2021年4月30日金曜日

初夏までの時間

 





甘いだけではない独特の爽やかな香り。


ニッキ。そうとも言えるし、そうでもないとも言える。とにかく、それだけではない。


アニス。どうだろう。夏になると、そんなに好きじゃない癖に、どうも欲しくなる飲み物、パスティス。ジダンが活躍していた頃のワールドカップを観戦する時に、細長いグラス作って、氷を入れて飲んだものだった。あの独特の香り。似ているとも言える。


フヌーイュ。そうだ、フヌーイュの香りだ。英語ではフェンネル。日本語ではウイキョウ!太った丸い根を薄切りにしてサラダとして食べた時の、爽やかながらも甘みがあり、同時にちょっと苦みが感じられる、大人の味覚が思い出される。ホタテ貝のクリームソースを作った時も、フヌーイュの葉を香りづけに使った。


そうか。フヌーイュの香りだったのか。


濃い赤紫のこんがりコーンの様に膨らんだ花房から、甘く爽やかで、それでいてちょっと苦みのある大人の香りがかすかに漂う。


感覚だけに頼っていたものが、言葉で表現されると、急に存在感を増す。つかみどころのないものが、手に取ってみることができるようにさえ思われてしまう。


しかしながら、香りは香り。


手でつかんだと思った瞬間から、指の先からこぼれ出てしまう。


せめて体全体で感じていよう。初夏までは未だもうちょっと時間があるのだから。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています


2021年4月29日木曜日

醤油味の炒り卵弁当




 



連日、朝から晩まで試験に臨んでいる末娘バッタ。二週目中盤に入った昨日、「芋虫ムード」とメッセージが入る。


ゴロゴロしているといったところか。すかさず長女バッタが、白熊が氷の上を大儀そうにずるずると滑っていく動画を送ると、「そう!その通り!」と返ってくる。


芋虫かぁ。


どうやら毎回息子バッタには試験内容を写メしている様子。難易度の確認といったところか。歯が立たなかったと嘆いているらしい。息子バッタにだけ送るのは、正解だろう。試験後はもう過去は振り返らずに、次の科目に頭を切り替えるべき。変にずるずるするのは良くない、なんて母親から余計なメッセージを受け取るのは鬱陶しいだけに違いない。


それでも、芋虫の気持ちになるのだろう。


そして、今夜は「皆でちょっとエンジョイ」といったメッセージとともに、お皿にチップス、チキン、ワカモレを盛った写真が送られてきた。


仲間同士でテイクアウトしたのだろう。皆でワイワイとにぎやかに、エネルギー充電!たまには、チップスも食べたくなるのだろう。いいじゃないか。


分かっちゃいるけど、冷凍庫に入っている旨さ抜群のチリコンカルネ、カラフルでお野菜たっぷりのラタトゥイユ、しっかりと炒めてお米一粒一粒がさらさらで、細かいみじん切りの人参と玉ねぎと微妙に絡まって口当たりが良く、最高に美味しく仕上がっているチャーハン、醤油ダレに漬かっている半熟、炒めたブロッコリー、等々、食べていないのか、との思いが強く出てしまう。


母親失格。楽しんでね、とか、エネルギー充電だね、とか、メッセージを送ればよかった。せめて、サムズアップの絵文字でも送ればよかった。思ってもいないことは、書けない性分。


うだうだと考えているうちに、ふとの作ってくれたお弁当を思い出した。今はすっかり週5日制になっているらしいが、私が中学生の頃は土曜に午前中だけ授業があった。給食は月から金のみ。従って土曜の午後に特別授業や行事がある場合は、お弁当を持っていくことになっていた。


母がいれば、母が作ってくれたであろうが、その時は出張かなにかで家を空けていて不在だったのだろう。ある時、父が作ってくれた。いつもの箸ケース、弁当箱を包む大きなクロスがどこにあるのか、分からなかったのだろう。或いは、いつも何を使っているのか、なんて知らなかったのかもしれない。お弁当は父の大きめのハンカチでしっかりと包んであった。そして、ぴんと張ったハンカチから箸の先がずぶっと突き出てしまっていた。


箸の先でぶっすりと穴が開いてしまったハンカチ。ハンカチからちょこっとだけ突き出ている箸を見て、心が痛んだ。父に対して、ひどく悪いことをしていると思った。父を傷つけてしまったような思いがした。


中学生だったのだから、私自身は箸箱がどこにあり、どのクロスを使っているのか、分かっていた筈である。なぜ、父がハンカチを使ったのか、今となっては記憶にない。ただ、生々しく、痛々しく、ハンカチに突き出た箸の先だけを覚えている。


あの小さい穴が二つ開いたハンカチはあれからどうしたのだろう。


弁当の中身は真っ白なご飯に大きな炒り卵。醤油での味付けは、見た目は今一つ。でも、ご飯のおかずとしては最高に美味しい。


子供とは、自覚なしに親を傷つけることもある。そして、親に対して素直になれない時もある。優しさが鬱陶しく思える時もある。まさしく親の心子知らず。あの時ちゃんと父に、美味しかったと伝えたのだろうか。感謝の言葉を発したのだろうか。


なんだか急に醤油味の炒り卵が食べたくなってしまった。熱いフライパンにバターを落とすと、じゅっと音がして、豊かな香りが立ち込める。


さあ、ご飯を炊こう。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月28日水曜日

日向ぼっこ

 





月の出の時間が知りたくて天気予報を見ると、なんと明日は雨とある。外に出しっぱなしの工具や庭に放置した雑草を入れた大きな紙袋を思い出す。雨降る前に何とかしなくては。良く見れば、どうやら午後から雨模様。であれば、今からパジャマ姿で暗闇の中庭に出ていく必要はあるまい、と胸をなでおろす。


このところ朝夕は冷えるものの、晴天続きだったのでうっかりしていた。明日の朝早く、残っている蔦の根っこを掘り起こし除去する作業をしてしまい、軒下に用具や紙袋を片付けよう。


果たして。翌朝、長袖にセーターを着て、ダウンジャケットを着こみ、その上から作業ジャケットを着、しっかりと防寒対策をする。残していた塀近くにぎりぎりに生えている蔦の根っこを掘り起こす。思いのほか苦戦。どうやら粘土質の土らしく、掘り起こしづらいし、根っこを引っ張っても、うんともすんとも言わない。そんなしぶとい根っこたち数本と格闘。


