2023年3月29日水曜日

森の中の工事現場

 





好奇心旺盛のトンカは、森の中を時には鹿のように、時には兎のように駆け回る。崖や急斜面が好きで、わざわざ登っていく様子は山羊を思わせる。確かに子ヤギの様にぴょんぴょん飛び跳ねる時があるので、ひょっとしたら父親は山羊なのかもしれない。


好奇心が勝り過ぎて、農場や工事現場に入り込んでしまうことがあるので、要注意なのだが、森の中で自由に駆け回るトンカを見ていると、こちらまで気分が高揚し嬉しくなってしまう。だから要所、要所で声を掛け、必要あればリードをし、上手に誘導するよう心がけている。


相手は時々狡猾な真似をするので、こちらは裏切られた思いをすることもあるが、そこは好奇心が勝っているのだと割り切ることにしている。幾つもの小径が入り混じる場所で、どの径を通るのと言わんばかりに首をかしげて待っていることもあれば、勝手に行ってしまっていて、声を掛けて漸く戻ってくることもある。


大抵は戻ってくるので安心をしていると、油断も隙もあったものではない。トンカの好奇心を大いにくすぐる工事現場の箇所を通らないように配慮し、小径に入ったところでリードを外してやったところ、ほいさ、とばかりに工事現場にまっしぐらされたことがある。当然門は閉まっているのだが、田舎の古い建物の改築工事なので小動物が入れる程の隙間はいたるところにある。下手をしたら、奥の方ではバリアもなく、森に繋がっているのかもしれない。


これまでじろじろと見たことはなかったが、今回ばかりはトンカの姿を探すためにも、しっかりと覗いてしまった。想像以上に敷地は広く、水仙の黄色い花が咲き乱れていた。石造りの家を構造だけ残しての改築工事なので、作業が終わると誰も残っていない。


作業現場にもお国柄が現れる。恐らく作業員はフランス人ではないだろう。いや、フランス人であっても結局は同じことかもしれない。作業道具は野ざらし状態だったし、たった今まで誰かが材木にカンナを掛けていたと思われる様子で、削りカスとともに材木が放置されていた。

中庭にはコンテナのようなものが置かれていて、そこに廃棄物が入っていると思われた。なぜなら、周囲には廃棄物が散乱していたからだった。恐らくコンテナに入れる際に、取りこぼしがあったのだろう。ゴミ箱の周囲には必ずと言っていい程、紙くずや食べ屑があることと一緒で、廃棄物を放り投げる習慣があるのだろう。


やれやれ。これでは、トンカが大喜びするわけである。宝の宝庫。


以前、ジンバブエで自動車の整備工場に行ったことを思い出していた。サイズの違うビスも、バケツにごっちゃ混ぜに入っていたことが印象的だった。同行した日本の自動車メーカーのエンジニアは、埃がたまっていて、あまりに不衛生で乱雑な現場にため息をついて驚いていた。


料理をする時も同じ。先ずはシンクを綺麗にし、包丁を研ぐことから始まる。洗い物が残っていたり、片付けていないお皿があるような場所で、良いものが作れるはずもない。


さあ、トンちゃん。そろそろ家に帰ろうよ。どんなに声を掛けても、口笛を吹いても、私がいることに安心してなのか、ちっとも出てこない。仕方ない。犬の遠吠えの真似をしてみたところ慌てて出て来たので、その効果の程に逆にこちらが驚いてしまった。何事かと思ったのだろう。


暖かくなってきたとはいえ、日が沈むと急に肌寒くなる。トンカのきりっとした尻尾を見ながら、家路を急ぐ。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月26日日曜日

ベトラーブ、ポワロ、アスパラのタルトレット

 




私が勝手に人生とお料理の師匠と崇めるFleur de selさんこと塩の華さんが、今年に入ってご自身のブログを頻繁にアップしてくれている。こんなに嬉しいことはない。どの記事も人生を豊かに過ごす上でのヒントが散りばめられているし、なにより出てくるお料理の数々が美しく、そして美味しそうなのである。


今回は、人参のタルトレットに心奪われてしまった。バッタ達が帰ってくる週末にも挑戦しようと思いながら、桂剥きにする程太い人参が手元にないので、最近はまっているベトラーブを使ってみたらどうかと考えるなど、既に頭は制作モードになっていた。


と、息子バッタから今から帰るとの電話が入る。その週末は長女バッタも末娘バッタも帰ってくる予定ではなかったので、トンカと森の散歩でもして過ごそうかと思っていたので、彼の久しぶりの帰還はことのほか嬉しいものだった。


なら、タルトレットを作ろうか。息子バッタはベトラーブは苦手だと思われ(少し前まで私自身も苦手だったのだが)、その代わりにポワロとアスパラを入れてみたらどうだろうと、色々とアイディアが浮かんでくる。


せっかくなので、山羊のチーズ、コンテ、グリエールとチーズの種類も変え、香辛料も変化を付けてみようか。


これが思った以上の出来栄えになり、大いに気を良くしてしまった。ベトラーブの鮮やかな赤が、こんがりと焼き上がったチーズに美しく映えているではないか!アスパラも、とてもジューシーで美味しそう。ポワロも縦にタルトレットに置くことで、とろけたチーズが立体的に楽しめる。


お料理は目で楽しみ、香りで楽しみ、味で楽しまないと。色彩、味、香り、演出にこだわったアントレ。さあ、いかがでしょう。


塩の華さん、素敵なレシピをご紹介くださり、ありがとうございました!


👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月25日土曜日

外は春

 





午後の二時間、電話会議が入っていた日のこと。相手の声が聞こえずに、私の声ばかりがすることに慣れてはきたが、変だなとは思っているだろうトンカ。実際に、散歩の途中で携帯で大声で一人で話をしている人がいると、不審人物と思うのか、或いは不気味だと思うのか、時々唸ることがある。


トンカの大好きな牛皮ロールをあげてもいいのだが、取り敢えずは大人しくいつもの定位置で寝そべっていることを確認し、会議の時間が来てしまったので慌ててヘッドフォンをつけて、そのまま会議に入ってしまった。


ふと、トンカがキッチンの方に向かった気配がした。水でも飲みに行ったのだろうか。一瞬トンカのことが頭を過ったが、その後は会議の内容に集中してしまい、外部要因はシャットアウトしてしまった。


三人の子育てをしたからだろうか。以前100人以上もいる超賑やかなディーリングルームで仕事をしていたことがあるからだろうか。外部の騒音を一切シャットアウトし、今やっていることに完全に集中することができる。特に異国の地では、言語を理解しようとする機能をオフにすることは容易なので、集中力を高める環境にあるとも言えようか。


会議も終盤。キッチンに向かったと思われるトンカが、サロンに戻って来ていないことに気が付いた。そして、キッチンにいる気配もない。ひょっとしたら勝手口のドアが開いていて、庭に出たのかもしれない。そういった思いが一瞬過るが、これもまたすぐに消え、会議の内容に集中してしまった。


2時間きっかりに終わると、サロンにはトンカの姿はなく、急いで勝手口を覗きに行った。が、庭へのドアは開いていない。おっつ!なんと、開かずの間の扉がちょこっと開いているではないか!


トンちゃん!


声を掛けてみると、とんとんとん、と階段を駆け下りて、えへへとばかりの笑顔でトンカが現れた。ちょ、ちょっと、どこに行っていたのよ!まさか、私の寝室じゃあないだろうなあ。トンカの口には靴下もTシャツの切れ端も、何もない。


二階の惨状を確認しに、恐る恐る二階に行ってみると、階段の踊り場に「鳴きカエル君」が半分齧られたまま転がっている。この「鳴きカエル君」は木彫りで、背中のごつごつとした突起を棒でなでると、ころころとカエルの鳴き声がする楽器だった。


「鳴きカエル君」がトンカの目に留まったことは何度もある。開かずの間の扉が開いてしまって、トンカが二階に遊びに行く時は、なぜかこの「鳴きカエル君」がターゲットになる。ちゃんと私の寝室の「鳴きカエル君」の場所に鎮座しているのに。


この「鳴きカエル君」は台湾に遊びに行った際、先住民である山の民のマーケットで出会って購入したものだった。なにかトンカを惹きつける香りでもあるのだろうか。どんなに隠しても、場所を変えても、ちゃんと見つけるのだから、何かがあることは確か。


さあ、トンちゃん。お待たせしました。散歩に行こうか。外は春。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。



にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月24日金曜日

持つべきものは友





 


急に悪寒が走り、頭が爆発するかの如く痛くなり、もう座っているのさえしんどくなってしまったのが四日前。丁度ランチ前だったので同僚たちにはランチに行ってもらい、一人静まったオフィスで、ヴィヴァルディのデュオのヴァイオリン協奏曲を流しながら、デスクの前に突っ伏して迷走ならぬ瞑想をした。


そのお陰か、午後は何とか持ちこたえることができ、定時に帰宅。今か今かと待っていたトンカに、今日の散歩は中止とは流石に言えず、リードをつけたままで近間で短時間だけ行くことにした。


それがそうはならないというのが現実。短時間コースにはそれなりの罠があり、道路に出てしまうトンカの後を追ったり、くねくねの小径ではトンカのペースについていけず、時々姿を見失いそうになり、慌てて呼び戻したりと四苦八苦。


翌日は近所の友人宅で前回のアトリエ仲間とのお茶会が予定されていたが、流石に今回の参加は無理だろうと、やむを得ず欠席する旨連絡を入れた。


翌日も頭痛は収まらないがテレワークの日でもあり、どうしても終えてしまいたい案件を抱えていたので何とか仕事をし、夕方にはトンカに促され、散歩に森に出た。丁度トンカの友達のルイに会ったので、トンカは歓喜してルイと駆けっこをし、トンカにとって最高の散歩となった。


いつもよりも長めの散歩とはなったが、気持ちは爽快で、気分転換にもなり、これで頭痛さえ消えてくれればと願わずにはいられなかった。家に帰って携帯見ると、お茶会をしている近所の友人から電話が入っていたことに気が付いた。どうしたものかと思っていると、トンカが元気よく玄関の方に走っていく。


門のところでは友人達二人が、なんとお見舞いセットを持ってきてくれていた。色合いも綺麗にしっとりと焼き上げられたチーズケーキ、風邪には一番との手作り生生姜シロップ、皆で研究し合い最高の出来になったというまあるい大福、友人の一人の手作りの白味噌!ああ、なんて、なんて心優しい友人達よ!その気持ちだけで、もう半ば元気になってしまう。


トンカの散歩も友達のルイに助けられたように、私も友達に大いに助けられている。持つべきものは友。本当にありがとう!



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月22日水曜日

基本に忠実であれ

 





会社の同僚の誕生日ということで、栗好きの彼女のためにと、私の大好きなマロンケーキをカップケーキ風に仕立てて焼き上げ、そこにミロワールを施しお洒落に艶を出して演出しようと思った。


ところが、当たり前のことだがカップケーキサイズにすることで、中身のしっとり感よりも周囲のぱさぱさ感が際立ってしまった。さらに、ミロワールを美しく仕上げるには温度が重要で、一度焼き上がったケーキを冷凍しておく必要があったと気が付いた時には後の祭り。なんだかチョコのお化けのような塊が出来上がってしまった。


翌日持っていくようにとケースに入れて、それごと冷蔵庫に保存していたが、当日、もう一度出来栄えを見て、持っていくことを断念した。違う。ミロワールのお洒落さが十分に発揮出来ていない。


そこで、今度は以前作ったチョコレートムースに、さすがに同じではつまらないので、ホワイトチョコレートで作るムースの二層立てにして、そこにミロワール施してみようと思い至った。125mlサイズのヨーグルトカップを準備して、先ずはホワイトチョコレートムースを作って入れ、その後でチョコレートムースを入れた。


ただ、ホワイトチョコレートのムースが、どうも想像していたものと違う気がした。ゼラチンを使うことに、違和感を覚えた。というのも、チョコレートムースの方にはゼラチンを使わないからで、これでは口当たりが全く違ってしまう。


しかし、そう気が付いた時には後の祭り。出来上がったものを味見してみると、それぞれに美味しいのだが、一緒に味わうと、全く合わない。チョコレートムースのレシピは、ダークチョコとミルクチョコで二層作るものであったし、ホワイトチョコレートのムースのレシピは、キャラメル味との二層で作るものだった。


プロはちゃんと味や食感を考えてレシピを作り上げている。だから、最初から応用編を勝手に手掛けてしまっては、失敗するのも当たり前のことだろう。


残念なことに、今回もチョコレートの塊の出来損ない君は、冷蔵庫に取り残されてしまうことになった。次回こそはレシピを忠実にたどることにはするが、暫くの間はもうお菓子作りはよいかな、と思っている。


かくして、同僚は今でも彼女の誕生日にお菓子を作って持っていこうとした私の気持ちを知る由もない。まあ、いずれ別の機会があるかな。


👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月18日土曜日

予感

 





翌朝、サロンとキッチンの間のドアが少し開いていたので、夜中にトンカが水を飲みにキッチンに入って来たと思われた。当の本人が元気そうにおもちゃを咥えながら出迎えてくれた。良く眠って元気になったかしら。


いつもの通り早朝の散歩に出掛けようと庭に出て、靴を履いていると、シャキシャキと小気味よい音が聞こえて来た。ふと見れば、トンカが人参を齧っている。そうか。人参が好きじゃなくなったのではなく、人参が食べられない程弱っていたのか。


先日、近所の散歩仲間からトンカ用にと人参を分けてもらっていた。多く買い過ぎたらしく、悪くなる手前なので、もしもトンカが食べるなら、とのことだった。トンカは人参、大根、蕪、キャベツ、なんでも食べる、筈だった。特に与えているわけではないが、料理をしている時に隣で座ってじっと見ているので、切れ端を味見させてあげることがある。そんな時は大喜びで、大切そうに食べている。


いただいた当日、細身だったので人参を一本そのままあげると、喜んで庭に行って食べていた。これは良いいただきものをしたと喜んでいたのだった。具合が悪くなった当日、いただいた人参をあげると庭に出て行ったので、てっきり食べたと思っていたのだが、夕方の散歩の帰りに、庭の水飲みの脇に人参が転がっているのを発見した。


そういえば、散歩の前にも人参をあげると、ちょっと匂いを嗅いで、ぷいと横を向いたことを思い出した。なんだ、もう人参の味には飽きちゃったのかしら。そう思っていた。


それが、である。なるほど。人参が食べられない程、弱っていたのか。そして今は、人参が食べられる程元気になったということか!なんと、朗報ではないか!


実際のところ、何が原因で具合が悪くなったのか分からないが、弱った胃腸を更に傷めないようにと嘔吐することで身を守り、とにかくひたすら寝ることに徹したことが奏功したのだろう。いやはや、トンカの自衛本能、自然治癒力には脱帽するしかない。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月17日金曜日

予兆





 


学校の校門のところで何かを咥えたので、また子供達が捨てたパンの切れ端か何かだろと思っていた。どうやらずっと口に咥えている様子だったが、グラウンドの手前でぽいっと咥えていたものを落とした。それを見て、なんだか違和感を覚えた。芯とは言え、まだ瑞々しい実がたっぷりとついている林檎だったからだった。


広場には犬一匹おらず、なんだか拍子外れな思いをしているのか、トンカの足取りもいつもよりは緩慢な気がした。厳密にいえば、今から思えば「緩慢な動き」だったが、その時は気にも留めていなかった。


