2012年7月30日月曜日

カメレオン

 

閑散としたサロンの長テーブルの上に、
幾つかの袋の塊を目にし、
ふと中味を確認し凍りつく。

あんた達。。。

バッタ達は日本から帰ってきた翌日、
もうパパとブルターニュのバカンスに行ってしまっていた。

日本に行った同じスーツケースに、
多分、長女バッタはビキニを入れて、
息子バッタはサッカーのプロテクターを外して、
末娘バッタは学校の宿題を入れて
旅立っていった。

恐らく、日本の学校で使った本、ノートは置いていったと思われる。
どうも、パパとのバカンスとなると、準備の手伝いが億劫になり、
バッタ達にも通じるのか、彼らも一向に当てにしていないように思われ、
さっさと自分達で用意をしてしまっていた。

彼らが去ってから、
またもや、もぬけの殻と化した我が家のソファーには、
あんなに長女バッタが空港で欲しがって、
バイオリンを背負っての重い荷物に苦もせずに、
抱えて持って帰った八橋の箱が入った袋が、
無造作に置き忘れ去られていた。

一人で食べる気にもなれないし、
丁寧にラップで包む気も起きずに、
箱のまま、冷凍庫に突っ込んでしまった。

冷凍庫には、既に息子バッタが大切に持って帰った納豆が4パック入っている。

そうして、
今度は長テーブルの上に、
あんなに大騒ぎをして日本から持って帰ってきた、
日本の飴、柿ピー、おせんべ、など入った袋が、
これまた無造作に置かれていたのである。

そうか、あいつら。。。

日本で、地元の子供達の言い回しをすっかり身につけ、
方言のイントネーションも板につき
大いに笑わせてくれたものだが、
今頃は、すっかりフランス人となっているのだろう。

朝は太陽と一緒に目覚めていたのが、
今頃は、ブランチなぞと気取って楽しんでいるのかもしれない。

蝉が羽化するように。
いや、違う。
カメレオンのように、環境によって色を変え化けている。

そう思った瞬間、
裏切られたとの悲しみよりも、
もっと深く、
そういった環境をもたらし、
そういった環境に身を置かさせ、
カメレオンとさせてしまった事実に愕然とし、
心の奥底に激痛が走る。


 
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2012年7月29日日曜日

思わぬ展開


どの時空間を彷徨っているのか
自分でも分からなくなっている最中、
久々にアクセスしたメールボックスに彼から二通のメッセージ。

私からの返事がないことを気にして、
改めて二度、送ったのだろうか。
身体の奥底に痛みが走る。

朦朧とした頭で斜め読み。

今回の出張は相手国からの正式なオファーが来ておらず、
今の外交関係の複雑な問題を思えば、余り不思議なことでもなく、
恐らくは流れるであろうこと。
二度も期待を裏切ってしまって申し訳ないと思っていること。

そんな内容が書かれている。

やっぱりお流れになってしまったのか。

残念さよりも、その事実をほっとして受け止めている自分に戸惑う。

二通目のメールも同じような内容。
彼の真摯さに却って申し訳なさを感じる。

こればかりは国が決めることで、
どうしようもないんだ。本当にごめん。今回、会えなくて、とても残念だよ、
と結んである。

慌てて返事を書く。

どうか気にしないで。

多分、そう、多分、
もしも決行されていたのなら、やはり行かずにはいられなかったであろう自分を思い、
そんな愚行をせずにすんだことに、やはり安堵せずにはいられない自分に呆れる。
そんな無理をした後の二人の関係の行く末は、小説を読まずとも分かりやすいばかりではないか。

