2012年3月12日月曜日

車窓には白い梅



身も心もすっかりと疲れ果てた木曜日の夕方。

コペンハーゲンの空港にて、
オシャレなカウンターで飛行機発着を眺めながら、
キャビアやイクラ、サーモン、握り鮨をつまみ、
シャンペンや白ワインを楽しむ場所も素通り。

お決まりのスタバで、
チャイラテとビスケット。

が、豊かさが心に広がらない。
仕事完了の達成感や充実感が湧き上がらない。

シャルルドゴールに近づいても、
いつもなら心に何かの動きをもたらすオレンジの光も
鉛と化した体を揺すらない。

ぼんやりとスーツケースを待ちながら、
こんな時だから、と
メッセージを打つ。

「ひょっとして空港近くで仕事じゃない?」

空港の近くは流通関係の企業が多く、
時々、仕事でこの辺に来ていると耳にしていた。
それでも、まさか会えるとは思ってはいない。
軽い挨拶のつもり。
それ以上でも、それ以下でもない。

タクシーに乗った時に携帯が震える。

「パリの中心にいるよ」

それだけ。
そっちは空港なの?とか、
残念、また今度だね、とか、
元気だった、とか、
一切書いていない。

挨拶程度のメッセージ、なんて大嘘で、
全てを受け入れ、期待はしない、なんてことも大嘘。

そんなことより、
やっぱり、こんな程度の返事だったか、と。

そうか、
そうか、
そうか。

タクシーの後部座席にどっぷりと浸かりながら、
パリのどんよりとした空を眺めつつ、
疲労感が怒涛のように押し寄せ、
危うく涙が出そうになる。

と、
慌てたかの様に携帯がまた震える。

「だけど、君の心の奥深い中心にいるよ。」

大きく息を吸って、
また、深々と座席に埋まる。

車窓には白い梅。



 
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