2023年9月28日木曜日

焼き立てのチーズスフレケーキ、忽然と消えるの巻

 





一週間ほどご長女のいるノルマンディーに出掛けていたお向かいの90歳になるマダムが、帰ってきたら丁度お庭の無花果が熟れていると、薔薇の花をあしらった小皿に幾つか盛って差し入れをしてくれた。


丁度庭の林檎でアップルケーキを焼いたところだったので、一切れお返しにお届けすることにした。無花果の粒は歯にはさまるから食べなくなったマダムだが、焼き林檎ならば大丈夫だろう。林檎の皮を剥いてはいないが、十分にフライパンで焼き色を付けてから、じっくりとオーブンで焼き上げたので、皮の存在を感じさせない仕上がりになっている。


あら、まあ、と円満の笑みで嬉しそうに受け取ったマダムだったが、アルミ箔をぱっととってケーキを見て、一瞬にして顔を曇らせてしまった。思い込みとは恐ろしいもので、「アップルケーキ」と伝えた筈だったのに、以前作って大好評を博した「チーズスフレケーキ」を期待していたらしい。


なんて純真なんだろう。そして、とても分かりやすい。


冷蔵庫に丁度クリームチーズがあったことを思い出し、翌日、例の割れないチーズケーキの焼き方を復習し、テレワークで自宅にいたことを良いことに、昼休みにぱぱぱっと焼き上げた。程よく冷めたところで、お皿に載せて写真を撮り、トンカの散歩に出掛ける時に、マダムに渡すことにした。


それから、ちょっとした仕事が舞い込んで、集中して作業をし、なんとかトンカが騒ぎ出す前に仕事を終え、トンカに夕食を与え、洗面所で手を洗って戻って来た瞬間、何か違和感を覚えた。何かがおかしい。


焼き立てのやわらかな甘い香りだけを残して、お皿からチーズスフレケーキが忽然と消えてしまっていた。お皿には、まだ温かさが残っていて、しっとりと湿り気があったが、それ以外は何もない。テーブルクロスに乱れもないし、椅子もきっちりとテーブルに収まっている。


え?


ぱっとトンカを見ると、舌をぺろぺろとしている。


え?君、夕食を食べたばかりだよね。その足で、勝手にデザートまで食べちゃったの?


おい、おい、おい!クリームチーズ200グラム、卵3個、砂糖60グラム、牛乳50㏄、バター30グラム、これ、みんなトンちゃんのお腹に入っちゃったの?


で、お味はどうだった?せめて、もうちょっと、味わって欲しかったなあ。


実は、準備していた焼き型に入りきれなかった分を、一人分程の量だがマグカップに入れて焼いていた。今回はマダムにはこれを差し上げよう。


その夜、すっかり満足したであろうトンカは、ぐずること一切せずに、お腹を見せてぐっすりと寝入っていた。まあ、時にはいいかな。一事が万事こんな調子なのだから、躾なんてちっともできていない。気持ちよさそうな寝息を立てるトンカに、ケーキが如何に美味しく焼けたかの答えを見た気がした。



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2023年9月27日水曜日

林檎讃歌

 





庭の隅にある小さな林檎の木の枝がしなる程に、今年は林檎の実が鈴なりになっている。朝日が差し込む頃に、林檎たちの弾んだおしゃべりが聞こえてきそうなぐらいに、小さな実が輝いている様子がキッチンの窓から見て取れる。


長女バッタがフィレンツェに旅立つ前に我が家で週末を過ごしたが、庭の林檎たちの様子を見て、もうちょっとだわ、と言っていたことを思い出す。その代わりではないが、爽やかな香り高いヴェルヴェンヌの葉を摘んで、お茶用にと紙袋に入れて持って行った。


我が家の林檎は、とても素朴な、それでいてこれこそが正統の林檎だわと思わせる、落ち着いた赤色をしていて、齧れば、その実はぱりりと瑞々しく、小粒ながら爽やかな酸味と穏やかな甘みを持っている。


