2022年1月29日土曜日

ちょっとした楽しみ

 





昨年の6月あたりからお隣さんの庭が騒々しい。


東側のお隣さんは我が家と同じ縦長の敷地だが、我々が引っ越してきた当時は、鬱蒼とした庭の中に一軒家が建っていた。引っ越しの挨拶に伺った時には、マダムが外で洗濯物を干していたところだった。やんちゃな男の子がいて、木に登っては我が家の方を見ているから、なんだか監視されているようで嫌な思いがしたことを覚えている。気候が良くなると、外のテラスで食事をする日も増えたが、その度に隣の木の上から覗かれるのは良い気がしない。


その子には、とても美人な若いお姉さんがいた。ある時通りで、二人乗りのバイクが彼らの家の前で止まったところに出くわした。私自身は丁度買い物に出るところで、家の前に停めたいた車に乗るところだったように記憶している。その時、バシンっとものすごい音がして、バイクの後ろから降りた人が吹っ飛んだので、心臓が止まる程驚いた。バイクに乗っていた人が、後ろに乗っていた人の頬を平手打ちし、その衝撃で通りに倒れたという事実に思考がついていかなかった。


倒れた人は隣のお嬢さんの様で、立ち上がると、家の門を開けて入って行った。


犯罪現場に出くわしてしまいながら、その状況に余りに衝撃を受け、何もできずに震えている無力な自分。あの時の衝撃は今でも忘れられない。私自身がまだ若かったし、お隣の家庭事情にまで踏み込む勇気も、手を差し伸べる心の余裕もなかった。引っ越してくる前に、前の家主から、お隣のマダムはとてもシャイで、あまり幸せな様子ではないけれど、悪い方ではないとだけ教えられたことを思い出していた。我々が引っ越してから、ご主人を見かけることは一度もなかった。


だからなのか、男の子はいつも賑やかな我が家を木に登って観察していたのかもしれない。今なら、その子に、一緒に食べにおいでよ、と誘ってあげられただろうのに。あの当時、我が家もパパ不在という新たな環境に、私自身がひどく打ちのめされていたので、とても誰かを優しく受け入れる懐の深さや心の広さを持ち合わせていなかった。


子供達は隣のお兄ちゃん、といった存在の彼と仲良くなるのに時間もかからず、薔薇の花を交換したり、一緒にボール遊びをしたりしていた様だった。隣の家はリラの木がたくさんあって、マダムが薔薇をとても大切にしていることは、男の子の話からも伝わってきていた。


しかし、リラが次の年に咲くのを待たずに、彼らはひっそりと引っ越してしまったようで、あれよあれよと言う間に、鬱蒼としたリラの木も、薔薇の木も、いやそれどころか、家さえも破壊され、平地となり、その後3階建てで屋上にベランダまである4棟のマンションが建ってしまった。男の子が登って我が家を観察していた杉の木だけは残され、切り落とされた枝の跡が初めこそ生々しかったが、今ではすっかり3階まで枝なしの、大木となってしまった。


地下駐車場を作るとかで、ものすごい騒音と振動で我が家も崩壊するのではと心配した時もあったし、建物の影で庭に日が当たらない時間が多くなったり、何より景観が全く異なってしまったが、まあ、我々とて、最初は外から移り住んできた異邦人。とやかく言える立場にはないと思っている。


4世帯になったお隣さんの、南側の一家がなんだか遺跡でも発掘するかの勢いで今年の夏から庭をショベルカーでボーリングしている。プールにするのか、屋外円形劇場でも作るのか、階段を作るかの如く、土の掘り方が段階的に違っている。4世帯ともに、確か地下の駐車場の漏水処理に問題があり、全般的に修繕とかで、土を掘り起こして、ものすごい騒音で辟易したのが今年の夏。それが漸く終わったらしいと思っていたところ、工事の延長をするかのような発掘作業には頭を捻ってしまう。


まあ、しばらく様子をみてみよう。何か新しい発見があるのかもしれない。ちょっとした楽しみが増える。



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2022年1月27日木曜日

歓喜の歌

 





