2018年8月5日日曜日

燃える空の下で








週末ノルマンディーに遊びに行っていたという友人宅に夕食に行く。ひょっとしたらと聞いてみると、遂に最高の物件に出会い、値段も家主と合意したと言う。5ベッドルームで、それぞれバス・トイレがついているとか。写真を見せてもらったが、外観はノルマンディーらしい家のスタイル。内装は6年前に近代的に改装したという。大きくて明るいキッチン。

いつか一緒にB&Bをしようよ、なんて笑い合って言っていたが、彼女は本気で実行するらしい。これまでにもレストランを経営しよう、古物商をしよう、なんて言い合って盛り上がっていたが、先ずはB&Bを実行するのか。秋から一年間仕事を休職するなんて突然宣言し、驚かされたのは先月の事。ちゃんと理由があったのか。ひたすら感心してしまう。

庭でバーベキューを楽しみ、その後は映画観賞会。真っ白な壁に大きく映し出された映像を満天の星空の下で、ソファーに思い思いに座って楽しむと言う。音響の関係でこれまでアイディアはあっても試したことはなかったと、友人の旦那と今年大学を卒業したばかりの長女がシステムの設定をし始める。ふと気が付くと西の空が燃えている。

ちょうど丘の上に建っているが、彼らの庭は東側に面しているので、玄関まで回って刻々と赤さを増してくる空を愛でる。なんてゴージャスなんだろう。大空を見渡しながら思う。

しばらく佇んでから、庭に戻ると、友人が満足そうにソファーに座り、必死に音響設定している旦那と娘を見つめている。どうやらスピーカーの接続が上手く行っていない様子。と、急に軽やかな音がスピーカーから流れだす。長女のお手柄らしく、彼女の笑顔がはじける。

フランス留学時代からの友人で、彼女の旦那ともその時に一緒に知り合ったので、長い付き合いになる。気の置けない、大切な友人たち。燃える空の下、賑やかな笑いに包まれる。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2018年8月4日土曜日

燦燦と降り注ぐ太陽を欲しいままに浴びた黄金の実のタルト






気が付いたら夏が来ていた。

今年はさくらんぼが実る頃にちょうど家を空けていたので、すっかり鳥たちに食べられてしまったと思っていたが、末娘バッタに言わせると、本当に何もならなかったという。そんなことはあるまい、と訝し気に思いつつも、そうなのか。

レインクロードはぽったりと熟してきて枝に重みを与えているが、何しろ大木になってしまってどうにも届かない。友人たちに貸したまま返ってきていない二階建ての屋根まで届きそうな梯子を使うしかあるまい。

枇杷は葉こそ立派に深い青緑色を一層濃くして元気だが、オレンジ色の大振りな実は今年は見当たらない。

クエッチに到っては、葉も実も申し訳程度にしかついておらず、なんだか覇気に欠ける。実を結ぶ時に雹でも降ったか、小さな実の時に嵐でもきて、葉も実も落とされてしまったのだろうか。我が家の庭のことながら、ちょっと心もとない。今年はとにかく休息の年なのであろう。

一方でミラベル。今年はミラベルの豊作の年。細くしなる枝には、これでもかとびっしりと実が鈴なりになっていて、日に日に大きさと色合いを増している。近付けば甘やかな香りがし、地面には鳥が啄んで落としたのか、幾つもの実が転がっていて蜂が忙しそうに羽音を立てている。

残念なことに、ここ数年、庭で採れた果物を食べるとアレルギー反応を起こしてしまう。コンフィチュールやタルトなど一度過熱すれば、今のところは大丈夫。きっと、毎朝木からたっぷりとそのまま食べていたので、そのツケが回ったに違いない。全てやり過ぎはまずいのだろう。

冷凍庫がぱんぱんになり、リキュールや果実ソースの瓶で足の踏み場もなくなるほどになっても、自然の恵みをそのままにしてはおけない質である。農耕民族としてのDNAを受け継いでいるに違いない。散歩の途中に野イチゴを見れば口にし、浜辺を歩けば海藻の味見をし、貝を捕獲する習性は、生まれた時から備わていたように思えてならない。

これも結構な大木となった二本の木を見上げる。さあ、どうしよう。夏の収穫時に限って、バッタ達は不在。ご近所もひっそりとしている。ここ三日ばかりは鍋一杯に収穫したミラベルにゆっくりと火を通してコンポートにし、食している。お砂糖も、なあんにも入れていないのに、甘酸っぱい風味が何とも言えない。







夕食にバーベキューに呼ばれている友人宅に、ミラベルタルトを持って行こう。ぎっしりと黄金の実を詰めて、とろりとした果汁たっぷりなタルトを。バニラアイスクリームをお供にし、ミントの葉を飾ったらどうだろう。








キッチンは久しぶりに甘い幸せな香りに満ち溢れてきた。










にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています


赤桃色の空間



そこは、いさわきちひろの世界だった。
うだるような暑さと一日の疲れを吸って重くなった衣服を引き摺るようにして、柔らかな赤桃色の空間を歩いた。

8月になると決まって路線工事が始まり、幾つか乗り継ぎが新たに加わり、それでなくとも長い通勤時間が30分は増える。加えて、7月に学校が終わると早々に公共交通機関は夏季限定時刻表を発表する。子供たちは2ヶ月間はバカンスだとしても、さすがに労働者はそうはいくまい。それでもいつもより閑散としたバスや電車の中は、旅行者の姿が目立つ。

8月の金曜ともなれば、遅くまで仕事をする人は稀なのだろうか。バスの最終時間がどの路線でも21時であることを確認すると、駅から小一時間ばかり歩くことにしたのであった。

驚いたことに、バスがないことをぼやく人間はどうやら私一人らしく、おとぎの国の世界に迷ってしまったのではと、呆然とした。

空を見上げれば、飛行機雲が茜色に染まっている。それも一瞬のことで、空には雲一つない。赤桃色の空間はぼんやりとしていて、劇的な夕暮れに移行する様子もなく、ひっそりと照明が落ちるように暮れていく。

一人歩いていると、遠い昔同じような空間を歩いていた記憶が蘇る。ピンクの小さなバケツに、拾った海藻と貝を入れて、ぶらぶらとなだらかな坂を歩いていた。

記憶が記憶を呼び、収拾がつかなくなりつつも思い出に耽りながら、のんびりと歩いているとケータイの音に現実に戻る。パピーの故郷、ブルターニュの島にパパ達一家とバカンスに行っている末娘バッタから。あれやこれやと話をするうちに、我が家の前まで来てしまう。もうとっぷりと日は暮れた。すると、これから海に行って泳いでくるね、そういって通話が終わった。

毎年8月はこの島で過ごすからだろう、大勢の友達がいる末娘バッタ。船で到着した日には仲間たちが出迎えてくれたらしい。楽しくやっている様子に笑みがこぼれる。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメントとっても楽しみにしています