2012年12月27日木曜日

知らない街




迷路のような通りがどこまでも続き、
どこも同じ通りに思えてしまい、
迷子になった感覚に陥る。

行き交うバイクの音が
どこの通りでも同じように賑やかで、
歩行者すれすれに擦れ違うので
余計にどこも同じ通りに思えてしまう。

判読しようと頑張れなくもないが、
やはり意味不明の看板の波も
目印どころか、どこでも同じ雰囲気を齎している。

時には、そんなことも悪くない。

目的のない歩み、
時間に迫られない足取り。

緊張で呪縛されていた心が
ゆっくりとほどけていく。

のんびりするのも、悪くないよね。
そっと呟いてみる。



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2012年12月23日日曜日

冬のセーヌ河




底の見えない、てらてらと黒いセーヌを覗き込みながら、
天気予報はやはり当てにならない、と身体を震わせる。

橋の上では、
パリに向かう車が、思った以上にすぐ脇を猛スピードで駆け抜ける。

所在なく、車の往来を眺めながら、
ああ、この感覚は以前にもあったな、と思い当たる。

もう10年以上前のこと。
日本では学生時代に一度で路上試験にパスしており、
ちょっと自信のあった運転免許。
馬鹿なことに、フランスの免許と交換する時期を逃してしまい、
フランスで新たに免許獲得をすることになる。
ところが、緊張からか、試験の方法が全く違うからか、
どうも上手くいかない。
何度も悲しいほどに落ちてしまう。
もはや、フランスでは運転できないか、と思うまでになる。
が、
街は車で溢れていて、それこそ老若男女、誰もが運転をしている。

これだけの人が、あのひどく緊張する試験を突破している、という事実に愕然とし、
同時に、強い心の支えとなる。
いつか、私も、彼らの仲間入りができるはずだ、と。

クリスマスが差し迫る冬空の下、
業務用のトラック、ミニバン、軽自動車、セダン、
賑やかに走り去って行く。

彼らの多くは、皆、仕事を持っているのであろう。
そう、
多くが就業しているはず。

そう思うと、ちょっとだけ心が軽くなった気がする。



関連記事: 満月の夜に


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2012年12月18日火曜日

三日月がかかった、ある夜の会話




ママ、『操』って、男性に対して女性が貞操であることなの?

ええっ?
ぎょっとする。
いやぁ、確かに、そういう意味もあるけど。。。
しどろもどろになる。

15歳になった長女バッタ。
陸上の練習を終え、夜の8時半に帰ってくるなり、手も洗わずに勢い込む。

どうやら、車に乗せてくれた友達のお母さんが日本人で、
そんな話題になったという。
女の子4人を相手に、なんと高尚な。
しかも、それをフランス語で流暢にしたというから、唸ってしまう。
私が迎えに行くときには、
女の子たちは、疲れ過ぎて無口か、空腹で話題は食べ物のことばかり。
どこぞのピザ屋は生地がカリリとしているとか、
この間観た映画に、こんな食べ物が出てきたとか。

長女バッタの視線が痛いほど突き刺さる。

いろんな意味があるけど、
あなたのセカンドネームの『みさお』は漢字ではなくて、
ママのお祖母ちゃんの名前から取ったのよ。
ママはみさおお祖母ちゃんが大好きで、とっても立派は方だったから、
あなたも、みさおお祖母ちゃんのようになれば、との願いが込められているの。

じゃあ、その、みさおお祖母ちゃんって、どんな人だったの?

えっ?
あ、ああ、そうね。
いつも東京から遊びに来てくれる時、
鞄の中から、アンパンが出てきたり、氷みかんが出てきたり、
とっても楽しみだったわ。
それから、お風呂に入ると、いつも「ごしょらく、ごしょらく」って言っていたのよ。

いやいや、
そんなことでは、みさおお祖母ちゃんの立派さは伝えられない。

さあ、ご飯を食べて、先ずは落ち着いて。
そうしたら、ゆっくり、お祖母ちゃんの話をするからね。

そう言いながらも、
久しぶりに思い出が、最初はゆっくりと、うっすらと漂うようであったのが、
次第にどんどんと溢れ出し、
しまいには、幼い記憶とともにどっと押し寄せて、
どっぷりと漬かってしまい、
長女バッタには語らずじまい。

そうね、
今度、一緒にお風呂に入って、後生楽、後生楽と唱えながら、
少しずつ話していこうね。
もう、ママとは一緒に入らないわよ、なんて言わないで、さ。






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2012年12月17日月曜日

心の緊張



これで今日、何度目のお茶だろう。
香辛料入りのブラックティー。
いつものお店で、何気なく目を走らせた嗜好品コーナー。
初めて見つけた香辛料入りのティーパック。
ひょっとしたら、
ノエルのパーティー用なのか。

その香りを味わう余裕もなく、
つい携帯を覗き込んでしまう。

メッセージは来ていない。

どうしてだろう。

最後に会ったときの様子を思い浮かべる。
最後にもらったメッセージを読み直す。

考えても始まらない。

一日が長く感じられる。

洗濯機を回し、
買い物をし、
軽くブランチをし、
洗濯機を回し、
掃除をし、
メールをチェックし、
洗濯機を回し、
集まりに出かけ、
戻ってくると、
バッタ達もパリから帰ってくる。

慌しく、バッタの父親とバッタ達の学業の話をし、
なんだか、嫌な雰囲気になり始めたところ、
長女バッタが泣きべそをかき、
父親が怒り始めた様子を何とか抑え、
話を前向きな展開に変える。

息子バッタのプレゼン能力の欠如の対策について一くさりあり、
末娘バッタに関しては、彼女のフランス語能力の補強について、
注文が出る。

まあ、分かっている。
我が家は日本語が使用言語。
バッタ達は仏語での会話こそネイティブだが、
やはり、何か欠けてしまうのであろう。
いや、
フランス人の父親としては、物足りなさを覚えるのであろう。
不安なのであろう。

そんなこと、分かっているだろう。
それを承知で出て行ったのだから、
バッタ達の能力うんぬんではなく、
環境を考慮し、
仏語のサポートが必要であると直接言ったらいいではないか。

ただ、
そのサポートを探すのも、依頼するのも、
私なのかと思うと、ちょっとうんざりする。
が、
バッタ達のためならば、
喜んでしようじゃないか。

そう前向きになるには、
私とて、ちょっとしたクッションが欲しい。

勝手に出て行った父親に、
言われたくない。

まあ、まあ。
そうカリカリするな、と
心では分かっている。

と、
息子バッタが後ろから抱き付いてくる。
彼なりのサポートなんだろう。

そうして、
漸く、話がまとまったところで、
今度は私の仕事の話となる。

つい熱が入る。
気がつくと、もう夕食の時間。
準備もしていない。

そそくさとキッチンに行き、
人参を洗い始める。

有意義な時間だったのか、
いらいらの時間だったのか、
よく分からない時間をなんとかやり過ごし、
かぼちゃと人参のスープ作りに専念する。

ちらっと携帯を覗く。
何のメッセージもない。

それからは、
バッタ達との夕食、
末娘バッタが明日発表をする内容のチェック、
長女バッタの国語の宿題のフォロー、
書類の処理、
と、
時間は瞬く間に経ってしまう。