今回は、むしろ有難い結果となったといえようか。
むろん、そんなこと彼には言えまい。

いつか、そう、いつか、
機が熟し、余裕を持って会えるときが出てくる、そう願わずにはいられない。


関連記事: 逡巡



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2012年7月18日水曜日

いつしかベールが剥がれ落ち、輝かんばかりに甦るであろう故郷を思って



ママ、今日は銚子ヶ滝に行ったんだよ。
入り口に1時間って書いてあったのに、30分で着いたんだよ。
前にママと一緒に行った時よりも、
滝の水が勢い良く出ていて、すごかったよ。
前は、岩のチェーンを使って下りた場所が、
今回は階段で下りるようになっていたんだよ。
それで、トマトを滝の水で冷やして食べたの。
おにぎりも2個食べたよ。
とっても美味しかったよ。

けたたましく電話の向こうで末娘バッタが報告してくれる。
子供時代は勿論、東京で学生時代を過ごしている時も、フランスに行っても、
帰省しては、「銚子ヶ滝」に行って「調子」をつけよう、などと、
かなりつまらない駄洒落を言っては、
ちょっとした散歩がてら行っていた、見上げんばかりの鬱蒼とした濃緑の奥から、爆音とともに勢い良く流れ込む滝の姿が目に浮かぶ。

それからね、

今度は、ちょっと声をひそめる。

滝の水も飲んだの。
とっても冷たかったけど、ちょっと甘くておいしかったぁ。

そうか。
そうだよね。
そりゃそうだよね。

なんだか素直に納得してしまう。

「福島」の「福」にベールが掛けられて1年とちょっと。
風評被害の話も聞くし、
これから、一体、
智恵子の言う「本当の空」がある福島は、
どうなっちゃうのだろうと心悲しく思っていた。

末娘バッタの元気な弾む声を聞きながら、
ああ、いつか、
そう、彼女達の世代になれば、
確実にベールは剥がれ落ち、
輝かんばかりに「福島」は甦るのであろうとの思いを強くする。

子供達の行動力にひたすら頭が下がる思い。

次は、ママも一緒に行こう。
そうして、原生林が育んだ滝の水を心ゆくまで飲み干そう。


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2012年7月14日土曜日

逡巡



このところ一週間ばかり狙いが定まらない。
いや、思考が定まらない。

これまでの自分と違う自分を見出し、
その扱いに四苦八苦し、当惑している。

彼から、
最近おとなしいね、どうしたの?
SMSがあったのはいつのことか。

違う世界に住んでいるし、
逐一こちらの状況を説明しているわけでもない。
6月はバッタ達の学校行事で大変だし、
手を染めてしまった活動やら、
仕事関係での出張など、
確かに忙しかった。

それでも、
そう言われてしまうと、心が沈む。

去年の6月だったか。
彼がアジアの或る国のセミナーで講師として呼ばれているから、
その時に会えないか、と
連絡してきたのは。

そのセミナーの知らせは、今でもサイト上に存在するが、
結局実現はしなかった。
人道的な問題で彼の国が国連に叩かれ、
政治的な圧力とやらで、お流れになったと聞いた。

あの時は、
旅の準備をしていたわけではないが、
心の準備はできていて、
なんだか、肩透かしを食らった思いがしたもの。

彼との関係は、憧れの世界に止まり、現実社会とは一線を画していると思うことにし、心の中で処理してきた。

それが、今回、メールで、日本に行くのであれば、アジアの某国経由にしないか、と連絡が来る。

そうか。
日本にこの夏、少しだけ行くことを、彼には伝えていなかった。もうチケットだって買ってしまっている。
そうか。
だから、この間、SMSで出張のスケジュールを聞いてきたのか。

8月初旬の10日間、アジアの某国で講習会があるという。
彼は軍のベースに寝泊りすることになるが、
恐らく、外出できるであろう、という。

慌てて日程を見る。
行けるなら、週末。
それでも、航空チケットは日本に行くだけの値段。

しかも、果たして本当に彼は外出ができるのか。

ロンドンで夕食を一緒に、というのであれば、
多くの人には気違い地味ていると思われるだろうが、
多分、なんとか遣り繰りをして行くだろう。

ただ、12時間以上も飛行機に乗った、その末に、
夕食をともにする、
それだけの為に?
しかも、ひょっとしたら彼とは会えないかも知れないのに?