森の中では珍しく、小径が三差路になっていたり、十字路であったりする場所で立ち止まり、こちらの様子を窺っていた。というより、私が近づくまで待っていてくれていた。


学習効果、というのだろうか。むしろ、前日のトンカとは別人の様で怖い程だった。


そう、その前の日、トンカはいつも以上にはしゃぎまくり、すっ飛んで行ってしまったので、十字路に差し掛かる場所で、一体どこに行ったのか分からなくなってしまったのだった。いつもなら、暫くすれば茶色い塊がどこからか飛んでくる。ところが、その日は待てど暮らせど姿は勿論、音さえもせず、気配が忽然となくなってしまっていた。


大声で名前を呼び、口笛を吹き、音を立て、トンカを呼び戻すもなしのつぶて。既に小半時間は経ってしまっただろうか。段々と焦る思いが募ってきていた。散歩しているカップルやサイクリストに声を掛け、細身の茶色い犬を見なかったか、と尋ね、もしも見たらサインをしてくれないか、とお願いをした。


夕方近かったので、散歩をする人もまばらだったが、声を掛けて数人目となるランニングをしていた高校生ぐらいの女子学生が、犬なら農場付近で首輪をつけた茶色い犬を見たと言ってくれた。トンカに間違いあるまい。


急いで農場の方に走っていく。前回と同じように農場の門が開いていて、そこに入り込んでしまったのだろう。果たして、農場の門はどうぞと言わんばかりに大きく開いている。大声でトンカの名前を呼ぶが、ちっとも手ごたえがない。一体、あいつはどこに行ってしまったのだろう。


と、遠くでこちらに向かって手を振っている人がいるように思えた。あまりに遠くで自信はないものの、すがる思いでその方向に走って行った。と、綱をつけられたトンカが、バゲットにむしゃぶりついているところだった。森の端に住む農業学校の施設の管理人一家が、何かに怯えるかのように道を突っ走っているトンカを見て、車に轢かれないようにと捕まえてくれていたのだった。


無事にトンカが見つかったことに心から安堵し、お礼をいってトンカを引き取った。トンカからは田舎の香水の匂いがぷんぷんしていたし、勝手に走っていってしまったことにちょっと腹が立っていたし、随分と気を揉んで精神的にも肉体的にも疲れていたので、その夜はハグもせずに、早々にお休みと、私は二階の自室に入ってしまった。


次の日、思えば、一日中トンカはソファーの上で寝ていた。テレワークをしていると、決まって遊んで欲しくてまとわりつくのだが、その日は甘えることもなく、静かに大人しく寝ていた。今から思えば、それも予兆の一つと言えよう。


いつもより早めに仕事を切り上げることができ、早めに散歩に行くことにした。じゃあ、ちょっと早いけど、腹ごしらえをしてから行こうか。そう誘って、ドッグフードをお皿に盛った時、非常に遠慮がちにこちらを見ていたので、なんだか違和感を覚えた。まさか、前日のことを引きずっているわけでもあるまいに。


トンカが食べ物に興味を見せないことは、これまでかつて一回もなかったので、何かがおかしいと感じがしたが、その時はまだ何かの予兆とは思ってもいなかった。


こう考えると、幾つもの予兆があるではないか。


果たして、森の散歩の途中でトンカは急にしゃがりこんでしまった。今まで嘗て、そんなことなどしたこともなかったのに。もう、動けません、そう身体からメッセージが発信されていた。


そうして、漸く起き上がったかと思うと、嗚咽をし、黄色い汁とともに先ほどのドッグフードを全て吐瀉してしまった。そして、また、ぐったりと大地にへばってしまった。


トン。君の具合が悪かったなんて、ちっとも分からなかったよ。そんなことなら、こんな遠くまで散歩に行かなかったのにね。無理させちゃったね。さあ、頑張って歩いておくれね。


トンカは、本当にふらふらと歩き、気のせいかお腹の肉がげっそりとこそげ、今にも倒れんかのばかり弱々しい様子で、なんとか家に戻って来た。そして今、ソファーに伸び切って寝ている。身体を伸ばして寝ている様子に、ちょっと安心する。


農場でまた何か変なものを食べてしまったのだろうか。先ずは、しっかりと落ち着いて様子をみてみよう。


バッタ達にトンカの近況を報告すると、末娘バッタから「ママが隣にいるから大丈夫だよ、きっと!」とメッセージが届いた。親に全幅の信頼を寄せてくれる一言に、ぐっとくる。よし、トンちゃん。安心しておくれね。根拠のない自信で、翌朝元気なトンカを想像し、大丈夫だと強く思う。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月15日水曜日

大根の半月切り

 





早朝の散歩に出る頃には、東の空が明るくなってきている。漸く朝らしい朝が迎えられる季節に突入したと喜んでいるのも束の間、10日後には夏時間に切り替えられてしまう。従って、日本との時差は一時間短縮されるが、相変わらず真っ暗な朝を暫く迎えることになる。


この時期にしては冷え込んでいて、手袋の中でも手がかじかんでいるのが分かる。大地は霜で真っ白となっていて、南の空には極薄の大根の半月切りのような月が光っている。それでも鳥たちは春の訪れが嬉しいのか、姿こそ見えないが、まだ薄暗い中でもにぎやかに囀っていて、楽しい一日となる予兆をもたらしてくれている。


