2012年5月30日水曜日

サンドリーヌ、いつか一緒に『浜辺の歌』を弾こう



バイオリン仲間のサンドリーヌ。
最近はチェロの先生となるべく研修に余念がなく、
今度の土曜日に、息子バッタと同じ年の娘さんをバイオリン教室に連れて行って欲しいと頼まれていた。
彼女自身はフランス人で、旦那は確かアルジェリア人。
下の男の子は末娘バッタと同じクラス。その下に二人のお嬢さんが続く。

彼女が怒った顔など見たことがない。
いつも、こぼれんばかりの笑顔。
ただ、その笑顔で、お願いを当たり前のようにされることも度々で、
しまったと思うことも少なくはなかった。

でも、実はお互い様。
週日のパリでのコンサート、
水曜の午後のコンサートなど、
私の都合がつかない時は、
当たり前のようにバッタ達を一緒に連れて行ってくれる。

彼女にとっては、どの子供も自分の子供であり、
もっと言えば、子供は世界に属すると思っている。
だから、時々、私が世界に属する彼女の子供の面倒をみることは、
人間として当然の義務、らしい。

その彼女からの電話。
暫く、6月の土曜の送迎アレンジを話し合い、
子供の数が多いとバイオリンのレッスン料も馬鹿にならないこと、
学校の話などをしながら、
近所で売り物件はないかと聞いてくる。

確かに、学校の近くではないが、
緑豊かな場所に、大きな庭のある一軒家を持っているではないか。
どうしたのだろう。

小鳥のような囀る声が続く。
「別れることになったの。」

えっ?
まさか。

つい、この間のバカンス中のコンサートで、
いつもは愛らしい子供達を引き連れて参加するサンドリーヌが、
チェロを抱えて一人で来ていたことを思い出す。
前日に子供たちを旦那がスペインにバカンスに連れて行ったと聞いて、       
コンサートなんかに来ないで、
さっさとスペインにジョインしなさいよ、と言ってやったことを思い出す。

そうしたら、
小鳥のような楽しそうな囀る声で、
子供達がいない時間なんて初めてであり、
たまには息抜きも悪くない、
など言うものだから、
ひょっとしたら、4人の子供達でいつも大変なサンドリーヌに、
旦那が気を利かして、数日のバカンスをプレゼントしたのかしら、
などと思ってしまう。

でも、ちょっと気になり、
とにかく、コンサートが終わったら、すぐに駆けつけてね、
とお節介にも言ってしまう。

すると、
こぼれんばかりの笑顔で、
「このごろ貴女のことを考える日が多いわ。」

えっ?
えっ?
何?超、意味深。
冗談言っちゃ、駄目よ。

それでも、コンサートが始まる直前であったことからも、
心に何かひっかかりを感じつつも、それ以上の会話はなかった。

その後、
彼女が新車を買ったことを、息子バッタが教えてくれる。

着々と独立に向けて準備していたのか。

4人の子供達は?
どうして?
駄目よ。後悔するわよ。

立て続けに騒ぐ私に、
相変わらず楽しそうな囀る声で、
旦那とは、この4年、関係が悪く、
昨年9月にはっきりと別れを告げられ、
迷ったけれど、漸く、この4年間の暗い時間から自分と子供達を解放してあげたくなった、
と告げる。

「私のことを否定しかしない人と、これ以上一緒にい続けてもお互いに良くないのよ。子供たちにとっても。」

彼は、これまで大変な人生を送ってきていて、
傷ついていて、頑固で、可哀想な人なのだ、と。
彼の選択を尊敬し、彼女を解放してくれる彼に感謝こそすれ恨みはない、と。

サンドリーヌの旦那は、背が高く、
昔は幼い子供達を連れてコンサートを観に来ていたが、
確かに最近は現れなくなった。
最後に見かけた時は、
お嬢さんの送迎を私が担当した時。

随分前に、森にあるバイオリンの先生の庭で、
薔薇の棘が彼の手に刺さり、
その場にいた私が、棘の入った彼の腕をとって、必死で取ろうとするも、
ちっとも上手くいかず、
かえって、だらだらと血が出てしまったことを思い出す。
いや、栗のイガだったか。

