2023年7月31日月曜日

誘惑

 





今にも泣きだしそうな空を見上げて、思わずジャンパーのファスナーを首まで引き上げる。こんな時は森に入ってしまって、鬱蒼とした木々に守ってもらうに限る。トンかもそう思ってか、軽快に森の小径を駆けていく。


森の中では、あちこちの繁みに入り込んだり、藪の中で探索したり、リスを追いかけたりと、トンカは自由に走り回る。そして、遅れを取り戻すかのように猛スピードで追いつき、追い抜き、急ブレーキをかけてスピードを減速し、あたかも今まで一緒に歩いていたよね、のポーズで数歩前を歩きだすことが常だった。


その日も、森に入ると一瞬にして姿を消してしまったが、特に気にも留めずに歩き続けていると、暫くして左の奥からトンカが優雅に目の前を走り抜けて行った。いや、トンカではなかった。トンカと同じ栗色の毛色をしているが、体躯は3倍、いや4倍ぐらい大きかったし、何しろ、頭に角がついていた。若い牡鹿ではないか!


あまりの美しさに見惚れてしまう程だった。


トンカが若い牡鹿の魅力に引き込まれ、その後を追いかけて行ってしまうのも、大いに納得がいった。いつもなら、鹿の後ろにトンカの追いかける姿を見るのだが、今回は牡鹿に気を取られたからだろうか、トンカの姿は見えなかった。それでも、あの若い牡鹿と一緒に駆けていくトンカを想像することは容易だった。


トンカの幸せを思った。果たして人間界で狭い空間に閉じ込められ、人間の都合でしか森で遊ぶことができない今の生活は、幸せなのだろうか。どこか野性味を残すトンカの瞳は、いつだって飼いならされることを自戒しているように思われる。それでも、自然界に放ったところで、草の実や木の実を食べて生きていくことが出来るのだろうか。


しばらく茫然と立ち尽くしていると、遠くから枝を踏みしだく音が聞こえ、トンカの姿が現れた。いつものように猛スピードで追いつき、追い抜くと、急ブレーキを掛けて減速し、数歩前を歩きだした。


トンちゃん、戻って来てくれたのね。トンカの斜めにピンと立ち上がった威勢の良い尻尾を見つめながら歩き始めると、万感の思いが込み上げてきて、いささか大袈裟ではないかと思いつつも、あやうく落涙しそうになる。さあ、行こうか!



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2023年7月28日金曜日

西へ

 





もう夏は過ぎてしまったかのように、吐く息が白い朝を迎える日が続くと、庭のミラベルやクエッチが気になりだす。せっかく今年は豊作となりそうで、枝にたわわにぷっくらとした青い実がなっていたのだが、夜中じゅう降りしきる雨や、激しい風で熟さぬ前に地面に落ちてしまいそうで、気が気ではない。


それでも良く思い起こしてみれば、パリの夏はいつもこんな感じではぐらかされてしまうのはなかったか。フランスに留学した最初の夏こそ、暑い日が続いたものだったが、あれは例外的な猛暑で、普通の家庭には冷房設備はなく、今でこそ普通車に冷房機能が備わっていることは当たり前になったが、当時は車に冷房機能などなかったし、必要でもなかった。


先日のことだが、朝の散歩の途中で、大層けたたましく鳴きながら飛んで行く鳥の群れに、トンカと一緒にあっけにとられて空を見上げたことがあった。鳴き声と、体長や色合いから、恐らく灰色ガンと思われる。確か「ニルスの不思議な旅」でニルスが乗って旅をしたのではなかったか。彼らが向かっている方向には、大きな沼地があったと思ったが、ひょっとしたらモネの生家のあるジヴェルニーあたりまで飛んで行くのではないかしら、と思った。


そうこうしていると、他にも、どんどんと別の鳥の群れが、やはり灰色ガンの群れが飛んで行った方向を目指して、一直線に飛んで行っている。一体何があるというのか。あちらは、日が沈む方向、つまり西である。西に、西に行けば、そこはもうブルターニュ。