どんなことだっていい。たとえば、育ちつつあるアボカドの新芽が大きくなる様子を楽しみにしたり、花が終わった蘭が次の蕾をつけることを楽しみにするのでもよい。


玄関の脇に柔らかな苔が足に心地よいことでもいい。段々と夜明けの時間が早まってくることでもいい。


珈琲がふくよかに淹れることができたことでもいい。


なんでもいい。思いつくまま挙げていけば、どんどん喜びで溢れてくる。


嗚呼、今日も良き日かな。



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2022年1月24日月曜日

凍てつく森の散策

 




色々な思いが交錯する中、時にはじっとしていることも悪くない。


思うようなタイミングで事が運ばなくても、もしかしたら、今あるタイミングが最善なのかもしれない。


ひっそりと凍てつく森の中を歩いていると、気持ちが落ち着いてくる。


なるようにしかならないし、あがいても、もがいても、上手くいかない時は仕方がない。


それより、凍てついた枯れ葉をさくさくと踏みしめながら、その感触を楽しもうではないか。



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2022年1月23日日曜日

サーブルの潮汁






ありがたいことに、いつものお店に赤ひげの魚屋さんが戻ってきている。彼が戻った鮮魚コーナーはピチピチの魚が揃っている。我が家のお財布にとっては、ありがたいのかそうでもないのか。ついつい、野菜や果物を買いに行ったついでに、鮮魚コーナーを覗いてしまい、そのつもりがなく行った筈なのに、ひとめぼれをし、鯛、鱸など買ってきてしまう。しかも、一匹だけではなく、数匹。


そんな鮮魚コーナーに、今回はお頭がごろごろと陳列されていた。お値段、おひとつ、1ユーロ50。それが高いのか、安いのか。恐らくこれまでは、ぼんぼんと捨てられていたのだろうが、それを見兼ねた日本人客から声が掛かり、知恵でも付けられたのだろうか。まあ、有難いと言えばありがたい。試しに、大きな頭を一ついただく。


潮汁にするに越したことは無い。なんだか別途購入した鱸よりも大きいお頭ね、と思いながらまな板に置き、ぶつ切りを試みる。これがなかなかどうして歯が立たない。気がついて見たら、まな板が真っ赤。血糊があったのか、それにしては鮮血っぽい、と思った途端、我が指からの血であるあることに気が付く。うっかりと、魚の歯にやられてしまっていた。


確かに、しっかりとした顎にびっちりと小さな尖った歯が綺麗に揃っている。なんだか歯にやられるなんて、ちょっとついていないわ、とげんなりしながらも、指にジンジンと激痛が走り始める。大きいながらも、そのままで塩をし、しばらく置いて熱湯をかけて生臭みを取るべきだったのね、と後悔。或いは鋏を使うべきだったのか。


具合が悪くて寝ていた長女バッタに大声で応援を頼み、カットバンで応急処置。大したことはなくても、血が流れっぱなしでは料理人として失格だし、料理もできない。


ゆっくりと冷水から茹でてアクを取り、じっくりと旨味を出した潮汁はそれでも最高のうまさ。さあ、これから3回は美味しいお出汁がとれるかしら。せっかくだから白菜を手に入れて、最後は白菜鍋にしよう。次回、機会があればこの際3つ、4つはお頭を買ってこよう。むしろそれがメインのお料理になりそうな程の美味しさ。


まだ痛む指をよそに、食い意地なのか、料理人としての興味なのか、俄然次の調理の機会を楽しみにしてしまう。魚の種類は、サーブルか。って、よく考えれば刀の意。体長がスマートで長いから命名されたのかと勝手に考えていたが、鋭い歯が刃のようだからなのだろうか。いやはや。


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2022年1月22日土曜日

固い誓い

 




特に食べ物の好き嫌いはなく、初めてのことにもすぐにチャンレンジしたがる、誘われれば喜んで応じ、かなりハードな山歩きや、炎天下の草むしり、門のペンキ塗り、日曜大工、力仕事など、意外になんでも素直に取り組むタイプ。相手に合わせることも苦ではなく、異文化圏にも物怖じせずに入りこめるタイプ。


しかしながら、弱点はあるもの。どうしても好きになれず、行きたがらないから手遅れ寸前になり、仕方なく行けば緊張で汗をかき、惨めな思いになってしまう。


そうならないように、ちゃんと朝、昼、晩としっかりと歯磨きをし、歯間ブラシを使い、寝ながら甘いものを食べるなんて邪道は一回もしたことがないのに。一体全体、どうしてこうも歯、歯茎のトラブルに見舞われるのか。


