2012年6月4日月曜日

15年ぶりの親友の突然の訪問~黄金の粒舞い上がるグラスを掲げる



「ねえ、彼、後悔しているんじゃない?」

しばらく間が空いてしまう。
どう説明したら良いのだろう。
15年以上も前、ジャカルタの彼女の家に二人で遊びに行っていた。
あの頃の私たちを知っている、いや、あの頃の私たちしかしらない友人ソライヤ。

彼女とは、高校時代の一年間の留学先で出会う。
インドネシア出身の彼女は華奢ながら、どこにこんな力があったんだろうと思わせる程の力強い、優雅な王宮ダンスを披露してくれ、私たち留学生仲間から『ダンシングクイーン』と慕われていた。

志願したとは言え、たった一人であることを見つめる異国の地で、同じような環境の留学仲間との関係は急速に親しくさせる何かを持っている。艶やかで年上のソライヤと、お互いに何に惹かれあったのか。一週間の留学準備キャンプの間に、世界でもっとも信頼できる心の友となり、各人がそれぞれにホームステイ先に散らばる日は、抱き合ってお互いの、これからの一年間の幸せを祈ったものだった。その後もイメージ通りの優雅な書体で「私の最愛なる妹へ」との書き出しで、心のこもった手紙がステイ先に幾つが送られた。

留学を終え帰国してからも、大学に行ってからも、クリスマスには必ず長い手紙のやりとりがあった。卒業を前に、オーストラリアに遊びに行った際も、メルボルン大で経済の修士課程で勉強していた彼女のところに遊びに立ち寄っている。

そうして、まだバッタ達がこの世に出てくる前のバカンスに、
彼女の住むジャカルタに遊びに行っていた。

その彼女から突然連絡があったのは先週の半ば。
これからフランス行きの飛行機に乗るので、ぜひ会いたい、と。

今は国営企業の財務部長として、相変わらず超多忙な日々を送る彼女。
数年前に、大変に苦しかった結婚生活に漸くピリオドを打っている。
二人の子供達は、長女バッタの一つ上と、一つ下。

ムスリムであった彼女が、バリ出身の彼と結婚することでヒンドゥーに改宗しなければならなかったこと、その為に家族全員を裏切る格好になったこと、そこまでして結婚した彼が、実は同時に複数の女性と関係を持っていて、子供まで何人もいることが分かり、それでも子供の為に我慢しようと、これも運命と諦めたこともあったが、遂には手をあげられ、8針も頭を縫う怪我をさせられ入院し、子供達のためにこそ、強くならなければ、と立ち上がることにしたと、一度スカイプを通して、涙ながらの話を聞いていた。

この辛さを誰にも言えなかったことで、一層苦しみが増したという。旦那をしっかりと繋ぎとめることができないと、妻が責められる文化環境にあるという。特に、母親には心配をかけるからと、どんなことがあっても言えなくて、悲しかったと涙していた。

そうして、今。
ある日、早くにインドネシア人の妻を病気で亡くしていたフランス人の昔のビジネス上の知人からの連絡に、この人なら、何の関係もない、この人になら、全てを語れる、と、それこそ、堰を切ったように話し始め、丸二日も続けて話を聞いてもらったと言う。その知人が、今は彼女のパートナーとなり、彼と一緒にフランスに訪れている。

「ねえ、彼、後悔しているんじゃない?」
ソライヤの言葉。

「そんなこと、ないわよ。
彼は、昔の彼ではなく、昔を振り返ることなんてしないし、
後悔なんてしていないわよ。」

そんなこと、ソライヤだって、自分の元旦那を考えれば、分かるじゃない。
この言葉は飲み込む。

土曜の夜、長女バッタに渡したい本があるから、立ち寄るというバッタ達の父親に、寄る分には問題ないが、夕食には招待客がいるので、私は会えないと、朝の段階に電話で伝えていた。

