2023年6月26日月曜日

一陣涼風

 





猛暑が続いていて、特に日中はへばってしまっている。さすがのトンカも、外に遊びに行きたいとねだるので庭に出してあげても、すぐに家の中に戻ってくる。こう暑くては、どうしようもない。


そんな時は、贅沢にレモンを使って、爽やかなドリンクを作ろう。


レモンは薄いくし切りにし、大きめのグラスにたくさん入れる。できたら、レモン半個分ぐらい入れるとよい。そこに、冷えたペリエを並々と注ぐ。香り付けに、ミントの葉を数枚入れてもいい。しゅわしゅわしゅわっと心地よい音とともに、爽やかな香りが弾け飛ぶ。


一陣涼風。


お薦めです。



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2023年6月24日土曜日

仙人の落とし物




トンカと森の奥で散歩をしていた時、木の枝に鍵が引っかかっていることに気が付いた。見たところ家の鍵で、門扉用と思われるリモコンキーも付いていた。この辺はマウンテンバイクに乗ったサイクリストがいるので、彼らの一人が落としてしまったのだろうか。或いは、散歩やジョギングをしている時に誰かのポケットから落ちたのかもしれない。


近所の散歩仲間のグループで、時々「うっかりと鍵を失くしてしまったので、見つけた人は連絡を!」とか、「ハーネスを森に置いてきてしまったので、見た人は至急連絡されたし」とか、「リードを発見。広場のベンチの傍の木に掛けておいたので、心当たりのある方はピックアップしてね」といったメッセージが回覧されることがある。


我が家のバッタ達も、何度か鍵を失くしている。末娘バッタは高校最後の年に、最後の授業の日のお祭り騒ぎの時に、ちょっとリュックを校門の傍に置いておいた隙に、リュックごと何者かに盗まれてしまった。最初は仲間内のいたずら程度と思っていたらしいが、他にも同様に携帯やお財布を盗まれてしまった友達もいて、馬鹿なお祭り騒ぎをする高校生を狙った、ワルの仕業であるらしいことが分かった。


一緒にいた彼女の友達の場合は、アプリで位置情報を確認したところ、携帯が近くの郵便受けに入れられていたことが判明。カバンは、その近くのゴミ箱に捨てられていたらしい。


末娘バッタの場合は、リュックには家の鍵しか入れていなかったらしく、所有者を判別できる書類もなく、どこの家の鍵かも分からないのだから、利用価値無しと、せめて学校の近くにでも置き捨ててくれればありがたいと思ったものだが、それから数日、真っ青になって探す彼女からの朗報はなかった。それこそ、どこの家の鍵なのか分からないのだから、その鍵を使って侵入される可能性は皆無に等しかったので、仕方なしと諦めるしかなかった。


家の鍵を失くすこと程、困ることは無い。持ち主が家の前で立ち往生する姿が目に浮かび、心が痛んだ。なぜか、一人の若者がアパートの前で泣きそうになっているように思われてならなかった。せめて、独り住まいではなく、家族の誰かが家にいることを願わずにはいられなかった。


ひょっとしたら、散歩仲間の誰かかもしれない。そう思って、鍵の写真を撮り、忘れ物発見としてメッセージを送ってみた。


すると、仲間内の一人が「森の木々と語り合う仙人の落とし物に違いない」と書いてきた。


ふふふ。そうかもしれない。森は時に人を詩人にさせる。


さあ、トンカ、お待たせ。先に進もうか。仙人に出会えるかもしれないよ。



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2023年6月21日水曜日

クロケットおじさん

 




トンカと森を散策していると、色々な人に出会う。そのうちの一人が、クロケットおじさん。おじさんといっても、サンタクロースの様な白髪と見事な髭をたくわえているので、ご隠居されていると思われるが、クロケットお爺さんではゴロが悪いし、ニックネームなどはぱっと閃く類のものなので、クロケットおじさん、として勝手に呼ばせてもらっている。


いつも夕方、小川が流れている傍の小径で、黒い雑種の大型犬のネイマーと散歩をしている。と思いきや、週末に午前中に同じ場所で、小さなマルチーズと散歩をしているところに出会ったこともある。糖尿病の気があるので、散歩を日課にしているということだが、二匹ともクロケットおじさんの犬ではなく、ご近所の犬たちというから驚いてしまった。それを聞いた時には、「ねえトンカ、おじさんの家の近くに引っ越そうか!」なんて冗談を言った程である。


クロケットおじさんは、とってもトンカを可愛がってくれる。おじさんが連れているネイマーが可哀想に思われる程、依怙贔屓してくれる。ネイマーは怒って、ワン、ワンと抗議するものだから、余計におじさんに怒られてしまう。トンカはそんなこと気にも留めず、おじさんに可愛がってもらおうと、熱いまなざしでおじさんをじっと凝視し、お座りをする。すると、おじさんはポケットに大きな手を突っ込み、手一杯にクロケット、つまりドッグフードをつかみ取り、ほれ、ほれ、と次々にトンカに与える。


