2013年2月6日水曜日

ヘッドライトを待受けながら




カチッ、カチッ。
エンジン音が響かない。
まさかの、いや、来たるべくして来たバッテリー上がり。

なんてこった。
組み込み式ラジオの放電が問題といわれ、
肝心のラジオが整備会社に届かずに、
漸く電話で確認し、翌朝には交換する手筈を整えていた矢先。

急に寒くなったわけでもなく、
一体、何だってこんな日に、と恨めしく思う。

都合の良いことに、会社の駐車場。
都合の悪いことに、夕方。
今すぐブースターケーブルで誰かの車のバッテリーと接続し、
たとえエンジンがかかったとしても、整備会社の営業時間は既に過ぎている。
しかも、その日は夜にパリで夕食会に参加することにしていた。

夕食会をほっぽり出して、帰宅することを考える。
が、それも一瞬。
今、この状況で、色々な方と出会うことは貴重であり、必要なこと。
今回、出席しなかったら、次回は声も掛かるまい。

慌ててメトロで会場に赴く。
バッタ達には、夕食会で遅く帰宅するとは言っていたが、
車がエンジン故障、つまりエンコしてしまったので、
帰宅時間はもっと遅くなると連絡。

会場に行く前から、
帰りの心配をするのも興醒めながら、
郊外に住み、駅からも遠いとなると、
寒さが緩み、暦の上では立春だとは言え、まだ冬。
気が重くなるのも仕方のないことか。

それでも、
先日、別件の会議で隣の席になった顔を大勢の中から見つけ出し、
えいやーとばかりに、大きな笑顔で話しかけ、
隣の方にも声を掛け、自己紹介をし、
シャンペンを傾けながら、
そこそこに、楽しい時間を過ごす。

講演の時間になり、会議室に移動し、カルロスゴーンの尊顔を拝する。
隈取を施したかの半眼で睨みを利かせ周囲を見渡しながらのスピーチ。
日仏の共通性そして補完性、協力し合うことでの成長性を語るが、
質問の一つに、成功例が日産ルノーぐらいであるのは何故なのか。カルロスゴーンのクローンはいないが、何が決定的に欠けているのか、が出る。

すると謙虚なもので、
サプライヤー、サービス関連の業界では、
大衆への認知度は低くても成功例は枚挙に暇がない、とする。

彼によると、日本経済の課題は3つ。
短期的に為替(安倍政権を評価)、
中期的にエネルギー(原発ゼロにすれば、燃料費は上昇し、かつ、諸外国への依存度が一層高まることは必至。それで果たして日本は良いのか。覚悟はあるのか)、
長期的に少子高齢化の問題を挙げる。

真新しさ、斬新さは感じられないが、
成功者の確信に満ちた言葉は重く、
200人以上の観衆は耳を欹てて聞き入る。

10年以上も無沙汰をしている、
大先輩というには途方もなく天上界のお人のような方に、ご挨拶。

宴会場では、座席指定。
来賓の祝辞やら、主催者挨拶など、延々と続く。
漸く乾杯となり、
場馴れした人々の間で紳士的、淑女的な会話が繰り広げられる。

隣のフランス人の男性が、
高校生の娘の話をし始め、
10年前に日本人女性と離婚してから、
フランスと日本で、如何に育てたかの話を興味深く聞く。

そうこうしているうちに、
時計の針は10時を指している。

デザートを前に、恒例の福引。
両隣に、先に失礼する無礼を詫び、
もしも福引で当たれば、どうぞ楽しんでくださいと、
福引券を手渡す。

外では、ドライバー達が所在なげに佇んでいる。

中庭を突っ切り、通りに出て駅まで勢い良く走り出す。

閑散としたプラットフォームに息を弾ませ滑り込むと、
運良く、電車が明るい光を放って待ち受けている。

素早く電光掲示板を睨むと、
待っていた電車は別の路線のもの。
次に来る回送車を見送って、漸く、我が家のある町に行く電車が来ることになっている。

溜息。

いや、こんなところで急いで何になろう。

冷たくなった指先で、
携帯の画面を見つめる。

長女バッタに先に寝るようにSMS。

そうして、
夕食会に行くだろうかと思っていたが、
遠くの取引先に行って帰りが遅くなるといっていた友人に、
報告も兼ねて電話をしてみる。

のんびりとした声がBGMとともに流れてくる。
未だ高速を飛ばしているという。

駅で電車を待っているというと、
近くで拾ってくれるとの申し出。

思わず飛びついてしまう。

遅い時間や、
相手の疲労、
慎み深い遠慮など
ちっとも沸き起こらず、
思いもよらぬ差し出された救いの手を
ありがたく、
ありがたく、
両手で握ってしまう。

階段を上って地上に出ると
冷たい風に身震い。
賑やかだった駅の出口に
いつの間にか人気もなくなり、
隣で大きな荷物を持って立っていた人も、
車がそっと近寄って、
紫煙を残して去っていってしまう。

皮手袋をした両手をポケットに突っ込み、
車の流れを考え、
はぐれないように、
見落とさないように、
その空間にある全ての動きを見守る。
何気なさげに。

ぶーんと緩やかな動きでヘッドライトがこちらに向かってくる。
満面の笑みで、一歩前に進み出る。








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