2016年10月25日火曜日

深まる秋に駒鳥







「ボンジュール、マダム!」
素っ頓狂な大声が聞こえる。一体、どこの誰?

朝起きると、とにかく庭に出て朝の空気を吸い込み、草の香を楽しむ癖がある。その時も髪に櫛もあてずに、蔦の葉が朝日を浴びて赤く染まる様におびき寄せられる様に飛び出していた。

一体、どこの誰?

どうやら、声の主は隣の建物の屋上から見下ろしている人物。
かなりムッとする。

「脅かしてしまいましたかね?それはすみません。良いお天気ですよね。」
件のムッシューは大声で続ける。

彼らが引っ越してきたのは8月の頃。それから挨拶をする機会がなかった。
いや、そんなことではない。
大体、上から人を見降ろして声を掛けるなんて、一体、なんてマナーを知らない無頼漢なのか。
高いところから失礼します、と言うではないか。

確か、アメリカ人と聞いていた。まあ、朝起きて、天気が良いので屋上に出て、見下ろしたら、庭に出ているお隣さんがいたので、声を掛けたといったところだろう。

しかし、彼等は我が家のプライベートな部分をそうやって上から見下ろせるということを誇示しているんじゃんないか、と思ってしまう。

まったくもってけしからん。

そう思うのは私だけか。料簡が狭いのか。

ここに引っ越してきた時には、そんな高い建物はなかった。隣は我が家と同じぐらい手入れの行き届いていない野生のブッシュで、一軒家に同じ年ぐらいのマダムと、バッタ達と同じ年くらいの子供たちが住んでいた。資金的な問題で彼らが追い出されるようにいなくなり、土地が掘り起こされ、三階建ての近代的なマンション群が二棟建設された。それから我が家の庭は日照時間が大幅に短くなる。

まあ、そんなにカリカリしなさんな。
赤いマフラーをつけた駒鳥が楽しそうに軽やかに視界に飛び込んでくる。

ひょっとしたら、こちらからは全部見えちゃうので、気を付けてくださいね、とのメッセージだったのだろうか。いやはや、すべてのことは、違ったように受け止めることができるから面白い。

そうさ。のんきが一番。
駒鳥が楽し気に飛び立っていく。

秋は深まる。






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