そりゃあ、ネイマーも怒るわな。ネイマーには、時々思い出したかのように、放って与える。それよりも、こんなオヤツの与え方ってあるかしら、と思う程のすごい量。


最初は、ありがとうございます!と感謝していたが、おじさんは懐くトンカの期待に応えようとするかのごとく、ぱんぱんに膨らんだズボンのポケットから、大きな手にあふれんばかりのクロケットを何度も取り出し、目を細めて与え続けるものだから、時々トラブルが起こってしまう。


トラブルとは、エンドレスのオヤツに目がくらんだトンカが、クロケットおじさんの傍を離れなくなってしまう、というだけのことだけど。


一度など、もう結構です、と言っているのに、おじさんが与え続けるものだから、トンカにリードをつけて引っぺがす行為を余儀なくされ、それでも、名残惜しそうにおじさんはトンカにクロケットを放って、ほとほと困ってしまった。


甘えるだけ、甘えさせる、ということか。我が子ではないので、躾など、ちっともお構いなし。そもそも、鳥じゃあるまいし、餌を放って与えるとは、なんて思ってしまう。


一方で、いやいや、おじさんは懐くトンカが可愛くて仕方ないのだろう。なにも目くじら立てなくとも、とも思う。しかし、ヘタすると、我が家で与えるドッグフードの量はあるのではないか。それに、せっかくトンカの健康を考え、せめて質の良いドッグフードをと厳選して買っているのに、おじさんのオヤツは恐らく、ジャンクの類だろうと思ってしまう。


そんな話を動物好きの友人にしたところ、それはおじさんが可哀想だよ、と呆れられてしまった。


そんなものなのかしら。まあ、気楽な悩みといえば、そうなのだけど。クロケットおじさん、いつもありがとうございます。




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2023年6月19日月曜日

怪我の功名





 


音楽家の友人に誘われて訪れた、近所のホームコンサートからの帰り道、音楽ってやっぱりいいよね、と酔いしれていたところ、トンカの散歩仲間、漆黒の毛並みが美しいラブラドールの2歳のラムセスからメッセージが届く。「これから散歩するけど、一緒にどう?」勿論、書き手はラムセスの飼い主。


午後一杯留守にするので、既に午前中にトンカを散歩に連れて行ってはいたが、一人で留守番をさせていたとの思いもあったので、ちょっと遅いが今から散歩に連れ出すのも悪くないかな、と「20分後になるけど」と返事を送った。ただ、なんだか空模様が怪しくなってきているなあと、空を仰いだところ、「遠くで雷が鳴っているので、すぐに帰ることになると思うけど、広場に着いたら一声掛けてね。」と返事が来た。


いつものことながら、家に帰るとトンカから張り倒されてしまうぐらいの大歓迎を受け、じゃあ、ちょっとだけ散歩に行こうか、となった。


となったものの、運動場の近くに差し掛かったところで、ぽつり、ぽつりと空から大粒の雨が落ちて来た。やむなし。家に戻ろうとしたところ、別のトンカの散歩仲間のユリアと出会ってしまった。ユリアの飼い主は、からからと笑いながら、雨が降ろうが、槍が降ろうが、散歩は散歩だよね、と言うではないか。ええっ。そ、そんなもの?


なんだか、ここで家に戻ってしまうと、意気地なしになるのではあるまいか、との意識が働いたのか、働かなかったのか。ひょっとしたら、ラムセスが待っているのではあるまいか、との思いが過ったことは確かではある。


突然雨脚が激しくなり、突風が吹き始めた。たちまちずぶ濡れになり、靴からはがぽがぽと音がした。サッカー場では子供達が大騒ぎをして後片付けをして、逃げるように走り出し、あっという間に誰もいなくなってしまった。


遠くに傘を差している人影が見え、それがラムセスの飼い主だと分かった時には、漸く踏ん切りがつき、更に雨脚が強くなっている中、くるりと回れ右をして家路を急いだ。雨宿りの場所があるわけでもなく、ずぶ濡れになりながら、足早になるとズボンが雨の重さでずるずると落ちてきそうになって、へんてこな格好で兎に角帰り道を急いだ。隣のトンカと言えば、濡れることがとにかく苦手ながらも、ここは他の選択肢がないことを悟ってか、意外に大人しく、しおらしく小走りについてきている。


なんとか家に戻り、トンカをタオルで拭いてやり、じゃぼじゃぼと濡れている洋服を脱ぎ捨て、気温が高いので助かったな、と漸く落ち着くことが出来た。海で泳いだかのように、ちょこっとの間だったが、疲れたのかトンカはひっくり返って寝入っている。ふふふ。


トンカの毛並みがいつも以上に美しいことに気が付いた。ずぶ濡れになって、すっかり泥や汚れが流されたのである。まさに、怪我の功名とはこのことではあるまいか!


