2013年1月5日土曜日

加油(チャーヨ)!



年の始めにしては暖かな日々が続いており、
その気になっては寒さで萎んだバラの蕾の傍で、
新たな蕾が膨らみかけている。

ぐっしょりと湿り気を帯びた枯葉の絨毯には
パッチワークのように春先の雑草が緑の固まりを作っている。

久しぶりの一人の朝を
前日の余韻と、これからの予感に浸りながら、
ぼんやりとノエルのスパイスの香りふくよかなブラックティーを飲んでいると、
携帯が鳴る。

バッタ達の父親。

このところ、仕事のことで親身に相談に乗ってくれており、
実のところ、最初こそお節介さを煙たく思い、
最も助けなど求めたくない相手から援助を受けるのか、
との拘りもあったが、
素直に助けが欲しかったし、
本当に困ってもいたし、
契約や制度に関しては非常に明るく、
交渉に至っては、
彼が求めて得られないものはなかったのではと思われるほどの手腕を発揮していたので、
ここは、有難く支援をお願いすることにしていた。

バッタ達にも良く言っている。
パパは大した人物だし、パパの文章力は凄いから、パパから多くのことを学びなさい、と。

そうして、どうやら、彼の支援を有難く頂戴することを
彼は非常に喜んでいる風でもあった。

さて、昨日相談した内容に問題があったのか、
と、訝しげに電話に出る。

「邪魔した?」

珍しい。
大抵は、どのフランス人にも見られるように、先ずは「ボンジュール」から入るのに。
まあ、そんなことはどうでもよいか。
こちらは、恋人とゆっくりと朝のまどろみを楽しんでいる状況でもない。
そうであったら、電話など、出るわけがない。

そんなこちらの勝手な思いを蹴飛ばさんばかりに、興奮した調子で彼は話し始める。
どうやら、息子バッタの言動が思わしくないらしく、嫌な週末を過ごすぐらいなら、これから息子バッタを私のところまで連れてくるという。

さもありなん。
詳しく聞いてみると、何を言っても我を通す息子バッタにお手上げとのこと。
ヤツは泣いて抗議しているに違いない。
換わって貰うと、
やはり、泣きじゃくってパパに非があるとばかりに喚いている。

そうか、そうか、
と暫く話を聞いてやる。
そして、その場にいるという長女バッタに電話を交換してもらう。

「いつものことだよ。」
冷たい彼女の声が響く。
審判の彼女の一声で、全てを把握した気になる。

もう一度、息子バッタに電話を換わってもらう。

ヤツは未だパパの悪口を言っている。
「ボクが10分かけて仕上げた文章を、酷い出来だと評し、書き直させて、
挙句、訂正した文章を、何も分かっていないと、こっぴどく批判するんだ。
どこが間違っているか、なんて、何も教えてくれないで、パパの言うことをちっとも聞かないと怒るんだ。」

ママのところに、これから来る?

「うん。」

ママは、嬉しいわよ。
でもね、ママは、日本語も、英語も、数学だって教えてあげられるわよ。
ただ、フランス語はパパの方が出来るし、ママにはパパ程には教えてあげられない。それでも、いいの?
フランス語で文章を書くことは、フランス語の授業だけではなく、歴史だって、地理だって、物理、生物、数学にだって必要な能力なのよ。
とっても大切だと思う。

ねえ、ママだって、出切れば一人で頑張りたいけど、
今、仕事のことで、パパにとっても助けてもらっていること、知っているでしょう。

謙虚にならなきゃ。
教えを乞わなきゃ。

パパはあなたのことを大切に思っているからこそ、頑張って欲しいからこそ、色々言うのよ。素直になって、分からなかったら、分からないからもう一度教えてください、ってお願いしなきゃ。

どう?
ちゃんと、教えてください、ってお願いしてみる?

受話器の向こうから、穏やかな呼吸が聞こえてくる。

パパに換わって貰う。

彼は未だ興奮気味。
いつだって勉強するのは女の子達。息子バッタは3分で片付けてしまい、後は何もしない。
その結果が、この有様。しっかりとフランス語で発表もできない。
昔は書く力も発表能力も素晴らしかったよ。
彼の力は下り坂だよ。

そう喚く。

分かる、分かる。そうなんだよね。
でも、それをあの子に直接言ったの?
彼、それで、よし、って奮闘すると思う?むしろ、辛く、悲しく、俺は駄目なヤツだって思うんじゃないかな。
あの子、声変わりもしたし、背も高くなったよ。
でも、未だ13歳。
そして、きっと、他の子よりもデリケートで幼いの。もっともっと、愛情に飢えているの。
パパからも認められたいと思っているのよ。
褒めて、褒めて、煽てて、勉強意欲を誘ってあげて。

「え?何て言った?」

ちょっと驚いたらしい。
もう一度、ゆっくりと繰り返す。
パパから、認められたいと、パパから愛されていると感じたいのよ。

「わかった。もう一度、話し合ってみる」

何かあれば、迎えに行くわ。
そう言って電話を切る。

曇り空の下、
久々の買い物に出る。

迎えに行ってあげたかったな、と思う。
そうしたら、二人で楽しく買い物ができたのに。

スパゲッティを選んでいるときに受信SMSに気がつく。

「上手くいっている。さっきは、彼と話をしてくれてありがとう。」

加油(チャーヨ)、加油(チャーヨ)!
突然、掛け声が甦る。

台湾の姪っ子の野球の学校対校試合で、
応援合戦になった時の掛け声。
どうやら、頑張れ、という意味らしかった。
なるほど、油を加えるのか、と漢字の国の発想に頷いたもの。

加油(チャーヨ)、
自分自身に言い聞かせながら、ハンドルを握る。

加油(チャーヨ)、
加油(チャーヨ)、
加油(チャーヨ)!!!


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