どうしたのだろう。
今までだったら、彼と会えるチャンス、
一時であっても、声が聞けるチャンスであれば、
すぐにもしがみついたと思う。

恐いのかな。
こうして彼と再会してしまい、
それでも、彼とは未来を語る関係ではないことに変わりはなく、
そうして、人生の謂わばヒーローの様な存在が、現実となってしまうことが。

自分で自分をもてあましている。

彼からは、招待国からの正式コンファームが未だないとの連絡。

今回を逃すと、本当にこれからも会えない気がする。

彼とは未来を語れないからか。
自分の心の変化に戸惑う。

ひまわりの黄色い花弁は
かっきりと輪を作っていて何も答えてくれない。




どうぞご参照下さい(関連記事):

初恋の相手との再会
マンゴ カルナンデ
Life is busy and going on and on
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2012年7月11日水曜日

夏の夜のブーケがもたらした仄かなる一瞬



灼熱、涼風、情熱、一夏をまるごと抱えたような向日葵のブーケ。

環の周りにつけた黄色い花びらが爽快に笑い合う向日葵たちに、
小さな真珠の粒のような花房の列が空に向かって優雅さを添え、
薄紫の可憐な小花たちが優しさを、
細い緑の線が絡み合う葉が柔らかさを与えている。

早朝の爽やかさと、真昼の太陽の輝き、夕暮れの落ち着き、すべてを備えた両手にもあまるブーケ。

そんな花束を片手に軽々と持ち、庭の小道を通ってやってきた彼と、頬を寄せての挨拶。
グリーンの香りが舞う。

饗宴がお開きになった帰り際、
熱き頬を寄せての思いがけないしっかりとした抱擁。

あれは、夏の夜がもたらした一瞬なのか。

その一瞬だけが切り取られ、何度も何度も脳裏に甦っていることを、彼は知っているのか、知らないのか。

出来ることなら、
そう、出来ることなら、
両腕を彼の首に回し、
体中の全ての細胞で、彼の熱き抱擁を受け止めたかった。
そうして、
熱き頬を触れ合わせ、
その熱き唇に、そっと、
いや、乱暴に強く接吻し、
彼を感じたかった。

過去と現在と未来が入り乱れ、
私の中では
彼が両手で私の顔を掬い取り、
熱いキスの雨を落としている。

夏の夜のブーケがもたらした仄かなる一瞬。
それ以上でも、それ以下でもない。


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2012年7月9日月曜日

出会い ~夏を抱いた向日葵の大きなブーケ~




そうして彼は
約束のチーズと白ワインを持って、
見たこともない程の大きな向日葵が基調の花束を片手で軽々と抱えて、
いつもの、ちょっとはにかんだ、
恥ずかしそうな笑みを湛えてやってきた。

頬を合わせてのビズの時に、
爽やかなグリーンの香りが一瞬舞い降りる。

「昨日はマンション(成績評価)がもらえず落第したから、今日はそのラトラパージュ(追試)よ。」

嬉しそうに笑いながら、そうなんだ、と頷きつつ靴を脱いでいるが、一体、ちゃんと分かっているのだろうか。

そう、前日は朝から一緒に打ち合わせに出かけたが、私の単純ミスで場所を間違え、小雨の中を彷徨うことになり、その後、次の会議と、迫ってくる午後のイベントの間で、時間もなくなり、慌てて場所柄も近い我が家で簡単にランチを、となる。

ラーメンならある、と思っていたが、もう一つの選択肢として提示していた、ご飯とハムエッグを選ばれ、それならば、と勇んで冷蔵庫を覗いて愕然。
バッタ達がいなくなってから一週間。
冷蔵庫は空っぽ。