おおい。鳥たちよ。ブルターニュの海にある小さな島にちょっと立ち寄ってくれないかい。そして、潮風に吹かれながら青い空を見つめているだろうパピーに、こんにちは、って挨拶をしてくれないかい。お元気ですかって、聞いてくれはしまいかい。今年の夏は、バッタ達がそれぞれに忙しくて、遊びに行くことは叶いませんが、きっと時間を作って皆で会いに行きますって、伝えてくれはしまいかい。


西へ、西へ。


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2023年7月25日火曜日

ある夏の朝

 





日本はどうか知らないが、フランスでは学校のバカンス時期になると、公共交通機関の運行数が極端に減らされる。利用者数が減ることもあろうが、運転手もバカンスを取得することが大いに関係していると思われる。


観光客など見込めない市内のバスなどは、3分の1程に減らされてしまう。それでも、車での通勤者数も減ることから、交通のコンディションは渋滞とは程遠い状況なので、公共交通機関を使う通勤者の足への影響は僅かに抑えることが出来ている。と、思う。


それでも、例外はある。


いつも7時4分のバスに乗っていたのだが。バカンス時期に突入し7時台の最初のバスは17分にしかなく、それでも、ぎりぎり7時半の電車に乗ることが出来ていた。ところが、ある朝、運転手にしきりに話しかける初老の男性が一番前の席に陣取っていた。奥の席に座っていたので、何を話しているのか聞こえないが、運転手は親切に答えている。


このところ、ヒートパイプ網を敷設するとかで、あちこちで道路工事をしており、通行止めの場所も出てきて、バスのルートが変更されている。そのことを知らずに乗車してしまい、停車場所の確認をしているのかもしれないな、と最初は軽く思っていた。


ところが、毎回別のバスとすれ違う度に、運転手はバスを止め、相手の運転手と会話をし、くだんの男性に話をし、男性は別のバスに移動するのかと思えば、また戻ってくる、といったことが続くと、一体どうしたのだろうと思う気持ちと、遅々として進まない運行状況にいらいらとする気持ちを抑えられなくなってしまっていた。


状況に溜息を付いている隣のマダムに、初老の男性は何に困っているのかご存知ですか、一体何が問題なのでしょう、と問いかけてみた。


どうやら、始発のバスに乗って。忘れ物をしてしまったらしく、すれ違うバスの運転手さんに忘れ物がなかったか尋ねているらしい、とのことだった。そして、ちょっと哀しそうな表情で、初老の男性を個人的には知らないが、近所に住んでいて若干痴呆の気があるのですよ、と囁いた。


そうか。運転手も、きっとそのことを知っているに違いない。こんな時に限って、ある停車場で切符の所持確認をするコントローラーが入って来たが、彼らも非常に親身になって対応していた。


いらいらとしていた気持ちが、ふっとんでしまった。電車が一つ、二つ遅れたとしても、大したことではないではないか。バスに乗車している人々が、皆。とても寛容に思え、一人だけイライラとしていた自分を大いに恥じ入った。


バスから降りて、駅に向かいながら、いつもの空がいつも以上に大きく、そしてより青く感じられた。



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2023年7月24日月曜日

雨上がり






雨上がりの森は、いい。


しっとりとした地面からは、やわらかな土の香りがして、草木は濡れ輝いている。鬱蒼とした緑のトンネルをくぐると、ぱっとハッカの香りが立ち昇る。


幼い時に、近所の神社のお祭りで、何度も何度も屋台の前を往復して、漸く決めたハッカパイプ。あの香りに間違いない。


トンカも爽やかな香りを楽しんでいるかのように、上を向いて鼻をしきりにひくつかせている。


風が吹くと、ぱらぱらと小気味よい音と共に木々の葉から雫が落ちてくる。森に生気がよみがえり、鳥たちがあちこちで羽ばたき始める。


雨上がりの森は、いい。



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2023年7月23日日曜日

涼風会席






トンカをこよなく愛してくれる犬の師匠である友人が、スライサーを安く手に入れたので、お試しということで豚肉の薄切りを差し入れしてくれたことがあった。丁度息子バッタが帰って来ていた週末だったので、早速生姜焼きにして有難くいただいた。