あの時、
血が出てしまっても、未だ棘が突き刺さったままでも、
ありがとう、
と感謝してくれた。

初めて、彼と会話をした気がしたものだった。

それほど、コミュニケーションが苦手なタイプ。

そうか。
それなら、私も、あれこれ言わずに、サンドリーヌの選択を尊重しよう。

向日葵のような、こぼれんばかりの笑顔の裏に、
苦しみを抱えていたことなど、
全く気がつかなかった。

彼女はきっと、これからも、小鳥の囀りのように明るくおしゃべりをするのだろう。

サンドリーヌ、
。。。
いつか一緒に『浜辺の歌』を弾こうよ。
貴女がチェロ、私がアルトで。


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2012年5月27日日曜日

お茶会へのお招き


先週から突然夏を迎えたことで、
未だ今年に入って芝刈りをしていない裏庭は、
そんなに大きくはないはずなのに、
キッチンの窓から奥まで見渡すことが出来なくなっていた。

鳥たちの囀りを聞きながら、
さくらんぼが色づいていることを知る。

何の予定もない日曜日。
うってつけのガーデニングの日であり、
徹底的に掃除ができる日なのに、
それこそ、何もしない一日があっても悪くはあるまいと、
ついつい思ってしまう。

それでも朝早く陸上大会に出かける長女バッタを見送ると、
爽やかな朝の空気の効果なのか、
その足で裏小屋に芝刈り機を取りに行く。

案の定、腰の丈まで鬱蒼としている雑草は手強く、
何度も、何度もモーターの刃が雑草で動かなくなり、
いくつもの袋が刈り取られた草で膨らむ。

これまで何台の芝刈り機を購入したろうか。
いや、壊したであろうか。

汗で前が見えなくなり、
Tシャツがじっとりとしてくるが、
雑草が刈り取られた面積は増えない。

フランスは日曜の午後は芝刈り機を使ってはいけない、と
近所のマダムに言われたことを思い出す。
いやいや、午前中には片付こう。

そして、芝刈り機を押しつつ奥まで進んだところで、
ふっと甘い香り。

見上げると、淡いピンクの野薔薇。
惜しみなく、ふっくらと、そしてたわわに咲き誇り、
白の野薔薇もゴージャスに蕾をたくさん青空に向けている。

今年も、
何もしてあげていないのに、
これだけ見事な薔薇の花が、
裏庭の奥で、ひっそりと、
しかし絢爛に咲き誇っている。

刈り取られた黄緑色の草の絨毯の上に
ピンクの花びらが舞う。

また、芝刈り機を動かし始めると、
今度は、
Tシャツの端を薔薇の棘に取られる。

円満の微笑み。
一休み。

野薔薇のお茶会へのお招きを謹んでお受けしよう。
そっと、手袋を外す。。。


 

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2012年5月22日火曜日

こんな日は



ちょっと疲れ気味。

やばい感じで首が回らなくなってきたし、
なんとなく、左の耳がぼーっとしてきている。

この間も、エレベーターが開いた瞬間、
一体、どこのエレベーターなのか戸惑ってしまった。

かなり疲れ気味、か。

日中、気がつくとSMSを着信していた。
着信音に気づかない程、何かに熱中していた、とも言えようか。
慌てて見ると、友人から。
歯科医を紹介して欲しいとのこと。

バッタ達がお世話になる近所の歯科医と、
パリで私がお世話になった歯科医の二人の電話番号と住所を書き送る。

暫くして、
専門は何かと聞いてくる。

歯科医の専門?
ふむ。

それでも、丁寧に書き送ると、
午後にもう一度SMSが来る。
さっきのメッセージを消してしまったので、再送して欲しいとのこと。

良くある、ちょっとした誤作動か。

今なら、そう思える。
ただ、その時は、私からのSMSは、そうやって瞬時に消す習慣なんだな、なんて、思わなくても良いことを考えてしまう。

疲れている証拠。
かなり重症か。
こんな日は、
何もせずに、早く寝るに限る。

気がつくと、もう夜の10時。
それでも、外は未だ明るい。
寒い、寒いと思っていても、もう5月も下旬。
そろそろ初夏。

鳥たちの囀りがぼんやりと遠くなっていく。。。

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2012年5月18日金曜日

DIY(ブリコラージュ)万歳!