更に間が悪いことに、一瞬で掃除機を片付けたものの、
サロンには未だバッタ達の旅行の準備と称して出されていた靴下が転がっている。
とにかく、スーパーの大袋に全て詰めて別室に運ぶ。
と、手を洗うバスルームに、
洗って干してある下着に気がつき、バスタオルを掛ける。

多分、この辺から、もう、上の空になったのかもしれない。

先ほどの会議での話題を無難にしながら、
冷蔵庫のご飯を電子レンジに放り込み、
「ちょっと誇大広告しちゃった。ごめんね。目玉焼きオンリーになるわ。」
と、フライパンにオイルを落とす。

サロンのテーブルの書類やら、バッタ達の本やらを隅に追いやり、
お気に入りのモネのテーブルマットを出す。

あんなに緊張したことはない。
目玉焼きにと、お醤油、ケチャップ、塩、胡椒を出すが、
最後に出した「ユズスコ」を振り掛け、
白いご飯で「頂きます。」

なんとなく物足りなくて、フリカケも出す。

ああ、
なんとも情けなし。

「カフェ?紅茶?お茶?」
最初はカフェのリクエストとなるも、インスタントだと分かると、紅茶にしようか、となり、紅茶もティーパックだよ、と見せつつ、もう、時間もなく、アールグレーに。

午後のイベントの為に、ちゃんとスーツを用意してあり、
着替えさせて、と別室に入る。

なんだ。
我が家を使うこと、当てにしていたのかな。こんなことなら、前日にどんなに疲れていても買い物に行けばよかった。

ネクタイを締め、ピシリ、と決まると、「さあ、行こう。」
あ、ちょっと待って。私も着替えなきゃ。

と、そんな情けない、おもてなしをしてしまっていた。

だから、その挽回をしたかったし、その日の仲間達との「お疲れ会」は、いつの間にか、私の心の中では彼がメインゲストとなってしまっていた。

前日に比べたら、掃除機も掛けたし、サロンも綺麗になり、玄関の靴もすっきり、
そう思って張り切っていたのに、
頂いた向日葵の大きな花束を何に活けようかと思いあぐね(我が家の花瓶には既に庭の薔薇が優雅な枝にクリーム色の蕾をつけ、甘やかな香りを放っていた)、
シャンペンクーラーにと思い台所に行くと、
シャブリを冷やそうと私の後についてきた彼が、
「ふうん。日本人の居住空間は皆、整理整頓されているものかと思っていたけど、これは驚いたね。」
と、我が家のCDラックと、その下に転がるじゃが芋、玉葱、空き瓶、などなどを見て、大笑いする。
それを受けて、既に来ていた別の仲間が、
「まったくその通りだね。良かったよ。君みたいな人がいるって分かって。」
と大笑い。

こちらは、大笑いどころではない。
マンション(成績評価)が掛かっている。

それでも、早めに集まっている連中でヴーヴクリコのシャンパンで乾杯し、
黄金の粒の舞で喉を潤しながら、
大皿にたっぷりと盛った今にも弾けんばかりの真っ赤なチェリーに
皆で堪能する。

仲間が揃い始め、
さて、と、
アントレを。

熱湯に潜らせたセロリ、人参の千切りとキュウリの千切りを盛って、
ディルで香りをつけたタルタルサーモンを上に載せ、
キャビアもどきの魚の卵とパセリの葉のみじん切り、粒マスタードのソースを掛ける。

おおっ!

