2014年9月30日火曜日

のっぺりとした月




唯一の光を発するバスから吐き出され、
夜道を急ぐ。

林は暗闇をもたらすだけ。
太陽の下では、のびやかな小枝も
人を寄せ付けない凄みを持って迫ってくる。

ちらりと黄色い貼り絵のようなぺったりとした月が木々の間から垣間見える。
早足になればなる程、
月は姿を現したり、隠れたりする。

今夜は、
何を悩んでいるんだよ、と笑ってくれるのだろうか。
辛いことがあっても、思い詰めるなよ、と
呑気な調子で慰めてくれるのか。

丘に差し掛かるところで、立ち止まって見仰ぐ。
のっぺりとした月は、
笑うでもなく、小ばかにするでもなく、
つんと澄ますでもなく、
そこに在る。

そこに在ること自体に意義があるかのように。

誤魔化さずに、現実を直視しろ、といったところか。

もっと、もっと強くならねば。
そうして、もっと、もっと賢くならねば。
さあ、頑張らねば。

深呼吸をして、再び歩き出す。
深い暗闇の中を。





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2014年9月29日月曜日

不思議な夜道



オレンジ色の街路灯が光るペーブメント。
木々の間から爽やかな緑が香り立つ。
雨が降った後を歩くのは悪くない。
短い時間だったのか、気温もそんなに下がっておらず、むしろ汗ばむほど。
夕餉を囲むのか、どの家からも明るい光が漏れてくる。
街路灯の間隔が離れている場所では、暗闇が待っている。
それでも、歩きなれた道。
しっとりとした雨の感触を足裏に楽しみながら歩を進める。

と、かしゃり。

何かを踏みつける。

ガラス細工のような儚さを足裏に覚える。
まさか、ね。

そう思いながらも、オレンジ色の輝きに出てみると、どうやら歩いているのは私一人ではなさそう。あちこちにカタツムリが歩を進めている。

カタツムリ君たちの邪魔はしたくはない。
それでも、暗闇に入ると、本当に何も見えない。
そうして、丁度同じ道を歩もうとしているらしく、かしゃり、かしゃり、と小気味よい音を立ててしまう。

どうも申し訳ない。
ごめんよ、カタツムリ君。
そう呟いて、またかしゃり。

小雨が降ったぐらいで夜道を急ぐなんて。

我が家の灯を見つけると、慌てて走り出す。
と、またかしゃり、かしゃり。

ごめん、ごめん。
なんだか不思議な夜道。




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2014年9月27日土曜日

ありえない話




新学期が始まる。毎年のことながら、三人分の保護者会の知らせが押し寄せる。呆れたことに、一つは朝の10時から。仕事を休んで参加すべきなのだろうか。仕事をしている親は参加が難しいことを承知での時間設定なのか。或いは、仕事をしていない親が多いと思っているのか。

他の二人の保護者会も17時開催。となると、オフィスを16時前には出ないとまずいか。別途、他に三つの18時以降の保護者会も控えている。

まあ、今年は欠席しよう。已む無し。バッタ達にも説明し、自分たちでしっかりと授業を聞いておくよう伝える。学校側にも出席できない旨連絡する。

と、昨夜、末娘バッタが浮かない顔。テストがあることを知らず、準備ができていなくて、困ったと言う。そして、彼女を含め3人のみがテストの存在を知らずに臨んだが、他の生徒達は皆知っていたという。どうやら、保護者会で先生が親に伝えたとのこと。

怒りを通り越して呆れてしまう。

テスト実施を子供たちに伝えずに、親に伝える教師がこの世の中にはいるのか。

子供達への指導では不十分なこともあろうから、親もサポートすべきであるとして、親にも情報を伝えるとの姿勢こそがあるべき姿ではあるまいか。

一体、世の中、どうなっているのだろう。

学校に抗議に行こうかとの勢いの母親に、末娘バッタはそんな必要はない、という。テストは終わってしまったし、これからは、いつでもテストがあるとの覚悟で臨むから問題ない、と。

自分の仕事を優先したツケなのか。
こんな手厳しい仕打ちが待っていたのか。親として、子供の力になれないことこそ悲しいことはない。

すっかりと母親の背を超えた末娘バッタの背中には迷いが見られない。
明日は森で栗でも拾おうか。そして、栗ごはんにしよう。





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2014年9月20日土曜日

ジャック



夜中にメッセージ。
いや、厳密に言えば、夜中にメッセージをもらっていたことを翌朝確認する。
送り主はジャック。
ああ、ジャックリーヌか。
「随分久しぶり。ぜひ今度夕食を一緒にどうかしら。ジャック。」

昔の会社の同僚。早期退職プランをとって、早々に仕事を辞めていた。
両親ともにベトナム人の彼女の快活な笑顔を思い出す。幼い時にフランスに来ているとはいえ、小柄で小麦色の肌はアジア系。それなのに、「私はフランス人よ。」と言い切って、私を驚かせていた。フランスではアジア系は年齢不詳と言われており、確かにジャックリーヌの年齢は誰もが知らなかったし、想像もつかなかった。彼女は若く、若者と一緒に仕事をしていても全く違和感を感じなかった。だから、彼女が早期退職プランをとると知って、皆が驚いた。一体、ジャックリーヌって、何歳なの?