遥か昔のことになるが、フランスに来た当初過ごしたパリの郊外にある大学のキャンパスは、驚く程周囲に何もなく、森を駆け抜けて漸くたどり着く、一時間に一本あるかないかの2両程度の電車が通る、小さな駅の近くに、猫の額ほどの小さな慎ましいお店があるだけの場所だった。


唯一実社会との繋がりを保てる気がするそのお店で、幼い頃を思い出させる林檎に出会い、思わず手にして、幾つか買ったことを今でも覚えている。ぱりりと瑞々しく、爽やかな酸味と穏やかな甘みを持っていた。なんて美味しいんだろう、そう思って、大切に、大切に、味わった。


不思議なことに、あの時の林檎を店頭で見掛けることはなくなってしまった。パリのスーパーやマルシェでも、これかなと思って手にする林檎は、どれも柔らかすぎたり、甘すぎたり、或いは酸味が強すぎたり、そして、毒々しい赤であったり、ピンク色が強すぎたりとしていた。


それがどうだろう。ここ二、三年で実がなり出した我が家の庭の林檎が、正に、あの留学時代に心震わせて食べた林檎と同じ味がするのである。いつの間にか、家主の嗜好が庭の植物たちにも伝わるものなのだろうか。


今年は林檎の当たり年。自然の恵みに感謝し、ありがたく頂くことにしよう。いただきます。



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2023年9月25日月曜日

天高く馬肥ゆる秋




 


どこまで踏み込んでいいのか、

どこまで踏み込むべきなのか。


自立した成人となったのだから、相談されないのであれば、話があるまで待つべきなのだろう。


それでも、親が子の幸せを願い、子の将来を心配するのは、当然のことではあるまいか。


天高く馬肥ゆる秋

そんな言葉がふっと唇にのる程晴れ上がっている秋空を仰ぎながら、溜息ひとつ。


なるようにしかならない。

大丈夫だよ。ママは何があっても君を応援しているし、君が選んだ道こそ、今の君が通るべき道なんだと思っているよ。


さあ、空を見上げてごらんよ。天空を駆ける駿馬が見えそうじゃないか。



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2023年9月23日土曜日

最高の賛辞






ひょんなことから、この9月から一年間、一週間に一回ではあるが、高校生を我が家に預かることになった。夕食を共にするわけだが、好き嫌いはないらしく、完食してはくれるが、美味しいからなのか、礼儀正しいからかなのかは、正直なところ分からない。と言うのも、おかわりのリクエストはなく、成長盛りの高校生なら、もう少し食べてもいいのではと、若干物足りなく思う程だからである。


以前、友人宅でご馳走になった時に、翌日のお弁当のおかずにと、ポテトサラダをお土産にいただいたことがあった。食べてみて、その繊細な味わいに思わず唸ってしまった。日本のおかずの代表格のポテトサラダではあるが、作り手によって味がこんなにも変わるものかと大いに感動したものだった。


そうか。ひとつ、このポテトサラダを作ってみようか。そう思ったら、リュックを背負ってジャガイモ、人参、玉ねぎ、胡瓜を買いに外に飛び出していた。


先ずはジャガイモと人参を良く洗って、ジャガイモは適当に切り分け、人参は大きめの塊のままで鍋に入れ、水を被る程度で、塩をぱらりと振り入れ茹で始める。玉ねぎはスライスにし、塩もみをして、辛味と苦味をしっかりと取り出し、水に晒しておく。胡瓜も、玉ねぎ程にはぎゅうぎゅうに揉まないが、塩もみをしておく。


ジャガイモの茹で上がりと同時に、人参も取り出し、ジャガイモを鍋に戻して粉吹きを作る要領で水気を飛ばし、熱いうちに若干の砂糖、お酢を振って下味をつける。人参は、好みの薄さに切り、玉ねぎと胡瓜は水洗いをして塩気を除き、十分に水気を切っておく。


ジャガイモはちょっと塊が残っている程度につぶし、マヨネーズ、お醤油一たれ、マスタードを入れて味付けをし、そこに玉ねぎ、人参、胡瓜を入れて混ぜ、ジャガイモを茹でたお湯で別途作っておいた茹で卵を手で細かく割り入れ、ふんわりと混ぜて、完成!


