2018年8月4日土曜日

赤桃色の空間



そこは、いさわきちひろの世界だった。
うだるような暑さと一日の疲れを吸って重くなった衣服を引き摺るようにして、柔らかな赤桃色の空間を歩いた。

8月になると決まって路線工事が始まり、幾つか乗り継ぎが新たに加わり、それでなくとも長い通勤時間が30分は増える。加えて、7月に学校が終わると早々に公共交通機関は夏季限定時刻表を発表する。子供たちは2ヶ月間はバカンスだとしても、さすがに労働者はそうはいくまい。それでもいつもより閑散としたバスや電車の中は、旅行者の姿が目立つ。

8月の金曜ともなれば、遅くまで仕事をする人は稀なのだろうか。バスの最終時間がどの路線でも21時であることを確認すると、駅から小一時間ばかり歩くことにしたのであった。

驚いたことに、バスがないことをぼやく人間はどうやら私一人らしく、おとぎの国の世界に迷ってしまったのではと、呆然とした。

空を見上げれば、飛行機雲が茜色に染まっている。それも一瞬のことで、空には雲一つない。赤桃色の空間はぼんやりとしていて、劇的な夕暮れに移行する様子もなく、ひっそりと照明が落ちるように暮れていく。

一人歩いていると、遠い昔同じような空間を歩いていた記憶が蘇る。ピンクの小さなバケツに、拾った海藻と貝を入れて、ぶらぶらとなだらかな坂を歩いていた。

記憶が記憶を呼び、収拾がつかなくなりつつも思い出に耽りながら、のんびりと歩いているとケータイの音に現実に戻る。パピーの故郷、ブルターニュの島にパパ達一家とバカンスに行っている末娘バッタから。あれやこれやと話をするうちに、我が家の前まで来てしまう。もうとっぷりと日は暮れた。すると、これから海に行って泳いでくるね、そういって通話が終わった。

毎年8月はこの島で過ごすからだろう、大勢の友達がいる末娘バッタ。船で到着した日には仲間たちが出迎えてくれたらしい。楽しくやっている様子に笑みがこぼれる。




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