鉢植えであっても、季節の巡りは分かるのだろうか。我が家の胡蝶蘭の三つの株が、それぞれに薄紫、純白、ピンクと花をつけていて、その気高さ、絢爛さに魅入ってしまう。


春は来ぬ、か。


👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月12日日曜日

妖怪小豆研ぎ再び降臨







最近、友人たちの間でちょっとした手作り餡ブームになっていて、粒餡を作りました、とか、今小豆を鍋に入れたところだけど、お砂糖はどんな割合で入れるのかしら、とか、写真入りメッセージが飛び交っている。お上品なこし餡より粒餡よ、という声があるかと思えば、サラダ用として販売している瓶入り煮豆をミキサーで練って、漉し餡を作る裏技を教えてくれる人もいる。


今回ちょっと驚いたこととして、こし餡を作る際に、仲間全員がミキサーを利用していること、水に晒す過程は省いていることだった。水に晒すと味が薄くなるとのことだったが、へえっと感心してしまった。今度味比べをしよう、と言ったら、すごく嫌がられてしまったので、本当のところは分からない。手間暇掛けずに、美味しい餡が出来るのであれば、それにこしたことはないではないか。


本格的和菓子は専門家に任せて、我が家ではちゃちゃちゃっと、なんちゃって和菓子を作って楽しむ、というのも一理あろう。一方で、本格的な和菓子を作ってみたいとの欲求を満たすことはできない。なんちゃって和菓子を作りたいのではなく、本格的な味を作りあげる過程を知り、その味にできるだけ近づきたい、と思うのだから仕方ない。


美味しい粒餡を作りたい、との思いがむくむくと湧いてきてしまった。丁度戸棚には小豆が袋の半分ぐらい残って眠っている。一袋500グラムだから、250グラム程度あるということか。


以前レシピを見比べて、これだ、と思った和菓子屋職人のレシピを改めてノートに書き写し、じっくりと読み直す。よし、これでいこう。


しゃき、しゃき、しゃき。小気味よい音がキッチンに響く。


小豆研ぎましょか、それとも、人取って食いましょか しゃき、しゃき、しゃき



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月9日木曜日

トンカの自然治癒力

 






自分の家の庭で亀を飼っているという友人が、亀が冬眠から目覚めて地上に這い出してきたので、農耕の準備を開始する時期だと言う。そんなものなのかと感心していたが、確かに枯草の荒涼とした土地だと思っていた場所が次々に掘り起こされ、柔らかくしっとりとして黒々とした土に覆われた農地が次々に出現している。


トンカとの散歩ルートの一つに、そんな大きな農場の近くを通るものがある。大抵、農場はきっちりと門が締まっているのだが、先日に限って、さあようこそとでも言わんばかりに、大きく門が開かれたままであった。もう夕方も遅く、既に農作業は終わったであろうから、恐らくトラクターの出入りなどで門を閉め忘れたのだろう。


こんなチャンスを逃すトンカではない。嬉々として猛スピードで農場に入り込んでしまった。あ~あ。追いかけて行ったら逆効果なことは、流石に今では良く分かっている。口笛を吹こうが、名前を呼ぼうが、大騒ぎをしようが、暫くは帰ってこない。


やれやれ。


願わくば、農場の人が突然帰って来て、トンカを大剣幕で怒り散らし、追い出そうとなどしないことだが、もしかしたら、むしろ誰かが来てくれて、その勢いでトンカが我に返り、慌ててすたこらさっさと農場から出てくることの方が良いのかもしれない。


とにかく、雨も降っていないし、冷たい風も吹き荒れていないので、ここは待つしかあるまい。私の姿が見えなくなったら、流石のトンカも慌てるのではないかと、大きな樫の木の後ろに回ってみた。


どんなに時間がかかっても、トンカはいつかは戻ってくる。今までがそうであったのだから、今回もそうに違いまい。そう信じるしかない。樫の木に隠れる格好で、農場を覗いてトンカの行方を追ってみると、何のことはない、入り口からそう遠くないところで、何かの匂いを懸命に嗅いでいる。そうして、やおら横になると、身体を押し付けるようにてゴロゴロしている。やばい。これは、自分の体臭消し、或いは大好きな匂い付けの行為。ということは、トンカは農場の香ばしい匂いを身に纏っているということなのだろう。それが何なのか、あまり知りたくはなかった。


トンカが場所を移動して、こちらを窺う様子だったので、さあ、と言わんばかりに勿論トンカの方には一切目も向けずに、農場の門の前を思い切りよく駆け抜け、その脇の広場に向かって走って、大木の根っこで立ち止まった。と、後ろを振り向いたら、トンカの笑顔。作戦、大成功。


ところが、翌朝、吐瀉物を発見し、夜中にトンカが吐いてしまっていたことが判明した。水入れにいつもたっぷりとある水は一滴も残っていなかった。慌てて水を入れてあげると、がぶがぶと飲んで、すぐに飲み干してしまった。慌てて改めてたっぷり水を入れてあげると、これもまた即座に飲み干してしまった。