恐らく、生涯で初めて作ったポテトサラダ。しっかりとした歯応えがありながらも、ちゃんと茹で上がっている人参、しゃきしゃきの食感の玉ねぎと爽やかな緑の風を運んでくれる胡瓜、控えめながら、やわらかな優しさをもたらす、隠し味的存在の卵、そして、時々見え隠れする皮が元気な大地を思わせるジャガイモ。悪くない、ちっとも悪くない!


その晩、朝8時から授業が開始し、17時までノンストップでみっちりのスケジュールに加え、夕方の課外授業を終えてへとへとに帰って来た高校生君。夕食のメニューは、胡瓜のサーモン巻き、熱々のご飯に豚の細切れと糸コンの煮物、そして、ポテトサラダ。


お箸で器用にポテトサラダを取り、口にした途端、「Ah, c’est bon.」うっ、美味しい、声が漏れた。


やったね。これ程の賛辞はあるまい。




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2023年9月21日木曜日

思わぬ差し入れ

 





トンカとの散歩から帰ってくると、玄関脇に小さな包みがちょこんと置いてあった。おおっつ!近所に住む苔庵のマスターからの差し入れに違いない。散歩の途中に、別件でメッセージのやり取りをしていて、彼女が苺大福を上手に作れたことを知っていた。しかし、差し入れしてくれるなんて、感謝、感激、雨、霰。


果たして、真っ白で気品のある大福様がお出ましに。やわらかな甘い香りがふっと漂う。お皿に載せて、恭しく改めてご挨拶。かすかにピンク色が見えるところが、奥ゆかしくも艶やか。





さっとナイフをあてると、ぱっとルビー色の香気がたった。


うーん。ルビーというよりは、もうちょっと柔らかで、甘そうなイメージを彷彿とさせるものを考えないと、しっくりとこないか。


望月や ゆるりと割れば 初苺


望月や むっちり肌の 初苺


望月や みどりごの肌 初苺


大福は期待を裏切らないもちもちさ、白餡は甘すぎず、苺の甘さを優しく引き立ててくれている。感動の一品。マスターありがとう。



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2023年9月20日水曜日

9月の奇数週

 





日本に一時帰国して驚くことが沢山あるが、驚く内容が大まかに言って二種類ある。青年期まで過ごした日本との違い、そして、現在住んでいるフランスとの違い。その両方ともに当てはまることも少なくないが、その一つにごみ収集がある。


住んでいる自治体により、厳格さ、分別の仕方など様々であろうが、日本では兎に角仕分けの種類が多いことに驚いてしまう。実家では、風呂場前のドア一面に自治体から配布されたごみ収集に関する大きなポスターが貼られている。


上半分は廃棄物の仕分けの内容および廃棄する際の注意点をイラストで解説されてあり、下半分は一年のカレンダーとなっていて、色別、形別で、どの日にどのごみの収集日かが分かるようになっている。非常に工夫され、誰にでもわかりやすくなっているので、大いに感心してしまう。


一方、フランスの現在住んでいる地区のゴミの分別方法は、非常にアバウトである。大体、遵法精神というものが日本とは全く違うのであるから、推して知るべし、と言えようか。今回は、この点についてではなく、別の観点からの驚きの発見について語りたい。


以前から違和感があったことは確かである。それが、今回、在仏30年にして、漸く確信するに至ったのだから、全く今まで何をしていたか、と言う事にもなる。人間とは、無関心であろうと思えば、一向に何も考えずに生きていける。ただ、換言すれば、人によってはちっとも大きな発見でもない、となろうか。まあ、その辺は感性の問題なので、ここでとやかく言わないことにしよう。


