2013年10月20日日曜日

正真正銘の満月


そうやって、定刻通りに扉が叩かれる。

今回も、時間はしっかりと分かってはいたが、
大方、必要な食材は刻んでおり、
熱し始めたタジン鍋に、丁度特別ソースで漬け込んだ鶏肉を入れ始めており、
削りたてのナツメグの実の高貴な香りがインド土産のガムラマサラの香りを引き立て、
たっぷりの生姜とニンニクの食欲をそそる香りが熱とともに立ち上がり、
手には、まろやかな味わいを加えんとばかりの、ぽったりとしたカスピ海ヨーグルトが絡んでいた。

慌てて手を洗い、
玄関の扉を開ける。

すっくりと花菖蒲の艶やかな佇まいと、
円満の笑みが目に飛び込む。

手ぶらでどうぞ、
と言っておいたのに、
一つの手には菱形の包みと、
もう一方の手には、三角柱の包みを大事そうに抱えており、
明日の朝食と、デザートに、
と手渡される。

いつだって、ちょっとした手土産を持ってきてくれる、
さり気ない心配りに優しい気持ちになる。

ありがとう。
そう言って、冷蔵庫に苺タルトらしいデザートをしまう時に、
先ほどマンゴのクーリーを載せて完成していたマンゴレモンムースのグラスが目に入る。
最後に、庭のミントの葉を飾るだけの状態。

デザート、実は作ってあるの。楽しみにしていてね。

そう伝えると、嬉しそうに笑顔がほころぶ。
本当に心から喜んでくれていることが感じられる。

そう、
彼女との交流は、いつだって、とっても素直に好意を受け取り合える。

タジン鍋の鶏肉に焦げ目が付き始めたところで、
ズッキーニと玉ねぎ、塩漬けレモンのスライスを加える。
乾燥したクランベリーの赤い実やカシスの青紫の粒も忘れない。

さあ、キノアも頃合い良く出来上がった頃。

その合間も二人の会話は続く、続く。
一つの話題から、次の話題にと、脱線しつつ、
収拾がつかない程に溢れ出て、
タジン鍋からのオリエンタルな香りに包まれて、
あちこちで、踊り跳ねる。

手狭なキッチンのテーブルにお皿を出してしまう。
コジーで、気取らずに、お喋りに余念がない二人にぴったりの場所。

大きなタジン鍋をテーブルに置くと、
歓声が上がる。

さあ、今宵は好きなだけ食べて、好きなだけ語り合おうよ。

外では、どこも欠けていない、正真正銘の満月が冴え冴えと夜空に輝いている。




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