フランスでは薄切り肉は簡単には手に入らないので、我が家でしゃぶしゃぶやすき焼きをしたことはなかったが、これは楽しめるのではないかしら、と友人を誘ってみたところ大いに乗り気になってくれた。そこで、共通の友人でもある、ご近所のマスターを誘って、3人で鍋を囲むことになった。


しゃぶしゃぶ鍋などないが、フォンデュ鍋ならあると思っていたが、さすがご近所のマスター、土鍋もコンロもあるので持参してくれるというではないか。一気に盛り上がったものの、この暑さ。鍋で暑気払いとも言えなくはないが、今回は冷しゃぶとして、寒くなった秋にも、改めてしゃぶしゃぶ鍋にしようかと提案してみる。


ところが。友人二人とも、材料さえ揃えば他にすることがない鍋の魅力断ち難し、とのこと。しかも、唐辛子たっぷりのキムチ鍋にしよう、などと恐ろしいことを言い出す始末。よっしゃ。しゃぶしゃぶ決行で結構。


果たして、ご近所のマスターが土鍋とコンロ担当、犬の師匠が食材担当、不肖私めが鍋のスープ担当となった。豆乳鍋にしようと、色々と楽しく検索。最終的には胡麻豆乳鍋とし、唐辛子ペーストを薬味にして、辛味が好きな友人たちのリクエストに応えることにした。


【胡麻豆乳鍋の出汁作り】

たっぷりの水に昆布を一晩漬けておき、うまみを引き出す。せっかくなので、ゆっくりと煮て、沸騰寸前で昆布を取り出しておく。

・摺り胡麻 大匙4(今回は我が家にあった黒胡麻使用)

・練り胡麻 大匙1

・キビ砂糖 大匙3

・自家製味噌 大匙1.5

・塩 小匙1


以上を練り合わせ、昆布出汁に溶かし込む。溶け込んだことろで、昆布出汁の半分の量の豆乳、醤油(大匙3)、胡麻油(大匙1)を入れる。これで1.2リットル程度の出汁が完成。薬味として、マグレブのアリサ(唐辛子、ニンニクのペースト)を準備。


この日、犬の師匠が持ってきてくれた食材

・薄切り豚ロース(美しいピンク色)

・白菜、青梗菜、韮、エリンギ、エノキ、豆腐、葛切り、〆のお饂飩


土鍋がぐつぐつと頼もしい音を立て始めると、胡麻の香りが立ちあがり、アリサの刺激的な香りも手伝って、皆の顔は興奮に輝き出した。待ちきれずにピンク色の薄いお肉をしゃぶしゃぶっとし、口に入れてみると、暑さもふっとぶ程に美味。その後、三人ともおしゃべりに夢中になりつつも、箸を休めることなく、大騒ぎで大いに楽しんだことは言うまでもない。しかも口々にお腹がいっぱいと言いながらも、〆のお饂飩はちゃんとお腹に収まってしまった。


途中で、前回好評だった氷皿にて、今回はきゅうりの桂剥きで梅酢玉ねぎとサーモンを巻いた箸休めを提供。デザートには、粒餡で作った水ようかんを用意していたので、皆で勢いで食べてしまったが、恐らく水菓子あたりが良かったのでは。庭の枇杷があれば最高だったけれど。


こうして、名称は涼風会席なれど、実際は熱々の鍋料理。それでも、真夏の夜の夢ならぬ、真夏の夜の宴。最高!また是非、皆で集まろうと笑顔で日付が変わる頃に解散。暑くても、皆で囲む鍋、おすすめです。



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2023年7月21日金曜日

雨を待つ

 