皆、感動してくれる。いいな、この感じ。
久しぶり。
そう、本当に久しぶり。
友人達を招いてのおもてなし。

ちらりとオーブンを覗くが、
熱々の大きな二つの塊が鎮座しているものの、
アラームはあと少しと表示している。

さて、では、アミューズブッシュと洒落込むか。

先日味を占めた我流グリーンパパイヤサラダを小皿に盛る。

インゲンの緑、プチトマトの赤、カシュナッツ、大根、パパイヤ、赤唐辛子、と色鮮やか。

ちょっと辛いのでは、との心配を余所に、
皆、感動の声を発しつつ、お皿は綺麗になる。

と、アラームがなり、遂にオーブンから塊を出す時間に。
皆、興味津々。
仲間の一人がオーブンから重くて熱い塊を出す作業を買って出てくれる。

予め用意しておいた斧を、別の仲間に手渡し、ガツンとやってくれとお願いする。
小麦粉、粗塩、ハーブの生地で作った塊は、ちょっとやそっとではビクリともしない。
想像以上の皆の嬉々とした様子に、こちらもウキウキ楽しくなる。

がっぷりと割れて出てきた鶏は、
じっくりと醤油、生姜、シャロットの味がゆきわたり、
身はとろりととろけんばかり。

仲間の一人が持ってきてくれたワインで改めて乾杯。

最初こそ、一つで充分と言っていたが、
結局、二つ目も皆で分ける。

グレープフルーツ風味のパセリとミントたっぷりのタブレを供する。

一皿、一皿ごとに、
まるで試験官の如く、「とってもおいしいです。」
と恥ずかしそうな眩しそうな笑顔を向けて、伝えてくれる彼。
その効果がどれだけのものか、本人は知る由もあるまい。

なんだか、本当に、彼の為だけに料理をしたような気分にさえなってきてしまう。
赤ワインの効果だけではあるまい。

彼のチーズを皆で楽しむ頃、
話題はいつの間にか女性と出会ったときに、先ずどこに目がいくか、となる。

仲間のうち、一番オシャレで洗練されていると思わせるフレディが、「そりゃあ、お尻だよ。」
と爆弾発言をして、皆、沸く。

仲間のうち、一番若くて、真面目さからは程遠いイメージのエリックが、「目だよ。」といって、女性達の歓声を浴びる。

女性の一人が、「家の旦那、愛を語れば目が緑になるって言うんだけれど、未だ嘗て、彼の目が緑になったことって、見たことないわ。」といって、皆の爆笑を買う。

彼は、何て言うだろう。
答えは分かっているようで、でも、とっても気になる。

果たして、思ったとおり、全体の雰囲気が決め手となるが、時と場合による、といった曖昧なもの。この手の話にはシャイな彼。

そして、エリックが日本人女性は見た目と実際が違う、といった話をしだし、
別の女性が、「彼」に、日本人女性の印象を聞く。

つい、手にしていたナイフを握り締め、
彼をじっと見つめてしまう。

と、
奥にいたはずの別の仲間が、「そうナイフなんてかざさなくても、燃える瞳の中の炎が十分物語っているよ!」と私に声を掛ける。

しまった。
やっぱり単純な私の態度は分かりやすいのだろうな。
それにしても、なんという観察力。やばい、やばい、とヒヤリとしつつも、
笑い飛ばし、誤魔化す。

そんなやり取りがあって、彼が自分の気持ちにぴったりなんだ、とある詩を紹介してくれる。
Antoine Polの「Les passantes」。
手際よく、i-phoneを持っていた仲間の一人が、ユーチューブで検索し、Georges Brassensの歌声が流れてくる。

仲間全員が静かに、その歌声に聞き入る。

ある無名の詩人が、シャンソン歌手のGeorges Brassensに詩を送る。それを読んで、本人に会いたいとしたときには、既に詩人は亡き人。そんな背景も紹介してくれる彼を、とてもじゃないがまともに見ることはできなかった。