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2023年6月17日土曜日

お隣さん

 





バッタ達と同年代のお子さんがいたお隣さんが、旦那の仕事で英国に引っ越すことになり、家を売ろうと試みるも買い手が現れず、結局貸家にすることにしたところ、未就園児の男の子ふたりを抱えるカナダ人の家族が入居することになった。


まあ、にぎやか、にぎやか。大家の家族も、旦那がアメリカ人だからか、とにかく庭に出て電話や会話を大声ですることが多く、驚く程鮮明に話の内容が分かってしまう時もあって、かえってこちらが恐縮していたが、その比ではない。幼い子供は、こんなにもうるさいものだったのかと、驚いてしまう。加えて、親の叱る声が加わるのだから、参ってしまう。


いや、実は参ってはいないし、正直なところ、どんどんやって欲しいと思ってしまう。彼らに比べたら、我が家のトンカのおとなしいことったら!


それでも、人間の子が泣き喚いても、子供だから仕方ないよね、で済むところ、犬がワンワンと吠えたてた日には、うるさい犬だ!となってしまうのだから、割に合わない。いやいや、ここは人間の世界であることを、改めて思い知らされることになる。


このお隣さん、何を思ったのか、先日「こんにちは!隣のものですが、家を売りたいって聞きました。ぜひ買いたいと思っているのですが。」と玄関前に現れたのだから、大いに驚いてしまった。


へえ、それは初耳です。と惚けはしたが、一体誰だ何を言っているのか。いやいや、最近の新しい手法なのかもしれない。「ええっと、五百万€で考えているのですが。」そう言ったところ、きょとんとしている。まさか、冗談だと分かっていないのだろうか。隣に寝そべっていたトンカを指して、「ご心配なく。犬も一緒ですよ。」と言ってみると、漸く笑顔が戻った。


しかし、子供とは、こんなにうるさかったのか。我が家のバッタ達も、成長の過程で多くの人々の寛容さに甘えてきたのだな、とつくづくと思ってしまう。おっと。もう夜の10時ではないか。子供達の就寝時間はとっくに過ぎてはいないか。我が家のバッタ達は8時には寝ていたことを懐かしく思い出す。


子供達を夜の8時に寝かせることで、親は自分の時間を確保できた。子供も、疲れたからとぐずることなく、すくすくと育った。と、思うのだが。やれやれ、お隣さんは、どうやら同じ教育観を共有してはいない様子。夏中、彼らの騒ぎ声と大人の叱り声を聞くことになるのだろうか。うーむ。これは新手の、テロではあるまいか。


我関せずと寝入っているトンカ。かくありたし!




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2023年6月14日水曜日

割れない、ぷるるんとしたスフレチーズケーキ初挑戦

 





冷蔵庫の片隅に鎮座している生クリームの存在が、このところずっと気になっていた。いつ、何のために購入したのだろうか。封が切られていないので、取り敢えずは悪くはなっていまいが、これまで何度青カビちゃん発生で捨てただろうか。


生クリームを使ったケーキといえば、チーズケーキだろうか。この季節、ババロアも悪くはあるまい。そう思いながらネットでレシピを何気なく見ていたところ、「割れないチーズケーキの作り方」というものが目に留まった。ははあん。近所の友人、苔庵のマスターが言っていたことかしら。


割れないケーキを焼くために、どれだけのクリームチーズを買って、何度ケーキを焼いたか、そして、漸く黄金レシピと失敗しない方法にたどり着いたと言っていたことを思い出した。その時には、彼女が焼いてくれたチーズケーキの得も言われぬ美味しさに、うっとりとしていたので、彼女の努力や試行錯誤の体験談をそんなに身を入れて聞いてはいなかった。


正直なところ、お味が良ければ、表面が割れていようが、皺が入っていようが、たいして問題ではないように思っていた。ところが、作り主にとってはそうでもないようで、出てくる、出てくる。多くの方の試行錯誤談。そして。皆それぞれの、ちょっと違って、それぞれの工夫がなされたレシピ。それを無料で素早く、大量に目に触れることができるのだから、全く便利でありがたい世の中になったものではないか。


取り敢えずは、一つ試しに作ってみよう。そう思った時には、当初の冷蔵庫で鎮座している生クリームの存在など吹っ飛んでしまっていた。


銘打って、「割れない、ぷるるんとしたスフレチーズケーキ初挑戦」。


日本のレシピは、当然ながら日本で流通している材料、器具を利用したものなので、海外にいると一工夫が必要となる。かつ、ずぼらなので我が家にある材料、器具を出来るだけ有効活用しようと思ってしまう。


直径15センチの底の抜けるケーキの焼き型なぞ、ないものなあ。やむを得ず、耐熱と思われる陶器の器を利用することに。直径12センチ程度なので、生地が余ったら、これまた陶器の器に入れて焼くことにする。


材料

クリームチーズ 200グラム ← マスカルポーネ使用

無塩バター 30グラム

牛乳 50ml

卵 3個

小麦粉 10グラム

コーンスターチ 20グラム

砂糖 60グラム ← キビ砂糖使用


ボールにチーズ、バター、牛乳を入れて、湯煎し溶かしながら撹拌。

↑卵黄3個分を入れ、更に撹拌。(卵白は冷蔵庫にて保管)