ここ一月になるか、
台所の二つあるシンクの小さめな方の水はけが悪い。
配水管詰まりストップなる薬品を使うが一向に改善しない。
その内、配水管からの水漏れに発展してしまう。

先週、日曜のイベントの為に3つのチョコレートケーキ、バナナシフォンケーキ、カステラ2本、加えて沢山のビスケットを長女バッタと手分けして焼き上げねばならなかった。

が、肝心の砂糖と小麦粉が、水漏れの為使い物にならないことに直前に気がつきパニック。
しかも、配水管の水漏れが原因であるから、ただの湿り気ではない。

それでも、なんとか遣り繰りし、担当していた500人規模のティーブレークは成功裡に終わる。

このところ、学校関係、バイオリン関係、そして、通常の仕事、と、
自分の時間がなくなってしまっているのか、
落ち着いて一息つく暇がない。

それでも時間はいつも通り流れるから、
『しなければいけない懸案事項』が山積みし始め、
切迫感に襲われ始めてきていた。

そして、配水管の問題は早期解決が一番、と、
イエローページで近所の修理工を呼ぶという過ちを犯してしまう。

人間は、過去の経験を生かせないのか、
或いは、私の個人的な問題なのか。
学習効果ゼロ。

果たして、
約束の時間を1時間経過した頃、電話が入り、あと45分で到着とのこと。
しかも、現金払いと告げられる。
小切手社会のフランスで現金会計とは不正の匂いを放っている。

ただ、精神的に待たされていたことでのイライラと、早期解決を願う焦りとで、通常の判断が出来なくなってしまっていた。

そうして、『俺を泥棒呼ばわりするのか』と言わん勢いで、『俺様がこの価格と言っているのだ』、と請求書を突きつけられる。

黄金の配水管でも据え付ける値段。
工事時間3時間。
1時間も費やしていないと言えば、準備の時間も含まれていると大騒ぎ。

人間、人を信用しなくなったらお仕舞いだ、と
ぎろりと睨まれる。

勘弁して欲しい。
本来の値段はこれであり、しかし、昨今の厳しい状況を鑑み、サービス料をいかほど頂戴したい、と言ってもらえれば、どんなにすっきりするか。

バッタ達と話し合う。

長女バッタは、自分は金額については全く分からないが、おじさんは、ちゃんと仕事をしたと思う、と発言。

ぎょっとする。

ああ、ここにしっかりと、我が分身が!

いかん、いかん。我が子よ。しっかりと目を開けてくれ。
こんなぼったくりにあってはいかんよ。
「正規料金」を請求し、頑固として支払わない強さと度胸を持たねばならんよ。

いや、だからこそ、我が家にも、ちょっとした内装工事、水漏れなら、対応できる道具がある。
パリの古いアパートで、磨いた腕も持っている。

そう、
これからは、配水管も手掛けることにせねば。

DIY(ブリコラージュ)万歳!


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2012年5月15日火曜日

子は親の背を見て育つ



遠くで音がする。
漸く眠っていたことを思い出し、手を伸ばしてアラームを切る。

ここ数日、ゆっくりとした時間がとれていない。
特に、水曜の夜から殺人的スケジュール。
そもそも、土曜の朝に重要な説明会、そして、日曜にバイオリンの地区大会と、二つの大きなイベントが重なってしまったことが原因。
それでも、日曜は別件を断っている。
ただ、そこに、これでもか、と新たな難問が次々に降りかかってきてしまう。

いや、その他にも、かなり微妙な件を一つ片付けていたか。
あれは本当に困ったことで、七人のサムライの一人が、サムライ生命を賭して、この案件が通るなら、辞す、とやったものだから、大変。
このサムライをワガママと斬ることは簡単であったが、そんな仲間割れをしてしまったのであれば、200人近くの人々をどうやって率いることができようか。
当初は、このサムライを説得する作戦に出たが、どうやっても無理。頑固。
なら、去ね。
そう思いもしたが、そこまでサムライ魂に照らして譲れないものであることを、もう一度考えてみる。
このサムライの意見も、確かに一理ある。

さて、どうするか。

腹を決める。

サムライの長に、孫子の兵法を説くのであれば、孔子の論語を見よ、とメールする。

我々は間違っているのかもしれない。
一人のサムライの声に耳を傾けようじゃないか。
太陽の照り輝く王道を歩くべきであり、詭弁をもって良しとしては、サムライの名に恥ずべき行為。