吐瀉物といっても、水気が多く、色からして、マダニを取るために特別にあげた胡麻ペーストのようにも思えた。うーむ。


ふと思う。農場には危険がわんさかある、と。鋭い刃のついた農機具は勿論、化学肥料、農薬、小動物駆除のための毒団子。単純に馬や牛の糞でも食べていたのかと思っていたが、本当のところは分からない。


トンカには絶食を課すことにし、既にたくさんの水を飲んではいるが、もっと飲んでもらい、もしも摂取したのであるなら、毒素を排出させねばなるまいと思った。こんなに水を一度に摂取したことはないので、恐らく身体が欲しているのだろう。自然治癒力に頼るのが一番か。


トントン、農場の前を通る散歩ルートは、暫くはお預けにしようね。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月8日水曜日

Yuvuzela亭オリジナル 南仏の夏を思う林檎のケーキ レシピ編







Yuvuzela亭オリジナル 南仏の夏を思う林檎のケーキ レシピ

  • 太陽を燦々に浴びた干しレーズン 150グラム
  • 放し飼い卵 3個
  • キビ砂糖 150グラム
  • 牛乳と生クリーム 100mlずつ
  • 植物油 80グラム
  • 小麦粉と糯米粉 190グラムずつ
  • ベーキングパウダー 10グラム
  • 林檎 2個から3個
  • キビ砂糖+シナモン 


実はYouTubeでフランス人のお兄さんが紹介していたレシピとは若干違う。お砂糖の量が180グラムだったし、小麦粉オンリーで糯米粉は使っていない。他に、ヨーグルト130グラムと牛乳70グラムの組み合わせとなっており、植物油は100グラムだった。


我が家の戸棚と冷蔵庫にある材料で作ったので、このような結果に。小麦粉も、ライムギが若干混じったものだった。米粉にしてしまったが、恐らくオーツ麦の方が良かったのかもしれないと後になって思う次第。ただ、重量感は出て、リッチな田舎っぽさが楽しめたとは思う。


ヨーグルトがなかったのが非常に残念ながら、生クリームを使ってしまいたかったし、全部ミルクにすると、軽さが出るかとも思ったが、次回の研究課題としておこう。植物油は、無臭のサラダ油はご法度にしているので、関門。BIOで買った胡麻油が、全く胡麻の風味がないと以前末娘バッタと言っていたことを思い出し、次回はBIOの胡麻油を使ってみることにしてみたい。


さて、作り方だが、非常にオーソドックスで特筆する点はないだろう。強いていうなら、型の作り方かしら。ちょっとした工夫が必要ながら、この辺は想像力を逞しくして、大いに楽しめる部分なので割愛。


180℃のオーブンで40分焼き上げる。そうそう、戻した干しレーズンには香り付けとしてリキュールを混ぜておいたこと、仕上げにお砂糖とシナモンをたっぷり振りかけてオーブンに入れたことを記しておこう。


シナモンと林檎の焼き上がる香りがオーブンから漏れ出し、キッチンを満たし、心豊かな空間が作りだされること請け合います。




👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月7日火曜日

Yuvuzela亭オリジナル 南仏の夏を思う林檎のケーキ

 






好き勝手にクッカバラが囀っているだけのブログなので、クリックいただく回数とか、ランキングなど気にすることはないのだけれど、時々ブラックホールに向かって囀っている気がする時がある。交通安全強化月間の交通事故ゼロの日更新ではないが、常にクリック皆無の日が続いている。


それでも不思議なことに、その日のブログ閲覧数が200を超えることもある。国別データなど見てみると、へえ、こんな国から読んでくれているのかと感心してしまうのだが、正直なところどこまで正確なのか分からない。


タイトルがキャッチ―ではないのかもしれないと思ったりもする。それでも、タイトルはふっと天空から舞い降りてくるのだから、どうしようもない。文章を書き終わった時に降りてくることもあれば、書く前に降りてくることもある。今回は後者のケース。


レシピを検索することが多いからだろう。AIがちゃんと分かっていて、SNSの世界を泳いでいると、多くのレシピを紹介してくれる。寝しなに、こんなのありますけど、と紹介された動画の一つが、この「アップルケーキ」だった。


なんでも、フランス人の男性がイタリア人の友人から昔教わったもので、そのイタリア人の友人は田舎のおばあちゃんがいつも作ってくれたと言っていたという。聞かせるストーリーではないか。


こうなったら創作の世界に入り込んでみようか。


南仏の暑い日差しに、涼やかな木陰。からっとした青空。ハンモックでは子供達がふざけ合っていて、キッチンからはシナモンとバターの豊かな香りが流れており、お皿を片付ける音がする。庭のミラベルの木には黄金の粒が鈴なりになっていて、甘い香りを放ち、蜂たちがその周りを忙しそうに羽音を立てて飛び回っている。庭の奥の林檎の木には、小ぶりながらも真っ赤な林檎が幾つもなっていて、枝がしなだれる程。


ふふふ。この続き、どんどん書けそう。そして、新たなタイトルが舞い降りてきて、慌てて修正。


👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月5日日曜日

パンドカンパーニュの魅力

 





日曜の昼下がり、のんびりとトンカと森の散策に出掛け、久しぶりに大回りをして幾つもの森を抜けて、小川に沿って歩いて行った。学校のバカンスの最後の週末にしては、曇天で寒々としているからだろうか、子供たちの姿は全く見掛けず、時々ランニングをしている若者や、マウンテンバイクをしているサイクリストに出会うだけだった。