そうして、
午後の集まりの内容を反芻し、
気がついたポイントを書き出し、
メールで意見交換をしていると
もう寝る時間に。

放り投げたベッドの上の携帯を
今日、もう何十回目になるのか、チェックする。

ああ!
一つ受信。

元気だったんだよね。
心配したよぉ。

心の緊張がゆっくりと解けていく。
弛緩。。。

すべてのことに感謝したい気持ちがじんわりと湧いてくる。



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2012年12月14日金曜日

人を信じる~マイナス10度のチューリッヒにて



一体、この方はどうしてしまったのだろう。
いや、私が意地悪な性格になったのか。
思い巡らせど、気分がぐったりする。

確かに、ここフランスに来て20年。
日本人らしさが薄れたと言われれば、そんなものかと思うしかない。
が、その相手の言うところの日本人らしさ、とは、
我を通さずに人を思いやる気持ち、というから、どう返事をしたら良いか困ってしまう。つまり、私には、その人を思いやる気持ちが欠如している、と言うのか?

日本からいらっしゃる大切なお客様。
小雨降る中も、朝一で北駅くんだりのホテルまでお迎えに上がっている。
勿論、北駅くんだり、などとは申し上げないし、そんなことは微塵も見せないようにしている。弊社からお車も出している。

確かに、あの日はスケジュールが過密で、
かつ、担当者のミスで引越し前の住所が記載されていたから、
企業訪問の約束の時間に20分遅れとなり、
その割には、長いこと話をしたので、押せ押せで次のアポに駆け込んだため、ランチの時間がなかった。
漸く時間が空いた夕方、
目敏く見つけたスタバで、チャイラテを、と思って並ぶと、
「僕は並ぶのが好きじゃないんです。行きましょう。」
え?ちょっと、待ってください。すぐですから。
そうして、その方がリクエストした、ドリップ式コーヒーを確保し、
チャイラテを待つ。

確かに、いらいらするほどスタバは要領が悪い。
注文をとる係り、もう一度レジで注文を確認して請求書を作成する係り、
そして、作る係り。
何故か、どこのスタバでも、作る係りの人数が少なく、お客は、馬鹿みたいにぞろぞろと並んでいる。

それでも、
朝からのすきっ腹で、とにかく甘いものが欲しかった。それに、スタバのチャイラテはいつだって幸福感を与えてくれる。

その前のミーティングが最悪な展開となったので、何とか雰囲気を変えたかった。
日本からのお客様は30代。
英語がからきしできない。悪いことに、自分の英語が相手に通じないことを、相手の努力不足だと思っている。
だから、ミーティングも変なことになる。
お客様の質問。
それに対する答え。
空回り。

なんとか助け舟を出そうとしても、何を隠そう、私にも彼の英語が分からない。
日本語でうまく、聞き出そうとするにも、
相手は頑張ってブロークン英語を繰り返す。
いや、カタカナ英語を繰り返す。

誰かが言ってやらねばならないのだろうと思う。
君の英語じゃあ、誰もわからないよ、と。
でも、さすが、お客様相手に、そんなこと言えない。
彼の上司が教えてやるべきなのだと思う。
でも、そうこうして、もう3年目。
そうして、彼の英語は上手にならず、彼の不満は溜まるばかり。
相手が質問に明確に答えてくれない、と。

そんなことが重なって、欲求不満の捌け口として私がターゲットにされたのか。

翌日は、お昼の時間に余裕がある。
そう思っていると、その間にオフィスに行って、書類をとってきて欲しいとの仰せ。
この寒い中、地下鉄でオフィスまで往復せよと仰るのか、と
唖然としたが、
昨日のコーヒー代を私が出したことを、コンプライアンスの問題で、首になりかねないから、困ると言われて、うんざりしていたので、
それも悪くないか、と思って、寒い冬のパリにお客様をタクシーに預けてオフィスへ向かう。
何がコンプライアンス、だ。
私のポケットマネーで出したコーヒー代。
私は会社に請求もしないし、どこにも記録しない。
彼の首が飛ぶのであれば、証拠が残っていなければなるまい。
つまり、彼は、私が刺すと思っているわけだ。馬鹿馬鹿しい。

次のミーティングの場所で待ち合わせ。
それまでに、適当なブラッスリーかカフェでランチをし、暖をとっていて欲しいとタクシーのドライバーには伝えてある。

アンバリッドは日差しこそあれど、冷たい風が耳を容赦なくたたき、
頭が痛くなってくる。
駆け込んだミーティング場所には、未だお客様はいらしていない。
と、非常に不機嫌な様子で入ってくる。
2時間も寒い中、外でタバコを吸っていたので、さすがに辛かった、と仰る。
そうして、ドライバーは親切心に欠けていて、英語もろくにできない、とくる。

ランチは?と伺えば、
最初は空いていても、どんどん混んで来たから、さっさと出ましたよ、と。
余りに寒いので、時間までブラッスリーに残っていらしたらよかったのに、といえば、
だから、フランス人なんですよ、
日本人は相手のことを思って、席を立つんです。
と怒った調子で返事が戻ってくる。

私をオフィスになんて追いやらなければ、
ランチをご一緒し、次のミーティングの場所のロビーで待つ、など
寒さを凌いで過ごしましたのに、
と喉まで出掛かるが、勿論、言わない。

イライラは次のミーティングで爆発し、
誠心誠意で対応してくれている相手のフランス人女性に対して、
申し訳なくなってしまう。

「ご満足していただけていないようなので、もう一度ご説明します。」

漸く納めて、最後のミーティングに向かう。
と、弊社オフィスが見えてくる。
「なんだ。すぐに帰れるからって、最後にこの会社のアポを入れたわけなんですね。」と、嫌味たっぷりで言われる。

「そこまで仰るなら、明日、チューリッヒには行かないことにしちゃいますよ。あんまり、いじめないでくださいよ。」

冗談っぽく、言う。
日本の仕事の環境がひどくてやっていられないこと、フランスがうらやましいこと、他社がどんどんリストラでいなくなっている中、のんびりと生き残っている私がうらやましいこと、などなど。

弊社がまさにリストラの渦中で8割が解雇となり、
実は、私もその一人となる可能性がある、
なんて言えるわけがない。
そんな会社とは、仕事ができんと、なってしまうではないか。

思いやられたチューリッヒだったが、
マイナス10度の中、
凍った噴水を見ながら一緒に歩いたことが良かったのか、
或いは、前日に、いじめないで欲しいと言ったことが良かったのか、
人が変わったように素直で、嫌味っぽいところがなくなっていた。

それでも、
上司の悪口ばかり。
そして、相変わらず、企業訪問では、相手の説明が的を得ていないと不満を訴える。

ある会社で、
マイナス10度なのに、お客様が手袋をしていないことに驚いた女性に対して、
「まったく、自分中心にしか物が考えられないんですよね。なんで手袋なんかするんだか。」
いや、その言葉そのままを、きっと彼女も言いたいのではないでしょうか。
そう言うと、まあ、そうかもしれませんね、と思った以上に素直な反応がかえってくる。