↑篩った粉類を入れ、よく混ぜて生地を作り、濾し、冷蔵庫で30分寝かす。

その間にケーキの型を準備。クッキングシートで底、側面を覆うが、型にバターを塗ってシートが動かないように工夫するとともに、生地が入るシート部分もバターを塗っておく。

卵白に砂糖を加え、メレンゲを作る。角がおじぎをする程度までしっかりと撹拌するが、角が完全に立つ手前で留める。

3回に分けてメレンゲを冷蔵庫に冷やしていた生地にしっかりと混ぜる。

ケーキ型よりも大きめの器を用意し、2センチ程度まで40度程度のお湯を張り、生地を流し入れた型を入れる。

200℃のオーブンで20分、オーブンを開けて熱気を出して110度にして、60分焼く。

焼き上がったら、すぐに型から外し、冷ます。


さあ、どうかしら。ふふふ、なかなかどうして、意外にうまくいったのではないかしら。


お向かいの90歳になったマダムに、久しぶりにお持ちしようかしら。薔薇の花を添えて。





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2023年6月11日日曜日

手作り味噌

 





昨年暮れに作って、風呂敷に包んでベースメントに保管していた味噌の出来具合を確かめようと、思い切って封印を解くことに。さあさあ、お立合い、お立合い。


ガラス瓶なので、外側から様子を見ることが出来るが、どうやらいい塩梅に色付いてきているように思われる。蓋を開けてみると、思ったよりも表面が未だ固く、しっかりとしている。乾燥麹を使ったので、ひょっとしたら熟成に時間がかかっているのではないかと思われた。ちょっとヘラでこそげて、小皿に取り出してみる。ほんのちょっぴり味見をしてみると、なんと!まろやかで、やさしい味が口いっぱいに広がる。


せっかくなので煮干しでしっかりと出汁をとり、お味噌汁にしたところ、非常に奥行きのある味わいで、とにかくまろやか。旨みとは、この味のことか、と感動してしまう。


もう少し熟成させようと、瓶の蓋を締め、風呂敷を被せて、ベースメントに戻しておく。手作り味噌がこんなに美味しくできるなんて、思ってもいなかったので嬉しい驚き。真夏にきゅうりと一緒に、或いは、熱々のご飯に、はたまた、疲れた時の一服に、大いに楽しめそう。


ひっひっひ。笑いが止まらない。



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2023年6月10日土曜日

蓬団子ならぬイラクサ団子

 



日本で作った色鮮やかな蓬団子をフランスでも、との思いを抱えながら、トンカと散歩をしていた時に、元気良く育っているオーティ、すなわちイラクサに目がいった。もしかしたら、もしかすると、そう思って、いつだって携帯しているナイロン袋にオーティの葉を摘んで入れた。棘があるので、できるだけ棘に逆らわずに、そう思っても棘は容赦なく手を襲う。


オーティを採っている間は、トンカは何だか呆れた様子でこちらを見ている。もうちょっと待ってね、もうすぐだから。そう言ってやるのだが、分かっているのか、分かっていないのか。


家に帰って流水で洗い、たっぷりのお湯で茹でると、あれ不思議、あんなに痛い棘がちっともなくなってしまう。ほうれん草のように柔らかく、蓬の様に頑張って繊維を叩く必要もない。これを米粉と餅粉に混ぜて、団子を作ってみる。いけるんじゃないかしら。


さあさあ、お立合い、お立合い。ぐつぐつと茹で上がっている鍋に、ころん、ころんと入れてみる。どうだろう!蓬団子といっても遜色のない程の綺麗な色に仕上がっているではないか。


一つ口に入れてみる。うまい!


魔法をかけられて白鳥になった王子たちを救った、イラクサ。それで作ったイラクサ団子。なんだか元気になりそうだし、霊験あらたかではないか。よろしかったら、是非お試しあれ!



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2023年6月7日水曜日

笹団子ならぬ蓬団子

 






日本にて新緑まばゆい山道を散策していた時のこと。もう少し早い時期なら蕗の薹や土筆が楽しめたのにと思っていると、やわらかな蓬を発見。周りには熊笹が繁っているし、これは笹団子を作れとの自然界からの仰せに違いないとばかりに、蓬の葉をせっせと摘んだことがあった。一方熊笹といえば、葉自体はそこそこ大きいのだが、どこかが枯れていたり、欠けていて、団子を包むにはあまり適していないと思われ、その場では取らずじまいだった。


当初、笹の葉に包まれた俵型の餡子の入った草団子を作りたいと思っていたのだが、笹を別途探しに行かねばならなかったし、餡子も作っていなかったので、取り敢えずは蓬を入れた丸い団子を作ろうとなった。実はこれが大成功。