不思議なもので、しばらくしてくると、今まで見えなかった蔦の触手があちこちで這っている様子が目につき、どんどんと作業範囲が広がっていく。


雨が降る前に、との思いが強かったからか、粘土質の土が頑固だからなのか、蔦の根っこがひねくれて、ぐにゃぐにゃと土の中を這いまわっているからか、鍬を振るう肩がこわばり、根っこを引っこ抜く手が痛みを感じる程になってしまった。


取り敢えずは、この辺にしておくか。


頃合いを見計らって終わらないことには、庭仕事には終わりがない。延々と作業は続く。木を見て森を見ず、ではないが、一部の蔦ばかりを見て、庭全体を見ないことが多いので、白い花がちょうど満開になっている林檎の木の様子を愛でに行く。


嗚呼!遠くからは白い花ばかりが目に入ったが、なんと林檎の木の下は蔦の絨毯。やれやれ、明日はここに突入せねば。


見上げれば、空は限りなく青い。雲一つなく、いったいどこから雨雲が発生するのか、と呆れてしまう。


同時に、天気予報を信じてしまったことに、笑いが込み上げてくる。ここの天気予報ほど当てにならないものはない、といつだって皆に言っていたし、そんなこと重々知っている筈なのに。


全く、人間とは単純なもの。いや、私が単純なだけか。青空を恨めしそうに眺めながら、じんじんと重さが増してくる右肩と右腕を擦りつつ、無理はできまいと断念。


今日は、日向ぼっこでもしながら、読みたかった本でも手に取るか。そんな日があってもいい。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています


2021年4月27日火曜日

ファラフェルが見せる夢

 





以前の職場が、パリ市内であってもパリではないような、異国情緒に溢れた場所だった。


パリと言えばエッフェル塔、シャンゼリゼ通り、コンコルド広場、アンヴァリッド、オデオン、サンジェルマンデプレ、サンミシェル、チュイルリー、ルクセンブルク公園。トロカデロも忘れてはならない。ルーブルだって。一つ一つの場所に、それぞれの思い出があり、たくさんの足跡が残っていて、以前は地雷だったものが、今では懐かしさと愛しさで、のんびりと楽しく散策できる場所となっている。


そんなパリらしさに満ちていない、アフリカか中東に紛れ込んでしまったのではと思わせる地区。


メトロの階段を駆け上って地上に出てみたら、色とりどりの衣装を身にまとった女性たちや白色の長い服をまとった男性たちばかりで、ぎょっとした経験は好奇心旺盛なものにとっては悪くない。


散歩がてらにランチを買い求めて歩いて行けば、アフリカ女性向けの美容院がずっと並んでいて、そこから出てくる女性をナンパするのか、若い男性たちがわんさか通りにたむろしている姿にぶつかる。怪しげな海外送金専門店があったり、誰がくるのか、閑散とした、いつ焼いたのか分からないパン屋があったり、見たことのない品物を店頭に並べている店があったりする。身の危険を感じるどころか、ここでは自分が透明人間になったかの様に錯覚してしまう。香辛料の香りが排気ガスとともに乾いた空気に交じっていて、楽しい気分にさせてくれる。


そんな通りの一つに、時々休んでいたり、開いていたりと気ままな、レバノン料理の食堂がある。開いている時はドネルケバブが見えるので、すぐに分かる。ランチのテイクアウトにピタパンのサンドイッチはうってつけ。寿司のネタではないが、ガラスのケースに色々な料理が並んでいて、サンドイッチの中味を選べるようになっている。しかし、正直何がなんだか分からないし、説明を聞いてもちんぷんかんぷんだろう。


はて、と思っていると、気のよさそうなお兄さんが、「ファラフェルにするかい?」と聞いてきた。ウィ!


ファラフェルが何か、なんて一切気にならずに、もうここはお兄さんお任せ。「トマトも入れるかい?好き嫌いはないの?」


こんがり焼けた丸い球のような揚げ物を二つ、温めたピタパンの中に入れ、ぐいぐいと潰し、レタス、トマト、玉ねぎのスライスを入れ、たっぷりと何やらソースを塗り込み、ほいっと渡してくれる。


おおっ!一口食べて、大いに気に入ってしまった。揚げ物は苦手、なんて気持ちはどこかに吹っ飛んでしまった。たっぷりのソースはゴマの味がして、酸味があり、こんがり揚がって、クミンの香りが豊かなファラフェルにぴったり。


それが、ファラフェルとの出会い。


ファラフェルを手作りしてみると、これがまたたまらなく美味しい。材料も実にヘルシー。水で戻した乾燥ひよこ豆をブレンダーで粉砕し、たくさんのパセリを入れ、コリアンダーもあれば入れ、クミンで香り付け。カイエンヌを振りかけて、ちょっと辛めとする。


じゅっと揚げるらしいが、ここはフライパンでコロコロと炒める感じに自分勝手にアレンジ。


白ごまペーストにレモンをたっぷり入れたタヒーナソース、ミントの葉で香りを出したヨーグルトレモンソース、ギリシャ風きゅうりのザジキを作って、ファラフェルをいただく。


紛争絶え間ない母国ではない海外で、自国の料理を楽しみながら、明るい日差しに、透き通った真っ青な空ときらめく青い海を思い浮かべるであろう彼らのように、未踏の地レバノンに思いを馳せる。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています



2021年4月26日月曜日

週末のお茶会

 





週末だけでも家を空けて戻ってくると、庭の空気が違う。

玄関の牡丹が薄桃色の蕾をふんわりと膨らませ、

リラの蕾が増え、ますます大きくなってきた。

チューリップはビロードの花びらの色彩が明確になったし、

サクランボは黄緑の葉がすっかり花に取って代わっている。

芍薬が小さな蕾を付けだし、

今年も菖蒲がすくっと伸びて青い蕾をのぞかせている。


そして、ほのかに、甘い香りがそこここで感じられる。


家人のいない庭で小鳥やりす、はりねずみ、フクロウなんかが繰り出して、楽しいお茶会が繰り広げられたに違いない。

もう風に新緑の香りがまじっている。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています


2021年4月24日土曜日

畏み畏み

 




五日ぶりに会う末娘バッタは、持てるエネルギーを使い果たし、疲れ果ててはいるものの、山の頂を目指す登山家に似た爽やかさがあった。取り敢えずは一つの山を越えたというところか。この後、未だ二つの山越えが残っている。