すぐに返事が来る。

数度のやりとりで、長を説得できたことが分かる。

そうよ。
今、仲間割れをしている場合ではない。絶対譲れない内容ではなく、こちらにも弱点がなくはない。ここは、潔癖な一人のサムライの意見を聞こうじゃないか。

早速、かのサムライにメール、そして、翌朝、電話。
電話の向こうで、むせび泣く様子が伝わる。

別のサムライ仲間にも事前に連絡を入れておき、説得。

一件落着。

そうして、一致団結した7人のサムライたちによる土曜の説明会は無事に終わる。

しかし、この喉の痛みは酷すぎる。
頭の痛さも尋常ではない。

長女バッタが試験があるから6時に起こして欲しいと言っていたか。
慌てて起こしに行き、そのままベッドで寝ていると、
いつの間にか周りがきつい。
息子バッタと末娘バッタが入り込んで寝ている。

「ママ、会社は?お休みするの?」

喉も痛いし、頭も痛い。今日はちょっと起きられないよ。
声を絞り出して答える。

しばらくして、
「僕も学校を休もう。腰が痛いんだ。」

ぎょっとする。
おお、そうか。
子は親の背を見て育つ。

おっしゃ!
むっくりと起き上がる。
寝てはいられまいよ。

痛み止めを飲み込んで、外に出る。
息子バッタも鞄を背負って、先に走って出て行く。

聳え立つ杉の木に絡まって咲き誇るクリスマスツリーのような藤の花が
甘い香りで見送ってくれる。




関連記事:

分かり合える同志となるべく
 仕方のないこと
 七人のサムライ達~傾向と対策~
 モノトーンの世界が一瞬にして春に
 意外性は新たな始まり。。。



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2012年5月7日月曜日

ログアウト

同じサーバーのアカウントであれば、
誰が今オンライン状態にあるのか、
席を外しているのか、
或いは不在なのか、
一目瞭然。

仕事上は大変都合が良いが、
プライベートとなると、どうも勝手が違う。

神経を集中してメールを書いている時、
突然チャットがポップアップ。

無視するのは無粋であろう。
何故なら、相手には私がオンラインであることが分かっているのだから。
しかし、親しい相手であればある程、
おざなりな返事も却って無粋。
正直困ってしまう。

仕事場では、会社のネットワークを使用することから、
プライベートのアカウントを利用しても、
オンライン状態か否かは現れない。

問題は我が家での使用時。

実は、
「ごめんね。今ちょっと忙しいの。後ほどゆっくり。」
と二度ほども返事をしておきながら、
一向に連絡をしていなかった彼から、
日曜の午後、
「元気?今、家なの?」
と新たにチャットがポップアップ。

おざなりにしたくない相手だからこそ、
メールだって、そうそう書けない。

かつ、
余りに離れていて、
一日の出来事を逐一報告し合う関係ではないからこそ、
そして、
特に一緒のプロジェクトがあったり、
次に会う約束をしたり、
といった関係ではないからこそ、
連絡が途絶えてしまっている。

手掛けていた今週末のイベントに関するお知らせメールを書く手をやめ、
彼に返事をする。

「まあまあ。そちらは?」
「上手くやっているよ。仕事はどうした?」

本気で心配してくれていることが分かるだけに、どう返事をしたら良いのか分からなくなる。

「今のところ、何のオファーもないよ。」
「いい仕事が見つかると良いね。でも、今の仕事、結局は続くかもしれないね。頑張れよ。」
「そちらは?そろそろ大学から離れるの?」
「ああ、月末には、かなり大きめのベースの代表になるよ。」
軍事大学の学長よりは、現場に出たいとの彼の願いが叶うのか。
空軍基地の代表よりは、学長の方が、どんなにか身の危険はないであろうのに。
心のすれ違いを感じ始める思いを追いやって、
「じゃあ、早く会いに来てね。待っているから。」
と書き送る。
「もちろんさ。」
そんなことは、無理なことぐらい分かっている。
その思いが伝わったのか、すぐに続きが来る。
「絶対いつか会いに行く、って言っているよね。」
正に、俺を信じろ、的な書き方。
そして、
「死ぬ前には必ず会いに行く。そう決めてある。」
「じゃあ、そう簡単には会えないように工夫しなきゃね。」
「可愛いことを言うね。でも、誰しも、いつかは死ぬんだよ。」
「分かっている。ただ、それほど大切に思っているってこと。」
今度は、彼が「分かっている。」