このところ、猛暑とまではいかないが、とにかく雨が降らない日が続いている。パリ程天気予報があたらない場所はないだろうし、そして、空模様が頻繁に変わるものだから、誰しもが天気予報をあてにしなくなる。それなのに、つい毎朝見てしまうのは、トンカとの散歩があるからだろうか。


気温が30℃を超えそうな時は、南に面したシャッターを下ろして外出しないと、留守番をしているトンカが煮え上がってしまう。雨が降りそうな時には、全ての窓がちゃんと閉まっているか確認する必要がある。


天気予報情報によれば、午後の降水確率が80%であったとしても、いつの間にか20%となり、次第に0%になってしまうことも少なくない。だから、森の中は乾燥しきっているし、地面がひび割れしている場所も出てきている。下草は焦げ茶色だし、藪を形成している植物は項垂れている。


それが、久しぶりに昨晩は静かな雨音が聞こえていた。朝には既に大地は水分を吸い取ってしまったかのように乾いてはいたが、トンカの足取りにもしっとりとした優雅さを感じることが出来た。草原も青々とした香りが匂い立っていた。


もう少し雨が降ってくれないものか。そうしたら、出来損ないの折り紙の様にくちゃくちゃにたたまれた私の心も、湿り気を帯びてふわりと膨らむだろうのに。




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2023年7月19日水曜日

アリドオシ

 





最近、散歩の途中でトンカが模範的なお座りの姿勢をとる場所がある。最初は、いつもの「もう動きません」の頑固な意思表示かと思ったが、どうでもそうではないらしことは、表情を見て分かった。意地っぱりではなく、素直な優しい表情をしていた。


そして、トンカが模範的に座す脇に、小ぶりな広葉樹の低木があることに気が付いた。びっしりと濃い緑の葉で覆われていたが、隙間から小さな赤がちらちらと窺えた。手を伸ばしてみると、意外なことに枝にはたくさんの細いながらも固く鋭い棘が生えていて、進入を拒んだのである。


小さな赤は、さくらんぼよりも一回り小さい林檎のような硬さを持った実だった。そんな実が幾つが枝についているのである。棘を上手に避けて、赤い実をぷつっと枝から失敬すると、待っていましたとばかりに目を輝かせて、それでも直立不動のようなお座りの姿勢を崩さずにいるトンカに差し出した。


トンカは厳かに、その赤い実を口に入れると、大いに満足そうにして、再び歩き始めた。


トンカがこのような行動に出なければ、見落とすことだった小さな赤い実。そういえば、我が家の庭にも似たような枝が生えてきていて、伐採する時に枝に棘があることに驚いたことを思い出した。あれは、こんな可愛らしい赤い実をつける低木だったのか。


さすがのトンカも、赤い実の魅力に、密集した枝の中に首を突っ込んだものの、堅く、細長い棘に行く手を阻まれて、無念と思っていたのかと思うと可笑しくなった。そして、私の助けを上手に引き出した姿に一層の愛おしさを感じてしまう。


同時に、人間は野生の牙をこうして丸くしてしまうのだな、と自分の行為に僅かながらの後ろめたさを感じてしまったことも事実。


こうして、暫くは散歩の途中でちょっとした儀式が楽しめることになった。赤い実の正体はなんなのだろう。ネットで検索してみると、アリドオシなのかもしれないと思われた。しかしアリドオシとは、なかなか乙な命名ではあるまいか。ね、トン。さあ、行こうか。



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2023年7月14日金曜日

冷製3点 箸休め

 






近所の友人から、プチ女子会に誘われる。仕事で忙しければ手ぶらでどうぞ、とのことだったが、せっかくだから何かを持って行こうと思案。三日後というショートノーティスなので、恐らく誰かの代打。であれば、ちょっと手抜きでも許してもらえようか。


猛暑が続いていたので、ここは冷製の箸休めなど、どうかしら。ちょうど自家製の松の葉で作った清涼飲料が、飲み頃に仕上がっているので、きりりと冷えた白ワイン1本も携えて行こう。