蓬はしっかりと茹でた後でも意外に硬い繊維があって、篩でへらで濾そうと試みたが、とんでもない、包丁で細かく叩く必要があった。それでも、粉と混ぜると、鶉の卵のように斑になってしまい、もう少し丁寧に包丁で叩くべきだったと後悔した。


しかし、驚くなかれ。なんと茹で上がった団子は、ちゃんと綺麗な緑になってくれるじゃあないか。更に、もっと驚いたことに、時間が経つにつれ、その緑の色の濃度が増すのであった。これが感動せずにいられれようか。そして、味も蓬のほのかな香りが、ぐっと増していくのだからたまらない。


団子も上新粉と餅粉の配分を変えることで、歯応えが変わることが楽しい。数日たって、固くなった団子を口に含んで、飴のように楽しむのも一興。こうして、日本ですっかりと蓬団子の虜になってしまった私が、フランスに戻って、バッタ達に作ってあげたいと思わぬはずがないではないか!さて、フランスでの試みは次回のお楽しみ。



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2023年6月5日月曜日

願わくは

 



目次

男 其の壱  « 覚醒 »

女 其の壱 « 記憶の断片 »

男 其の弐 « 確信»

女 其の弐 « 記憶の選別 »

男 其の参 « 願望 »

女 其の参 « 真実 »

男 其の肆 « 再生»

女 其の肆 « 渦潮»

男 其の伍 « 懐古 »

女 其の伍 « AI vs 人間 »

男 其の陸 « 実体 »

女 其の陸 « 解放 »

.....................


12章からなる第一部が完了しましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。今回は「春」がサブテーマとなっています。また、それぞれの章に合った曲を選んでいますので、後日、曲目を載せることにします。


相変わらずの自己満足に終わってしまったかな、との感が否めないのですが、第二部も一応は予定しています。少しでも読者からの反応があれば、創作意欲も湧くところですが、高望みせず、好きなことを好きなように囁いていけたらと思っています。


これから暫くは、また以前のクッカバラの囁きに戻ります。引き続きお楽しみいただけましたら幸いです。



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2023年6月4日日曜日

女 其の陸 « 解放 »

 





 思った通り、男からはすぐに返事がきた。小切手についての明確な回答はなかったが、「また友達になりたいと思っている。これまでの人生で君ほどの友人には巡り合えていない。昔の様に連絡を取り合いたい。」と書いてあって、そこに男の孤独を読み取り、彼女は暫し呆然としてしまった。


 いかに甘美な過去を持っていたとしても、人は過去に埋もれて生きていくことはできない。過去の思い出に縛られてしまい、手放すことをしないと、新しい何かをつかむことはできない。これ程単純で当たり前なことはない。しかし、頭で理解していても実際に行動するとなると、なかなかうまくはいかないことを、彼女は身をもって知っていた。彼女は以前、妻子ある男と深い仲になったことがあった。相手が家庭を持っていることは知っていたが、既に別居中であったし、出会い系サイトで知り合い、半年の交際期間で結婚したことを酷く拙速な決定だったと後悔していて、離婚を考えていると真剣な顔で言う男に狡賢さは感じらなかった。恐らく、その時点で男は嘘をついていなかったであろう。丁度冬枯れた森が芽吹き始める頃に二人は出会い、春爛漫な時期を経て、いつまでたっても日が暮れることのない夏を共に過ごし、誰をも詩人にするパリの秋を寄り添いながら枯れ葉を踏みしめつつ、関係を深めていった。街の至る所でノエルのイルミネーションが輝き始める頃には、彼女は男との人生を真剣に考え始めるようになっていた。ところが、ノエルを間近に控えたある晩、浮かない顔をしながら男は、小学生の息子から電話をもらったこと、ノエルのプレゼントはいらないが、パパに家に帰って来て欲しいと言われことを、ぽつりぽつりと語り始めた。小学生の息子が父親に自発的に電話をし、そんなことを言うとは考えにくく、恐らくは母親が仕向けたのだろうとは思われたが、意気消沈している男に対して、そんなことなら早く家に行ってあげればいいと言うしかなかった。そうして男は、すっかり冷めた関係にある妻と二人の子供の待つ家に帰って行った。その時に、彼女は男と綺麗さっぱりと別れてしまえば良かったのだが、家に戻った男との関係を愚かにも続けてしまったのである。何かを手放すことで、新しい局面に突入し、新たな展開が待ち受けているだろうことは、頭では分かっていても、彼との関係を手放すことができずにいた。


 人生において、すべてにはタイミングというものがあり、どう抗っても定められた運命は変えようがないのではあるまいか。押し寄せる波に逆らって、もがきながら泳ぐより、荒波に身を任せつつ体力を温存し、態勢を整え、次にうねるような大波が来た時に、その波のエネルギーを上手く利用し、龍の様に天空まで駆け上がれば、良いではあるまいか。自分の人生を振り返り、彼女はそんな風に思うようになってきていた。自己防衛の思想と言われれば、それまでではあるが、物事を肯定的に捉えることは、生きていく上で非常に楽な道であることは確かであった。一方で、渦中にあっては、その悟りをうまく活かすことができないことも、人間の愚かさであり、だからこその、愛しさでもあった。