退職してからも、彼女の気さくな、そして大胆な性格のお蔭で、数年は会社へのアクセスは警備員への笑顔でフリーパスだった。自由な時間を使って、ベトナムに何度も行き、ボランティア活動に精を出していた。

それにしても、夕食か。いつもはランチを一緒にすることが多いのに、今回は改まってどうしたのだろう。

そう思い出すと、違和感がぐっともたげた。ジャックリーヌが自分をジャックって呼ぶだろうか。
ひょっとしたら、ジャックリーヌではないのでは。

男性のジャック!
そう考えると、思い当たらないでもなかった。一年以上も前に、知り合いに夕食に誘われ、レストランに行ってい見ると、彼の会社の同僚も同席。適当に会話を合わせてはいたが、知り合いが席をはずした途端に、言い寄って来た。確か、あの時は、いい加減に巻こうとするが、駐車場が怪しげなところで、ボディガード代わりについてきてもらい、コンコルド広場の、車が激しく行き交う大変な場所で降ろした覚えがある。もしかして、あの時のジャックだろうか。

そうなると、もらったメッセージは、読み替えねばなるまい。
「随分久しぶりだね。良かったら今度夕食を誘いたいのだけれど、どうかな。ジャック」

大きなため息が出る。
ジャックリーヌと思い込んで、早々に返事を出さなくて良かったとの思いが先ず支配する。
どうにも思い出せないジャックの面影に、手を合わせて頭を下げる。
ごめんね。

人は一人では生きていけない。
ジャックも人恋しく思って声を掛けてきたのだろう。
こちらにその気のない時は、無視に限る。下手に返事をしようものなら、お互いにとって面倒くさいことになることは、既に経験済み。

何の下心なく、普通に会う分には問題ないのだが、そうそう、この年で友情もないだろう。
それでも、友情の方が貴重だってこと、そろそろ分かってもいい年頃ではないか。

ジャック、久しぶり。
お誘いありがとう。元気そうで何より。ぜひ、また、何かの機会で。

送信しないメッセージの内容をつぶやく。
遠くに花火の音が聞こえる。






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2014年9月18日木曜日

ティファニー



SMS着信音。
発送者を確認すると、子供たちの父親。

メッセージを見ると決まり文句の挨拶があって「ティファニーが死んだ」とある。
ティファニー?

あらゆる脳細胞を活性化させ、思い巡らしてもベルが鳴らない。いったい誰だろう。彼のパートナーの家族の一人か。確か男兄弟ばかり。そうなると、その子供たちか。それとも、昔の知り合いの誰かの子供か。彼の親戚家族の誰かか。必死になって考えてもわからない。

それでも、さすがに「誰?」とは聞けないものが、「死」という言葉にはあった。

家族や親近者とも、知り合いとも取れるような、ニュートラルなお悔やみの言葉の後に、「何ができるかしら。」と聞いてみた。

忘れたころに返事が届く。
「誰にも、何もできない。。。」

何この返事?いったいティファニーって誰よ。私が知っているティファニーは世界中でもオードリーヘプバーンが演じるティファニーのみ。即、電話で相手を呼び出すと、画面に大きく相手の名前が掲示される。それを見て慌てて呼出しを取り消す。

その名前は子供の父親ではなかった。
イニシャルこそ同じだが、もう一年も会っていない昔の同僚。
うっかりと、名前をイニシャルで確認して、いつも連絡がある子供の父親と思い込んでしまったのだ。

思い込みの激しい、おっちょこちょいを、またやってしまったか。
慌てて改めてすべての脳細胞を動かし、昔の同僚達を思い浮かべる。その家族を考えてみる。それでも、どう頑張ってもティファニーという名前は引っかかってこない。
別の知り合いに連絡をしようか、とも思うが止める。

ティファニー。
ご冥福をお祈りします。



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2014年9月15日月曜日

未だ明けきれぬ朝





気が付くと町は未だ闇の中。
オレンジ色の街路灯が消える時間が徐々に遅くなってきてはいたが、秋は驚くほどしっかりと忍び寄っている。

ヘッドライトが行き交う中、丘の上のバス停に佇むシルエットが一瞬明るみに出る。
真っ白のエナメルのハイヒールのサンダルに真っ白のパンツ。
確かに日中は暑くなるのだろうが、どうやったら肌寒い夜明けの気配も感じられない中で、夏満喫スタイルに身を包むことができるのだろう。

猫バスのサーチライトよろしくヘッドライトを光らせてバスが近づき、乗客を飲み込む。
目を瞑れば、簡単に蒲団の温もりと体温を取り戻せてしまう。
日の出前のなせる業か。

駅に近づく頃には、ゆっくりと空も明るく晴れあがってくる。
ふと目をやれば、白いパンツ姿の女性。
全く違和感なく、季節の装いとして申し分なく見える。
太陽の光のなせる業か。

リズムをつけてバスを降り朝日に向かう。




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2014年9月9日火曜日

天空の輝き



一日の疲れた身体をドアに預け、ごとごとと揺られる儘にぼんやり。

車両の見開きドアの半分以上はガラスだが、質が良くないのか、
或いは日々の疲れた人々の汗と脂がそうさせるのか、薄っすらと膜が張られたかのよう。

それでも、もう八時近くなる夕日は朱色に輝いて目を刺す。
青空にたなびく雲も刷毛で色付けられたように輝いている。

と、ぼんやりと空の一部が虹色に染め上げられている。
思わずはっとして、見知らぬ隣の乗客に声を掛けてしまうところで、留まる。
そうして、ゆっくりと車内を見渡すと、誰もが下を向き本に夢中か、携帯を使っている。
だあれも空の虹色のまばゆい輝きに気が付いていない。

遠い昔、未だ高校生だった頃、双子の彼女と一緒に登校の途中、空に数体の未確認飛行物体を認める。変な光線を出してジグザグ飛ぶもの、同じ場所にとどまっているもの、ひゅんひゅん飛ぶもの、兎に角、一目で通常の飛行物体ではないことが見て取れた。「あっ、UFO!」大声で叫んでも、不思議なことに、誰も立ち止まらない。登校時だったので、登校する生徒達で道はにぎわっていた。知り合いに声を掛けても、反応がない。あんまり二人でぼうっと立って眺めていても、空の状態に変わりはなく、時間ばかりが経過し、学校に遅れることも心配になって、諦めて歩き出したことを覚えている。どうして、誰も不思議がらないのか、不思議だよね、と二人で話し合いながら。

そうやって、気が付かないうちに自然は刻々と姿を変えているのだろう。
そう思うと、この天空の虹色の輝きに出会えたことがとても貴重に思えてくる。

駅に近づいたのか電車はゆっくりと速度をゆるめる。




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2014年9月8日月曜日

ラピスラズリと満月



なくしちゃいけいなからと、そっと置いておいたブレスレット。
旅から戻っても、息つく暇のない余裕なし状態だったので、そのままにしてしまっていた。
今朝、吸い寄せられるように手が伸びて、左手につけていた。

相変わらず飛ぶように時間は流れ、気が付くともう外は暗い。
それでも、なんだか体の底からエネルギーが湧き出て、テラスで食事をしている人々の間をスキップして通り抜ける。
ぼんやりと電車に揺られながら何かの予感がする。

電車を降りてバス停に向かうと、どうやら最終のバスに間に合ったよう。
バスが来るであろう方向を眺めて、はっとする。
夜空に大きな満月。

そうか。
この幸せ感はラピスラズリのブレスレットのお蔭なのかな。
贈り主を思って胸が熱くなる。
彼女も、彼の地で同じように大きな満月を見て幸せ感に浸っているのかな。

いつもありがとう。





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2014年9月7日日曜日

伝わらないメッセージ



これまで何度、登っている梯子を下から外されたか。
大打撃を受けても、人を愛することは止められないし、人を信じることも止められない。
一人で生きていくことなど、まして考えられない。

それでも、今回の梯子外しは堪えた。
友情と言う固い絆を信じていたし、応援してくれる人々の声援は切実で熱がこもっていた。

いつから歯車がおかしくなったのだろう。
歯車がおかしくなっていても、誰もが通常通りの顔を装い、いつも通りの挨拶を交わしていた。一日に数度ある電話やSMS、メールの数も減ることはなく、私の方から歯車の調子を懸念して距離を置こうとしても、むしろ相手の態度は熱を増すほどだった。

それなのに。
全く何の知らせもなく、突然にして梯子が外されたことを他から知らされる。

歯車の調子が悪いと感じていたことで、ゆるゆると高みから降りていたとは言え、はっきりと梯子が外されたことを知った時は、真っ逆さまに落っこちた。
それでも、平然を装い毅然と対応。
その姿に安心したのか、梯子を外した張本人から電話がくる。
梯子を外す決断をしたのは、他でもない、その人。
いかにも、他の人々が外したかのように話をし、そして、それが何でもないことのように語り、しまいに夕食に誘われる。バーベキューでもしようじゃないか。昔のように。

