2017年10月28日土曜日

鉛色の息




久しぶりの笑顔。大勢の中からもすぐに見つけられる。
ちょうど隣の席が空いていることの必然的偶然に酔いしれながら、隣に座る。
それなのに会話が始まらない。気持ちが空回りして、一人でもがいて押し潰されそうになる。

と、目が覚める。


夢だったのか。


鉛色の息を一つ吐く。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています




2017年10月22日日曜日

車上荒らし








早朝から出掛ける末娘バッタを車で送ることになり、さて乗るぞ、という段階で彼女が大声を上げる。

「ママっぁ!」

ん?助手席を見てみると、書類やCDが散らばっている。え?床にはサイドボードに入っていた筈の自動車の解説書が出ている。あれれぇ?地図、観光ガイド、住所のメモ、あらゆるものが外に出ている。

車上荒らし!
よくよく考えると、携帯の充電コードがなくなっている。もう古くなって、機能しなくなったトムトムもない。

とにかく、末娘バッタを送らねば。胸の鼓動を抑えつつも、エンジンを駆ける。バックミラーの脇に取り付けてある、高速・駐車サービス利用探知カードは無事。

ドアの鍵が壊されたり、ガラスが割れていたわけでもないので、恐らく、いや、明らかに、車の鍵が掛かっていなかったのだろう。銀行の明細書の通知が、開封されずに残っていた。つまり、所有主が割れてしまったいる。なんだろう、このいやらしさ。誰だか顔が見えない相手に、プライベートな部分を無理やり見られた後味の悪さ。

引っ越してきた最初の夏。朝起きてみると、地下室への扉が開いているので不審に思ってキッチンに入ると、椅子の周りが濡れていたのでぎょっとしたことを思い出す。前夜は雨。まさかの泥棒。寝室においてあったリュックがないことに気が付いた時の恐怖。私が寝ている部屋に侵入したなんて!不幸中の幸いは、バッタ達はパパと海に遊びに行っていて、私一人だったこと。現金と、棚にあった腕時計を盗まれていて、リュックやハンドバック、財布は裏庭に置かれていた。カードもパスポートも無事。

暑い夏で、庭に面したサロンの窓が少し開いていて、そこから侵入したらしい。開いていたから、覗きに入ったのか、或いは、開いていなかったら鍵を壊してでも侵入したのか。

今回の件も、路上にロックしないで駐車しておいた私がいけないのだが、普通は他人の車なのだから、たとえ鍵が開いていても乗らないだろう。

いや、やはりズボラな私が悪いのか。

そういえば、何年か前に、台湾の妹のところにバッタ達が遊びに行った時のこと。妹はバッタ達を連れて、自分の子供の学校のお迎えに車で向かった。通りで仙草ゼリーをおやつに買おうと、ちょっと車を停めて、皆でお店に向かい、戻ったところ、どうも車の様子が違う。あれれ?と、ふと前を見ると、彼女の古い、ちっちゃいミニが停まっているではないか!おおっ。妹は慌ててバッタ達をせかして外に出る。と、本当の所有者が子供達を連れて戻って来た。確か、お互いに大笑いをして別れたのだと思うが、そんなこともあるのだね、とバッタ達から話を聞いてびっくりしたもの。古さも、汚さも、色も、そっくりだったらしい。

その話を思い出して、ふと思う。

ひょっとしたら車上荒らしの相手も、最初はそんなつもりはなかったのかもしれない。よくある車種に、よくある色。自分の車かと思って、入ったところ、違うぞ、と。

いずれにしても、車のロックはどんな時でも掛けよう。家の鍵もしかり。と、ふと動くはずのないカーテンが揺れている。なんと、窓がちょこっとだけ開いている。私か?うーむ。車上荒らしだけで済んで良かったのかもしれない。

皆様も、どうぞお気をつけあれ。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています



2017年10月21日土曜日

蔦紅葉







最近バスが定刻通りに来るので、急いで外に出て見ると満天の星空。

夜はまだ明けきれていない。これで夏時間に終わりを告げたら、一気に冬が近づくのだろう。前夜の風の激しさからか、通りに面した扉が大きく開け放たれている。

秋が来たのか。

独り言つ。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2017年10月14日土曜日

お好み焼きの香り








先週の金曜の夜は友人の誕生日で、彼女の家族と一緒に友人宅でパーティー。翌朝、豪華な朝食を楽しんで帰宅。土曜の夜はパリで観劇。日曜の夜からドイツに引っ越した友人が木曜のお昼まで我が家に滞在。そして、今度の金曜の夜は中国旅行に行った友人たちと中華料理を持ち寄ってのパーティー。翌朝は中国粥。土曜の午前中はパリのサロンに参加し、午後から友人たちと今取り組んでいるテーマについて語り合う。そして、日曜はバイオリンのコンサート。