夕食も、コンプライアンスの関係で、ワリカンであっても、一緒に食事しただけで、狙われるとか。
呆れたが、まあ、それならそれで、とさっさと夕方に別れる。

一人淋しくはないのか。
なんだか、ぽつんとした後姿が気にならなくもない。

そうして最後の日。
訪れた企業で大きなチョコレートセットをいただく。
「これ、黙っていてくださいね。こんなのもらったら、大変なことになる。あ、そうか。タクシーの運転手にあげれば良いのか。」

そこまで信用してもらえないのか。
私がどこかに報告すると思っているのか。
疲れてしまう。
「どうぞ、信用してください。誰にも言いませんから。」
そうして、つい、付け足してしまう。
「人を信じることも、どうぞしてみてください。
信じて、たとえ裏切られても、それはそれで仕方がない。勿論、傷つきます。
それでも、また信じる。
人生、人を信じられなかったら、あんまりに寂し過ぎるのでは。」

空港で、別れる。
「大変お世話になりました。ありがとうございます。
来年の一月にフランクフルトには行くので、その時にまたお願いします。」
そう仰る。

ひょっとしたら、お会いするのはこれが最後となるのか。
その思いが頭を過ぎるが、
今後ともどうぞ宜しくお願いします、と深々と頭を下げる。

どうぞ、人を信じることを始めてください。
そして、幸せを勝ち取ってください。
心で呟く。









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2012年12月7日金曜日

ハーブ味の笑顔



久しぶりに会うと目が充血している。
挨拶のビズもなし。

君に風邪が移るといけないよ。

ふうん。そう。
じゃあ、飴でも、舐める?

ハーブの香りのリコラを取り出す。

ちょっと躊躇ってから、
一度舌の先で転がして、
それを手で摘まんで、
口の中に放ってあげる。

嬉しそうににっこりして、
子供と同じだ、
と言う。

え?
子供達に、そうやって飴を食べさせていたの?
毒見?
子供達、喜んだの?

ぎょっとする。

もっと嬉しそうにする。
子供達同志だよ。

え?
あ?
ああ、そうか。

おマセな子供だったってことね。

思い出し笑いなのか、
今、この瞬間が嬉しいのか、
やわらかな笑顔が続く。

笑顔に笑顔で返す。
ハーブの爽やかな味が空気を揺らす。





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2012年12月6日木曜日

薔薇の蕾




小さく欠けていく月は
いよいよ冴えて
フロントグラスの霜を削るたび
シャラシャラとしたシャーベットに一瞬の輝きを与えている。

冬の太陽は
気まぐれな応援の様。

一瞬にして心奮い立たせ、
その気にさせておきながら、
その続きがない。

気まぐれな太陽に
すっかりその気になった我が家の庭の薔薇の蕾が
夜の間に氷の塊と化している。

夕方、戻ったら
そっと凍てついた蕾を手にとって
ゆっくりと息を吐きかけようか。

手のぬくもりで
膨らみを取り戻し、
落ち着いた色合いとなった花びらを
開き始めるかもしれない。

心をそっと抱きしめる。


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2012年12月3日月曜日

人生、初志貫徹



恒例の学校でのマルシェ ドゥ ノエル。

朝から鮭の押し寿司を作り、
書道スタンドで短冊やカードに、
リクエストに応じて小筆でしたためる係り。

日頃お世話になっている知り合い、友人、先生が通る度に、
デモの意味合いも含めて、
さっと勝手に書き上げてプレゼント。

オリビエと書いて欲しいといわれ、
『織尾江』と記す。

我ながら上手く書けたと思っていると、
意味が知りたい、との笑顔が返ってくる。

音を頼りの当て字とも言えず、
オリビエの『織』は、『織る』という字で、
楽しいこと、美しいこと、幸せなこと、色んな糸を織り混ぜながら
人生が繰り広げられるといったイメージが背後にはあるのです、
と伝える。

CFAを目指す若い同僚を思って、
『初志貫徹』を書き上げていると、
マダムが意味を聞いてくる。

最初の思い、願いを最後まで貫き通すことです。

ぱっと顔を輝かせ、私にも書いてちょうだい、そうなの、人生、初志貫徹よ!



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2012年11月30日金曜日

満月の夜に



悔しいと思うと、
涙が頬を伝いそうで、食いしばる。

都会の薄明るい夜空でも
くっきりと真ん丸な月が輝いて見えるが、
兎の耳の形さえ慰めにはならない。

空きっ腹にアルコールがいけなかったのか。

これが18年間務めてきた会社での集大成なのか。

悔しい。
何が悔しいかって、
あの、こまっしゃくれた火星人のような、10センチもするヒールを履く、
世間なんて、ちっとも知らない、
舌足らずの彼女が言ったことが、
実は、当たらずと雖も遠からず、であるから。

しかし、あんな言いようがあろうか。

気がつくと30キロはスピードオーバー。
夜の高速をガンガンと飛ばしてしまう。

バッタ達はひっそりと寝静まっている。
と、長女バッタが出てくる。

一通り捲くし立てる。

「ママさぁ。
そんなの、真っ直ぐに受けないで、はぐらかして答えないと。」

そういえば、成績会議はどうだったの?

あっという間に消えてしまう。
母親の憤懣が我が身に落ちることを上手に避ける術をすっかり身につけたらしい。

熱いお風呂に入りながら、
ぎょっとする。

そうか。。。

あの時。
そう、昔むかし、
日本で会社を辞める時に、
大変お世話になった、別の部署の方々が、壮行会をしてくださった。
確か、後楽園近くの飲み屋。

あの時、
お酒をいただき、好い気になっていたのだろう。
うかつにも、入札案件が無事落札する割合を聞いてしまった。

普段は静かで、落ち着いた部長が、
震える声を振り絞るように、
「僕は滅多なことでは怒らないのですがね
と仰った。

しまった、
と思ったときは既に遅し。

どう謝ったのだろうか。
うやむやにしてしまったのか。

あの時のヒヤリとした思い、
胸の底に冷たく走った思いが、
甦る。

若さ、なのか。

今になって、
あの時の自分の発した言葉が、
宇宙を巡って、
戻ってきたのか。

重い心を引き摺って、
それでも、気になることがあったので、
仲間達に連絡メールを送る。

つい、甘えて、
今晩は色々あって落ち込んでいる、
とのフレーズを滑り込ませてしまう。

今朝、オフィスでメールをチェックしていると、
朝の5時きっかりに、
メールが入っている。

「どうした?大丈夫?」

嬉しさと、甘えた自分を見透かされた思いが交錯する。

午後に、
別の連絡事項もあって、
かつ、
つい、誰かに慰めて欲しい気持ちが働いて、
気がついたら長いメールを書き送っていた。

それでも、
以前、友人から、自分の辛さを人に言って、慰みを求めることほど醜いことはないから、そんなことはしなさんな、
と忠告されたことを思い出す。

厳しい忠告ではあったし、
正に傷口に塩ではあったが、
おかげで強くなれたかもしれない。

すぐに長い返事が来る。


会社のことで辛い思いをしたんだね。
これまで、どれだけ多くの工場で働く労働者達が不当な扱いを受けてきたか。
そうして、今、それが、高等教育を受けた、優秀で、能力のある人材にも及んでいる。
資本主義は容赦しない。感情なんてない。
喰うか喰われるか。
それだけがルール。

こんな言葉が慰めになるとは思っていないよ。

いつだって必要な時は泣いていいんだし、助けを求めていいんだよ。
泣くことは、悲しみや孤独を振り払ってくれる。

いいかい。
今、君の会社で起こっていることは、ちっとも個人的なことなんかじゃないんだよ。
君でも、君の仕事でも、そして恐らく君の会社が問題でもないんだ。
喰うか喰われるか。
それだけなんだよ。

と、言うことはだよ。
君のその凄まじいばかりのエネルギー、君の心の豊かさ、君の魂には、ちっとも変わりはないんだよ。いや、この時期を経験することで、君は人間的にもっと豊かになっていくのかもしれない。

君を愛する全ての人々にとって、君はいつだって我々の君なんだ。
君はいつだって僕の心の妹なんだよ。


涙が止まらない。


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2012年11月29日木曜日

星屑のようにこぼれてくる思い出


朱色の革のローファー。甘ったるいレモンタルト。バウンティ。長いストレートの黒髪。ぱっちりとした目元。

バスの中で隣になって交わした会話。

星屑のように、きらめきながら、こぼれてくる思い出。

今朝、まだ夜の帳が開けやらぬ街を歩きながら、
コリアンダの香りのする常夏の地にいる彼女を思う。

そこだけぽっかりと明るいパン屋さんのショーウィンドーに、
ふっくらとしたバニラとチョコのマフィンが目に入る。

会いたい。
そんな思いが強く膨らみ、
気がつくと駆け足に。



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2012年11月27日火曜日

ブラックフライデー



感謝祭とは無縁のフランスでも、
FnacからMac商品10%割引の知らせが
SMSで送られてくる。

息子バッタが大はしゃぎし、
iPadミニが欲しかったと、
くしゃくしゃのお札の束を持ってくる。

締めて185ユーロ。

ちょっと、待て。
定価330ユーロ。
割引があっても、それでは足りない。

迷いつつも、押される格好でFnacへ。

デモ商品を喜々として使いこなし、
あっと言う間に日本語環境に設定。
山上憶良の歌などチェックしている。

一体、誰に教わるのか。
にくい程、親へのプレゼンが上手い。

OK。不足分は手元の商品券でなんとかしよう。

ところが、
会計の段階で、
iPadは割引の対象ではない、と言われる。
では、せめて、Fnacによる100ユーロお買い上げにつき10ユーロの返金サービスをお願いする。
が、それも対象外という。
広告の下に小さな字で、但し書きが記載されているに違いない。

お店、メーカー、そして息子バッタにも騙されたか。

ブラックフライデー。



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2012年11月20日火曜日

心ここに在らざれば



霧立ち込める朝、
ヘッドライトでロータリーの真ん中に
モミの木がそびえ大きなリボンが飾られている姿を確認し、
仰天。

まさか。。。
いや、そのまさか、
ノエルの飾り。

実は、昨日、
今週木曜かと楽しみしていたボージョレヌボーが、
既に先週木曜に解禁されていた事実を知り呆然。

街角を歩けば、
嫌でも目に入るボージョレヌボー到来のニュース。
スーパーでも山積みに飾ってある筈なのに。

心不在焉、視而不見、聴而不聞、食而不知其味


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2012年11月18日日曜日

外では冷たい秋の雨



朝の5時から休む間もなく、
朝食は抜いて、ランチは運転をしながらサンドイッチを二つ。
そんな一日を終えて、
バッタ達がいない我が家に戻り、
魂が抜けたかのごとく、
椅子に座りこんでしまう。

もう一度、確認する。
着信なし。

忙しいに違いない。
大変なのに決まっている。

でも、
もう一度、確認して、溜息。

今日が、私にとってどんな日か、良く知っているはず。

応援の一言や、
労いの一言が、
或いは首尾を問う一言が
あっても、いいじゃないか。

そう思い始めると、
そんな思いが溢れ出してしまい、とどまることを知らないない。

そんな風に思っちゃいけない。
求めちゃいけない。
期待しちゃいけない。

でも、甘えちゃいけない、ってことは、
なんと辛く、悲しいのか。

『ちっとも褒めてくれないのね。』

そうSMSを送る。

返事はない。
諦めて、本を読み始める。

夜更けになって眠るころ、
メッセージが入っていることに気がつく。
bravissimo !!!

なんとなく、はぐらかされた思いで、眠りにつく。

翌朝。
掟を破る。

どんなに一緒にいて欲しかったか。
心の支えが欲しかったか。
不在は堪えた。

そう書き送る。

今度はすぐに返事が来る。

『一日中ずっと心配していたよ。それを伝えることができなくて、感じさせることができなくて、ごめん。』

外では冷たい秋の雨。



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いざ出陣


ここ数日寝ていなかった。

大きな会議を控えて、それに向けての準備。
7人の侍の足並みは揃わない。
それでも、
なんとか、皆で集まり、方向性を確認。

一人、都合が悪くて欠席した侍から、
翌々日あたりに電話。

当日のプレゼン用スライドが回ってきていないとの抗議。

だって、そんなん、未だできていない。

出来ているところまででも、せめて見せて欲しいとのこと。
当日、知らさせるなんて、嫌だ、と。

だったら、どんなことをしても火曜の会議には出て欲しかった。
彼女に説明している暇も時間もない。
しかも、彼女のこと。
これまで悉く反対してきて、折れることをしらない性格は良く知っている。
だから、
最後に大騒ぎするかもしれない。

結局は、私が全てのスライドを見直し、編集し、訂正を入れ、日本語訳をつけることに。

彼女の催促のお陰で、結局は夜なべし、
ただ、そのお陰で、取り合えず形にはなる。

それから、最後の詰め。
侍の長から電話。
午後に二つも重い会議があったので、とても夜に会って見直しなんて出来る状態ではない、と。
だから、当日となる翌朝早くに会おうと。

こちらも、疲れが溜まっていたので、1時間未満の早朝のミーティングに賭けることの恐ろしさを思いながらも、快諾。

そして、当日。
朝、5時に起きて、新鮮な冷たい空気を肺に吸い込む。

熱々のクロワッサンを抱えて長が来る。
雑然としたキッチンで、
コーヒーを煎れながら、
立ち話。
色々気になるポイントを挙げて最終チェックをしながら、
最後のスライドまで目を通す。

よし。

その日はコンサートとも重なっており、
バッタ達の白いワイシャツや黒いスラックスを用意し、
寝起きのバッタ達に声を掛け、
出陣。

会場の門には、
既に案内状が貼ってある。
侍の一人が首尾良く手配してくれている。

よし。

受付で準備をし、スタンバイOK
ほっとして、湯気が出ているミラベルのスペシャルドリンクを飲んでいると長がやってくる。

何を飲んでいるの?

え?スペシャルドリンク。
飲む?

ちょっと躊躇ったが、なんとなく、彼の好奇心旺盛な瞳に、そう応じてしまった。
多分、遠慮するだろうと思って。

あ、ぜひ、頂くよ。

え?これ、だって、長女バッタが母の日に買ってくれた特別マグなんだけど。
このマグに口をつけて飲むの?

一瞬、そんな思いが過ぎるが、
連帯感がそうさせるのか、嫌な感じはちっともしない。
むしろ、嬉しくさえなってしまう。

ふむ。ありがとう。

どう?ちょっと特別でしょ?
これで私、いつもエネルギーの塊なのよ。

はっはっは!
元気な笑い声が返ってくる。
それだけじゃあ、ないよ!

それに、これ、好きだよ。美味しいね。

あら、気に入ってくれたなら、瓶をプレゼントするわ。

いいよ、いいよ。レシピを教えてもらえれば、作るから。

ふふん。でも、家にミラベルの木がある?
これって、ミラベルの実が鍵なのよ?

嬉しそうな笑顔が返ってくる。

よし。
これだけリラックスしているなら、大丈夫。

おはようございます。

冷たい朝の空気をともなって、
ゾクゾクと出席者が入ってくる。
会議の開始時間ぴったりに、
出席者が定足数に達っしたことが分かる。

さあ、会場に行こう。
スペシャルドリンクを手にして。

演壇の長と目が合う。

よし。
いざ、出陣。


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2012年11月9日金曜日

君の特別な日に




一人で背中にバイオリンケースを背負って、
三日間のオーケストラの研修に参加した君。
1時間半、バスに乗って、電車を乗り換えて、たった一人で通った君。

ママ、やってみるね。

そう言って、朝早く、水とバナナとランチを持って、張り切って家の門を出たね。

今回は、お姉ちゃんもお兄ちゃんも、オーケストラの三日間の研修はシンドイと、
お休みすることを選んだのに。

最後の日に、ミニコンサートがあるという。

でもね、ママ。きっと歌を歌うだけだよ。

そんなことを言うので、なんだか、拍子外れ。
それでも、朝から夕方まで練習して、満員電車にもまれながら帰ってくる君を思って、
今日は皆で駆けつけたよ。

そうしたら、
驚かせてくれるじゃない。
3バイオリンのシェフをしっかりと勤め、
時には、君が指揮を振る。

皆から好かれて、
声を掛けられている様子を見て、
グレーのTシャツをほっそりと着た姿が、
やけにしっかりとして見えて、
ママ、驚いたわよ。

アンコールの後、
また、君が指揮台に立つ。
その時、
指揮の先生が、君に、『お誕生日、おめでとう』って囁いたよね。
ママ、泣きそうになっちゃった。
最高のお誕生日のプレゼントになったね。

そうして、
その後で、皆で乾杯したときに、
サプライズの誕生ケーキが、蝋燭11本をゆらめかせながら
歌とともに会場に入ってきたよね。

仲間達に祝福されて、
こんな豪華な誕生会はないよ。

夜には、
お姉ちゃん、お兄ちゃんによる特製バナナスプリット。
たっぷりのクリームにとろけるチョコ、アーモンドスライス。
バナナとキーウィーとオレンジの色合いが美しかったね。

ママは、なあんにもしなかったけど、
こうやって、仲間達や、きょうだいに祝福される君を
とっても嬉しく思うし、誇りにも思うよ。

11歳、お誕生日おめでとう!



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2012年11月4日日曜日

オレンジ色のカボチャポタージュで乾杯




ちょっと軽めで
それでいてパーティーっぽく。

15歳の誕生日のディナの長女バッタのリクエスト。

お寿司には目がない彼女。
サーモンのタタキ、イカ刺、いくら、海老のチラシ寿司にしようかな。
軽くパーティーっぽく、となると、カナペなんてどうかしら。

新鮮な野菜・果物が手に入るお気に入りのお店に行く。
美味しそうなチーズを数種。
人参、かぼちゃ、季節のキノコ数種、キュウリ、
パイナップル、林檎、葡萄、バナナ、ミカン、グレープフルーツ、
ミルティーユ、フランボワーズ、苺。
オリーブ各種。

我が家に戻って、
今夏の特製ミラベルジュースでゼリーを作って、大きなワイングラスに入れて冷蔵庫に。

掃除機を徹底的に掛けて、
ベッドメークをし、
庭の薔薇の蕾を玄関に飾る。

そうこうしているうちに、
バッタ達が帰ってくる。

さあ、さあ。
パーティーを始めようか。

カボチャスープを作っている間、
息子バッタと末娘バッタがチーズのカナペを担当。
葡萄のぷっつりとした粒に、
ロックフォールを挟む。

長女バッタはアボカドでワカモレ。

ヤリイカをおろして刺身に。
ゲソはシャンピニオンと醤油炒め。

塩と黒・赤胡椒、コリアンダー、砂糖を絡ませておいたサーモンを切る。
ピンクのサーモンを並べ、真っ白なイカで飾りをつけると、
なかなかの一品。

チーズカナペの方も、豪華になっている。
サラミを薄切りにして、出来上がり。

オリーブはお皿に各種盛り合わせ。
プチトマトも一緒に盛る。

ぷるるんと固まったゼリーには、ミルティーユの粒を散りばめ、
フランボワーズを飾り、
ホイップクリームをちょこちょこっと載せて、
苺のスライスで飾りつけ。
庭のミントも香りに。

さあ、デザートも準備オーケー。

ヴィヴァルディのコンチェルトが流れ出す。

グラスにオレンジ色のかぼちゃスープを注いで、
みんなで乾杯しよう。

15歳、おめでとう。



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2012年11月3日土曜日

13歳、おめでとう



あたり一面、真っ白。
バッタ達と大騒ぎしながら、雪道を歩く。
雪滑りが大好きなバッタ達。
率先して雪の中を滑り込む長女バッタと息子バッタ。

と、青いスキーウェアが空を舞う。
どうやら、飛び跳ねたらしい。そして、着地。
痛そう。
雪道とはいえ、固く踏みしめられた道は硬いに違いない。
泣くぞ。
そう思っている間にも、青いウェアが転がり出す。
どうやら、着地地点は坂になっており、そこを転がってしまう。
止めさせなきゃ。
ピンクのスキーウェアが駆け出す。
長女バッタ。
その後を末娘バッタと一緒に追い駆ける。
が、今度は青いウェアが視界から消える。
どうした。
まさか。
川に転がり込んだらしい。
この雪の中、水の中に。
ぞっとする。
本人は意識がないのか、或いは川の流れに勢いがあるのか、
無抵抗で青いウェアが流されていく。

声が出ない。
声を出さなきゃ。

「助けてくださいっ!!!」

振り絞った自分の声で目が覚める。
夢?