会えば、きっと骨が軋むほどお互いに抱きしめ合うのであろう。
信じられないとばかりに、
お互いの顔を叩き合うかもしれない。
そうして、
魂が溶けるほどまで、
熱い息と
熱い手で
相手の存在を確かめ合うのであろう。

二人には分かっている。

それでも、
それが出来ないことも分かっている。

そんな二人に、
これ以上、
どんな会話ができようか。

切なさが増すだけ。

どうしよう。
今から、スカイプをしよう、などと誘われたら。
朝から芝刈りをして、汗だらけの身体はシャワーも浴びていない。
お化粧は愚か、髪だって櫛をあててさえいない。

そんな気持ちが伝わったのか、
一瞬の沈黙の後で、
「さあ、もう行かなきゃ。じゃ、元気で。」
胸が張り裂ける。
「そちらも、元気でね。Kisses

Bye
そして
Kiss

ログアウトし、目をつむる。




どうぞご参照下さい(関連記事):

初恋の相手との再会
マンゴ カルナンデ
Life is busy and going on and on



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2012年5月6日日曜日

コマドリ~ルージュゴージュ(紅い喉)~と戯れて




一晩中降っていた雨で土草はぐっしょりとし、
一向に晴れやかな朝を迎えないままに
今にも泣き出しそうな
どんよりとした低い空を背に感じつつも、
運動靴を履き、
作業用革手袋をし、
伸びきっている芝に立ち向かう。
いや、雑草か。

いつもなら、草を刈る時の特有の
青臭ささと爽やかさが混合した香りを放つのに、
今日は濡れそぼった芝草が
むしりとられる格好になるからか、
時々モーターが止まり、刃の周りにびっしりと固まった濡れた草葉の塊を除く作業が必要で、
香りなど、ちっとも立ち込めてこない。

ぐっしょりとした根を刈り取って、
土までも掘り起こしてしまうよりは、
むしろ手で、一本一本の雑草を抜いた方が
すっきりといく。

それでも、大きなビニール袋に二つは、
刈った草が積みあがり、
気がつくとじんわりと背中に汗を感じる。

友人の7歳になるお子さんが、
先日、事故にあって入院したとの知らせが入る。
その友人は緊急メールにさえ返事ができず、申し訳なかった、としている。
漸く落ち着いたので、これから溜まっている仕事に取り掛かる、と結んでいる。
事故といえば、咄嗟に交通事故、と思うが、どうやらそうではないらしい。
それならば、交通事故、と明記するであろう。

暫くして、
私のお見舞いメールに、
もう2週間もすれば、息子も歩けるようになるだろうし、峠を越したよ、
と返事が返ってくる。

そんなに酷い怪我だったのか。
確か3つになるお子さんもいるはず。
家族全員、どんなに大変であったろう。

そう思っていると、知り合いから新たな情報が入ってくる。

どうやら、芝刈り機が事故の原因らしく、
足の筋を切ってしまったとか。

芝刈り機を扱っていたのは、友人か。
いや、彼の若い妻か。
或いは、20歳になっている彼の息子か。
それとも、本人か。

いずれにしろ、どんなに衝撃的であり、どんなに大変であったろう。

昔、息子バッタと末娘バッタが二人仲良く芝刈りをしてくれ、
芝刈り機で電線を切ってしまったことを思い出す。

事故。

身震いのする思い。

芝刈り機の手を止めて、
そんな思いに耽っていると、
目の前をオレンジの喉をしたコマドリが遊んでいる。
掘り起こされた土の香りに誘われたのか、
全くの警戒心なく、
ミミズをついばんでいる。

ルージュゴージュ(紅い喉)。

芝刈り機は危ないのよ。
気をつけなさいね。

そう言ってやるが、
相手はちっとも気にせずに、
相変わらず芝を刈る私の傍を離れない。
危険ともなれば、
その羽で飛んでいけば良いのだけど、
身を危険に晒していると思った時には、
もう、遅い。

なんだか、ルージュゴージュが友人の息子さんに思えてきてしまう。

取り敢えずは、今日の芝刈りは終わりとしようか。
可憐なさえずりに
私の口笛が混じる。

弱弱しくも太陽の光。


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