もうすぐ16歳になる末娘バッタのスケジュール。高校二年生だから、当然、朝8時から夕方5時まで授業。これって、やり過ぎではないか。ドイツからの友人がいたから、ロッククライミングやバドミントンのクラブ活動は休んだらしいが、ちゃんと勉強はできているのだろうか。

最近は、オンラインで子供の宿題や成績が分かるシステムになっている。ふと覗いてみると、生物で失敗をしている。数学や物理の試験については、なんだかんだと言っていたが、生物については聞いていなかった。テーマは染色体。染色体なら私の得意分野(過去のことだが)。一言聞いてくれれば良かったのに。そう思いながら、帰宅してみると、キッチンでキャベツの千切りをしている最中。どうやら夕食はお好み焼き。

お好み焼きを焼きつつも、未だ粉をはたいているところを見ると、翌日の持ち寄りパーティーの一品を作っている様子。

先日、教師を批判していたことを先ずはやんわりと正す。バイオリンの師が良く言うではないか。上手になる早道は素直になることだ、と。それから、生物の試験について触れる。気が付くと、彼女の生活態度、余りの余裕のないスケジュールを指摘し、せめて土曜のサロンは行かないようにと勧めてみる。サロンと言っても進学サロンで、どこが主催しているのかも曖昧。友達同士で参加するらしいが、大した収穫も望めまいと思っていた。

と、末娘バッタの表情が硬くなり、返事もつっけんどん。そうなると、こちらも、畳みかけるように日頃思っていることを指摘し出す。あなたのためを思って言っているのよ、との言葉を忘れずに付け加える。

するとどうだろう。彼女がすっと立ち上がって手を天に突き上げるようにし、「ママ!私はママが応援してくれなきゃ、だめなの。」そう叫んだ。

「パパは私がしたいことを何でも否定する。話し合いなんか一回もない。いつも決めつけられてしまう。駄目だと言われると、すごく嫌になるの。素直に受け入れられない。だから、そういうやり方はしないで。」

ママだって応援したいけど、あなたがすることを全て良いね!と言ってばかりもいられないのよ。

「そんな時は、話し合えばいいの。」

うん。まあ。分かるけどね。

しかし、彼女の言葉は胸に響いた。親はいつだって子供の味方じゃないか。いつだって応援している。父親だって同じだろう。しかし、彼女には、親の心配や示唆が彼女のやろうとしていることを全否定していると映ってしまうのだろう。そして、恐らく、それは、そう間違ってはいない。確かに、私は彼女がやろうとしていることが、彼女にとって余りに大変そうだからと、勝手に彼女の立場になって考えて、意見をしていた。

どうなのだろうか。金曜の夜、いつも友人宅で泊まってきて、翌日は寝不足で使い物にならない中、今度はまた別の活動をし、その翌日には一日中また別の行事が目白押し。それってすごいプレッシャーにならないだろうか。のんびりと壁をつたう蔦の葉が色を変えている様を楽しむ時間も必要じゃあないのか。

まあ、それはお節介というものなのだろうか。

参りました。そりゃあ、ママは貴女のことを応援しているよ。さあ、いってらっしゃい。
お好み焼きの良い香りがキッチンを満たす。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています



2017年10月8日日曜日

黄金の粒







発見は一人の時が多い。
何も考えずに、いや、考え事をしながら歩いていて、気が付くととんとんと歩くテンポで何もかもが上手くテトリスの様に収まってしまったかのように感じられ、頭が空っぽになっている時に、往々にして発見が訪れる。

といっても、そう大袈裟なことではない。

見上げると、そこに何十年と枝葉を広げ、夏には緑の木陰を作り、秋には目にも鮮やかな黄色の葉で道行く人の足を止めるであろう銀杏の木。

この地に引っ越したのは長女バッタが小学校に上がる年。その彼女がこの11月には二十歳になるのだから、早14年の月日が流れている。間違いなく少なくとも13回は秋が訪れ、今、14回目の秋が訪れようとしている。

14回目の秋にして、その枝に鈴なりに銀杏の実がなっていることに気が付く。

発見。

これまで、何度この下を通っただろう。ちょうどベンチも近くにあり、公園からバッタ達と自転車で帰ってくる途中、三輪車で頑張って追いつこうとする末娘バッタを待ったことがあったかもしれない。

発見した内容ではなく、むしろ今頃発見したという事実に驚いてしまう。

これまで、実がなったことはなかったのだろうか。

気になりながらも数週間が過ぎ、ふと通りがかった昨日、思った通り、木の下には黄色い実が転がっていて、誰もとった形跡はない。一つ手に取ると、たっぽたぽに熟した実から、ぴゅーっとジュースが出てくる。

銀杏並木。大学のキャンパスを思い出そうにも、思い出せない。銀杏を拾った記憶さえないので、恐らくそんなことはしなかったのだろう。銀杏を拾うことよりも、もっと別なことに気を取られていたのだろう、あの頃。