まあそのうちに、と適当にかわし、這う這うの体で電話を切る。

二日後、もう連絡はくるまいと思っていた矢先に、我が家の目の前で出くわしてしまう。
その時も、動揺を隠すに隠せず、明らかに嘘と分かる風邪と偽り、挨拶を避ける。
それで察して欲しかった。ほっといて欲しい、と。

ところが、どうやら自分が悪者になることを良しとしないのか、今度は奥方からメッセージが入る。夕食のお誘い。そうくるとは全く思っていなかったし、彼女との関係までを云々するつもりは全くなかったので、それでも二日ばかり経ってから返事をする。忙しかった、と。
それで察して欲しかった。ほっといて欲しい、と。
それでも、改めてSMSが入る。ぜひ夕食を一緒にしたいので、都合の良い日を知らせて欲しい、と。
今度は返事をしないことにした。

それからひと月。

昨日、留守電メッセージに本人からメッセージが入る。
元気だろうか。いつも君のことを気にしている。ぜひ近いうちに会えたらと思う。

察して欲しい。ほっといて欲しい、と。

彼は私から何が聞きたいのか。私は元気だし、梯子外されても大丈夫だよ、仕方がなかったものね、とでも言って欲しいのか。慰めて欲しいのか。昔のように、仲間として腕を組んで笑い合おうとでも思っているのか。今の状況の愚痴を聞いて欲しいのか。

惨めになるだけだから、会いたくないし、話もしたくないってこと、分かってもらえないのだろうか。お願いだから、ほっといて欲しい。

元気であること、人生楽しく過ごしていることと、この梯子を外された思いとは全く別次元の話。まだまだ癒えていない。だから、放っておいて欲しい。お願いだから。

青空はあくまで透明で緑の風は穏やか。







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2014年9月6日土曜日

切り絵のような半月



照明を落とした大きな会場を人ごみを縫って進み、
知った顔を見つけて嬉しそうに挨拶を交わす人々を横目で確かめ、
途中で逸れてしまった一緒に入った仲間の姿を遠くに見つけ、
そうこうしながらも人ごみに押され揉まれ、BGMの和太鼓の生演奏が響く中、
なんとか、それらしき会場の中心に入り込む。

あまりの人ごみで、そこが別空間として他を圧倒しているようには見受けられず、
汗を流しふーふーしている隣の背広の紳士と二言三言、言葉を交わす。
どうやら、その会場の企画運営に携わった功労者のようで、
熱狂する人々から距離をとって眺めていたらしく、ぼんやりとしていた傍観者の我が身とは全く立場が違うながら、出会いの妙。

その業界のスターがいるらしく、彼を取り巻いて幾つもの輪ができている。
取り敢えずは数名と名刺を交換し、カプチーノのクリームの上澄みのような会話を交わし、仲間の一人に促されて、会場の奥に進む。
二階に上がるエスカレーターは白煙で謎めいている。

ふと携帯をのぞくと、数件の電話メッセージ、SMSが入っている。
発信源を確かめる間もなく、大慌てで仲間を探し、一人に急用ができて出なければならない旨伝える。こちらの慌てようが伝わったのか、人混みの中で帰り道を一緒に探してくれる。

それからは、階段を駆け下り、まっしぐらに出口に向かう。先程の喧騒が嘘のように入り口は閑散としていて、警備員だけが手持ぶたさにしている。数名の招待客が連れが来ないのか、携帯をひっきりなしに耳に当てている。その中を駆け抜け表に出る。

タクシーか。
通りはびっしりとタクシーで埋め尽くされているが、赤ランプ。つまり予約済み。恐らく会場の客が帰りの足を既に確保しているということだろう。となると、メトロか。

息せき切って電話をし、遅れてしまうことを詫びる。
祈るような思いでメトロがゆらゆらと走る中、少しでも早く駐車場に着くよう目を閉じる。会場に残した仲間数人に挨拶もせずに出てしまったことを詫びるSMSを送る。
こんなことなら、会場近くの駐車場に朝から入れていれば良かったのに、と悔やまれる。焦っても電車の走行速度は変わるまい。それでも焦らずにはいられない。

こんな時に限って、地下四階に駐車しており、エレベーターへの警備は厳しく、何重もの扉をカードで開け続ける。

それでもやっと外に出て暗闇迫る車道を走り出す。
空には貼り絵のような黄色い半月がぺっとり張り付いている。

絡まる脚で飛び込むようにドアを開けて入ると、窓際にひっそりと姿が見える。
間に合った。背筋を伸ばしてテーブルに向かう。




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