暫くは震えが止まらなかった。
それにしても、夢にしては純白の雪、青とピンクのウェアなど、
なんと色彩豊かであったか。
それに川の流れ。

息子バッタ。
今日、13歳の誕生日を迎える。
ティーンに仲間入り。

息子よ。
ああ、なんと情けない夢を見てしまったのだろうね、ママは。
きっと、君なら、
現実の君なら、
滑って転んで、着地が悪くとも、バツの悪い顔をして、自分の力で這い上がるに違いない。
もしも、そこが坂で、転がってしまっても、なんとか足を踏ん張って、転がる自分を抑えるに違いない。
そして、仮に、仮に、急な流れの川に入ってしまっても、
その頑強な腕で、やっとばかりに水を掻き分け、ざぶんと起き上がるに違いない。
そうして、うぉう冷たかった、と犬のようにぶるぶるっと身震いして水を切り、
早く温まろうと騒ぐに違いない。

そう、現実の君は、もうすっかり大きくなって、
ママの背だって追い越して、
力だって誰よりも強く、
いかなる困難にも立ち向かえる勇気と知恵と体力が備わっている。

13歳、おめでとう。


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2012年11月2日金曜日

ひとりで迎える朝



電子音の目覚ましが6時を伝えるよりも
ずっと前から身体が起床のサインを送っていた。
冬時間に移行したばかりなので、未だ身体が覚えていないのであろう。

それなのに、
電子音を消してからも、爽やかな朝を満喫しようとの気持ちが湧いてこない。
疲れが澱のように溜まり、身体がだるい。
夢見が悪い日が続いているからか。
昨晩中、しとしと、しとしとと降り続いた雨音は、
子守唄にはなってくれてはいなかった。

それでも、と、
慌てて覗いた携帯の時間は69分。
拍子抜けする程、余裕がある。

ガラガラと音を立てて雨戸を開ける。
暗闇が広がっているだけなのに。

それでも、と、
バッタ達の部屋に駆け込み、
ガラガラと音を立てて雨戸を開ける。
主がいない部屋とは、これほどにも寒いのか。
南に面していて、陽が一番当たるからとマンゴとパイナップルを置いているが、
大丈夫かしら。
暗闇の中で、ピンと張っている葉を確認する。

と、何やら外が明るい。
最近引っ越してきた一家が、巨大な銀の外灯でも取り付けたのかしら、
一晩中点けっ放しにしてしまったのね、
と思い、
首を大きく捻って、光源を確認しようとする。

え。
まさか。

銀の光に照らされたベランダがくっきりと浮き上がっており、
その上には、
端が欠けている銀の月。





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2012年11月1日木曜日

ジャカランタン



紺碧の空に大きな満月。
あれ程分かりやすく兎が餅をついているのに、
国によっては、全く違った柄を見るというから、
いつだって不思議に思ってしまう。

夜のパリは混雑しているようで、
時間帯が皆がレストランで楽しんでいるときだったからか、
思った以上にスムーズに進む。

途中から首に手を回される。
末娘バッタ。
運転中だからと、止めてもらう。

すぐに帰ってくるんだもの。

彼らに、というよりは、自分自身に言い聞かせていた。

その晩は、ちょっと早目の夕食にして、
前日から準備しておいたクネルをオーブンで焼く。
ピンク色のサーモンがふっくらと、ミルク色のベシャメルソースの中で大きくなる。
その秘密は練りこんだシュークリームの生地。
今回は、赤唐辛子をちょいとだけ入れて風味をつけていた。
コリアンダーと胡椒の香りに混ざって、
ピリリとした味わいが、ふっくらとしたクネルととろりとしたソースのコンビネーションに締まりをつけている。

もちろん、バッタ達からはブーイング。

でも、熱いから、辛く思うのよ、と誤魔化してしまう。

冷たくした白が欲しいところ。

二週間続けて毎日弾いているから、と、
末娘バッタはバイオリンを持って行くと言っていた。
が、車に積む段階で、
サロンに置きっ放しにしてあるケースが目に入る。

ちょっと考えて、
何も言わないでいることにする。

私と一緒なら、もちろん、どんなことをしても持たせてあげる。
でも、場所がないから、と、
あちらで置いてきぼりにさせられるかもしれない。
ちょっとだけ、胸に痛みが走る。

あっという間に、
といっても、小一時間はかかって目的のアパートの前の通りに着く。

荷物を降ろしたバッタ達と、
ビズをして、
さっと車に乗ってしまう。

ママ、お月様だよ!

バッタの、誰の声だったか。

帰りの方がスムーズで、
真っ暗闇の我が家に着く。

と、玄関にオレンジの灯り。
ジャカランタン。

先日、末娘バッタが、どうしても欲しいとスーパーで大きなカボチャを選んでいた。
息子バッタが、フランスのカルチャーではないから、と、非常に馬鹿にして、どうしても買わないと大騒ぎ。
そこを、まあまあ、と宥め、買っていた。

末娘バッタが長女バッタと早速取り掛かり、
息子バッタが外に遊びに行っている間に作ってしまった。
結構、なかなかの出来栄え。

カボチャのお化けに迎えられ、
オレンジ色に包まれて我が家の戸を開ける。

ふっと蝋燭を消し、
大きなお化けを腕に抱えて、一緒に家の中に入る。
重みが腕に心地よく、なんだか、にんまりしてしまう。



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2012年10月29日月曜日

今宵は翻訳家を気取って




昔、そう、まだ若くて傲慢で、世界が自分の力でどうとでも動くなどと思っていた頃、
通訳や翻訳の仕事に関して、勘違いしていた。

誰かの意見を伝えるのではなく、
自分の意見を伝えたり、主張する、
そんな立場になりたい、などと思っていた。

それでも、
高校の時にノートの切れ端に書かれた文章の、真の意味が知りたくて、
手元の辞書では物足りずに、
機会があれば、色々な図書館に行っては調べ、
一つの言葉がもたらす多くの可能性を味わい、
けれど、決して探している意味合いにぶつからないことに悶々とし、
それでも、かすかな期待を持ちながら、
大学に入ると、立派な図書館に胸をときめかせて、
そこに置いてある重い百科事典のようなものを持ち出しては、
徹底的に調べたことがある。

その語句たるや、『might』。
例の彼が別れの前日にノートの切れ端に記してくれた数行の一部。(関連記事:初恋の相手との再会
I might love you.
何故、彼は、そこで、『might』を使ったのか。
いや、実は答えは単純であった。
でも、と、当時の真面目な高校生の私は自問する。
ひょっとしたら深い意味があるのかもしれない。

その当時の、アドレードの若者達での会話で頻繁に使われていた助動詞の一つであったのかもしれない。
いや、恐らく、ストレートな言い方ではなく、
やんわりと、若者の恥じらいと、
相手から否定されることを恐れての自己防御の気持ちも働いての助動詞かもしれない。
しかも、過去形にして、かなり遠まわしにして、牽制している。

なんて、今なら分析できる。

でも、当時、それこそ、筆跡からも何らかの特別な意味を読み取ろうなんて思っており、
とにかく、手がかりが欲しかった。

それから連絡不通となる相手だからこそ。

そう思うと、その当時から、翻訳という仕事の重み、大変さは十分認識していたかもしれない。

そんなことは最早どうでも良い。
さて、これをどう訳そうか。

もう二日前にもらったメールの最後のパラグラフの訳に、ひっかかっていた。

学生風に訳してみると、

僕達の、このチームが今後どうなるか、僕には分からないよ。ただ、やれる範囲で精一杯のことをしてきている、そう言えると思う。君は、その中でとても重要な役割を演じているよ。皆が君にお礼を言わなきゃならないと思う。
僕は僕で、君にお礼を言わなきゃ。君が僕に注いでくれる特別な感情に対して。僕にとって貴重なものであり、君に対しても同じように感じている。
このことによって、僕達はより強くなれるし、より美しくなれる。

微妙なことは、最後の『僕達』が、一体、チーム全体を指しているのか、或いは、僕と君、二人を指しているのか、ということ。それによって、その前の文章の『特別な感情』という訳も変わってくる。因みに、原文では『affection』が使われている。

もっと穿った見方をすれば、今の状態ならお互いに強くなれるし、それこそ美しい関係と言える。このことに感謝し、大切にしよう、と、言っているのか。
これ以上、近づいてくれるな、との牽制か。

考え過ぎかもしれないが、
これ以上の手を出すつもりもなし、
相手から別の手が出てくることを待つつもりもないし、
出てくるわけもないので、
それこそ、今のこの状態を暫し楽しんでみたいといったところ。

夜は始まったばかり。
翻訳家を気取って、行変えの意味、使われている語句の意味を味わい、行間を読み取り、
多くの可能性を探ってみようか。

大人になる、とは、余裕を持つ、ということなのかもしれない。

。。。
さて、今宵の訳は、こんな感じでどうだろう。


我々のチームが今後どうなるかまでは、分からない。だけど、取り敢えずは、出来る範囲で精一杯のことをしてきていると自負して良いと思う。君は、その中でも非常に重要な役割を担ってくれている。そのことに、チーム全体が感謝すべきだと感じている。ありがとう。それとは別に、私に対する君の思いをとても嬉しく感じている。私の君への思いも同じものだと思ってもらっていい。お互いを慕いあうことで強くなれる。そのこと自体、美しいことだと思う。




関連記事: 
マンゴ カルナンデ
Life is busy and going on and on  
逡巡  
思わぬ展開


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2012年10月24日水曜日

いつか忘れられた本の墓場の話をしよう




どうも心が重かった。
週末、二回に一度の割合で、バッタ達がパパのところに行くことは、
これはもう決まりだから、あれこれ言わないことにしているし、
考えもしないことにしている。

でも勝手にパパがパリに行ったのだから、
そのために、バッタ達が友達からの誕生会の誘いや、サッカーの試合、バイオリンのコンサートに参加できないのって、
ちょっと違うと思う。

誕生会が続いてしまって、二度ほどパパのところに行けなかった息子バッタ。

次のパパとの週末に、なんと、日曜の朝がサッカーの試合となってしまう。

昔むかし、スーパーで落ちているじゃが芋を蹴っている息子バッタを見て、
ああ、この子は、こんなにもサッカーが好きなのかと驚いたが、
(実は、それから、男の子って、皆多かれ少なかれ、そんなもんだと分かったのだけど)
今でもサッカーは何よりも大好き。

たまたま、バッタの父親からオフィスに電話が入ってきて、
あれこれと話しをし(大抵がバッタ達の勉強の姿勢やテスト結果、或いはバカンスの日程の相談)、次の週末は誰も何もないんだよね、と彼が聞いた目の前で、
息子バッタのサッカーの監督から、特別に日曜朝の試合になったと連絡メールが入る。

あら、日曜朝に試合だって。

そう言った途端、
「誕生日、パーティー、日本語のテスト、宿題、そして、サッカー、コンサート。うんざりだよ。」

朝早くパリに迎えに行くと申し出ても、土曜の夜、寝るだけに来る様なものになるから、しなくていいと言う。そして、息子バッタは来なくてよい、と。

険悪な空気が重く圧し掛かってきたので、
取り敢えずは息子バッタにサッカーの試合に行かないように言ってみると申し出る。

そうして、
電話を切るが、どうも心が重い。

子供が週末に友達からの誘いや、試合やコンサートで充実した時間を過ごすって、
大切なことじゃないのか。
子供の幸せを親の都合で取り上げているんじゃないのか。
なんで、そんな基本的なことが父親の彼には分からないのか。
自分が少年だった時のことを、ちょっとでも思い出して欲しい。

でも、
それ以上に、彼は子供達と一緒にいたいのか。
なんだか、悲しい現実。

この話しをどう切り出そうかと思い悩んで家に帰る。

ところが、
ところが、である。

息子バッタは、一言、「じゃ、僕、サッカーの試合、行かないよ。」
えっ?
あんまり、さっぱりと言うので、こちらが驚いてしまう。
「だって、これでパパのところに行かなかったら3回連続だよ。いいよ。今週末はパパの家なんだから。」

じゃあ、ママが朝早く迎えに行って、その後で、またパリに送ってあげるよ。

「ママ、いいよ。そんなこと言ったら、きっと、すっごく機嫌が悪くなって、じゃあ、来るな、って言われるだけだよ。そんな風に言われるんだったら、最初っから言わない方がいいもの。」

これには、本当に驚いてしまう。

そうか。
変に拘っていたのは私なのか。

声変わして、背が高くなっただけではなく、
しっかりとバランス感覚を備え、交渉力さえもついてきていることに、
頼もしさを感ぜずにはいられない。

今度、サフォンの『風の影』の仏訳版を買ってあげよう。
そうして、忘れられた本の墓場の話を彼としよう。



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2012年10月19日金曜日

幸せになるには ~まずは秋を感じる温泉に浸かり『後生楽』と唱えよう


6年間のニューヨーク駐在を終えた友人一家が、この秋、日本に帰る。
一年前頃から、何とかしてニューヨークに残る方策を練っているとメールが舞い込むようになる。
辞令が出ると、まるで自分のお通夜の知らせのようなメールが飛び込む。
ニューヨークを離れる日には、「今JFKに向かっています。NYよ、さよなら」なんてSMSが届く。

それから、
毎週の様に泣き言。
満員電車は辛い、毎日のミーティングが長い、などなど。

そして、今日、
「日ごとに笑顔が減っている。俺ばかりじゃなく、家族皆。一体なんで日本に帰ってきたのか。日本人だからか。でも、俺達、そんなに日本人的じゃないよ。」
なんて、書いてくるから、ついつい。。。こんな風に書き送ってしまう。

幸せは、自らが幸せになりたいと強く要求し(たとえそれが深層心理であっても)、自らが感じるものです。幸せは探しても、どこにも転がっていません。
日本に帰ると決めたからには、取り敢えずは、そこで幸せになろう、と皆で決意する必要があると思います。父親、母親が、率先して、そう思わねばなりません。