会う約束をしていた友人の一人が陽性になったことで、ぽっかりと時間が空いた息子バッタと、前々回は胃腸の調子が悪くて来れなかった長女バッタが一緒に末娘バッタの応援に来ている。


久しぶりにバッタ達3人がそろっての遅い夕食。


ぐったりと疲れていた筈の末娘バッタが早口に元気良く体験談をまくしたてる。時々息子バッタが突っ込みを入れ、長女バッタがさりげにボケのコメントをする。


にぎやかで楽しいひと時。


と、突然、「試験前までの不安とか恐怖といった感情がすとんとなくなっちゃたの。良かったぁ。超ラッキーだよ。」末娘バッタが何ら屈託なく大声で笑いながら宣言する。


そうか!だから、疲れていながらも溌溂とした表情なのか。それは良かった。末娘バッタよ、君がラッキーなのではなく、それは君の今までの努力で勝ち得た状況なんだよ。すごいことだよ。


嗚呼、彼女を見守ってくださるご先祖様、当地の守護神、彼の地の守護神、大自然の神々、ありがとうございます!どうぞ、どうぞ、これからも、彼女の力が十二分に発揮できますようお守りくださいませ。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月23日金曜日

ニャマクジの効用 

 




怪しげなボトルが冷蔵庫に鎮座している。長女バッタに聞くと、彼女の手作りの「ニャマクジ」という。


バッタ達が幼い時のヌヌ(ベビーシッター)の一人、ディアン。

彼女の話をこれまで書いてきているに違いないと、自分で書いたブログを検索してみるが、何も引っかからない。ひょっとしたら、キーワードに問題があるのかもしれない。いずれにせよ、機会をみて、数名いたヌヌ達の話をいつか書きたいものである。


ディアンにまつわる話なら枚挙にいとまない。しかしここでは、彼女がコートジボワールの出身で、バッタ達にとって本当に大切な人であったことを記すに留めておこう。いや、一つだけ紹介しなければ。


良くあることなのか、ないことなのか、ディアンという最初に見せられた身分証明書の名前は彼女の本名ではない。恐らく何十人、ひょっとしたら何百人のディアンというコートジボワール出身でフランス政府からの滞在許可証を持っている28歳の女性が、当時フランスでヌヌであったり、お店の売り子であったり、カフェの給仕であったり、レストランの下働きであったりと、活躍していたかもしれない。


きっちりと三つ編みをした、非常に明るい笑顔で、控えめで落ち着いた話し方のディアンがヌヌ候補として我が家に訪れた際、バッタ達の父親と一緒に、すぐに気に入ってしまった。すらっとした背で若く溌溂としている。こんな女性に子供たちを任せたい、そう願った。末娘バッタが誕生した年で、会社復帰の際にバッタ達3人の面倒を見てくれるヌヌを探していた。


ディアンは期待を裏切らず、本当に愛情をもってバッタ達に接してくれたし、バッタ達もすぐにディアンに懐いた。大きなノートに毎日の様子を綴るという私からのリクエストにも、ちゃんと対応してくれていた。何時に何を食べたか。昼寝の時間。うんちの回数。散歩の時間。


彼女が我が家でバッタ達の面倒をみることに喜びを感じていると思えることは、本当に嬉しかった。


そして、一年後のある日、会社から帰ってくると、マダム、お話があるのです、とキッチンに呼ばれた。


すっかり懐いた末娘バッタを膝で遊ばせながら、ディアンが語ったことは、あまりに衝撃が強すぎた。


一年前に見せてもらった身分証明書は彼女のものではないこと。従い、彼女の名前もディアンではないこと。フランス人の彼がいて、もうすぐ結婚すること。だから、もうすぐ本物の滞在許可証が得られること。


え?ディアンじゃないの?28歳でもないの?


24歳です。


どうして、最初から言ってくれなかったの?


マダム。私が最初から不法滞在だと言っていたら、マダムは私のことを雇ってくれるはずがないじゃないですか。でもご安心ください。もうすぐちゃんと滞在許可証が取れますから。そして、どうか是非、結婚式に子供たちと一緒にいらしてください。お願いします。


黒いつぶらな大きな瞳がゆるぎない自信に満ちていた。


長女バッタが生まれた時、初めてヌヌを探した時、アルジェリア人の女性が候補として我が家に訪れた。とても機転が利く素敵な女性だったが、あまりに頑張ってなのか、長女バッタを愛しそうに抱っこしてくれていたが、長女バッタの異変には気が付いてくれなかった。間の悪いことに、寝起きの長女バッタは気持ちよく大をしてしまっていたのだが、まったく平気で抱っこしてしまっていたので、彼女が帰ってから慌ててオムツを交換すると、お尻がべっちゃりと汚れてしまって、かわいそうだったし、その時点で彼女にはヌヌをお願いできないと決めた。


翌日、不採用の電話を入れると、最初は平静を保って対応していた彼女が、突然金切り声で、自分がアルジェリア人だから採用をしないのだろうと喚き始め、最後は罵りに変わってしまったことには驚いた。今思えば、仕事を得ることに必死だったのだろう。


アルジェリア人でも、何人でも、人柄が一番。アルジェリア人だからとお願いしないわけではない、と言ったところで、彼女の気持ちは収まるわけがない。


ただ、確かに、不法滞在者と知って採用するだろうか。


ディアン、もといエブラッドの今まで知らなかった強かな一面を見せつけられた思いがした。何十人、何百人もいるディアン達の。彼女の膝では何も知らない末娘バッタが愛らしい笑顔を振りまいている。


戸惑う気持ちに急いで整理をつけ、結婚を祝福し、子供たちもすっかりディアンに慣れているので、ディアンという名前で引き続き呼ばせてもらうことを告げた。つまり、不法滞在、公文書詐欺といった罪に目を瞑ることにし、下手をすると我々が不法就労助長罪に問われるリスクを敢えてとる立場に追いやられたことになった。


さて、そのディアンが時々作ってくれた彼女の故郷のドリンク。ニャマクジ(Gnamakoudji)。生姜とレモンがたっぷりと入っている。


暑い時には冷えたニャマクジはリフレッシュに最高だし、疲れた時にも活力をもたらしてくれる。


未だ行ったことのない灼熱の地コートジボワールに思いを馳せ、ディアンの控えめな、それでいて強い生命力を感じさせるまなざしを思い出しながら、ゆっくりと飲み干す。活力が漲る。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月22日木曜日

野鳥天国





 



