2018年12月27日木曜日

耳を澄ませば








淹れたての珈琲を味わいながらキッチンの窓から庭をぼんやりとみていると、松の木の根元に、猫を認める。氷点下とあっては、流石の猫も遊びに来ないと思っていたが、午後の陽射しを求めてさまよい出たのか。よく見ると、初めて見かけた猫と思われる。小ぶりで、黒猫と言っても良い程だが、ところどころ白が混じっている。よく見かける近所の猫たちは、いずれもむしろ逆の白色基調。こちらを窺いつつも、気持ちは別にあるようで、何かに熱中している。一体何をしているのか。よくよく目を凝らして見てみると、どうやら何かをしきりに舐めている。いや、齧っているといった方が正解だろうか。思わず、ぎょっとしてしまう。

常緑樹とはいえ真冬の最中。松は幹や枝に辛うじて葉がついているが、すかすかである。だからなのか。木には、いやにピーやカケスの姿が目立つ。いかにも、小猫の様子をじっと見守っているかに思われる。いや、むしろ殺気立っており、小猫の仕留めた獲物のお下がりを今か今かと待ち望んでいて、隙あらば、かっさらおうとの勢いにさえ思われる。
小猫はひとしきり齧る行為を続けていたが、人心地ついたのか(ここでは猫心地だろうか)、ゆっくりと試すように、その場を離れた。その歩くさまを見ると、どうもびっこをひいている。片足を怪我しているのだろか。獲物の取り合いをした結果なのか、獲物獲得時の結果なのか、或いは、もともと足が悪いのか、分かり兼ねた。ただ、齧っていたものが、白く、どうやら鳥類の胸骨のような形をしていることが見て取れた。大きさからも、鶏ではなく、七面鳥に思われた。

ひょっとしたら、飼い主がノエルのパーティーでの料理のおすそ分けをしたのだろうか。それなら、我が家で大威張りで食するに違いない。もしかするとその家は数匹の猫を飼っていて、猛喧嘩の末、勝ち取った勝利品をこっそりと静かに一人で味わっていたのかもしれない。或いは、可愛い猫の喉に骨でも刺さってはいけないと、飼い主がむしゃぶりついている骨を取り上げたところ、さっとさらってきたのかもしれない。いずれにしても、我が家の庭で死闘が繰り広げられたわけではなかったことに、ほっとする。
気が付くと、さっきまでじっと見守っていたピーやカケスたちの姿は見えなくなっていた。そして、小猫はゆっくりとご馳走の場所までびっこをひきずり戻って、またしゃぶり始めた。

夕方、所用からから戻って庭を見ると、松の木の下には小猫も骨も残っておらず、枝を見上げてもピーもカケスもいなくなっていて、ひっそりと夜の帳が下りるだけとなっていた。





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2018年12月23日日曜日

約束






会う約束をしていた。

どうやら約束の時間を大幅に遅れそうな相手に、難しいならば別の機会にしようと提案。既に車で向かっているとのことで、それならばと待つことにする。丁度ガソリンも車に入れねばらない。なんだったら、買い物でもしていようか。

その後メッセージが入ったようなので、車にガソリンを満タンに入れた後、確認。
最近は、のんびりをモットーとしているので、受信したメッセージに対し電光石火の如く、即確認し、即返事をする癖をなんとか直そうと努力中。

と、『事故に遭った』との一言に凍り付いてしまう。
本人による過失なのか。或いは、目の前で生じて、交通渋滞に巻き込まれているのか。

慌てて電話をするが、ボイスメッセージとなってしまう。

できるだけ早く着こうとの思いが、事故につながったのではないか。こういう時は、最悪の状況ばかりを思ってしまう。メッセージが書けるのだから、大事ではないと良いが。

相手から電話が入る。雑音がひどい。本人による事故であることが分かり、怪我はしていない様子だが、それ以外は全く知らされず、電話が切れてしまう。事故は事故だろうが、救急車や警察を動員するような大事故ではないことが分かっただけでも、一安心。

