2015年12月12日土曜日

ミュスカデ



携帯を覗いて驚く。「もう、こんな時間!ごめんなさい。もう行かないと。」


不思議な時間であった。数週間前に日本の知り合いからLineで連絡があり、仕事を紹介したいからと、ある人物とのミーティングをアレンジしてもらっていた。確かに、あの時「珈琲でも飲みながら」との言葉はあったが、非常にありがたく謹んでお受けしていた。

待ち合わせの時間に遅れそうなので、慌ててLineで10分遅れの連絡を入れる。最初の印象が肝心。慌てて走り、待ち合わせのカフェに行くと、時間ぴったり。そんなものなのか、と思いつつ安心して相手を探そうとカフェ入り、携帯を確認するとメッセージ。「ごめんなさい。私も遅れています。今、出ました。」なんだ。それならそうと早目に連絡をもらっていれば、こうも慌てずに済んだのにな、と思う。


その間に、夕食を約束している出張で来ている友人に簡単に連絡を入れる。

「19h30に現地集合でいいかしら。今、オペラでミーティング中。終わった段階でSMSを入れるね。」

北駅に宿をとったという友人。「海の幸、チーズフォンデュ、北アフリカ料理クスクス、タジン、タイ料理、リヨン料理」、と思いついた順に並べた選択肢の中から、最初の「海の幸」を選んでくれていた。冬のシーズンならではの『生牡蠣』。以前、友人たちと一緒に行ったビストロにしようか、と検索してみると、前回の射撃テロ事件があった場所の近く。北駅からは小半時間のところ。

牡蠣だけではなく、ロブスター、蟹、巻貝と食材も豊富。でも気軽に行くというよりは、ちゃんと予約を入れて、背筋を伸ばして行く場所ではある。他にもいろいろと検索してみるが、せっかくなので美味しいところに招待したかった。取り敢えずは、このビストロ候補を連絡する。「住所に問題なければ」との一言を添える。

返事はすぐに来る。「そこがお薦めなら、そこでいいよ。」君がそこに行きたいなら問題ないよ、といったところか。

北駅とは言え、せっかくパリに来ているのに、そこから小半時間も掛けたところに行って帰るのは申し訳ないし、場所もスノッブではないが、どうもしっくりこない気がしてきた。慌てて別の場所を連絡する。「ここに変更。とってもカジュアルだけど美味しそう。いいかしら。」今回も即答、「D’accord !」オッケー。


面談相手は約束の時間を30分以上遅れてやってきた。長々と自己紹介が始まり、パリと日本を挟んでの今の仕事の大変さを延々と語る。「今回お探しのポストは具体的にどういったものなのでしょうか」と、単刀直入に聞いてみる。すると「ああ、そのポストは昨日もう決まってしまったのですよ」と簡単に言えばいいところ、その一言を伝えるために、また長々と色んな話が始まる。漸く、この面談は全く必要のないもので、本当にちょっと「珈琲」を一緒に飲んで、よもやま話をするためのものであることを理解する。

しかし、だからといって「では」とも言えず、相手の功績話、困っている話、大変な話とやらに耳を傾ける。そうして、ちょっとしたタイミングに携帯を覗いて、もう20時を過ぎたことを知る。

慌てて、友人と約束をしていたことを告げ、面談のお礼をし、走り出す。携帯は20時15分を告げているだけで、彼からの連絡は何も入っていない。面談が終わったらSMSを入れるなんて言わなければ良かったのか。大慌てでSMSを入れる。

「ごめんなさい!今終わりました。すぐに駆けつけます。今、どこ?」

返事がない。電話を入れる。国際電話になろうが、今はそんなことはどうでもいい。連絡なしに30分以上待ち合わせの場所に現れない非常識をしてしまった自分に信じられない思いでいた。なんと、電話は切られているのか、オペレーターの言葉が聞こえてくる。まさか怒って帰ってしまったのか。今度はメールを入れる。

「本当にごめん!!!!今向かっている。待っていて。お願い!!!」

携帯が震える。SMS。
「Coucou(やあ)。大丈夫?今夜の食事、難しそうだったら別の機会にしようか。」

ああっ!
走りながら震える指で返事を書く。

「今向かっている。本当にごめんなさい。今どこ?そこに行く。」
「ごめんなさい。」
「あと5分。」

立て続けにメッセージを入れる。

「その辺を歩っているところ。」
「OK」

私のどのメッセージにOKなのか。レストランに入らずに外で待っていてくれたのだろうか。

降りたメトロの駅で道を確認し、後は走る。
思った以上の裏道で、人通りは少ない。すっかり夜になった道に彼の姿は見えない。やはりありえない。遠方から来ているのに、連絡なしに長いこと待たせてしまったなんて。一時間近く外で待たせたことになるのか。漸くレストランのちょっと手前で、こちらに向かって歩いてくる笑顔を見つける。

「ごめんなさいっ!!!」

謝り続ける私に、せっかく会えたのに、そのことばかり話してもつまらないから、もういいよ、と笑顔が返ってくる。レストランというよりも、ブルターニュの厳しい自然の中に現れたようなこじんまりとした牡蠣専門店。潮の香りに包まれ、この場所を選んで正解であったことを感じる。先ずは再会を乾杯。

きりりと冷えたフルーティながら辛口のミュスカデ。

笑顔が広がる。







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