そうして、15年以上ぶりの信じられない再会の喜びを、大騒ぎして分かち合っている最中に、呼び鈴が彼が来たことを告げる。

最初は長女バッタだけが外に出て話をしていたが、
ソライヤにも声をかける。

びっくりしながら、私に遠慮しつつも、懐かしさもあって、喜んで玄関に向かう。
ソライヤを目を細めて見つめながら、
声が出ずにいるバッタの父親。

ソライヤであることを彼女が告げると、
それでも、いぶかしげに、そうして、漸く記憶と映像がつながったのか、
笑顔が弾ける。

バイオリンの練習から帰ってきたばかりで、実は夕食の準備はこれから。
アペリティフでも、と思っていた矢先。
よかったら、一緒にどう?
と誘うと、お誘いを受けたのであれば、喜んで、と彼が家に入ってくる。

慌ててキッチンで夕食の準備を再開する私に、
息子バッタがにやにやしながら寄ってくる。

日本人のママは、礼儀正しくお誘いしたんだろうけど、
フランス人のパパは礼儀正しくお誘いを受けたんだね。

イレギュラー。
想定外の展開。

多分、その日の朝の彼との電話が影響していようか。
彼のお母さんが入院したというので、バッタ達を連れて会いに行かなくて良いのか、と聞く。そんなことをしたら却って何事かとびっくりされてしまう、大袈裟にしたくない、との返事。つい、正に「何事」なのではないか、何かあったら、子供達にあの時どうして会いに連れて行ってくれなかった、本当のことを言ってくれなかったのか、と責められるし、自分だって辛くなる。死んだら、どうしたって会えないし、もう遅い、と言ってしまう。

ソライヤとひとしきり昔話に花が咲き、ソライヤのパートナーと盛り上がり、バッタ達と楽しそうに話をしている。いや、実際には末娘バッタは、さっさと私の手伝いと称してキッチンに篭ってしまったし、パパの英語はちっとも分からないとぼやきながら、息子バッタもキッチンでジャガイモの皮むきを手伝ってくれていた。

オーブンから子羊とタイムの香ばしい香りがし始めてきたので、
そろそろ夕食にしたいのだけど、と告げると、
今回は、ああ、もう、お暇しなければ、と席を立つ。

今日はありがとう。

そう言って帰っていく。

そんな彼を見ていて、ソライヤが聞いてきたのであった。
彼は、後悔していないのか、と。
ソライヤに久しぶりに会って、あの時のバカンスが思い出されて、
後悔してやいないかしら、と。

そして、続け様に聞いてくる。
彼は幸せなのかしら、と。

それは、幸せになってもらわなくっちゃ。
だって、あれだけのことをしたのだもの。
幸せに決まっているじゃない。

そう言うと、淋しそうに、ソライヤが続ける。

でもね、彼、疲れた様子だったわ。びっくりする程年を取っちゃったよね。
最初は、私の方こそ、分からなかったわ。

えっ?

あ、きっと、お母さんのことが心配なのよ。今、病気で入院していてね。。。
慌てて続ける。

でもね、ソライヤ。
もう、私には、どうすることも出来ないし、何かしてあげる話でもないのよ。
彼のことも、彼のお母さんのことも。

心の声を聞いたのか、ソライヤが頷く。

さあ、再会を祝ってシャンパンを開けよう!
黄金の粒がオシャレに優雅に舞い上がるグラスを高く掲げる。

貴女に!
私たちに!そして
私たちの子供たちに!
世界中の人々に!
幸多からんことを!





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皆様からのコメントを楽しみにしています

2 件のコメント:

あかうな さんのコメント...

人生を語れるすばらしいお友達をお持ちですね。くっかばらさん。私も慌てて冷蔵庫からビールを取り出して来ました。ぷしゅっ。さあ、ご一緒させてください。

kookaburra さんのコメント...

おお、おう、あかうなさん。ご一緒しませう。ありがとうございます。貴女様の幸せに!お子様達の幸せに!ご家族の皆々様の幸せに!

ビール、、、確かに黄金の粒が楽しく舞っておりますよね。

いつもいつも応援ありがとうございます。ちょっと長くて、支離滅裂かな、なんて思って反省することしきり。言いたいテーマが沢山てんこ盛り。絞らんと駄目ですよね。でも、人生、てんこ盛りかも。


さあ、乾杯!!!