嫌だ、辛い、と思ってしまったら、本当に、その様に感じ、実際に、そうなってしまうのです。

人生は一回だけ。この一瞬も、絶対にまたやってきません。正に鴨川に流れる水の如し、なのです。

この一瞬をどう生きたいのか。そう思ったら、答えは自ら出てくると思います。

子供達はいつか飛び立って行きます。この二年、三年が、親子4人で一緒に暮せる時期です。今しかないのです。
で、あれば、辛いと悩むなんて非生産的なことをせずに、もっと前向きに幸せを掴み取って、感じとっていこう、と思わずにはいられませんが、どうでしょうか。

と、僭越にも申しましたが、私なんて、本当に馬鹿みたいに、幸せ探しをしています。
理解することと悟ることの違いなんて、高校時代に分かったつもりでしたが、今だに実践できずにいます。

親に笑顔がなければ、敏感な子供は幸せを感じられなくなってしまいます。
おっとさん。ここが踏ん張り時でしょう。おっかちゃんと二人で、子供達に明るい笑顔を。そして、俺達がしていることは、世界で一番楽しくって、さいこーなんだぜ、って思わせないで、なんで親やっているんでしょ!

ほら!
取り敢えずは、週末、秋が感じられる温泉にでも浸かって、皆で『後生楽』と唱える。。。なんて、どうでしょ?
さぁ、ごしょらく、ごしょらく!!!


返事が来る。

「ありがとう。基本的に俺は楽観的。だけど、大きな変化に戸惑っているんだよ。そうさ、世界で一番幸せ者だよ。素敵な家族と友達に恵まれて。なんとかなるさ。じゃ、楽しい週末を」

う~ん。
慌てて書き送る。

ま、無理せず。そのうち、どうでしょ。どこかで子供の為のキャンプでも、やりましょよ。
アジアのどこかで。ほら、NYは物価が高いから。
ね、そんな感じにしませんか?とりあえず、今は軍資金を。。。
では、良い週末を!



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2012年10月18日木曜日

マンゴと檸檬




思い込みの激しさは今に始まった話ではない。

昔、そう、遠い昔、
親しい友人達を我が家のディナに誘った日、
キッチンで一人が告白し始める。最初は一体何の話か分からなかった。と、もう一人が、察して挙げなさいよ、という風に合図を送る。そうだったのよ、と。

え?ちょっと待って。彼と、我が家の近所に住む別の友人が、二人で同じ人を好きになってしまった?それが、何故、こんな切羽詰った感じの告白になるの?

そう、ここで告白してしまおう。
その一瞬。ほんの一瞬だけど、これって、ダブル告白なの?しかも、私に向けた?
と思ってしまった。

勿論、びっくりして、声も出せずに、なんだかドギマギして、告白している友人の顔さえもまともに見れずに、おろおろしてしまった。

そうだったの。。。

漸く出た小さな声。

すると、その隣りにいた女性の友人が、そうなのよ、分かってあげてね、とフォロー。

そして、ひょっとしたら業界の人間だから、知っているかもしれないと、その相手の話をし始める。

一瞬にして悟る。

そう、彼は、思い切ってカミングアウトしてくれたのだ。
ああ、そうか。そうだよね。あっはっは。。。

実は、そんなことが少なくない。

そんなことが、先日も。

仲間内で揉め事があって、どうやら、せっかくの日曜に、皆で集まらなきゃいけない様子になってくる。そこで、一人に提案してみると、全員が集まっても、また同じ様に揉めて余計混乱を来たすだけ。意味ないと思うけど、君がそうした方が良いと思うなら、皆に声を掛けてよ、との返事。そして、一人の仲間の名前を挙げて、彼と君との三人だったら、建設的な話し合いになるとは思うけどね、と続いている。

それじゃあ、その仲間に声を掛けてみるね。

ところが、彼は、その日、電話での応対なら出来るが、家を空けられない、と言う。

そこで、今回は無理そうなことをメールで伝える。

と、暫くして携帯にSMS
午後、コーヒーでも一緒にどう?

ふうん。。。二人でってことだよね。そう思う。

そうして、手ぶらで行くのも、と思って、先日マルシェで買っていた、ほど良く色づいてきたマンゴを手土産とする。

彼の家は、思っていた以上に遠くて、ちょっと驚く。
そうして、こんなことは思ってもいけないことだろうとは分かっているが、新興住宅地区といおうか、政府支援地区といおうか、街並みにちっとも味わいなく、簡素というよりは、殺風景で、その土地が持つ個性が全く感じられないところの、ちょっと奥まった住宅街にあった。

いつもの大きな笑顔で迎えてくれる。
マンゴを渡すと、喜んでくれる。子供達が好きなんだよ、と。そして、丁度、その子供達は、外に出かけているという。

あら。。。じゃあ、二人だけ?
これまでの、彼との、ちょっと微妙なメールのやり取りを思い出す。
告白してしまおう。
そう、一瞬、一瞬だけ、ひょっとしたら、、、と思ってしまう。

ところが、
彼が淹れてくれたコーヒーを前に、今、懸案の揉め事から始まり、その対処法、彼の考えを熱を込めて披露してくれる。こちらも、その話に夢中になる。
フロイトの話が出てきたり、マルセイユの学者の説が出てきたりする。
君は読んだ事がないの?と聞かれたって、マルセイユの学者の心理学の本ねえ。。。

そうして、日が傾き始める手前で、お暇する。

知的な彼との話は楽しかったし、お互いに揉め事の解決法を出し合ったりと、有意義な時間となる。

その日の夜、一通のメールが入っている。
せっかくいらして下さり、親しくなる機会であったのに、別件で外に出なければならずに残念でした、とある。そして、マンゴ、ご馳走様でした、と。
更に、以前教えていただいたリンクありがとうございます、大好きなピアニストの一人です。秋の夜長に、こんな曲もお楽しみください、と、リンクが貼ってある。

そうか。以前、彼に送ったピアニストのリンクのことかな。
そうか。彼宛のメールは、彼女も見るのか。

そうか。。。いや、そうだよね。
なんだか、ほっとしたような、そんな気にもなる。
はっはっは。。。またやってしまったか。思い込み。。。

と、翌日の夜。
今度は「マンゴと檸檬」と題したメールが入っている。
彼から。
例の、仲間内での揉め事の張本人から長いメールが来てうんざりしていること。
リラックスするためにもお風呂に入るよ、と。
そして、
昨日は我が家まで来てくれてありがとう。
マンゴ、とっても美味しかったよ。特に下の子が大喜びで夢中で食べてた。
キス

。。。ふうん。。。
題名にある、檸檬について、一切触れていなかったことに、なんだか意味がある気がして、一人、思いに耽る。。。

あ、また、始まった。悪い癖。。。思い込みの激しさ。
ま、でも、それも悪くないか。

マンゴと檸檬、
そう、檸檬の一滴は、マンゴの甘さと美味さを引き出す。

あ!
思いが弾ける。

高村光太郎。レモン哀歌!
以前、彼に、この詩を訳して送っている。もしも、もしも、もしも。。。

思い込みの激しさは、そう悪いことでもあるまいか。


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