歯茎が痛いからと痛み止めを飲み、なんとか誤魔化してきたツケが噴出してしまうのは分かる。分かるけど、そもそもどうして歯茎が弱いの?レントゲンで見ると、上顎の骨が薄くなってしまっていると説明を受けたが、なんでぇ。


確かに珈琲は飲むし、ワインも嗜む。しかし、それなりに健康な食生活を送って来たとの自負はある。睡眠時間が6時間、これもそう悪くはないだろう。運動不足だと言っても、意外にてきぱき身体を動かしていると思っている。じゃあ、なんで。


子供の頃、歯で紐をちぎって鋏要らずなんて喜んでいた事実は認める。学生時代に自転車競技部だったので、奥歯を食いしばって頑張る時期があったことは認める。本を読みながら、つい前歯に圧力をかける癖があり、前歯が痛くなることがあったことも認める。寝ながらの歯ぎしりがひどいので、顎が痛くて起きたり、歯に激痛が走ったことがあったことも認める。


だからって。


覚悟をして、歯医者のシートに身を委ねる。最近の歯科医のキャビネにはモダンアートを壁に飾っていたり、BGMにジャズを流すところが多いように思う。ところが、今回の歯科医ではBGMなし。前回は前掛けさえもなかった。今回はナプキン程度の大きさの白い紙を胸に載せられる。そして、なんと、その上に医療器具を並べ始めるのだから驚いてしまう。


時々水飛沫が顔にかかるが、ただの水よ、と大騒ぎしない。若い助手が一人いるのだが、時々歯科医師は彼女に相談しながら、アドバイスさえ受けながら治療を進める。前歯の歯茎が我慢できない程に痛くなる。頭蓋骨に響くほどの刺激を感じる。


完璧主義なのか、何回も、何回も同じ作業を繰り返し、その度に歯茎が痛み、骨に激痛が走る。汗が額に滲み始めているのが分かる。わきの下や背中はもうぐっしょり。


永遠に続くかと思ったが、さっと胸元の紙ナプキンが払われ、シートの背もたれが動き始めた。歯が痛いのは当たり前らしく、痛み止めを飲むように言われる。


鏡の前で力なく笑ってみる。

噛むこと、歩くこと、この能力だけは決して譲らずに守り通そう。そう固く誓う。



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2022年1月19日水曜日

トパアズいろの香気

 





春の七草を求めて、無農薬のお店に行くと、やや赤味のある鮮やかな黄色い小粒の果実が目に入る。先端にある突起の形状が独特なので見間違えるはずがない。もうベルガモットの季節なのね。感慨深く、そして突然の予期せぬ出会いに心躍らせ、そっと一つを手に取ってみる。むっちりとした重量感が愛おしい。紙袋に幾つか入れながら、早速何を作ろうかと思考を巡らせる。


ベルガモットの皮と玉ねぎと合わせたスタッフィングで、丸鶏を低温でじっくり焼き上げるレシピに心惹かれる。キンカンも幾つか手に入れる。


我が家に帰り、キッチンで買い物袋から紙袋を取り出す。芳醇な、それでいて高貴な香りがどんどんとキッチンを満たしてくれる。一つは、ご先祖様にお供え。一つは、皮をそっと削ってみると、たちまちにして橙色の香の粒が拡散される。そう、まるでトパーズ色の香気のように。



レモン哀歌


            高村光太郎


そんなにもあなたはレモンを待つてゐた

かなしく白くあかるい死の床で

わたしの手からとつた一つのレモンを

あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

トパアズいろの香気が立つ

その数滴の天のものなるレモンの汁は

ぱつとあなたの意識を正常にした

あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ

わたしの手を握るあなたの力の健康さよ

あなたの咽喉のどに嵐はあるが

かういふ命の瀬戸ぎはに

智恵子はもとの智恵子となり

生涯の愛を一瞬にかたむけた

それからひと時

昔山巓さんてんでしたやうな深呼吸を一つして

あなたの機関はそれなり止まつた

写真の前に挿した桜の花かげに

すずしく光るレモンを今日も置かう



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2022年1月15日土曜日

招かれざる珍客

 