 過去の思い出を未だに引きずり、こうして連絡をしてくる男を憐れに思わずにはいられなかった。幸せな思い出のみを抱えながら、人は生きていくことは出来ない。生きる目的を失えば、死を待つことしかなくなってしまう。


 返事をぐずぐずと出しあぐねていたところ、男から「返事がないが、何か気に障ることでも書いてしまったのだろうか。」という趣旨のメールが届いた。そうこうしているうちに今度は、満開の桜の大木のポストカードが送られてきた。庭の桜があまりに見事だったので、と書いてあったので、どうやら男が撮影したらしかった。



Loveliest of trees, the cherry now

Is hung with bloom along the bough,

And stands about the woodland ride

Wearing white for Eastertide.


Now, of my threescore years and ten,

Twenty will not come again,

And take from seventy springs a score,

It only leaves me fifty more.


And since to look at things in bloom

Fifty springs are little room,

About the woodlands I will go

To see the cherry hung with snow.


その時彼女は、自分が新たな波にもまれ始めたことを知る由もなかった。



.....................


これまでの章 

男 其の壱  « 覚醒 »

女 其の壱 « 記憶の断片 »

男 其の弐 « 確信»

女 其の弐 « 記憶の選別 »

男 其の参 « 願望 »

女 其の参 « 真実 »

男 其の肆 « 再生»

女 其の肆 « 渦潮»

男 其の伍 « 懐古 »

女 其の伍 « AI vs 人間 »

男 其の陸 « 実体 »


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2023年6月3日土曜日

男 其の陸 « 実体 »






 小鳥の囀りに導かれるかのように、毎日の日課になっている散歩に出た男は、考え事をしていたので、気が付くと森の入り口まで来ていた。時間に束縛される日々は、もう遠い過去のこと。特に予定があるわけではない。先日の雨で土はぬかるんでいるかもしれないが、とりとめもなく湧き出てくる思考が漸くまとまりかけていた時でもあったので、このまま森の中に入ってみることにした。そうして森に一歩足を踏み入れると、深緑の下草の絨毯が遠くまで広がり、一斉に芽吹き始めた樹木の枝が午後の太陽の光を浴びて新緑の世界を作っていて、男は思わず息を呑んだ。


 どんなに思考が停止していようと、どんなに落ち込んでいようと、時は巡り、こうして季節は移ろいゆく。そんな当たり前のことを目の当たりにし、大自然の中における自分の存在がいかにちっぽけなものかに思い至り、男は一人、声を立てて笑ってしまった。そして、この思いを誰かと共有したいとの熱い思いが込み上げてきた。彼女なら、何というだろうか。


 すると、ふと、ある思い出が男の頭に浮かんだ。


 幼い時に近所の友達と小川で遊んでいて、カエルに成長する手前の、前足と後ろ足が生えたおまじゃくしを見つけて、大喜びでバケツに入れて家に持ち帰ったことがあった。家に帰って、おたまじゃくしが入ったバケツを子供部屋に持ち込み、得意げに妹に見せびらかした。母親は気持ち悪がったが、妹は羨ましがって自分も欲しいとねだったものだった。ところが、夕方帰宅した父親がそれを見て、成長したおたまじゃくしなどではなくイモリだと言うので状況は一転した。母親が我が意を得たと言わんばかりに、家の中を這われたらかなわないと、すぐに小川に返してくるようにと冷たく言い放ったのであった。男は、これまで愛情さえも抱いていた生き物が、突如別の名前を与えられた途端に、グロテスクで奇妙な存在に思われ、触るのさえもおぞましく感じたことを今でも明確に覚えている。初夏とはいえ、外は夕闇が既に迫って来ていて、肌寒ささえ感じられた。その中を、腕を伸ばしてバケツをできるだけ遠くに持ち、泣きながら走って小川まで行き、バケツの中身を乱暴に放り出し、回れ右をして後ろを振り返りもせずに、出来るだけ早く家に戻った。ちゃんと小川に返したはずなのに、それから数日は、家の中にイモリが潜んでいて、床や壁を這っているのではないかと、びくびくして過ごしたものだった。


 突然頭を支配した幼少時代の思い出に、男は泣かんばかりに動揺してしまった。男の中では彼女の存在は、正に女神のようになってしまっているが、果たして、彼女の中での男の存在はどうだろうかと、そのことに今初めて男は思い至ったのであった。自分自身は変わっていないのに、勝手に成長したおたまじゃくしと思われ、もてはやされ、それがイモリという名称を与えられた途端、おぞましいものとして厭われる。なんだか自分が、あの時の生き物になってしまったように思われた。そして、男は優しい声一つかけてやらずに、手の平を返したかのように夜の暗い小川に放り出してしまった生き物のことを思い、後悔の念と懺悔の念に大いにかられたのであった。


 その時、一陣の風が吹き、下草は真っ白な葉裏を見せ、一瞬にして世界が変わったかのようになった。ハンチング帽は風に吹き飛んだが、男はそれを追うことをせず、風に吹かれるがままになっていた。どう取り繕っても、自分は自分でしかない。たとえ名前を変えようとも、真新しい衣服に身を包もうとも、この新緑の世界に佇む自分は変えようがない。それでいいじゃないか。


 男は手袋を外して、陽だまりに両手をかざした。そろそろ大きくなり過ぎた庭の月桂樹を、なんとかしないとと思い始めた。そうして、おもむろにハンチング帽を拾って被り直すと、今来た道をゆっくりと引き返していった。



.....................