先ずは、サーモンの胡瓜巻き。

玉ねぎはスライスにして、梅酢に漬けておく。きゅうりは薄く縦長にスライス。そこに、玉ねぎを並べ、サーモンを置き、しっかりと巻き上げる。


二点目は、ズッキーニのカナペ。

ズッキーニは太目の輪切りにし。オリーブオイルで両面に薄っすらと焦げ目がつく程度に焼き上げる。冷えてから、クリームチーズを載せ、一つはイクラ、一つはプチトマト、そしてシブレットやコリアンダーで飾りつけ。


三点目は、海老とグレープフルーツの盛り合わせ。

グレープフルーツは実だけ切り出し、ウォッカとミントで風味付けをしておく。茹で海老は殻を剥いておく。


さあ、ここまでなら、簡単、簡単。一ひねりが欲しいところよね、そう思いながら、トンカと森で散歩していた時に、突然閃く。そうだわ!緑濃いシダの葉、紫蘇の花に似ている赤紫の花穂を失敬すると、背中のリュックにしまい込む。


うきうきしながら、家に戻り、大きなバットにたっぷりの水を入れ、シダの葉と花穂を浮かべ、冷凍庫に!願わくは、しっかりと凍っておくれよ。


さあ、さあ、お立ち合い、お立合い。どうかしら。ちょっと、盛り過ぎちゃったので、シダや花穂入りの氷のお皿が分かりにくいけれど、女友達との楽しい夕べに持っていく一皿としては、上出来なのでは、と自画自賛。ふっふっふ。





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2023年7月8日土曜日

深読み

 




大学時代所属していた自転車部のOB会の大先輩から、久しぶりに紀行文が届く。毎年のようにご夫婦で世界中を旅行していて、その度に川柳を散りばめた、舌鋒鋭い、紀行文をお書きになっていた。数年前にパリにいらした際にお会いしたことが縁となって、以来ずっと送っていただいていた。


ところが、二年前に奥様を失くされ、形見となってしまった老犬の世話があるので、と遠出をなさらなくなったご様子だった。最愛のパートナーを失ったことで、がっくりとなさっているのだろと心配をしていたが、今回、久しぶりの持ち前のパワー漲る毒舌が効いている文面に接することができ、大変うれしく感じた。


しかしながら、先輩のメールの文章に、どうしても心引っかかるものを感じて、それが棘の様に残っていて、どうもかなわない。昭和の世代と言えば良いのだろうか。日本的な儀礼的な表現方法であり、書き方と言えば、それまでなのだが、「分不相応」との言葉に違和感以上の嫌悪感さえ抱いてしまった。


「小生としては分不相応に格式の高い温泉旅館に一泊してきました。」


先輩の文章を揶揄するつもりは毛頭ない。しかし、それなら、私がフランスに今いることは「分不相応」なことではあるまいか。離婚したというのに、一軒家に住んでいるということは、「分不相応」なことではあるまいか。と、なぜか怒りの思いさえ感じてしまうので、自分自身でも戸惑ってしまった。


悶々としていると、ふっとある思い出が鮮やかに蘇った。


はるか昔、高校一年生の時に、中学時代の元同級生に年賀状を送ったことがあった。当時も今も、地元の中学を卒業後、電車に乗って市内の高校に行くのだが、進学しない生徒もいたり、いわゆる進学校と、そうではない高校もあったり、男子校、女子高と分かれていたりするなど、同じ高校に通う中学時代の友人は多くはなかった。


女子高に通っていたこともあり、特にボーイフレンドなどいなかったので、中学時代の男子の元同級生に年賀状でも送ろうといった気軽な思いではあったが、それでも、返事を心待ちにしたことは確かだった。


嬉しいことに、賀状の返信は届いたのだが、文面に「天の上の人になってしまった貴女」といった表現がなされていて、一体何を言っているのだろうかと訳が分からなくなり、目の前が真っ暗になったものだった。


どうして、こうやって人は線を引くのだろう。哀しい思いが一気に押し寄せた。


葉書一面に小さな文字で書かれた文面は、意地悪な様子も、ちゃらんぽらんな感じもなく、むしろとても真面目に、丁寧に書かれていて、そのことがなおさら辛かった。中学時代にお互いにひかれているだろうことを感じていたからこそ、賀状を送る気になったのだが、そして、文面では彼も少なからず好意を寄せてくれているだろうことは分かるのだが、決して手を差し伸べるものではなかった。


実家に帰ることがあっても、郷里の友達と会うことはない。同級会など、あるのかないのか。


こうしてみると、大先輩は「分不相応」としながらも、その老舗の温泉旅館に宿泊をしているという事実が非常に重要なことに思えてきた。それこそ、先輩らしいではあるまいか。いつもよりも短めの紀行文には、温泉旅館の施設やサービス、お料理については一切言及されていなかったが、奥様がお元気な時に、一緒に来たかったな、との思いが行間から溢れてくるようでならなかった。


どうやら、深読みをし過ぎてしまっているようなので、この辺で、そろそろトンカと森に行くことにしようか。何も考えずに、緑の風に遊ぶことにしよう。



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2023年7月7日金曜日

ララバイ

 




珍しく階下でトンカが吠えていた。既に「お休み」と言って、あらゆる電灯は消し、二階に上がって来てしまっている。こんなことは滅多にない。ひょっとしたら、それこそ滅多にないことながら、夜に電話をしていたから、声が響いて起きだしてしまったのかもしれなかった。電話と言っても、携帯で友人と週末の食事会の打ち合わせで、数分で切ってしまったのだが、思いの外声が大きかったのかもしれなかった。


暫くしたら、トンカも吠えることに飽きてしまい、大人しくなるだろうと思っていたが、どうもスイッチが入ってしまったのか、自分の声に却って興奮してしまっているのか、吠え続けている。


バッタ達が幼い頃のことを思った。基本、夜の8時にお休みをしたら、その後どんなに泣いても相手をしないことにしていた。寝る時には決まって「眠れ、眠れ」とシューベルトの子守唄を歌ったものだった。


意を決し、階下に降りる。トンカは待っていましたとばかりに暗闇で歓迎してくれた。先ずは落ち着かせねばなるまい。バッタ達の時と同じように、シューベルトの子守歌を歌う。


眠れ 眠れ 母の胸に 眠れ 眠れ 母の手に 快き 歌声に 

眠れ 眠れ 母の手に


トンカはいつもの自分の場所に戻ると、静かになった。果たして、どれだけの効果があったのだろうか。暗闇と思っていたが、耳を澄ませば外の音は聞こえるし、シャッターの隙間から光が差し込んできていて、暗黒の世界とは程遠い。


それでも、明日は来るのだから、もう眠ろうね。そう言って、静かに部屋を後にする。お休み、トンちゃん。安心して、眠ってね。


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2023年7月5日水曜日

戸惑い

 





SNSを媒介したアプリで情報を発信したり、閲覧したり、通信し合ったりすることが多い昨今だが、多種機能を備えていることにによる性格上、ちょっとしたことで思わぬ落とし穴に嵌ることがある。


例えば、メッセージを送った相手に確実に届いている筈なのに、反応が暫く全くない時がある。その相手の最終接続日時が分かるとなれば、相手と文面によっては、なんだかそわそわしてしまうことになりかねない。


一方で、逆の立場になれば、疲れていたり、忙しい時にメッセージをもらっても、すぐに返答できない時も当然ある。それでも、何らかの反応をしないと無視をしているように思われてしまうのではないかと、神経質となり、頻繁にメッセージの有無を確認することにもなりかねない。


そういったことへの対応として、アプリに接続した日時が分からないように設定したり、既読・未読を示さないように設定したりできるようになっている。


当然ながら、他にも多くの機能がある。例えば、交信記録の保存期間の設定などが挙げられよう。近所の犬の散歩仲間による多人数のグループなどでは、活発に情報交換するが、大抵はその日の散歩の約束であったり、猪出現などの喚起を促す情報であったり、迷子の犬の情報といったもので、一ヶ月もすれば情報としての価値がなくなる類のものであり、一か月後には交信記録を削除する、といったことは非常に合理的と思われる。


ところが、である。ある知り合いが、その交信記録の保存期間を24時間に設定してきたものだから、驚いてしまった。当初は何かの手違いかと、こちら側から設定を解除したのだが、数日もすると、改めて設定されていたので、手違いではないことが判明した。


当然本人に確認すれば良いだけのことなのだが、そこまで頻繁に連絡をし合う間柄でもないので、そのままにしておいた。すると、先日、久しぶりに連絡があり、簡単な近況報告をし合い、近所に寄るので会わないかと誘われた。生憎、地方の友人宅に週末遠出をしていたので、その旨を伝えると、いつ戻ってくるのか、と聞かれた。


友人宅であったこともあり、どこかに行くことになって、返事をせずにそのままにしてしまった。と、翌日にはそのメッセージは跡形もなく消えていた。もちろん、こちらからの返信も綺麗になくなっている。それは、そのように設定しているのだから、当然のこと、と言えばそれまでだが、愕然としてしまった。


会おうという気持ちがすっかりとなくなってしまったことは言うまでもない。返信もする必要がない気がして、今に至る。


仕事上交信の相手が多く、携帯の保存容量が少ないといったことが、保存期間設定の背景として推察できなくはないが、どうなのだろう。仕事の相手だったら、スムーズに進む交渉も暗礁に乗り上げることもあるのではあるまいか、と余計な心配までしてしまう。


興覚め、と言えば良いのか、機微に疎い、と言えば良いのか。なんだか相手に真摯さが欠如しているのではないか、簡単に言葉を翻すのではないのか、不誠実なのではないか、などと穿った見方をしてしまいそうになる自分に戸惑っている。



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2023年7月4日火曜日

おねだり上手





森を小鹿の様に駆け抜ける時のトンカは、野生動物そのもの。生き生きとしていて、躍動感があって、見惚れてしまう。森では当然のことながら、リードは付けていない。しかし、朝の散歩のときは、どうしても時間の制限があるので、お互いの精神衛生上の為にもリードを付けることにしている。


朝の散歩は30分で切り上げることにしているので、その間に新鮮な朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、駆け回り、小動物の残り香を楽しみ、美味しいものが落ちていないか確認をし、小鳥たちを追いかけ、用を足すことができるルート、となると限られてしまう。


「足るを知る」ことは、自覚の有無にかかわらず、恐らく多くの人々にとり生涯の課題であろうが、それは動物にとっても同じことの様で、


と、ここまで書いて、重大なことを見落としていたことに気が付いてしまった。


欲望とは動物的な本能であり、理性によって制御するものであって、動物にそれを求めることは大いに酷なことなのではあるまいか。


まあ、今は取りあえずは深く追求せずに、事象だけを追うことにしようか。


そう、トンカは朝の散歩のルーティーンに飽き足りない時があって、そんな時はピタっと立ち止まり、梃子でも動かない。そして、目で訴えてくる。最初は、ひょっとしたらこの先は噂の猪の親子がいるのかもしれず、それで別の道を通りたいのかもしれないとか思ったものだが、どうやらそんなことでもないらしい。


トンカの傍に行くと、我が意を得たと言わんばかりにさっと別の方行に歩き出す。


とんちゃん、それってただの我儘じゃない?


それでも、前脚を美しく揃え、上品に立ち止まり、ぴたっと視線を合わせておねだりポーズをするものだから堪らない。できることなら、トンカのわがままを叶えてあげたいが、忙しい朝のスケジュールを思えば、無理な相談。心を鬼にして、一瞬ぴっと強くリードを引き、こちらの思いを伝える。


夕方の散歩の時に好きに遊ばせてあげるから、今はいつものコースを行くわよ。


こうやって、トンカは上手に夕方の散歩の約束を取り付ける。おねだり上手なトンカ。トンカから学ぶことは、尽きないな、と笑みがもれる。



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