それでも車道に出てみると、他県ナンバーの車が数台空き地に駐車をし始めていて、これから散歩に出掛ける人々で、いつもよりも賑わっていた。こんな時はさっとトンカにリードをつけるに限る。一番厄介な連中は、固定観念で犬を怖がる大人、子供だった。


最後の丘をリードを付けながら上り切ると、後は大きな緑あふれるマンションの敷地を横切るだけだった。と、急にトンカがリードを強く引っ張った。叢にしきりに入りたがっているが、その勢いたるや尋常ではない。兎か、ハリネズミか。


こちらも引っ張られそうになるので、頑張って引っ張り戻すが、トンカの意思の強さは、私のそれを数倍上回っているようだった。仕方ない。長さが調整できるリードをつけていたので、こちらが引きずられない様に踏ん張りながら、這う這うの体でロックを解除した。


と、勢い良く叢の中に入り込み、ごそごそやっている。一体何事かと近寄ってみると、あに図らんや、大きな塊に齧りついている。よくよく見てみると、大きなパンドカンパーニュの半分だった。


フランスのパンドカンパーニュの大きさは度を越えていて、一つあれば一週間は家族皆で食べることができる程なので、それを半分にしてスライスしたものを購入することが多い。が、これはスライスしていない塊で、どうやら全粒粉を使っているのか、ライムギ粉で焼いているのか、かなり色の濃い、ずっしりとした重みを感じさせるものだった。


トンちゃん、すごいものを見つけたねえ。これはトンカの戦利品以外の何ものでもない。やれやれ。一体、トンカの嗅覚はどうなっているのか。改めてその凄さを目の当たりにすることになった。トンカが意地でも獲物を逃したくなく、リードを引っ張って頑張ったわけが漸く分かった。


こうなると、トンカからこのパンを取り上げることは無理なことは明白だった。毒など盛られていないことを祈るしかないが、しかしなんだってパンの塊を叢に放ってしまったのだろうか。誰も未だ手につけていない、綺麗なパンの塊。足があるわけでもないのだから、誰かが放らないと、叢の中には置かれていない。


想像力を逞しくしても、ちっとも場面が浮かび上がらなかった。自転車の荷台に括りつけてあった、ピクニック用に準備した袋から転がったのだろうか。或いは、ドライブ中のカップルが喧嘩になって、つい、パンを投げてしまったのだろうか。いや、いや、いや。


そんなよしなし事を考えている中にも、トンカは必死になって塊にかぶりついている。塊を口に咥えたまま、促されては歩き、時々口から落として唾液で柔らかくなったところ食べ、また口に咥えては歩くものだから、ちっとも前進しない。


赤ずきんちゃんに出てくる、おばあちゃんを食べてグーグー寝こけている狼のようにお腹が膨らんできているように思われた。ああ、とんちゃん。今日の夕食は、もうこのパンでお仕舞ね。


それが分かったのか、分からなかったのか。散歩から帰って来てからずっと、赤ずきんちゃんの狼よろしく、ソファーで正体不明で寝こけている。パンドカンパーニュの魅力は底知れない。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月4日土曜日

ルイとの出会い

 





人間同士に相性があるように、犬にも相性がある。体形よりは気質の類似性の方に比重が多く、出会った途端にお互いに何かを認識し、抱擁するかの如く後ろ足で立って絡み合う。もちろん、これはトンカの場合。


先日も、森の散策の時にすばしっこい若いブリタニー・スパニエルに出会った。二匹は出会った瞬間から、人生で最高の相棒と言わんばかりに抱擁し、おい、行くぜ、と疾走劇を開始した。


フルスピードで前方に疾走したかと思えば、急回転をし戻ってきたり、横の藪に駆けこんだりと、こちらが目を回してしまう程のリズムを二匹で軽やかにやってのける。二匹のスピードは恐らくほぼ同レベルで、時々一方が仕掛けをし方向を変えるものだから、相手は必至になって追いかける。こちらは抱腹絶倒。笑いが止まらない。


スパニエル君はルイという名前で、フランスの国王の名前としても有名だが、今でも我が子に付ける名前としては群を抜いているだろう。その名を愛犬とはいえ、犬君に付けてしまうのだから、驚いてしまう。


そういえば、トンカの最愛の相棒の一人に、ラブラドールのラムセスがいたことを思い出した。ラムセスと言えば、エジプトの王様の名前だが、ルイと同様に今でも生まれて来た子供にラムセスと名付ける親は多いだろう。


とすると、トンカは王族のやんごとなき方々と親しくなる傾向があるのだろうか。


つまらない俗な思いを打ち破るが如く、二匹がもつれ合いながら脇を疾走していく。変にぶつかって倒れないように気を付けねばならない。ルイを連れて来た青年と一緒に歩く格好になったが、彼がとつとつと話を始めた。


丁度息子バッタと同じような年齢だろうか。くりくりのカールが愛らしい天然の黒髪で、ぱっちりとした目元が、ミケランジェロのダビデ像を思わせた。普段は口数が少ないと思われるが、やんちゃなトンカに手を焼いていると察知したのか、散歩や躾の上でのヒントを、ルイのエピソードを交えながら教えてくれる。