我が家の自然豊かといおうか、荒れ放題といおうか、植物たちが好き勝手にのびのびとしている庭には、猫たちが遊びに来るし、鳥も朝からにぎやか。


遊びに来る鳥たちを見ていると、不思議なことに仲間同士でやってくることが多い。一人ですまして立ち寄る鳥はコマドリことロビン。喉が赤いので、こちらではルージュゴージュ。言葉通り「赤い喉」と呼ばれている。


朝早くから白黒の羽を大げさに広げて遊びに来るのはおしゃべりなピイことカササギ。二羽で遊んでいることが多い。


鳩なんかも、数羽で随分と太っちょな体躯をえっちらおっちら動かしながら庭を歩いている。細っこいリラの枝に乗った日には折れないものかと心配するが、思っている以上にリラの枝はしなやかで、これまでずっこけた様子を見たことはない。


綺麗どころでは、シジュウカラ、カケスなんかも、遊びに来てくれる。黄色い嘴が愛らしいツグミもよく来て松の木の高いところで歌っている。小さくて動きが速い鳥たちは、誰が誰だかちょっと分からない。


ある時、ぼんやり外を見ていたところ、松の枝に遊びに来ている鳥のあまりに美しいその姿に驚嘆し、嬉しくて打ち震えたことがある。キツツキ。羽衣は緑、頭にはトサカと思わせるような立派な真っ赤な羽毛が立っている。そして、枝を両脚そろえてぽんぽん飛ぶ。なんて優雅な立ち居振る舞い。恋とは突然に落ちるもの。時々しか訪れないので、一層愛しさが増す。


そのうち庭のさくらんぼが膨らみ始めたら、ピイがにぎやかに教えてくれるだろう。


おっ。今松の枝にミソサザイが。なんだか今日もにぎやかな日になりそう。クッカバラとしては嬉しい限り。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月21日水曜日

春望

 





夢にたどり着く道は一つではない。

思いもしていなかったところに、新しい道の入り口がある。
色々な思惑や呪縛から自分を解放してやらないことには、見つからない。
気が付かずに選択肢を限定してしまい、自分で自分の首を絞めていることがある。
敵は我なり。
おおらかに、自然界の力を一身に受け、我が身を愛しみ、根拠なき自信を持って立ち上がろう。

いつでも応援している。頑張れ!





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月20日火曜日

晴天の兆し








この間の月曜日のことは悪かった、ごめん。かなり言い過ぎてしまったと反省している。


数十分は末娘バッタの試験にまつわる話をしていたので、突然そう言われて戸惑ってしまった。一体何のことだろう、と。


末娘バッタも息子バッタも、それぞれに違う理由ときっかけにしろ、ほぼ同じ時期に父親との連絡をシャットアウトしていた。没交渉。

これまでも、そして今も彼は彼なりに誠実に子供たちを愛していたし、いつだって子供たちのことを考えてくれていた。ちょっとしたすれ違いが、こんなに大きな断絶に繋がるとは、考えていなかったに違いない。私にとっても大きな衝撃であった。

家庭崩壊。

父親から、二人の子供たちが電話にも出ないし、連絡も寄越さない、コールバックもしない、と辛そうに伝えてきた時には、仰天してしまった。どうも私が何か子供たちに言ったことが要因になっていると思っているらしく、慌ててそれぞれに連絡してみたところ、どうも話はそう簡単ではなかった。

辛うじて長女バッタが父親との関係を密にしてはいたが、だからといって、弟や妹に父親との関係改善を促す役目を彼女が担うことは荷が重いに決まっていた。

これまでも、何度も危うい時はあったが、未成年ということもあってか、あるいは、話を聞いてやる母親が近くにいたからなのか、何とか大ごとにはなってこなかった。

一年前は息子バッタなど、むしろ羨むぐらい父親との関係は良好で、毎日の様に電話で連絡をし、週末は彼が父親のところで過ごしていた程だった。だからこそ、今の状況は父親にとり、非常に辛い展開であることは容易に察しが付く。

実際に会って彼の話を聞いてみたが、最初は冷静に、次第に怒りに変わり、最後は哀しみだけが残るといった、辛い時間であった。子供たちと話ができる私が唯一の解決の鍵を握っていると思っているようで、最後の頼みの綱を託された感じとなってしまった。

息子バッタとは何度か話をしたが、予想以上に彼の傷は深く、たとえそれが本人の思い違いにしても、簡単に癒えそうにはなく、時間だけが頼りなのではと思うしかなかった。

末娘バッタの方は、とにかく試験が終わらないことには、今の彼女の精神的キャパでは対処できない模様であり、今はこの件については何も語ってくれるなと突き放されてしまった。

家庭崩壊。

考えるに、既に両親は離婚しているが、子供たちにとっては、父親との家庭、母親との家庭をそれぞれに持っているのである。父親との関係を遮断となると、父親との家庭のみが関係するようだが、それでも、母親としては、これ程悲しいことはない。それは、愛しい子供にとっての家庭が崩壊していることに等しいからである。

ここは、何としても、時間がかかっても、子供たちと父親との関係を修復するように支援せねばなるまい。

そう思っていた矢先だった。

二年前は父親が息子バッタの試験準備のサポートや試験中のあらゆる対応をしていた。今回、末娘バッタは父親の存在をシャットアウトしており、彼からのサポートは一切受け入れていなかった。

心配をし、何もできないことに苛立ち、焦燥感に追いやられる、そんな心境の父親にとって、末娘バッタの不安定な行動は怒りの対象となってしまう。前回は、私から末娘バッタの試験準備の状況を聞き、呆れ、非常に手ひどい、乱暴な言葉を放っていた。

そんな言い方はないでしょう。状況を受け入れ、それでもプラスの面を見て、前向きに考え、明るく乗り切っていくようにサポートするのが親の務めじゃあないの。そう私は思ってサポートしている。彼女には楽しく、元気にやっていって欲しい。

彼の苛立ちも分かるので、努めて感情を抑えて、なだめるように話をした。

それでも彼の怒りは収まらず、徹底的に末娘バッタを非難し、否定し、批判していた。言葉の刃。

どうぞ私に向かって投げつけて。私が盾になる。末娘バッタは私が守る。

そんな思いだった。そして、本当に辛く哀しく思ってしまった。いつからなのだろう。こんなに人を批判するようになってしまったのは。一体自分を何様だと思っているのだろう。こんな様子では、バッタ達との関係修復は実現しまい。