デザートはオレンジ果汁の口の中ですっと蕩けるゼリー。

パリからの一人が、そろそろお暇しないと、と言い出す時間になる。

じゃあ、カフェは?
今晩は本物のカフェがあるわよ。

そう彼に笑いかけると、
じゃあ、カフェを頂こう。
パリに帰る仲間も、カフェで締めくくろうということになる。

そうして、
あら、それじゃあ、私も。
じゃあ、そろそろ。

と皆が帰ることになる。

頬を合わせてのビズがあちこちで繰り広げられる。

彼との番になったら、
大柄の背を屈め、
ぎゅっと抱きしめてのビズ。

眩暈がしそうになったのは、
甘いデザートワインの影響だけではあるまい。

皆が帰った後に、
コンコン、とドアを叩く音。

ちょっとそこまで仲間を送ってきたエリックが、
片づけを手伝うよ、ともう一度来てくれる。

優しい思いやりに感謝しながらも、
もう夜中になるという時間に、流石の私も男性一人をあげるわけにはいかないと、
丁寧に、丁寧に断る。

久しぶりに、数え切れないグラスを洗いながら、
ひょっとしたら彼が現れないかな、なんて思っている自分に、一人呆れつつ、
明日は講義があるんだっけ、と思ったりもする。

そうして、見事な夏を抱いた向日葵のブーケを部屋に運び入れ、
少しでも睡眠をと思い、眠りにつく。

翌日、
ぼんやりとした頭でメールを見ると、彼から皆へのメールが入っている。
そこで、「Les passantes」の詩を紹介してくれている。

それが、一体、どれほどの効果を私にもたらすか、彼は知る由もあるまい。。。
多くの一般的な出会いへの礼賛。
それを牽制とみるか、素直に、彼の心の豊かさと思うか。
いや、余り深く考えずに、さらりと、そうさらりと読み味わおうか。


Les passantes

Je veux dédier ce poème
A toutes les femmes qu'on aime
Pendant quelques instants secrets
A celles qu'on connaît à peine
Qu'un destin différent entraîne
Et qu'on ne retrouve jamais

A celle qu'on voit apparaître
Une seconde à sa fenêtre
Et qui, preste, s'évanouit
Mais dont la svelte silhouette
Est si gracieuse et fluette
Qu'on en demeure épanoui

A la compagne de voyage
Dont les yeux, charmant paysage
Font paraître court le chemin
Qu'on est seul, peut-être, à comprendre
Et qu'on laisse pourtant descendre
Sans avoir effleuré sa main

A celles qui sont déjà prises
Et qui, vivant des heures grises
Près d'un être trop différent
Vous ont, inutile folie,
Laissé voir la mélancolie
D'un avenir désespérant

Chères images aperçues
Espérances d'un jour déçues
Vous serez dans l'oubli demain
Pour peu que le bonheur survienne
Il est rare qu'on se souvienne
Des épisodes du chemin

Mais si l'on a manqué sa vie
On songe avec un peu d'envie
A tous ces bonheurs entrevus
Aux baisers qu'on n'osa pas prendre
Aux cœurs qui doivent vous attendre
Aux yeux qu'on n'a jamais revus

Alors, aux soirs de lassitude
Tout en peuplant sa solitude
Des fantômes du souvenir
On pleure les lèvres absentes
De toutes ces belles passantes
Que l'on n'a pas su retenir

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2012年7月6日金曜日

我流甘辛くて爽やかなグリーンパパイヤサラダ


非常に簡易なコンクリートのだだっ広い、さながら体育館のような建物に、
山の様に積まれたじゃが芋(泥つき、シンジャガ、大粒、小粒)から始まって、玉葱(白、茶色)、ニンニク、唐辛子(鷹の爪、ハナネーロ、細長いもの、太いもの、緑、しし唐)、
真っ白で太い大根、真っ黒で細めの大根、緑の葉っぱのついた人参の束、極太の人参の山、
ミント、パセリ、バジル、セルフィーユ、ディル、タイム、コリアンダー、フェンネル、ニラ、レモングラス、などの新鮮で香り高いハーブの山、
椎茸、シメジ、平茸、小粒や大粒のマッシュルーム、
インゲン、鞘インゲン、絹さや、モヤシ、グリーンピース、
大きな葉のほうれん草、細長いコージェット、丸い形のコージェット、
ぱんぱんに実の詰まった大きなナス、赤、オレンジ、黄色、緑のポワブロン、
ありとあらゆる種類のトマト、そして、ありとあらゆる種類のサラダ(レタス)、
でんと細長いキュウリの山、
真っ白でみっちりとしたカリフラワー、むっちりとしたブロッコリー、、、。
次の間に入ると、
スイカ、マンゴ、パイナップル、
白桃、桜桃、つぶれた桃、ネクタリン(白、黄の果肉)、
赤林檎、ピンク林檎、青林檎、
レモン、オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、チェリー、杏、スモモ、
ラズベリー、苺、ブルーベリー、すぐり、
バナナ、マクワウリ、メロン(赤、青、白の果肉)、
生姜、パッションフルーツ、パパイヤ、ココナツ、、、。

ちょっとヒンヤリとした中で、
各所、各所、鮮やかな、時に甘く、時に爽やかな香りが立ち上ってくる。

この世界に足を踏み入れると、
我が家の冷蔵庫のキャパも忘れ、カートに山積みしてしまう。

それでも、ここに、グリーンパパイヤはない。

ないものねだりなのか。
ないから欲しいのか。
ないから拘るのか。

いつからだろう。
夏になると、グリーンパパイヤサラダが恋しくなる。

遠い昔、パパイヤの香りという、ベトナムの田舎の非常に穏やかで、それでいて香りたつ映画を観てからか、
どこかで、グリーンパパイヤへの憧れが心に植えつけられてしまったに違いない。

緑色をした固めのパパイヤをマルシェで見つけ、
これがグリーンパパイヤか、と一人ごちた、ある夏の日。
冷たくがっしりとした重みを抱え、
早速、ネットであらゆるレシピを調べ、
タイ人による、本格的作り方とやらをビデオで何度も確認し、
これは、と思う材料を揃え、
さあ、と、しっかりと研いだ包丁で、すぱりと切れば、
うっすらと淡いオレンジ色の果肉が覗く。

パパイヤは未だ熟しておらず、
それでも、野菜というよりは、果物に移行していると思われる。

それをどんどん細切りする。
しっとりとした千切りが上品にも出来上がると、
砕いたニンニク、細く切ったトウガラシ、ニョクマム、コリアンダーのソースに絡め、
細めの生インゲン、チェリートマトの4つ切りを混ぜ、
その上に沢山のライムを搾る。

ピーナツを砕いて混ぜることも忘れない。

とろりとしたパパイヤの甘さと、
パリリとしたインゲン、
香ばしいピーナツが、
ひりりと辛い、なんとも言えない深い味をともない、
口の中で弾ける。

これ!
そう、これこそが、私にとってのグリーンパパイヤサラダ。

ある時は、パパイヤが、見た目にも果物となっていたので、
大根の千切りを加えてみる。

爽やかな歯応えの良さと、
大根の独特な味が、ほの甘いパパイヤと、ニンニク、唐辛子のアクセントを伴い、
これまた、なんとも言えない味わいが出る。

一度は、未だ青い梨を使う。
青い梨の香りと、パリリとした食感が絶妙な味わいをもたらしてくれる。

こうして、
私の中で、グリーンパパイヤサラダは姿かたちを変えつつも、
しっかりと、存在感を持ったものとなってきている。

ひょっとしたら、
タイやベトナムで、グリーンパパイヤサラダなるものを食することになっても、
まったく違う味に、驚くかもしれない。

いつか、私のグリーンパパイヤサラダを喜んでくれる友人と一緒に、
本場モノを楽しんでみたい。
いや、これはグリーンパパイヤサラダじゃない、と、言うだろうか?

甘辛くて爽やかなグリーンパパイヤサラダ、
夏の大好物。

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