ちょっとした息抜きにお茶でもとお湯を沸かしながら、いつものようにぼんやりと庭を眺めていると、庭の左端を尖った耳をした二つの丸い顔がさっと通っていく姿が目に入った。猫にしては大きいが、犬にしては俊敏過ぎて何か違和感がある。庭の奥の胡桃の木の下にいる様子だが、ここからでは掘っ立て小屋が邪魔をして良く見えない。


茶色い毛皮からして、やはり猫なのだろうか。先日も見慣れない三毛猫が我が家の庭に遊びにきていたが、ノエルの贈り物として新たにご近所に加わった新顔が随分いるのかもしれない。


ヴェルヴェーヌの葉をたっぷりと入れたティーカップにお湯を注ぎながら、改めて庭の奥を見つめてみると、どうやら二匹は胡桃の木の下から太陽が燦々とあたっている桑の木の下に移動した模様。喧嘩をしているのか、じゃれ合っているのか、分かりにくいが、二匹は時々フリーズしたり、牙を剥きだして威嚇し合いながら、黒味がかった立派な尻尾を上に掲げたり、丸くしたりして、いつまでもぐるぐると同じ場所を走り回っている。時々、二匹は体を離し、まるで犬の様に座り、こちらをしっかりと見据えたかと思うと、猫の様に身繕いをする。久しぶりの太陽を楽しんでいるかのよう。


まっすぐとこちらを見る顔で、疑惑が確信に変わった。


しかし、一体君たちはどこからやってきたのだろう。森だとしても、あの交通量の激しい道路を横切り、我が家の玄関の隙間を堂々と入り、庭で我が物顔で戯れているとは。この庭には鶏がいるでもなし、犬や猫の餌があるでもなし。ひっきりなしに色々な鳥が遊びに来てはいるが、一体何が彼らを呼び寄せたのだろうか。


気が付くと、さくらんぼの木とレインクロードの木にカラスやピーがとまっていて、にぎやかに彼らの様子を眺めている。これでは、まるで、私がカラスやピーの仲間みたいではないか。


狐たちの日向ぼっこ遊びは未だ続くようだったが、流石にカラスたちと一緒にぼんやりと眺めているわけにもいかない。ヴェルヴェーヌも丁度美味しく香り立ってきている。カップを持って、その場を辞す。


また気が向いたら、いつでも遊びにおいでよ。ただ、道路を横切る時は、車に注意するんだよ。それから、近所の猫君たちにいたずらをしないでおくれよ。


ピーの鳴き声が一層姦しくなる。春はもうそこまで来ているのだろうか。



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2022年1月12日水曜日

あの時

 





あの時、相談を持ち掛けてきた女性の友人のことを本気で心配し、心から応援し、時間を作って話を聞いて、専門家を紹介し、出来る限りのことをした。必要あらば書類を作成し、彼女の利になるように証言する文書をしたため、居住証明に署名した。


彼女を庇うこと、支援することに必死だった。だから、彼女の不用意な行動が全く関係のない第三者の別の友人に迷惑をかけてしまったことに対して、無頓着ではなかったにしろ、あまり気にしないで放置してしまっていた。


その第三者の友人は、全く潔白であるにも関わらず、よからぬ嫌疑をかけられ、変な噂を立てられてしまっていた。何人かには、それは全くの間違いで、事実無根であることを伝えはしたが、馬鹿な噂というものは、卑劣であればある程皆喜ぶらしく、もっともらしくあっという間に広がっていて、どこでどう火消しをしようにも、収まる様子はなかった。唯一の救いと言えば、当の本人が一向に気にしていなさそうなことだった。


同時に、あの時、私自身が突如思いもよらぬ落とし穴に入り込んでしまったので、自分自身のことだけで精一杯となり、外の世界との繋がりを遮断し、ひっそりと全ての扉を閉めてしまったので、友人たちのその後について何も知らず、友人達とも会うこともなくなってしまっていた。


もう7年以上も前になるのだろうか。


久しぶりに、本当に久しぶりに、第三者の潔白であった友人の細君と年始の挨拶をメールで交わした。するとどうだろう。彼はここ数年鬱でやる気のない状態が続いていると知らせてくれた。金槌で頭をかち割られたような衝撃を受ける。