さて、大まかに言って、生ごみ、紙ごみ・缶、ガラス、の3種類でゴミは仕分けされ、地区ごとに収集日が決まっている。生ごみは毎週2回、紙ごみ・缶は毎週1回、そして、問題のガラスが、自治体から配布された手に入るようなカードによれば、月の第1、第3週に1回、となっている。


問題は、ガラス廃棄物の収集日。月の第1、第3週に1回と明記されているのだから、当然の様に、収集指定日が水曜であれば、第一水曜と第三水曜と思うではないか。そう思って指定のゴミ箱にガラス瓶を入れて、指定されている通りに我が家の玄関脇に出して問題がない日もあれば、夕方になってもちっとも収集に来てくれない日もあった。


ガラス廃棄物なので、お隣さんをちらりと見ても、毎回出している訳ではないので、当てにならない。ぽつねんと玄関脇に出ているゴミ箱に、時々通りがかりの人が勝手にごみを入れていくこともある。信じがたい話ではあるが、黒いゴミ袋が入れてあったこともある。これまた信じがたいことだが、使用済みの妊娠検査のスティックが入っていたこともあった。


通りに投げ捨てなかっただけでも良しとするのか、何故に自分の家のゴミ箱に入れないのか、理解しがたいと怒るべきなのか。妊娠検査に至っては、妊娠を希望していない高校生あたりが慌てて検査し、証拠隠滅とばかりに捨てたように思われ、その軽々しさに教育上問題があると感じ、ゴミ箱から取り出し、通りに晒して置いておいた。それを見て我が行為を少しでも恥じ入り、以降もっと自覚した生き方をしていってくれれば、などと思ったものだが、はてさて。


それが、トンカと毎朝散歩をするようになって、別の通りを歩くにあたり、皆ちゃんと同じ日に、申し合わせたようにガラス瓶を入れたゴミ箱を出していることに気が付いた。そして、その日は必ずしも第一水曜と第三水曜ではないことにも気が付いた。


最初は地区が違うのかと思ったが、そんなことはない。通りの名前こそ違え、大通りから入った我が家の通りと並行した隣の通りなのだから。そして、まさか、まさか、と思いながらも、第一水曜と第三水曜という概念ではなく、月の第一週、第三週の水曜日、という概念なのではないかと思うに至った。


そして、そのまさかであった。自治体のホームページで廃棄物収集日を調べてみたところ、ガラス廃棄物の収集日は、「奇数週」の特定曜日という書き方がなされていた。嗚呼、驚くなかれ。そうであった。フランスは不思議なことに一年を通して、週に数字を振っている。


例えば、2023年9月19日、月曜から始まる週は第38週となり、偶数の週。


例えば、今年の9月は上表のようになっている。よって、9月の奇数週、つまり第一週と第三週の水曜日とは、6日と20日のこと、と思っていた私にとって、青天の霹靂。フランスでは、9月の奇数週とは、第37週と第39週のことで、その水曜日とは9月は13日と27日になる。


なんと非効率で分かりにくいことか。だから、フランスの学校やオフィスには大抵机サイズのボール紙のカレンダーがあって、ゾーン別の学校のバカンスが色分けして表示されてあり、月や曜日だけでなく、何週なのか表記されているのか。


ちょっと、ちょっと、ちょっと。在仏30年目にして分かったなんて、ちょっと恥ずかしい話だろうか。バッタ達は分かっているのだろうか。今度彼らが家に帰った時にも、聞いてみよう。こうなると、毎年年末になると押し売りのように消防署や郵便局が持ってくるカレンダーも取っておかねばなるまい。



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2023年9月18日月曜日

砂風呂ならぬ土風呂

 