これまでの章 

男 其の壱  « 覚醒 »

女 其の壱 « 記憶の断片 »

男 其の弐 « 確信»

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2023年6月2日金曜日

女 其の伍 « AI vs 人間 »

 




 今年の三月は、気温が早朝に氷点下に落ち込むといった、例年になく寒い日が続いていた。それが4月になる頃には急に暖かくなり、気が付いて見ると春爛漫となっていた。いつもなら、クロッカス、連翹、そして水仙など、先ずは黄色が春の訪れを告げ始め、次第にヒヤシンスが甘美な芳香を運びこみ、チューリップが黄緑色の硬い蕾を持ち始め、それが段々と赤、紫、白、黄と色付き始めると、さくらんぼ、レインクロード、クエッチ、ミラベルといった果樹の枝先が膨らみ、次々に華やかに薄桃色や純白の花を咲かせ、豪華絢爛の満開時期を経て、花吹雪が楽しめる頃に、今度は主役が梨、そして、林檎にと移っていくのが常だった。ところがどうだろう。今年は全てが同時に咲き始めた。ともすると、リラや牡丹まで一気に咲いてしまう勢いだった。


 のどかに春を愛でることなく、あわただしく時間ばかりが過ぎてしまうようで、彼女は小鳥たちが賑やかに囀る春爛漫の庭を見つめながら、溜息をついた。色々と考えを巡らせてばかりで、気が付いたら男から手紙をもらって、既に二週間もの時間が経っていた。


 未開封の手紙は、そのまま放置して埃を被ったままにしても、ちょっとした手違いでゴミ箱に入れてしまっても、所有権はもちろん、紛失時に於いての全責任は未だ送り主側にあるように思われた。ところが、一旦開封された手紙は、所有権がその時点で明確に受取人に移管され、適切な対応を迫られてしまう。そんな風に彼女には感じられた。知ってしまった者の責任、とでも言おうか。


 彼女は今、返事を書かねばならないと分かってはいても、何を書いていいのか分からずに困っていた。短期間とはいえ、ある時期深い付き合いのあった男からの15年ぶりの手紙。いや、それは手紙の体をなしていなかった。真っ白なレターペーパーの中央から上よりに、薄いグレーのシンプルな字体に大きめのフォントで、メールアドレスが記されているだけのものだった。そして何よりも、それを手紙として位置づけ難いものとしている最大の要因として、小切手が同封されていた。自分の名前が受取人として記載されている小切手を受け取りながら、返事をしない程の礼儀知らずではなかったし、それよりも何よりも何のために小切手が送られてきたのか謎であった。返事をせざるを得ない立場に追い込められたようで、なんだかやるせなかった。


 男はつまらない勝負に出たと、彼女には思われた。自分にしっかりと逃げ道を作っておく、狡賢い方法で。返事は高い確率でくる。しかも、返事の書き方で相手の心持ちを測ることができる。相手の出方次第で、変幻自在に自分の姿勢を変える。戦略としては、まったく潔くなく、美しいものではなかったが、逆に、弱気な男の情けなさが憐れに思われた。だからこそ、返事は書かねばならなかった。


 彼女は最近よく耳にするAIチャットアプリを使ってみることを思いついた。久しぶりの知り合いから手紙が来たので、お礼の返事を書きたい、小切手が同封されていたが、その理由が分からない、といったごく簡単な情報を伝えて、ドラフトを作ってもらうようにお願いをしてみた。


 「喜んでお手伝いします。」そう返事がきたかと思った途端に、カタカタカタと見ている間に文章が目の前に流れてきたので、彼女はあっけにとられてしまった。


 過日はお手紙をいただき、誠にありがとうございました。小切手が同封されておりましたが、大変申し訳ないことに、どの件に関してのことなのか見当がつきません。大変恐縮ではございますが、具体的にお教え頂ければ幸いです。お返事お待ち申し上げます。


 どんな相手であるのか、といった詳細情報は一切伝えてなかったので、非常に丁寧な、ややもすると慇懃無礼ではないかと思われる文章ではあったが、一つの提案としては立派なものだった。そして、この文章を訂正することで、自分が伝えたい思いが彼女自身にとって明確になるという効果があったことは、思わぬ拾い物であった。