私が知っている彼は、陽気で、ユーモアがあって、おどけていて、仲間の人気者だった。鬱なんて言葉は彼には似つかわしくない。一体、何だってそんなことになってしまったのだろう。


あの時、もう少し私自身に余裕があれば、もう少し、彼のことを思いやる心の余裕があれば。そう悔やまれて仕方がない。


ヴァンセンヌの森で屋外コンサートを一緒に聴いたこと、満天の星空の下でBBQを楽しんだこと、毎週一緒に勉強会をしたこと、夏の暑い日の夜、パリのビストロで食事をしたこと、彼の会社の冴えなそうな同僚を紹介され、その彼から変にアタックされて辟易したこと。色々なことが走馬灯のように思い出される。彼が鬱になるなんて信じられない。


森の散歩に誘ってみようか。そうだ、そうしよう。靴はぬかるみだらけでドロドロになるけれど、頭の中はテトリスのように、思い煩っていたことが、ストン、ストンと綺麗に片付いてしまう。彼の春の陽だまりのような笑顔が懐かしく、おぼろげに脳裏をよぎる。


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2022年1月9日日曜日

魔法の粉~ラスエルハヌート

 






香辛料の力は偉大だと改めて思ってしまう。このノエルに長女バッタが4つの香辛料の瓶を贈ってくれた。山の七味唐辛子、旅のスパイス、ボンベイのカレー粉、ラスエルハヌート。店主が、世界中を旅し、自分の目と鼻と舌で吟味、厳選したスパイスを調合した、いわば魔法の粉。貴重な品とはいえ、香辛料の命は短い。新鮮で、色も香りも鮮やかなうちに、大切に使い切ってしまいたい。そこで、この4つの瓶を料理の度に惜しみなく使っている。奥行きのある香りが、料理の素材の味を引き立ててくれる。


今回はラスエルハヌートの魔法の粉の出番。


一晩漬けて戻しておいたひよこ豆を砕き、みじん切りにしたパセリとイタリアンパセリを混ぜ、エシャロットと生姜のみじん切りを加え、小麦粉をさっと混ぜ、塩、胡椒、そしてラスエルハヌートを振りかけ味をつける。丸めて団子状にし、チアシード、白ごま、黒ゴマなどで回りをコーティング。何もつけないナチュラル版も用意しておく。


クッキングシートの上にやさしく並べ、オリーブオイルを少しずつ垂らす。そして、オーブンでこんがりと焼き上げる。フライパンで焼いたり、揚げても良いのだろうけど、鮮やかな色を残すことを主眼に、あえてオーブンで焼く。


こんがりと焼き上がった香ばしい匂いがキッチンから溢れてくれば、呼ばなくとも皆がやがやとキッチンに集まり、食卓の準備を手伝ってくれる。さあ、熱々をいただこう。



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2022年1月7日金曜日

小糠雨

 




君からパリをとったら、何が残るだろう。


そんな趣旨のメールが大学の大先輩から届いた。自分自身にパリがあったのか、とむしろ驚き、考えてしまった。三つ子の魂百までではないが、みちのくの山間の農村こそが私の原点であり、そこから背伸びをして色んなことに挑戦しているといった風に自分自身を捉えていた。


一方、私から子供をとったら、残るのは空虚か。


土地よりも人間との繋がりが私を私たらしめているのではないか。最近は、男は、とか、女は、とか言うと、ジェンダー問題を何だと思っているのだと反発を食らうのだろうが、それを敢えて承知で言えば、男は土地との繋がり、女は人との繋がりを強く求めるのではないだろうか、と思う。異国の地で踏ん張る女性を多く見て来たからだろうか。


恐らく、大先輩が私を通してパリと繋がっている、そんな風に思っていたしたのだろう。私からパリを取った時、それでも人間としての魅力を感じていただけるよう、精進しよう。


天窓が優しい音を立て始めた。外は小糠雨か。



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2022年1月6日木曜日

ロマンのかけら

 





鼻先を冷たくしながら、街灯もまばらな裏道を買い物袋を提げて歩いていると、ニカニカ、ニカニカ笑い声が聞こえてくる。頭上を見れば、三日月。その三日月を吊っているかの如く、大きく輝く惑星が一つ。木星。