ゆっくりとエンジンをスタートし、師走の街をのんびりとゆく。




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2018年12月18日火曜日

赤く染まる松







日中、街を歩く。
面白いように知った顔に会う。にこやかに挨拶し、立ち話をし、時にはちょこっとお茶でもとなる。
フレッシュなニュースをお互いに交換し合い、盛り上がり、別れる。

不思議なことに、誰も何故こんな時間に、そこに私がいるか、などと無粋なことは聞かない。相手にとっては、それ程関心ごとではないのだろう。
とどのつまりは、束縛するのも自分であり、解放するのも自分。
そう思ったら、またふっと気が楽になった。

二歩前進しては、一歩後退のペース。
いやいや、どんなペースでもいいではないか。

フランスにとって、悲願であったEU財政基準である財政赤字を国内総生産比3%以下にすることは、来年も厳しくなる様相を呈している。しかし、この『3%以内』は、何を根拠にしているのか。今やフランスの世論はそうなっている。

目標を掲げることは、非常に重要であり、目指さなければ到達しない。
それでも、のんびりと回り道をしても良いではないか。

庭では、松の枝葉が朝日に真っ赤に染まっている。






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2018年12月17日月曜日

冬晴れ








それは、突然訪れた。前触れもなく。

気が付いたら朝になっていた。

心の底から安堵の思いが広がっていく。

熟睡といかずとも、途中で睡眠を妨げられずに、一晩眠り通すことがもたらす効果が、こんなにも気持ちを穏やかにさせるものだとは知らなかった。

こうやって、自分を取り戻していくものなのかもしれない。

今朝はビスコットの豊かな香りが一段と心地よい。
にんまりと、冬晴れの空を眺める。






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2018年12月15日土曜日

氷結








ざくざくと森の中に歩み入れば、昨日と違う様子に立ち止まる。

ちょっと前までびっしりと敷き詰められていた黄金の絨毯が、すっかりと朽ち色になり、うらぶれた寂しささえ醸し出していたのに。

濡れそぼっていた葉に霜が降り、白化粧された絨毯に、木々の間から冬の太陽の光が差し込み、ところどころで輝きを放っている。
言葉にできない思いが昇華したかのように。





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2018年12月13日木曜日

冬日向






手がかじかむ程の寒さに、前かがみで足早に通りを進む。

橋の上には燦燦と冬の太陽の光が降り注いでいて、思いがけずの暖かさに、歩みを止める。

遠くに見えるエッフェル塔が一瞬ウィンクをしたように感じられ、これまで長い間忘れていた感情が心の奥から湧き上がってきたように思われた。

焦らずに、のんびりといこう。
ゆっくりと忘れていたものを取り戻そう。





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2018年12月12日水曜日

バースト








書きたい思いが募っているのに、時間がなくて苦しくもがく時期があり、
やがて、そんなことを考える余裕すらなくなる時期があり、
そして気が付くと、あらゆることに対して欲がなくなってしまっていた。

書きたい思いがすとんとなくなっていた。
書くことすら考えもつかなかった。
同じように、食べたいものが思いつかない。だから、料理ができない。
時間がたっぷり目の前にある。それなのに、やりたいことがない。
無欲。いや、無気力。

そんなことが、自分に降りかかるとは思いもしなかった。

一瞬にしてバースト。
しかも予兆もなく突然に。

厳密にいえば、本人が気がつかないだけで、周囲は分かっていたのだろう。

破片を拾いながら、途方に暮れること暫し。

タイヤと違って人間は、回復能力が凄まじいらしく、破裂した皮膚の下から弱弱しいながらも新しい皮膚が見え隠れし始めている。

ゆっくりといこうか。
ストイックであることがカッコイイなんて言っていないで。
こうして書き始めたことを、先ずは良しとしようか。




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