控えめながらも、ゆっくりと丁寧に、ルイの猟犬としての特性を考慮して、それに合わせたゲームをしながら躾をしたことや、森で迷子にならないための訓練を紹介してくれる。きっと、トンかもルイと似たような気質だろうからと、教えてくれているのだろう。


いつの間にか森を抜け、丘の斜面を上ると目の前に夕方の空が広がった。丁度夕日が沈むところで、地平線上に真っ赤な太陽が最後の光を放っている。草原ではルイとトンカが走り込んでいて、夕日に染まったトンカの毛並みが黄金色に輝いている。


綺麗だ。


彼は一人そっと呟いた。


息子のような年齢の青年が、こんなに打ち解けてくれて、自然と自分をさらけ出してくれたことに、驚きと嬉しさが込み上げてきた。なんだか息子バッタと一緒にいるような気さえしてしまった。


ルイとトンカが見せてくれた自由奔放な、まさしく自然界の力のお陰なのだろうな、と思う。夕日に染まりながら、優しい気持ちに包まれ、感謝の気持ちが自然と湧き上がってくる。思わず、心の中で首を垂れる。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月3日金曜日

春の息吹を包んで

 






日本に遊びに行っていた姪っ子から、苺大福を買ってみたよと写真が送られてきていて、それが大福の上に苺が載っている、まさかのなんちゃって苺大福だったので、手作りをしてみたくなった。先日の苔庵アトリエの時に、同時開催で大福のアトリエもあって、糯米粉を一袋手に入れていたので、早速取り組む。


先ずは白餡作り。これは以前に作った、餡子屋さんの本格的レシピを参考に作成。




次に、苺を調達。小粒な苺を選び取り、残りは苺のジュースにしてピンク色のお餅に挑戦してみることに。糯米粉に苺のジュースを加え、溶いて綺麗なピンク色になった生地を、数度電子レンジで温め、お餅にしていく。


お餅が熱過ぎて、上手に伸ばすことができず、形が不格好になってしまったけれど、さあ、どうかしら。予め白餡で包んでいた苺だが、お餅でくるむ時にあたふたとしてしまった。きゅっきゅと繋ぎの部分を締める作業が、簡単なようで難しい。次回の課題としようか。




予想以上にお餅がピンクに綺麗に色付いたので、今度は色々なフルーツで色付けをしてみようか。巨峰の皮で紫色にしたら、どうだろう。オレンジサンギンヌの赤色、柘榴のルビー色はどうだろうか。ふふふ。春はもうそこまで来ている。


👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。





にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています

2023年3月2日木曜日

突然の訪問客

 





暫く疎遠になっていた知人から、突然メールが入って、折り入って話があるので会いたいと言ってきた。大いに戸惑ってしまった。疎遠になったには、それなりの理由があった。親しくなったこともあったが、その度にしっぺ返しを食らっていたし、卒倒しかねない程の啖呵を切られたこともある。それでも、細々と関係があったのは、バッタ達が絡んでいたからで、バッタ達が3人とも高校を卒業してしまうと、もうほとんどお互いに会うことも、連絡を取り合う必要もなくなってしまっていた。


一体、今度は何をやらかしたのだろう。庭の松の木が大きくなりすぎたと言うのだろうか。レバノン杉による花粉アレルギーに対する苦情だろうか。良いことなど、一つも思い浮かばなかった。


聖人君子ではないから、はたけば埃はどんどん出てくることは重々承知していた。ひょんな繋がりで、全く思いもしなかったことで叱責される可能性も否めなかった。


さあ、どうしようか。何故、一言、何々の件でお話がしたい、と言ってくれないのだろうか。電話ならいつでもどうぞ、と携帯番号を知らせ、夕方には犬の散歩があるので、夜にしか時間がないことを伝えた。


すると、では夜に伺います、との返事がきた。


電話では話にくいことなのだろう。


ご用件はなんでしょうか、と聞けばいいものを、なんだか聞きにくいものがあった。私にとっての「常識」と彼女のそれとは必ずしも一致しないことは、経験で知っていた。まさか、変なビジネスに巻き込まれていて、何か売りつけてくるのかもしれない。その時には、しっかりと断ろう、そう強く思った。


しかし、彼女は我々の関係をどう思っているのだろう。過去のことは全てご破算で、今では普通に挨拶し、笑顔を交わす間柄と思っているのだろうか。まあ、過去にこだわる必要はないか。


トンカとの散歩をちょっと早めに切り上げ、門柱灯を点け、シャッターを閉めずに待つことにする。約束の時間が来ても、トンカはソファーでのんびりくつろいでいて、訪問客がまだ来ていないことを告げている。ドタキャンの言葉が一瞬頭を過る。まあ、それも、それでいいか。全く、お人好しのこの性格、どうにかならないものか。



👇 拍手機能を加えました。出来ましたら、拍手やクリックで応援いただけますと、とても嬉しいです。コメントを残していただけますと、飛び上がって喜び、お返事いたします。




にほんブログ村 その他日記ブログ つれづれへ
にほんブログ村

↑ クリックして応援していただけると嬉しいです
皆さんからのコメント楽しみにしています