最近のトンカは、泥で体温を下げることがお気に入り。泥と言っても、雨がちっとも降らない日々が続いているので、地面が掘り起こされて、柔らかく冷たい土が表れているところを探して、寝転がっている。


実際のところ、誰が地面を掘り起こしたのかは分からない。猪かもしれないし、他の犬仲間かもしれない。地面を掘り起こしている現場は見たことがないのだが、比較的あちこちで、柔らかくしっとりとした土がこんもりとしている。


そこに鼻を突っ込んだり、脚を投げ出したり、身体を横たえたりと、大いに楽しんでいる。


これって、砂風呂みたいなものかしらん。砂浜に連れて行ってあげたら、きっと大喜びで砂を掘って、身体を横たえるのだろう。なんだか、二人で仲良く砂に埋まっている様子を思い浮かべて笑ってしまった。


トン、いつか海に行こうね。



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2023年9月17日日曜日

良いこと尽くし







ボーダーコリーのタンジェリンちゃんとお知り合いになる。タンジェリンって、確か蜜柑の総称だったよな、と思い、目の前の元気なボーダーコリーと結びつかないが、そんなことを言ったら、トンカだって同じだろう。パティシエが聞いたらぎょっとするに違いない。現に、先日レストランで、デザートにトンカ味のするクレームブリュレがあって、ぎょっとしてしまった。


タンジェリンと言えば、橙色のジューシーで穏やかな味わいの蜜柑の印象が濃厚だが、飼い主にとっては、白と黒の毛むくじゃらで、エネルギーの塊のようなボーダーコリーのタンジェリンが真っ先に思い浮かぶのであろう。


トンカとの相性は抜群で、二匹は林を駆け回り、立ち話をしている飼い主たちの足元を狙ったかのように体当たりをし、絡み合ったり、飛び跳ねたりと大騒ぎをしている。


一歳になるタンジェリンちゃんを連れていたのは、シニアのご夫婦だった。最初は彼らの犬かと思っていたが、話し込むにつれ、ご近所さんの犬であることが判明した。シニアのご夫婦は二週間前に16年連れ添っていたシェトランドに旅立たれてしまい、呆然としていたところ、2歳の幼い男の子がいる近所の若い夫婦が、遊び盛りのタンジェリンを持て余していると聞いて、散歩に連れ出すことを申し出たという。


彼らも助かるし、我々も楽しいし、タンジェリンも喜んでくれるし、とにかくお互いに良いこと尽くしなのよ、とマダムが嬉しそうに笑う。


まあ、それは素敵。ご連絡先伺ってもよいでしょうか。と茶目っ気たっぷりに言うと、皆で大笑いとなった。


うっかりと、新たに犬を迎えるご予定は、などと不用意なことを言ってしまったら、急にマダムの顔が曇って、未だ無理ですよ、と震える声で返された。2週間前に別れを告げたばかりなのに!ああ、そうでした。ごめんなさい。


マダムは可愛いシェルティの写真を見せてくれた。それまで元気にじゃれ合っていたタンジェリンちゃんとトンカは、漸くひと段落付いたかのように、息を切らしながらも緑の草原に仲良く横たわった。


あまりに愛らしい二匹だったので、写真を撮ろうとすると、トンカが相変わらず動きだしてしまう。レンズを向けられることが、本当に苦手なトンカ。後から確認をしてみると、なんだかトンカがタンジェリンちゃんに話しかけている様子が撮影されていて、大いに笑えた。


二匹とも、びっしょりと汗を掻いていた。そう、その場では感心したものだったが、よく考えると、犬は皮膚に汗腺がないので汗を掻く筈がないではないか。では、あの体中びっしょりと濡れていたのなんだったのだろう。草の露だったのかしら。


シニアのご夫婦とタンジェリンちゃんに別れを告げる。また是非会いましょうね、と。




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2023年9月16日土曜日

秋の気配

 







ノルマンディーで趣味の陶芸を楽しんでいる友人からメッセージが入る。「好天続き。週末は海に繰り出す予定。遊びに来られたし。」


彼女が、旦那の会社の都合で日本駐在から一年も経たずに帰国してから既に一年になろうか。以前は毎週末の様に会っていた大切な友人夫婦なのに、すれ違い続きでちっとも会えていない。そもそも、彼女の犬嫌いを知らなかったことが要因だが、知っていたからといって、トンカを我が家に迎えないという選択肢はあっただろうか。


加えて、以前は近所に住んでいたのだが、最低三年の駐在になるとの当初の予定により、住んでいた家を3年契約で貸してしまっている。子供達もバッタ達と同年代で、一人はバリ、一人はロンドンでそれぞれに生活をしている。従い、友人夫婦はパリでのアパート生活をしている。


ノルマンディーに大きな家を持っているので、週末は大抵ノルマンディーで過ごしている。旦那は本社の重要なポストに就任し、これまで以上に毎日忙しく海外を飛び回り仕事をしている。彼女と言えば、旦那の日本駐在を機に勤務先の会社を取り敢えず二年間休職したが、フランスに戻って来たことを会社に告げずに休職状態を維持し、趣味の陶芸で専門学校に通い資格を取り、加えて、不動産取引の資格も取ってしまった。


それが、ついに来週は職場復帰をするという。ところが、復帰にあたり給与アップを交渉しているというから驚いてしまった。二年間も不在にしていたのに、給与アップを願い出るとは凄い度胸である。この強気な姿勢は、友人ながらも天晴としか言いようがない。


これまでの彼女の人生そのもの、と言えようか。いつだって攻めの姿勢にありながらも、上手くいかなければ縁がなかったときっぱりと捨て去る潔さを持ち合わせている。自分のスタイルが気に入らないのであれば、結構、といったところか。他人に迎合することは一切しない。


全く私と正反対ではないか。それでも、何故か会った時から気が合う。それに、そうは言っても、内面に秘める彼女の繊細さを幾度となく目にしてきた。多くの価値観を共有し、共鳴し合う貴重な同士であることも確かである。


今週末はバッタ達が皆それぞれにフィレンツェ、デルフト、ダンケールで過ごしていて、誰も家にいないので、残念ながら家を空けることはできないと言うと、近所の誰かに犬を預けることは出来ないのか、と返事がきた。


彼女が犬を好きになることは、恐らくない。彼女と週末を過ごすには、トンカを誰かに預けないことには実現しない。


そうねえ。空を仰ぎ、透明な青色の広がりを見つめる。秋の気配が確かに近づいている。



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2023年9月15日金曜日

緑の風

 





森を歩きながら、光と陰を追う。


木々の隙間から差し込む太陽の光が、地面に一筋の線を描く。地面が落ち葉で覆われていると、その部分だけ落ち葉が鮮やかな色に燃え立つ。地面に届く前に、小ぶりな枝があれば、太陽の光は濃厚な緑の葉を貫く。貫かれた葉は、葉脈まで見えるかのように透明感のある輝きを発する。


その様を画像に残したい。そう思って、携帯をかざす。しゃがみ込む時もあれば、背伸びをする時もある。仰ぐ時もあれば、のぞき込む時もある。そんな様子を、先を走っていた筈のトンカが、立ち止まって不思議そうに見ている。


待たせちゃったね。


急いでトンカの方に歩み寄る。だから、撮影した画像は散歩から帰ってから、大抵夕食後ののんびりとした時に確認する。納得する写真など、滅多に撮れたことがない。予想外の画像になっていることもある。


どうやら、今回はその予想外の展開。期せずして、緑の風が収まっていた。と、そうしておこうか。



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2023年9月14日木曜日

些細なこと

 





とても些細なことではあるものの、何か違和感を覚えていたところ、ぱっと霧が晴れるかのように問題が明確となり、それを解決した時の爽快感といったらないだろう。


問題解決の糸口は、実はちゃんとそこに転がっていて、それを見ようとするかしないかだけで、世の中が全く違って見えてくるのだから面白い。


とどのつまり、ネバーギブアップの精神であれ、ということか。こんな日には、ゆっくりと時間を掛けて香り高く淹れた珈琲を飲みたくなる。先ずは、珈琲豆を挽くとしようか。アマゾンの密林、パパイヤの緑の大きな実、色鮮やかな鳥たちの鳴き声。


こんなことで幸せを感じることが出来る我が身を、ちょっと笑いながらも、それでいてありがたいこととも思う。ふと、目を閉じる。



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2023年9月13日水曜日

ボンジョルネ





 


緯度が高いだけあって、フランスにおける日照時間の変化にはすさまじいものがある。日本のように、畳一筋分づつ日が短くなる、などという奥ゆかしいものではない。夏時間であることも影響して、既に朝6時半にして外は闇。バス停でバスを待つ間も、漸く東の空が薄っすらと明るくなり出すといったところ。恐らく月末には、街路灯の光の下でバスを待つことになるのであろう。


だからこそ、この時期には日の出時の表情豊かな空を撮影するチャンスが転がっている。バスを終点まで乗らずに、一つ手前で降りて、街並みが目覚める様子を楽しむことも乙である。あらゆることを、あらゆる場所で、駆け足でやっていた昔が嘘のようである。


そんな風に、バスを降りて教会の白亜の時計台を見上げた時、降りる時に軽く挨拶をした女性が「先週、バスが来なくてお困りになりませんでしたか?」と尋ねて来た。その女性なら近所に住んでいて、時々バス停で見掛けており、会えば朝の挨拶をする程度ではあったが、知らない仲ではなかった。


確かに市内のバスのダイヤは全く当てにならないので、軽く挨拶をするように、相槌を打つように返事をしたところ、待っていましたかのように堰を切って話始めた。先週は時間になってもバスは来ず小半時間待たされたこと、それなのに漸くやってきたバスに切符の所有を確認する係員が入ってきたこと、若者が罰金を取られたこと。バス運行の遅延による利用者への損害は棚に上げて、罰金を取るとは何事か、と烈火の如く怒っており、どんどんと自分の言葉に興奮し、先週のことなのに怒り冷めやらぬ様子。


こちらは、正に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら、あっけにとられて聞いていた。横断歩道の信号が青になっても話は続き、遂に赤になってしまった。女性は通りの建物に目を向けて、自分は市内で働いているからそれでも被害は少ないが、貴女のようにRERでパリに通勤する人たちにとって、バスが遅れることでの影響は大きいでしょう、とすごい剣幕。


しかし話すだけ話したら、気持ちも収まったのか、あら、貴女駅に行かないとね、と横断歩道の信号が赤になっていることに漸く気が付き、ちょっとだけバツの悪そうな顔をした。その様子に笑みがもれた。以前だったら、いつだって駆け足で髪を振り乱しながら突進している頃だったら、イライラしていただろうことも、ちっとも気にならない。


ボンジョルネ、良い日を、と笑顔でお互いに挨拶を交わし別れ、駅に向かった。今、正に、東の空の地平線から太陽が昇ってくるところだった。



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2023年9月11日月曜日

小休止

 






こうも暑い日が続くと体が参ってしまう。森の中でも、空気が全く動いていない。こんな日は、トンカではないが地べたにへばって、土の冷たい感触を味わいたいもの。


散歩から帰ると、ぐっしょりと汗を掻いている。いつまでも猛暑が続く筈はないと思いながらも、げんなりとしてしまう。


ところが、もっとげんなりとしてしまうことに、どうやら風邪を引いてしまったらしいのである。急にくしゃみが止まらなくなったと思ったら、鼻水が出てきて、そして、終いには喉に痛みを感じるようになってしまった。


なんたること。


暑いからといって、風邪を引かないわけではないのか。トンカの為に散歩の時には水筒をリュックに入れているが、自分用には持って行っていないので、水分補給ができていなかったことが原因なのかもしれない。


やれやれ。まあ、暑い日には、そんなに頑張って散歩しなくてもいいんだよ、とのお告げなのかもしれない。さくっと切り上げて、体力保存することも必要であろう。灼熱の中でラグビーのワールドカップが開催されているが、プロとはいえ、選手に頭が上がらない。見事なプレーに拍手喝采。





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2023年9月7日木曜日

サイバーセキュリティ―問題

 






ある事情からフランスの公的機関の某サイトに登録し、活用していた。確か2年前のことだろうか。そのサイトの運営会社から突然メールが入ったのだが、そのタイトルといったら物々しい以外の何者でもない。「ネット犯罪への注意喚起」。


当社のサービスプロバイダーがサイバー犯罪の標的となり、その結果、お客様の個人情報が漏洩した可能性がありますのでお知らせいたします。対象情報として、お客様の姓名、勤務先、社会保障番号が含まれます。なお、メールアドレス、電話番号、パスワード、銀行口座情報には影響はありません。


おい、おい、おい、おい!


読み進めると、決定的な情報は漏洩していないので、安心されたし。一方、フィッシングなどの行為を受ける可能性があるので、注意されたし。とのこと。


おい、おい、おい、おい!


大丈夫か、フランス政府。それよりも、大丈夫か、私。気を付けねば。



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2023年9月6日水曜日

門出に

 





今年の夏は猛暑日が少なく、8月に入ると涼しくなってしまって、このまま秋に突入かしらと思いきや、意外にしぶとく、熾火が時々ぱっと燃えあがるかの如く、太陽がぎらぎらと大地を照らし、アスファルトは焼けた鉄板のように熱くなっている日々が戻ってきている。


それでも日照時間は明らかに短くなってきており、朝の散歩の時には薄暗くて、LEDの首輪が必要になる程。通りの家々はひっそり閑としており未だ暗く、時折ぽっと明かりが灯っている場所があると、そこからやわらかな珈琲の湯気や、ホットチョコレートの香りが漂っていて、幸せが漏れ出しているように思われて心が温まる。


そんな朝の風景など、実生活では無縁であったはずなのに、おかしなものである。バッタ達が未だ寝ている時に起きだして、暗闇で着替えて脱兎のごとく玄関を飛び出し、車にエンジンを掛けて会社に向かったあの日々。


ふと、バッタ達に可哀想なことをしてしまったかしら、との思いが過る。しかし、自分が自分であること以外に何ができただろう。そう思うと、バッタ達、君たちは偉いよ。これからの人生で、どんな苦難にも立ち向かえる鋼の精神を養えたのではあるまいか。どんなことにも、幸せを見出すことができる能力を身に着けたのではあるまいか。


新学年がスタート。これからの人生、幾つものスタートがあるだろう。その度に心機一転し邁進して行かんことを。そして、そんな君たちに、幸多からんことを。



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2023年9月5日火曜日

赤まんま

 





小川のほとりに、赤まんまの群れを見つけた。ピンク色の粒々が愛らしく、そして懐かしく、つい手に取って一房頂戴してしまった。


我が家に戻り、空き瓶に水を入れて、赤まんまを挿す。


フランスの子供達も、赤まんまを摘んで、おままごとをするのだろうか。我が家のバッタ達はどうだったであろうか。不思議とバッタ達の幼い時よりも、自分の幼い時の記憶の方が鮮やかに蘇ってくる。


赤まんまは、親が一緒に遊んでやる時よりも、子供同士で遊ぶ時の方に登場するのであろうか。


赤まんまと同じピンク色のバケツ、赤い小さなカップ。カップと同じぐらい真っ赤な色をした赤とんぼ。


秋はもうそこまで来ている。


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