 何度も修正し、最終的に非常に簡潔ながらも伝えたいメッセージがしっかりと込められているものが出来上がった。


 お元気でしょうか。お手紙をいただき、大変うれしく思いました。小切手が同封されていましたが、正直なところ大いに戸惑っています。この小切手は何の件でしょうか。よろしかったら、是非近況をお知らせください。お返事お待ちしています。


 英文メールの難しいところは、最後に記す結びの言葉だろう。変に仰々しくても良くないし、かといって誤解を招きそうなものも避けねばなるまい。若者同士の挨拶を使うのも変なものである。保守的と笑われようと、無難なものにするにこしたことはない。今回はAIチャットに頼ることなく、彼女は随分と悩み、何度も文章を読み返し、題名は「Hi」として、ポン、と送信ボタンを押した。


 こうして、遂にボールは相手側に投げ返された。



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2023年6月1日木曜日

男 其の伍 « 懐古 »

 





 明け方に入ってから霧のように細かい雨が降ったのだろうか。地面はしっとりとしていて、原っぱの芝生は柔らかく濡れそぼっていた。雨は音を消し、痕跡を消し去る。男の家に泥棒が入った日も雨降りの夜だった。同時に雨には独特のにおいがある、そう男は思った。地下鉄に乗っている時に、停車駅で雨のにおいを運んでくる乗客がいて、何度かはっとさせられた。雨上がりの道は土の香りがするし、森の中はいつも以上に草木の香りに満ち満ちている。


 男は小鳥たちの囀りの中、朝霞にけぶる小川に沿っての小径を散歩していた。男の思考は、雨のにおいから昨夜自宅のオーディオルームで聴いたレコードの演奏の間を彷徨った。


 男は、かつて栄華を誇った大英帝国や最強といわれた英海軍のことをむやみやたらに崇める人々を馬鹿にしていた。過去の栄光にしがみつく生き方しかできない人々を、憐れにさえ思っていた。進取の気性に富むことを良しとしていて、ロンドンを俯瞰できるロンドンアイ建設の際にも、賛否両論あったが、男は大賛成だった。携帯電話も仲間の中ではいち早く手にしたし、新しいモデルが発表されると、試してみたくなりすぐに買い替えたものだった。ハイテク分野では新しい技術が猛スピードで開発され、実用化されていった。その恩恵を享受できる時代に生きていることが嬉しかった。


 しかし、試乗会で電気自動車に乗ってアクセルを踏んだ時は、エンジン音が体に伝わってこないことに不満を覚えたのは確かだった。エンジン音に耳を澄ませながら、ギアチェンジをする醍醐味が得られないのであれば、最早自分で運転する意味はないのではないかとさえ思えた。ガソリン車と電気自動車は似て非なるものであり、まさに林檎と梨を比較するような馬鹿げた話だと思った。その時、男の頭の中で、何かがかちりと音を立てた。そして、昨夜も同様に、彼はかちりという音を聞いたのであった。


 男は自分でもピアノを演奏をするが、音楽を聴くことをこよなく愛していた。自宅にはグランドピアノがある部屋をオーディオルームとして、こだわりを持って厳選したスピーカーをしつらえていた。壁全体には本とCDがびっしりと並べてあり、わずかな空間にCDプレイヤーを置いていた。学生時代に愛用していたレコードプレイヤーは隅に追いやられ、埃を被っていたのだが、先日妹に会った際、母親が大切にしていたレコードを数枚手渡さていたことを思い出し、昨夜は久しぶりにレコードに針を落として、独り静かに母を偲んでの演奏会となった。レコードの針の音、録音時のノイズ、そういったいわば雑音が昔は嫌で仕方なかったのだが、昨夜は不思議なことに、柔らかで、温かな音として心に響いたのであった。気が付くと、男は静かに泣いていた。レコードは防音対策をしているスタジオでの録音でも、虫の音も入ってしまえば、レコードに針を置く時の音も聞こえてしまう。一方、CDの場合はノイズ処理が可能で、非可聴音域は全て切り捨ててしまうので、演奏のみの音を取り出して聴くことができるようになっている。一見、CDの方が優れているように思われ、男は実際、昨夜まではそう思っていた。それが、同じ演奏でもCDの時とは違って、思いの外魂が揺さぶられるほどに感動したのだから、男自身が驚いていた。耳で聴こえていない音域も全て録音されて流れてくるレコードの方が、身体全体で音楽を楽しむことができる、と言う事だろうか。


 一見効率的に切り捨て、改善に改善を加え、優れた物に達したと思われていたものが、実は大切なものをも切り捨ててしまい、総合的に魂に訴えないものとなってしまったのではなかろうか。かちり、彼の頭でまた音がした。早く彼女に会いたかった。膝を突き合わせ、彼女の体温を感じられる距離で話をしたかった。彼は天を仰いだ。散歩を始めた時は青空がのぞいていたが、今ではどんよりとした雲が低く空を覆い、小糠雨が静かに彼の額に降り注いだ。



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