもった花束にしては、
グラスの水が随分減るわ、と思いながら、
毎日、交換。

と、
今朝、黄緑の蕾でしかなかった塊が
見事に開花。

一体、なんだって今まで存在に気が付かなかったのだろう。

夢は拓く。
緑の風が涼やかに花をゆらす。



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2013年7月4日木曜日

時には我が身も修理して






朝のまどろみの中で雨の音を聞く。

前日、高速で時速150kmで飛ばしたからか、
大雪以来、作動しなくなった右のワイパーが何かの拍子で中央まで寄ってきたので、
動かそうと、つい、反射してしまい、ワイパーのレバーを快適に一つ上げる。

すると、左のワイパーだけが作動。
そして、中央に出てきてしまった右のワイパーは不動。
結果として、左のワイパーが中央にあった右のワイパーにより動きを遮断され、
ブレードが吹っ飛んでしまう。

今、考えれば当たり前のこと。
大雪で動かなくなった時点で、修理工場に駆けこまなかった自分を恨む。
それでも、
実は右のワイパーは気まぐれのように、時々作動していたから、たちが悪い。
しかも、
魂の友人が助手席に座っているとき、
心沈んでどうしようもないとき、
天からの啓示のごとく、右のワイパーは作動してきていた。
だから、つい、
いつか、何かのきっかけで、また元通りに動くに違いないと、
頭の片隅で思ってしまっていた。

勿論、
ワイパーを動かすモーターに問題ないことは実証済み。
接続が悪いのであろうと、
何度も押したり、外そうとしたりと工夫をしてはみたが、
相手はてこでも動かぬ頑固さ。

そんなことより、
目の前の障害物をどうしようかと思いながら、走り続ける。
予想以上にパリ市内が混んでいたので、
到着予定時間に対して30分は遅れていた。
それを理由に走り続ける自分の性格を笑いつつ、
高速での走行は、雨さえ降らなければ、運転席の目の前の視界が確保できれば、
そう問題でもないと思い始めてもいた。

それが、
どうやら雨模様。
起きてきて窓を開けてみると銀の粒は夕立の勢いで容赦なく落ちている。

台湾の妹の旦那が、雨の中、ワイパーもつけずに走行していたことを思い出す。
なんとかなるかな。
辛うじてひっかかっていた左のワイパーのブレードを、
なんとか様になるようにくっつけ直してはいた。
怪しげではあったが、なんとかなるかもしれない。

そうして、
外に出てみると、
天は味方をするかのように、雨も小降り。

エンジンをかけ、ワイパーを作動。
笑えるほど、あっけなくブレードは外れてしまう。
一緒にいた友人が、こんな危険なことはない。
時間がかかっても、修理工場に行って交換しないとだめだよ、と言う。
真剣なまなざしの後ろに、黒と黄色のミダスの看板が見える。
おっ!救世主。車修理工場チェーン店。
一方通行の道なので、友人が誘導してくれると言う。
大袈裟なと思いながらも、
本気で心配してくれているし、
これから200kmは高速を飛ばさないといかず、
午後の重要なアポには遅れたくなく、
ここは従順に、ついていくことにする。

雨のせいか、窓ガラスは曇りがち。
そして、ワイパーの効かないフロントガラスからの視界は悪い。
友人のテールランプを頼りに、
先ほど見えたミダスを目指し、
一方通行なので迂回しながら、思った以上の時間と、視界の悪さに四苦八苦しながら
漸く到着。

友人にお礼を告げ、ミダスに駆け込む。
若い頑強なお兄さんが二人。
車の修理工場で働くには、プロフィールでも決まっているのかと思わせる程、
どこの修理工場にもいるタイプ。

雨脚がまた激しくなってきた中、
様子を見てくれる。

と、ワイパーとモーターとの接続部分をぱっくりと開ける。
そういう仕組みになっていたのか、と感心することしきり。
そこのナットの締めが甘かったことが、不作動の原因であることが究明される。
なんだ。
そうだったのか。

取り敢えず、右ワイパーはナットを締め直すと、今度は作動を開始し始める。

そして、今回壊してしまった左ワイパーのブレードを交換する。

ものの数分で片付けてしまう。

雨は小降りになっている。
それでも、ワイパーではじくと、フロントガラスは綺麗になり、
視界はぐっと広がる。

友人にSMS。
「ありがとう。無事に修理完了!」
すぐに返事が入る。
「良かった。安全運転でね。」

高速を飛ばしながら、
なんだか自分の身体まで修理したような錯覚に襲われる。
気分は爽快。
そう。無理しないで、ちゃんと修理する時はしないと。
修理整備された我が身。
そう、本当にその通り。
『アミューズブッシュ』の味わいと甘美な旋律が体中に駆けまわる。
なんだか笑いが止まらない。
右側に真っ白な花の絨毯が目に入る。
昨日は、晴天だったはずなのに、ちっとも気が付かなかった。
今の季節なら、さしずめジャガイモ畑だろうか。
夕方、同じ道を通るであろう友人も、
目にするだろうか。


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2013年7月1日月曜日

卯の花の香りに包まれて




色々あって携帯を新しくすることに。
これまで通りの番号をちゃんと維持すること、
そして、契約の変更により、通話不可能となる時間がないことが条件。

条件、というよりも、それは自分が生きていく上での命綱にも関わる大切なこと。

金曜、午後にこれまでの携帯のSIMカードが使えなくなる。
緊張しつつ、新たな携帯を見ると、3G有効。
慌てて、最初のメッセージを送る。

初めて使う携帯から、初メッセージ。
発信!
と、暫くしてから、初受信。
おおっ!!!
うまくいったんだ。

嬉しくなる。

そうして、土曜、いくつも喜んでSMSを発信。
オーストラリアにいる末娘バッタに電話。
国際電話が掛けられないと分かると、
大慌てでサービスセンターに電話。
契約後二週間経ないと国際通信はできないという。
ちょっと、そんな馬鹿な話はないでしょう、と声を荒げる。
どうやら、契約店にいけば、そこからなら特殊手続きができると言われる。
車を飛ばし、交渉。
最低、二日後には通信可能とのこと。
帰りの車の中で、息子バッタに台湾に電話をさせると、
今度はちゃんと通信音が響く。
思わず歓声が漏れる。

そんなことをして土曜はあっという間に過ぎていく。
でも、と思う。
なんだか、手応えがない。
いつも以上に手応えが感じられない。
週末だし、忙しいのかな。
色んなことを想像し始めてしまう。
案の定、夜中連絡はない。
ひっそりこんとしている。
眠れない夜を過ごしてしまう。

日曜の朝、
優しいSMSが届く。
朝の挨拶でもない。
どうしたのだろう。
若干の違和感を覚える。

そうして、
悶々とした日を過ごす。
寝不足もあって、機嫌も悪く、
ちょっとしたことで長女バッタと涙の激論をしてしまう。
驚いた息子バッタが飛び出してきて、
泣きながら抱きついてくる。

ごめん、ごめん。
そんなつもりじゃなかったんだけど。

そうして、
空回りの心を抱えて外に出る。
卯の花のむせばんばかりの香りの下で、
携帯のメッセージからあらゆる情報を得ようと努力する。
何か、手掛かりが欲しい。
せめて、相手に届いているのか、確信が欲しい。

そうして、長女バッタの携帯に卯の花の写真を送信。
送信完了の音が響く。
ふむ?
改めて同じ写真を同じように送信。
今度は、送信完了の音ではなく、送信不可能との合図が出る。
おや?
相手が携帯の電源を切っているのだろうか。
そう判断。
暫くして、同じように送信してみる。
今度も、送信不可能。
目を凝らす。
シャープ。
どうして、番号の前にシャープの記号がついているのだろう。
ふと疑問に思う。
慌てる。
深呼吸をして、慣れない手つきで、番号を押す。
登録された名前が出てくる。
が、今度は番号の前にシャープの記号はない。
えっ?
もしかして。
送信すると、送信完了の合図が手に響く。
そうだったのか。
じゃあ、金曜、すぐにもらったメッセージは、
私が送信したメッセージの返事ではなかったのか。
そうして、今まで手応えが感じられず、
どうもいつもの調子じゃないと不安に思っていたのは、
私からのメッセージが一通も届いていなかったからなのか。
一瞬にして霧が晴れる。

卯の花の香りに優しく包まれる。



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