独特の香りを放つことから、ご近所さんは誰も拾わないのかもしれない。或いは、学生時代の私のように、もっと別なことに気を取られているのかもしれない。

夢中になって拾った実は片手からこぼれんばかり。

新たな発見は、時として、自分自身の姿勢によってもたらされるものなのかもしれない。

さて、この黄金の粒をバッタ達に味わってもらわねば。
バッタ達に次に会う時まで、美味しく保存しておく方法を考え始める。彼らが一緒に住んでいた時に巡り合わなかった、その不思議さをもどかしく思いつつ、銀杏一粒にさえ、運命を感じる滑稽さに苦笑しつつ。







にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2017年10月7日土曜日

我は宇宙の一部なり








外に出て見ると、もう夕暮れ迫り、刻一刻と空の色が変化していっている。

依頼されて手伝いに駆けつけたものの、ちっとも役立たずで、むしろ邪魔者扱い。こんなことなら、無理しなくても良かったのにな、とぼやきながらの数時間だっただけに、一瞬にして心が晴れ上がってしまう。

きっと、この夕焼け空を見るために、この変なミッションが突然にして転がりこんできたのだろうな、と運命的なことを思ってしまう。

この世の中には無駄なことは一切ない。本当にそう信じることができる一瞬。
自分が宇宙の一部分であることを意識する瞬間。



にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2017年10月4日水曜日

月明かりに








君の知り合いの弁護士に聞いてみてくれないか。

来週月曜の裁判を控え、頼みにしていた弁護士が遠方であることもあり、費用として余りに高額を要求するので、困っている。そう上司から言われたのが昨日。

あまりに乱暴。それでも、困っていることは良く分かっているので、知り合いの弁護士に連絡を入れる。



厳密にいえば、バッタ達の父親の友人。彼が弁護士だから友人になったのではなく、友人が弁護士だったということだが、彼が初めて我が家に訪れた日を今でも覚えている。長女バッタが誕生して、病院から戻ってすぐのことだった。

あれから、息子バッタ、末娘バッタが家族の仲間入りをし、パパの友人として皆一緒に会う機会が何度かあった。森の中でのピクニック。友人宅でのバーベキュー。彼の子供たちはバッタ達よりも、ちょっと大きくて、眩しい存在だった。いつか、彼等のように大きくなるのだろうな、と。

父親の友人だからこそ、我々の離婚の時には、彼が父親の弁護士として現れた。

父親とは口をきくのもうんざりしていたし、彼が父親の弁護士であると聞くと、長女バッタの誕生の日々が思い出され、気持ちは非常に落ち込んだものだった。ところが、事前交渉の場や、裁判所で彼は私に会うと、最愛の友人に出会ったかの様に抱きしめ、両頬にキスをした。その様子を見て、私の弁護士は目を丸くして驚いたことを今でも覚えている。

あの頃は、闘う意志など何もなく、ただ、ただ、終わって欲しかった。父親の提案、要求をすべて受け入れる私を見て、私の弁護士は呆れて、最後には私から報酬を得るのさえ、申し訳ないと言ったほどだった。

父親の話など聞きたくもなかったが、友人の話になると、耳を傾けた。子供たちにとって父親の存在は大切なこと。父親が子供達にとって彼ができうる範囲で最善のことをしようとしていること。離婚をしても、父親、母親として、我々二人が子供達にとって最善の選択をしていくであろうことを前提とし、全てが決められていった。裁判の公証人でさえ、本当にマダムはこの内容で良いのですか、と聞き返したぐらいだった。

あの時、私の弁護士の主張に耳を傾け、父親からの提案を撥ねつけ、高額の手当を受け取り、相当有利な条件を勝ち取っていたとしたら、どうだったであろう。憎しみしか残らなかったかもしれない。

父親を信じるというより、穏やかな彼の言葉にすがった。父親が子供達にとって最善のことをする、という言葉に。そして、彼は決して間違っていなかった。

私の知り合いの弁護士とは、私の離婚を担当した弁護士ではなく、父親の弁護を担当した人物。



彼は、忙しいだろうのに、すぐに時間を空けてくれ、会ってくれた。十数年前と同じに、最愛の友人に出会ったように抱きしめ、両頬にキスをした。月曜には裁判にも出廷してくれると言う。報酬について相談すると、会社の経営状態が思わしくないからこそ、救済措置を申請するのであって、そんな状態の企業に請求はしない、と一言。いつか経営状態が良くなったら、その時話し合おうじゃないか、と。

まったく、何という人道的な精神の持ち主なのだろうか。

会社の問題とは言え、張りつめていた思いが一気に緩み、思わず涙ぐんでしまう。

そうして、彼のお蔭で、バッタ達も、彼等の父親も、私も、我々皆が救われたことに思い至る。



いつか、彼に恩返しをすることができるだろうか。

せめて、この社会に恩返しをしていくことが、彼に対する最大のお礼のような気がしてならない。

今宵はひときわ明るい月夜。月明かりが心の深い奥まで届きそうな晩。
一人目を閉じる。











にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています