2013年2月24日日曜日

今夜だけ...




あれは小学の頃か、
いや、もう中学になっていた頃か。

お客様がいらっしゃったと連絡を受けると、
ご挨拶に行ってくると、
母は着物姿で会社に出て行くことが多かった。
それが仕事でもあった。

戻ってきた母の後ろを追って、
母が着物を着替える様子を見ながら、
話を聞くことが好きだった、あの頃。

お客様の接待なんて、若い頃には考えられなかったけど、
今では皆さん、サービス業にとっても向いているって仰るのよね。
ハイトーンの笑いの混じった母の話は続く。

子供の頃から、自慢の母。
授業参観になると、友達からいつだって羨ましがられる。
若くて、美人で、かっこよくって、いいね、と。
デパートで買い物をしている時にだって、
お店のお姉さん達から、ママなの?若くて美人ね、と言われていた。

友達から、どうしてお母さんに似なかったの?と、
意地悪でもなく、嫌味でもなく、
本当に残念がっている口調で言われることにも慣れていて、
私自身、本当に残念に思っていた。

そんな母から、
リップサービスならぬ言葉を聞いた時には、
正直ぎょっとした。

お客様へのリップサービス。

え、まさか、お母さん。
え、そんなこと、しているんだ。
それが、当たり前のように、なんでもないことのように、
お客様だもの、喜ばれるものね、
といった感じで説明されると、
なんとなく、呆然としたもの。

そうしたら、
あら?いやねぇ。何よ、その顔。
何を想像しているの?
リップサービスって、ちょっと、ちょっと。

と、すっかり考えていることを言い当てられ、
実は、すごい勘違いであったことが瞬時に分かり、
大いに恥じ入ったもの。

そのリップサービスならぬ、筆サービスを
忘れていた頃に、
ぽーん、と送ってくれる貴重な友人がいる。

本気にしたら、
お互い、ちょっと困るであろう間柄。
十分、そのことを分かっているから、
そして、相手を信頼しているからこそ、
ちょっとだけ、垣根を越えるような素振りを見せる。

あと一押しで、本気にしようかと思うところで、
相手の動きは、ぴったりと止まってしまう。

今回は偶然にも、私と同じ名前の女性について、
彼から問い合わせが入る。
てきぱき返事をし、彼女のことは、便宜上、いや、ちょととした、からかいの意味も込めて、貴方の○○さん、といった言い方をする。

すると、
すぐに返事が返ってくる。

親愛なる○○
僕にとって唯一の○○は君だよ。
優しいキス

と、同時に別件のメールには、

何かにつけ過剰に反応してしまう時期ってものがあるもんだよ。チャンスがどうも味方をしてくれていないように思われるんだ。どんなちっぽけなことも、辛く思われるんだよ。
でも、そんな時期は過ぎてしまう。トンネルの向こうには、いつだって明るい光があるんだ。友達だっている。
結局のところ、友情や愛といったものが、何にも増して大切なんだ。
頑張ってね、僕の○○。
必要な時には、いつだって僕は両手を広げているよ。
キス

リップサービズならぬ筆サービス
いや、
ちょっとだけ、今夜だけ、好きに解釈してしまおうか。




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