なんだか懐かしい思いがふっと胸に過る。


するとどうだろう。

なんと日本にいる高校時代の友人が、同じ画像をFBの記事に上げているではないか。仕事帰りに出会った風景とコメントしてある。


日本とフランス、時差もあるし、まさかねえとは思うものの、時空を超えて一瞬つながったのだろうか。高校時代から星空を見上げることが好きで、私の誕生日にその日の天体図を書き写してプレゼントしてくれたことがある。そんな彼なら、何と言うだろうか。


旅立つ男ではないが、人の心にはロマンのかけらが欲しい。



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2022年1月4日火曜日

思ひ侘び

 





知り合ってから何年になるだろう。毎年決まって1月1日の早朝に新年の挨拶をメールでもらっていた。真っ先に君に挨拶を送るよ、といった具合で、ほんの数行ほどの内容。それに対して、近況を含めた返事を添えて、毎年前年に撮影したものの中から厳選した画像による新年のご挨拶メールを送ったものだった。


ところが、どうだろう。今年はひっそりとしている。こちらから、黄金色に輝くノルマンディーの海岸の画像の新春のご挨拶メールを送っても、返事がこない。


元気にしているのなら、いいのだが、恒例のメールが来ないと、どうも心配してしまう。知り合った頃には頻繁に会っていたし、随分とメールのやり取りもしていた。ここ数年は、彼の引っ越しもあって、年に数度あるかないか。昨年は、確か年賀のメッセージをお互い送り合っただけだった。


元気で活躍していることを心より願っているが、どうしたものだろう。ひょっとしたら、ちょうどフランスに戻って来ていて、明日あたりにもガレットデロアを手に、顔を見せに我が家の門をくぐって来るかもしれない。


そんな、たぶん可能性が全く少ないことを夢見ながら、去る者は日々に疎し、などと寂しく思う。彼や、あの当時の仲間たちと一緒に過ごした時間が愛しく思われる。



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2022年1月3日月曜日

できる女はDIYがお得意

 





こんなタイトルにしてしまったら、今ではジェンダー平等の精神に反するとか、言われてしまうのだろうか。まあ、ここはクッカバラが好きに囀る場なのだし、ポイントは全く違うところにあるのだから、このままにしておこう。


母の本棚にあった本のタイトル、「聡明な女は料理がうまい」。確か赤毛のアンシリーズやスタインベックの「怒りの葡萄」、バルザックの「谷間の百合」と一緒に並べてあって、いやに存在感があったことを覚えている。中学生時代の単純な私は、聡明になるためには料理をしなきゃとばかりに、夏休みには毎日一品を作っていた。もともと台所にいることが好きで、母が料理をしている時には必ず傍にいて、手伝いたがったものだった。


料理がうまい人間がすべて聡明ではないことは自明なのだが、そんなことは生意気な中学生には問題ではなかった。


二番煎じはいただけないとは分かりつつも、この「聡明な女は料理がうまい」のタイトルをもじって、「できる女はDIYがお得意」と宣言したくなってしまう。


が我が家のソファーカバーを型紙から起こして、選んだ生地を裁断し、2、3日で縫い上げてしまったことは以前ここでも紹介したが、なんだかそのDNAを色濃く受け継いでいる様子なのが長女バッタ。


食器洗浄機の取り付け(排水、注水といった水回りを含めて)、シャッターの巻き上げ修繕、暖房機の修繕、とにかく何でも手掛けてしまう。つい先日もトイレの水タンクの調子がどうもおかしいと分解し始め、ゴムのバルブの調整をし、必要な部品を買い求め、さっさと修理してしまったのだから、舌を巻く。本当に関心してしまう。


最近は何でもYouTubeで丁寧に説明をしている動画があるので、DIYの対象幅も実施する層も広がっている気がする。そのうちに、庭の片隅に放置されているおんぼろ小屋を使えるように改修するかもしれない。その気になるように、ちょっと仕向けてみようか。



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2022年1月1日土曜日

謹賀新年

 




新年明けましておめでとうございます


希望に溢れ輝き、幸せに満ち満ちた年となりますように



クッカバラ