どうやって会話を終わりにしたのかは覚えていないが、非常に苦い思いが残った。

単純な私はそんな会話をすっかり忘れ、週末の末娘バッタのサポートで頭がいっぱいとなり、息子バッタとの3人での思わぬ至福の時間に酔いしれてしまったので、父親に彼らの順調な様子を伝えることに専念してしまっていた。


もう一度彼の声がする。反応がないので、戸惑っている様子だった。

この間の月曜日の電話でだよ。あれはひどい言い方だった。あんな風に言うつもりはなかったんだけど、悪かった。そして、毎週末のサポート本当にありがとう。彼女はきっとベストを尽くせるよ。ありがとう。とても感謝している。


時間が解決する。そう。いつか、きっと分かってくれる。じんわりと胸が温かくなる。


 



にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月19日月曜日

至福の時間

 




末娘バッタが一人奮闘する田舎の街に、週末激励のために息子バッタと訪れる。たっぷりの新鮮な野菜でリフレッシュし、美味しいご馳走でエネルギーを蓄え、いざという時の瞬発力につながればと終日料理に勤しむ。

既に二年前に違う条件ながらも同じ試験をかいくぐっった息子バッタ。自分の好きな道に進学したとは言え、夜中まで宿題に励み、週末も暇さえあれば分厚いテキストを出し、ノートに何かを書き留めている。かと思えば、ラップトップに超高速で何やら打ち込んでいる。こんなに勉強するものなのか、と感心してしまう程。

ちょっと息抜きをしようよ、となり、久しぶりに一緒にのんびりと散歩する。

先週末既に訪れたはずなのに、息子バッタから教えてもらうことが多く、二人で笑ってしまう。とにかく彼の情報収集力は桁違い。いや、私の能力が低いだけなのか。建造物の歴史にしろ、買い物情報にしろ、とにかく発見ばかりで何やら新鮮。あとから末娘バッタにも教えてあげよう。試験会場の歴史的情報などは、彼女のインセンティブアップにつながるに違いない。

ぶらぶら歩いていると、「本屋さんだ」、息子バッタがつぶやく。小さな店舗のフロントはガラス張りになっていて、近づくと、驚いたことに読みたいと願っていた本が目に飛び込んできた。

異次元にでも入ったかのような空間は新刊書もあれば思想や芸術の本もあり、児童書コーナーもあったりで、書店のオーナーの趣味の良さが心地よい。息子バッタも読みたい本を選びだした模様。こんな田舎の街で本屋に入り、好きな書に出会う幸運にうっとりとしてしまう。そして、本屋に立ち寄る習慣を持つ息子バッタを愛しく思う。

次の週末は何時頃に来ようかと末娘バッタに相談すると、自分のためにそこまでしてくれなくていいし、すごく申し訳ない、といった曖昧な反応をされる。ママが来ることが負担になるなら、ママは来ないわよ、と返事をするものの、なんだか釈然としない。

朝8時から夕方18時まで、毎日繰り広げられる闘いに向け、ちょっと値が張るけれどエネルギーバーや眠気覚ましの発奮剤は必要だと、息子バッタが教えてくれる。そんなことに気が回っていなかったので大いに感謝すると、二年前の彼の時はパパが買ってくれたとつぶやく。そうだったのか。パパへの感謝の気持ちが、こじれた関係を少しは補正してくれればとひっそりと願う。

夕方、お醤油がきれたからと買い物に出て戻ってくると、カウンターで息子バッタがラップトップで何やら作業をしており、ソファーでは末娘バッタがフランス語のテキストを読んでいた。そのままキッチンに立ち、生姜を刻みながら、予想もしていなかった充実した豊かな時間に心震える。

週末に来るのは、ママの為でもあるのよ。こんなに心豊かな時間を過ごせる状況を作ってくれたことに、感謝しているのよ。ありがとう。

そう言って、末娘バッタを抱きしめる。
至福の時間をありがとう。来週末は長女バッタと来るからね。

最高の笑顔が返ってきた。
彼女の挑戦に幸多からんことを。



にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています
どうぞ自由にコメントをお残しください


2021年4月16日金曜日

不敵な高笑い







眠れる森の美女のお城とならないように、濃厚な赤紫色の花房をつけるリラに被さるように覆っている蔦を剝がそうと意を決する。

ところがどうだろう。これまでの細っこい茎を這わせて小さな葉をびっちりと鈴なりにつけるタイプとは別に、太い茎をがっしりと幹や枝に這わせ、立派な枝まで伸ばし、大きな緑の葉を生い茂らせ、黒色の実をつけている寄生植物が我が物顔でリラの木を制覇していることを発見。

その名もセイヨウキヅタ。

寄生させてもらっているくせに、キヅタの茎が絡まっている場所には当然リラの枝は成長せず、花もつけない。

渾身の力でひっぺがそうにも、がっちりと食い込んだ茎は簡単には取れない。少しづつ傷をつけ、何とかナイフが食い込める隙間を作り、そこに鉈の刃を入れ込み、エイヤーでひっぺがす。

大ぶりな枝は枝切ばさみで伐採しないことには、どうにも手が付けられない。脚立を離れから持ってきて、梯子に上る。こんなに重かっただろうか。どうも腕の力がなくなっている気がする。

脚立の上で大きな枝切ばさみを掲げながら、一枝、一枝、ばっさり、ばっさりと伐っていく。枝が絡み合っているところは、葉の形状を確認し、えいやーとばっさりといく。と、しまった。上から落ちてきた枝の先に、赤紫の蕾がついているではないか。

不敵なキヅタの高笑いが聞こえる。一人じゃあ倒れないよ。
お前さん、赤紫のリラを連れて行かないでおくれよ。

リラの花は蕾のうちに手折ってしまうと、花瓶に入れてもどうも水揚げが悪く、しんなりとして咲く前に枯れてしまう。ごめんね、と頭を下げる。

大きな植木鉢に水をたっぷり張って、間違って伐ってしまったリラの枝を二本差す。この硬い蕾には、どうにか咲いて甘い香りを周囲にまき散らして欲しい。

奴らのその手には二度と乗らないように気を引き締めていかねば。
舞台に戻る。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月15日木曜日

眠れる森の美女

 




「眠れる森の美女」

ヨーロッパの童話。ペローやグリム兄弟の童話集に収められており、内容の相違点など色々あって、なかなか興味深い。しかし、ここでは共通点に注目したい。


眠りに落ちた王女のいるお城の周囲の茨が急速に繁茂し、お城は茨の森で覆われてしまい、何人たりとも入れなくなってしまう。そして100年が過ぎる。


さもありなん。


我が家はお城ではないが、庭の手入れという項目が家事のTODOリストの優先順位の底辺にあり続けたことで、今や地面は蔦の根が強靭に張り巡らされており、地中では樹木の根が蔦の根により絡めとられており、地上では蔦が樹木の幹を這いあがっている。庭は蔦の王国。


そこに茨があちこちで猛威を振るい始めており、そのうちに茨の森になること、間違いなし。


そうか。


庭の手入れをしてこなかったことが問題ではなく、この庭は魔法が掛けられてしまった眠れる森なのか!


100年後に魔術が解けるのであれば、それにこしたことはないが、どうやら住人への眠りの魔術は掛けられなかった模様。


昔話が語り部によって伝承されてきたほのぼのさに接した瞬間。この童話が育まれた土壌に今生きているというぞくぞく感。


なんてインテリ風をふかせている暇があれば、庭に出て蔦と格闘しようか。

今日も冷たい空気に春の陽射しがまぶしい。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月14日水曜日

お邪魔虫かキューピッドか

 






植物の生命力はなんて逞しいのだろう。

人間のわがままで路傍に咲き誇っていたネコヤナギの枝を頂戴し、室内で楽しんで早ひと月。枝の先から根っこ発見。緑の葉も元気にぴゅっ、ぴゅっと出ている。


こちらは、何故か折れていたスモモの枝を救済。花瓶に差していたところ、花が咲き大いに楽しませてくれた。受粉を助けてくれるミツバチや鳥がいないな、などと気楽に思っていたところ、ある日枝に尺取虫君を発見。

そして、まさかのまさか。どうやら受粉成功し、実が育ち始めている。

尺取虫が受粉の手伝いをしたのだろうか。

むしゃむしゃと喜んで柔らかい緑の葉を無心に食べている姿は、どうも怪しいと思わざるを得ない。


お邪魔虫か、キューピッドか。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月13日火曜日

究極のチリコンカルネ

 





4週間にわたる試験期間を迎え、3人の共同生活がスタート。トイレに並ばずに済み、長時間難問に挑戦する上で、大勢が机を並べる体育館スタイルではなく、普通の高校の教室が会場となる地方都市を選んだ末娘バッタ。


寮での生活にしろ、週末の家庭にしろ、とにかく今は朝から晩までびっちりと勉強をする日常なので、急に試験期間だからといって、料理をするとは考えにくい。洗濯だってやるのかどうか。


3人で決めたという食事のリストを眺めて、3人で分担した食料品を買う。基本、彼女たちの意見を尊重しつつ、不足分をカバーしよう。かつ、グルテンやラクトースフリーの食事制限がある末娘バッタのことも配慮せねば。


そこで、野菜がたっぷりと入っている料理の代表格、ラタトゥイユとチリコンカルネを保存食として作ることにする。


先ずは乾燥キドニービーンズをコンソメスープに浸すことから。小一時間は浸す必要があるから、その間に玉ねぎ、緑のパプリカ、にんにくを刻むとしよう。ラタトゥイユの材料も一緒に刻んでおこうか。ズッキーニ、玉ねぎ、なす、パプリカ、人参、トマト。


3人のうち、一人がストレスなのか、親離れが出来ていないのか、めそめそしていて、親も帰るのか最後まではっきりせずに、結局最終的には留まってしまい、彼らの分のランチも用意することになっていた。本来なら、黒子に徹し、料理だけを作って運ぶのみにしたかったが、相手の親御さんから強く引き留められ、結局6人分のピラフを作ることに。


今は深く考えずに、とにかく明るく前向きに、すべてを受け入れ、自分のやれることをやる。それが末娘バッタをサポートする上で一番重要、そう心に決めていた。


大体、3人が共同生活をするなら、ベッドは3つなければならないだろうのに、確かに3つベッドはあるにしろ、2つの部屋にそれぞれベッドがあり、三つ目のベッドは通路の端にあるという配置だった。それを知った時の驚愕、呆れ、悲哀。


なぜ相談してくれなかったのか。


いや、彼女から何回か電話があり、取れない時があった。気が付いて折り返しても、既に授業中であったり、すれ違いが多かった。


自分の目の前のことで精いっぱいで、まさか末娘バッタが悩んでいるとは知らなかった。気が付かなかった。なんたること。


当時、気持ちの余裕がない彼女は、滞在先の選択に関し、すべて友人に任せてしまっていたという。会場からも徒歩20分。もっと良い物件をママが見つけてあげるよ。お金はママが払う。そう言うと、今更遅いし、もう決まっていることに、あれこれ言わないで欲しい。それに、一人で受けるなんてことになったら、絶対嫌だもの。


その時に、悟った。

深く考えずに、とにかく明るく前向きに、すべてを受け入れ、自分のやれることをやる。それが末娘バッタをサポートする上で一番重要。


チリコンカルネ。

オリーブオイルでにんにくを炒め、香りが出てきたところで、たっぷりの玉ねぎのみじん切りを入れる。玉ねぎが透明になってきた頃に、カバンに詰めてきたクミン、パプリカを振り入れる。クミンの香りがキッチンを満たす。このためだけに、いえいえ、もちろん後に味見をするためにも購入した赤ワインを入れ更に炒める。


スープをたらふく含んででっぷりとしたキドニービーンズをスープごと鍋に入れ、ぐつぐつと弱火で豆に火を通す。


豆がふっくらとしたところに、トマトを入れ煮る。


最後にこれも刻んだ緑のパプリカをたっぷりと入れ、塩コショウで味を調える。


嗚呼、うまいっ!にんまりとし、火を止める。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月12日月曜日

拝礼

 




掛けまくも畏き 遠い遠い昔からこの地に生り坐せる大神等

諸諸の禍事 罪 穢有らむをば

祓へ給ひ清め給へと白す事を聞こし召せと

恐み恐みも白す


末娘バッタをお守りくださるかのように、ご尊顔に朝日があたり、神々しく、こんなにありがたいことはないと、感無量になっての拝礼











にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月10日土曜日

エルミタージュにて

 






それは何の兆候もなくやってきた。

駅から自転車に乗って帰って来たと思ったら、お土産のエクレアのお菓子をテーブルに置いた途端、カタツムリの様にうずくまってしまった長女バッタ。


真っ白な顔にほんのりとピンク色の頬が可愛らしいのに、苦しそうに顔面蒼白となっている。


吐き気がし、寒気がし、腹痛がひどく、とにかくうずくまらずにはいられないらしい。


生理痛ではないかと疑った。そうなると早めに痛み止めを飲み、とにかく嵐が過ぎ去るのを待つしかない。


ティーンになると生理が始まり、気分もホルモンに大いに左右され、身体も丸みを帯び、次第に生理痛に悩まされる回数も増えてゆく。やはり男女とはそれぞれ全く違った個体であるとしかいいようがない。お互いに違いを尊重し合う、そんな関係が大切であって、決して女性が男性と同じことをしたり、逆に男性が女性と同じことをすることが、人権の尊重の基本とは思わない。


そんな思いに囚われながら夕食を終え、寝込んでいる長女バッタの様子を見にいくと、どうもよろしくない。じっくり話を聞いてみると、どうやら生理は既に終わりに近い段階で、今頃これほど苦しむのはおかしいことが判明する。


吐き気がひどいらしく、なんだか産気づいたお腹の大きな女性のような呼吸をし始める。


素人判断はどうもよくない。熱も出てきている。


どうしたものか。まあ、とにかく寝ているしかあるまい。


二階でお風呂に入っていると、どうも階下が騒がしい。かなり派手に下痢と嘔吐を繰り返した模様。食あたりか!聞けば、ランチに近くのパン屋でフムスのサンドイッチを買って食べたらしい。フムスのサンドイッチ?香辛料が効いていて、味が濃いであろう、ひよこ豆のペーストが悪くなっていたとは考えにくいが、他には考えられようがない。本人はフムスがどんな味付けだったかを思い出す余裕もない程に苦しんでいる。


しかしまあ、一体なんでこんな時に。


この週末は一緒に末娘バッタの見送りの準備をすることにしていたのに。


かくして、二人で楽しもうと予約したエルミタージュで、今は一人で明日の算段をしている。明日は朝から買い物をして、ラタトゥイユ、チリコンカン、チャーハンなど、6人分程度作る予定にしている。長女バッタからは、先ほど漸くおかゆを食べたとの連絡があり、ほっとしてはいる。


さあ、そろそろ俄かシェフは明日に備え眠るとしようか。






にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月8日木曜日

香辛料の魔術

 






深く考えもせずに外に出て、BIOの店に向かった。香辛料の棚が充実していたのは、一体どこだったろうか。隣町の八百屋かもしれないとの思いが過るが、もう既に歩き始めてしまっていた。


コリアンダーの粒はこの間買ったばかりだった。クミンも未だ十分ある。気がかりはカルダモンの実と黒のマスタードシード。それから、できたら新鮮な青唐辛子も手に入れたかった。


歩きながら、先日送られてきたメッセージを思い出す。


「Hi 」


それ以上でもそれ以下でもない。

送られてきた時に、すぐに返事を書かなかったからだろうか。翌日、桜の花の写真と一緒にメッセージを送るが、それへの反応はなかった。


らしいと言えば、彼らしい。しかし、このコロナ禍で、随分と影響を受けているのではないだろうか。元気にしているのだろうか。そういえば、一度日本でコロナ陽性者数が少ないのは、偏にスチームで喉を消毒しているからだとのスチーム器のPRビデオを送ってきた時があった。あの時は呆れて無視を決め込んでしまったが、そんなでっち上げの嘘を信じて、馬鹿な買い物をしないでね、とでも言ってあげれば良かっただろうか。


今なら遊びに行けば、時間の余裕があって会えるのだろうか。それこそ、日本に絶対行くと言っていたのは、どうなったのか。いずれにしても、このコロナのお陰で、身動きのとれない状況ではあることに思い至る。まったく、ため息ばかりが出てしまうではないか。


そうか。彼からのメッセージが発端で、深層心理が働いたのかどうか本当のところは分からないが、どうしても急にかの地のカレーを作りたくなってしまっていた。ひょっとしたら、植木鉢からマンゴの芽が漸く出てきたからかもしれない。


先ずはベースのカレー粉作りから。そのためにはコリアンダー、クミン、黒コショウ、コメ、黒マスタードシード、クローブ、カルダモンシード、フェンネルシードが必要だった。


他にも、カイエンヌチリーパウダー、シナモン、ターメリック、ココナツミルク、ココナツ。


ベースのカレー粉の材料を炒め始めると、香ばしいにおいがキッチンを満たした。焦がすちょっと手前で火から下ろし、冷ましたら、ブレンダーで粉砕する。何回かに分ければ良かったのだろうか。ぱんぱんに入れたブレンダーから真っ白な粉が出てきてしまった。しかし、得も言われぬほのかな甘い香りが立ち込める。


短冊切りの玉ねぎ1個をオリーブオイルで炒め、薄切りにしたニンニク6個を入れる。青唐辛子はなかったので、今回はパス。そこに先ほどのローストしたカレーベースを大匙2杯、予め粉にしたマスタードシードを大匙1杯半。今回は黒がなかったので、黄色で代用。カイエンヌチリーパウダー小匙2杯、シナモン小匙1杯半、ターメリック小匙1杯。しんなりと玉ねぎと絡み合うまで炒める。


予め大きめのさいの目に切っておいたカボチャを入れ、混ぜ、ココナツミルクを2カップ入れる。塩、胡椒で味つけ。鍋の蓋をせずに、のんびりとカボチャに火が通るまで炒める。


ココナツ大匙4杯を別に炒めておき、出来上がる直前に入れる。


カボチャの実はとろりととけ、カボチャの皮はしっかりしていることが美味しさの秘訣か。青唐辛子が入っていないからか、急激な舌にくる辛さはないが、奥行きのある、豊かな味わいとじんわりとくる辛さに思わず唸ってしまう。


果たして、本場のカレーの味に近づけたのだろうか。一体、彼との距離はいつかは縮まるのだろうか。


マンゴの芽が答えを知ってか知らずにか、すくっと立ち上がり、威風堂々たる姿が見事に様になっている。春爛漫。



どうぞよろしかったらご参照下さい(関連記事):

初恋の相手との再会

マンゴ カルナンデ

Life is busy and going on and on

ログアウト

逡巡

思わぬ展開

辛夷を思って

天空に放たれた言葉



にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月7日水曜日

はにかみ屋さん







ここ数日、春爛漫かと思っていたら雪が舞う。

早々にリラが花房を付け始めているのに。

初夏の陽気と思わせる日もあったので、オリーブの木も外に出してしまっているのに。





膨らみかけていた蕾が、

色づこうとしていた蕾が、

朝の冷たさに負けずに、

ちょっと恥じらいながらも勢揃い。


はにかみ屋さんたちの笑顔が楽しみになる。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月5日月曜日

蔦との格闘

 






一寸の虫にも五分の魂 而して

一寸の雑草にも五分の魂なのか

そうかもしれないが、雑草イコールpest(ペスト)であることには変わりはない。

高校時代のホストファミリーの父、ジョンが憎々しげに、吐き捨てるように言う「PEST!」である。


あの当時、生意気で、反抗期で、天邪鬼だったから、それこそ、一寸の雑草にも五分の魂、なんてことを言って雑草を擁護していた。そんな自分の浅はかさに赤面し、辟易してしまう。今ならジョンと一緒に「PEST」駆除に駆け回るのに。若いということは、思慮に欠け、独り善がりになりがち。


当時ジョンは仕事から帰ってくると、ブルーのオーバーオールのままで庭仕事をしていた。そして週末に芝刈りをしていた姿を思い出す。菜園を作るには水不足で、ダムからポンプで水を汲んでいたようにも記憶している。


そういえば、日陰でミントの爽やかな香りがする肉厚な葉を持つ植物を育てていた。表面がうぶ毛で覆われていて、ビロードのようだった。一枚ありがたく失敬し、押し花よろしく、押し葉をしたはずだが、どの本に挟んでいたのか、今では忘れてしまった。


今度、園芸店に行った時にでも、このミントの香りのする植物を探してみようか。


蔦の話を書くつもりが、ジョンとの思い出になってしまった。久しぶりに電話をしてみようか。元気にPESTと闘っているだろうか。できるなら、こちらに遊びに来て、一緒に庭の蔦と格闘して欲しい。そうだ。そうお願いしてみよう。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ

にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月3日土曜日

返信

 






満開に咲き誇る、さくらんぼの沢山の真っ白な花束の塊の中から、勢いよく鳥が飛び立つ。と、はらりと花束が一つ落ちた。


その時、この返事をどんなに待ち望んでいたのか、思い知らされる。

予期せぬ感情の現われに、自分自身が戸惑ってしまう。


ゆっくりと、この感情を楽しもうか。

まだ朝は明けたばかり。







にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月2日金曜日

蕎麦粉の香り

 




今日はブルターニュのガレットにしよう。

もちろん、中身はお定まりのチーズ、ハム、卵のコンプレッ。


蕎麦粉をボールに取り出した時、芳醇な香りが立ち上がる。香ばしいと言おうか、なんという上品な香りなのだろう。


グルテンがないからか、水を注いで生地を作るにしてもダマができなく、取り扱いはとても簡単。光沢あるグレイの生地がねらりと出来上がる。


前回蕎麦を打とうとした時の苦労を思い出す。日本の蕎麦粉と種類も違うだろうし、水だって日本のものとは全く違って硬いし、石灰が入っている。だから上手くいかなかったのだと自分に言い聞かせるものの、あれは本当に難しかった。結局は水を増やしてガレット生地にしてしまったのだから。


蕎麦屋がパリに数えるほどしかないのは、パスタ好きのフランス人にはグレイ色の蕎麦が受けないからかと思っていたが、蕎麦粉で作るガレットは大人気なのだし、考えてみればイカ墨パスタだってレストランの人気メニューである。


日本のように美味しく蕎麦を打つことが、フランスの水のせいで難しいのだろう、と勝手に結論付けてしまう。ブルターニュの地で育った蕎麦粉にはガレットが一番合っているのだろう。


蕎麦粉の香りを楽しみながら、ブルターニュの荒々しい土地に思いを馳せる。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2021年4月1日木曜日

やっかいな話




 


気持ちよく好き嫌いなく何でも食べる大食漢であった末娘バッタ。


いつの間にかアレルギーとかで、あれはダメ、これはダメとなってしまった。厄介なことに、いや、有難いことにバッタ達は三人とも早い段階から自立しており、特に末っ子ということもあってか、末娘バッタは早々と親離れ宣言をしていた。従い、アレルゲンを調べる血液検査も一人でやってしまったし、結果も自分で保管している。


いや、それもこれも、出稼ぎ母ちゃんをしていた私に気遣ってのことで、一人で全てを背負ってしまったとも言えようか。


この2月に急遽帰郷し、今は末娘バッタのために料理をする楽しさを取り戻してはいるが、これも彼女の強化合宿期間中に限られる。そんな俄かシェフに対し、食事制限をしているものとして、グルテン、牛乳、穴のあいたチーズ(エメンタル!)以外のチーズ、林檎、ヘーゼルナッツ、と早口に告げる。


そうですか、そうですか、といそいそと活力あふれるような食事をと食材を求め、キッチンに立つ。


そうだ、今日はブラジルのPao de queijo、ポンディケージョにしよう。タピオカはそもそもグルテンフリーだし、牛乳は豆乳で、チーズは、例の穴の開いたエメンタルでOK。


いや、まてよ。


そこで、いつもの探求心が湧いてしまう。


ラクトースフリーであるなら、ラクトースの含有量を調べてみれば、他にも食べることができるチーズがあるのではあるまいか。


ある、ある、ある!やっぱりね。


エメンタルはもちろん、グリュイエール、グーダ、ミモレット、カンタル、そしてパルメザン。パルメザンがOK!これは凄い発見。そもそも、固めのチーズなら大丈夫なのか。


張り切ってスーパーに飛んで行き、ポンディケージョのためにエメンタルとパルメザンを買う。チーズが大好きな末娘バッタの顔を思い浮かべ、適量なら問題ないのよね、と、グリュイエール、グーダ、ミモレットを買い物籠に入れる。


ふんふんふん、と鼻歌交じりにキッチンで本日の発見と購入物を長女バッタに披露する。


「ママ、ラクトースがダメなんじゃないと思うよ。本人に聞いた方がいいけど、確かパルメザン、ダメだった様だよ。」


え?えっつ?ええええっつ?


なんだって、はっきりと教えてくれないの!さっさと検査結果を見せてくれれば、こんなことにはならないのに。


やっかいな話!まったくね。では、エメンタルだけのポンディケージョとしましょうか。


春爛漫。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています