2015年10月15日木曜日

返歌







えっ。
サイトで場所を確かめてドキリとする。高級ビストロではないか。美味しいワインが飲めるはずだから、と、そこを予約した理由がさりげなく書いてあったが、どうやら、ジーンズで気軽に行くようなところではなさそう。一体どうしたというのだろう。なんだか、覚悟して臨まねばと、緊張感が走る。


そもそも、先週、「パリの仕事を遠距離で続けることになったよ。だから、パリにも頻繁に行くことになりそうだ。その時には会おう。」とメールをもらっていた。何となく予感がして、すぐに返事を書いた。

その人の代わりがいない、なんてことは決してない、なんて言うけど、ほらね。やっぱり皆、あなたを自分の傍に置いておきたいのよ。パリに来た時には教えてね。Chateau Lagrezetteの2009年を取っておいてあるから。どう?魅力的でしょ?まだまだ書きたいことはあるけど、取り敢えずこのメールを送ります。早く「coucou(今日は)」を届けたいから。

実は、長々と月と太陽についての思いを書いたのだが、なんだかおかしいので全部消してしまっていた。


すると、翌日返事が来る。
「やあ、今晩は。
そうだね。Chateau Lagrezetteの2009年にはとっても興味があるよ。でも、それよりも何よりも君と一緒に、今ある世界の状況を語り合えるってことに魅かれるよ。
ビズ。またね。」


おっと!そう来たか。
でも待ってよ。これって、、、。
そもそも、先日のメールからして気になっていた。海外に転職し、新天地から無事に着いたとのメールをもらい、その後、漸く落ち着いた旨のメールをもらった時に、これまでのアカウントは仕事関係に使うので新しいアカウントを作った、これからはこちらを利用するようにと書かれていた。そして、近況をぜひ教えて欲しい、君からのメッセージはいつだって嬉しいよ、と。


勝手に思い込んで突っ走ることは、自分でもよく知っている。だから、今回は慎重にしようと思いつつも、ついつい自然と自分の都合の良いように頭の中で思いが駆け巡る。


ただ、どう勝手に想像したところで、相手あっての話。そう思っていたところ、予感が的中し、今週月曜になって「到着」のメールが届く。厳密には日曜の夜に送信されたもの。

今夜パリに着いた。今週どこかで会えないかな。夕食が一緒にできれば嬉しいけれど。


そこで、金曜以外は大丈夫と書き送れば、それは良かった。火曜の夜にしよう、と返事がくる。火曜は都合の良いことに、パリ市内で夕方に打ち合わせ。終わったら、さっくりと帰宅しようと思っていたので丁度良い。すると、レストランでいいかな。何が食べたい?どこか行きたいところはある?と質問が入る。ただ、月曜はかなり遅くに帰宅し、頭は飽和状態。とにかく、何も考えられなかったので、そう伝え、時間と場所を指定してもらえれば、そこに行くのでお任せします、と書いたところ、予約したと伝えてきた場所をみて、驚いてしまったというのが、この文章の冒頭部分。



果たして。
当日、予定の打ち合わせが早く終わったので、一旦オフィスに戻り仕事をしていると、夕方6時半過ぎにSMSが入る。「今パリのホテルに戻ったところ。7時過ぎに現地で落ち合うことでいいかな。」
了解、そう思って現地に向かう途中、電話が鳴る。「大丈夫?問題ない?さっきSMSしたけれど、返事がないから心配していたんだけど。」おっとっと。ごめんごめん。今向かっているところ。国外の携帯番号なので連絡をしなかった自分のケチさを反省。レストランの丁度手前の道から歩いてくる彼とばったり出くわす。大きく手を振って合図をしている。円満の笑み。


うっかりと身勝手な思い込みをしないよう、緊張する。自分で自分の罠にはまってはなるまい。


渡されたメニューを見て、一瞬固まる。「さあ、せっかくだから二人で楽しもうよ。ここは僕に招待させてね。」引っ越し先の国の様子を聞くと、「とっても上手くいっているよ。それを今日は一緒にお祝いしたいと思って!」とくる。まあ、あまり深く考えてもしょうがない。それでも、一品ごとに新しいグラスワインが運ばれ、その度に乾杯。


本来なら、相手の目を見て、微笑みながら乾杯するのだけど、どうも目を合わせることができない。すると「なんだか緊張しているみたいだね。」と言われてしまう。仕事のせいにしてしまう。そうしているうちに、いつも通り話が弾み、色々な話題にお互い笑い合う。好き勝手に自論を展開し、それを批判し合ったり、称賛し合ったり。


グラスを何回合せたろう。すると、ふっと頬をなでられる。「緊張が抜けたようだね。良かった。」と。


フィニッシュの珈琲を飲みながらも、話が尽きない。二人とも随分飲んでしまっていた。毎回、彼のグラスには新たに黄金や濃厚な赤が注がれていたので、私の二倍は飲んでいるだろう。ごちそうさま、とお礼を言って外に出る。冷たい空気が頬に心地良い。


次のメトロまで歩いて酔いを醒ますかと思っていたが、どうやら二人とも同じ駅。歩きはじめると携帯が鳴る。鳴りやまないところを見ると電話。こんな時間に、と画面を見ると息子バッタ。「ママ、どこ?」えっ?今夜、夕食をしてくるって言っていたじゃない。パリよ。と言えば、「えっ!なんだって?僕、今日は学校で演劇を見るから、夜は迎えに来てってお願いしていたじゃない。寒いよぉ。」情けない声が聞こえる。しょうがないな。友達にお願いするか、タクシーか、或いは歩いて帰ってきてよ。そう言いながら、プラットフォームに入ってきた電車に二人で乗る。まったく子供ってね、と話をしているうちに、次の駅についてしまう。ここで降りなきゃ。慌てて挨拶のキス。ありがとう。またね。
電車を出たところで、ぐっと腕を掴まれる。瞳が何かをいいたそうにしている。


乗り継いだ電車の中で酔いが快く回ってくる中SMSを書く。
「素晴らしい夕べをありがとう。まだ楽しんでいる。とても良く選ばれた最高のワインと優しい笑顔に。」


我が家に着いた頃に返事が入る。
「今夜、喜んでもらえていると嬉しいけど。君と一緒で最高に楽しかった。ビズ。」


翌日、夜にメールが入る。
「昨夜は会えて本当に嬉しかった。
なんだか最初、君は緊張していたけど。
楽しい時だったね。
君は僕の心の奥深くにいる大切なひと。
メトロでの別れは余りに短か過ぎた。
本当はしっかりとこの腕に抱きたかった。
君の友であることは、またとない幸せだよ。
ビズ。」




いつか、与謝野晶子の歌でも送ろうか。
柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君


いやいや、せっかくの楽しい関係。ここ暫くは、ラテンっぽく楽しもうか。

それよりも、何よりも、逆にその気になられたら、どう対応すべきかと困ってしまっていたからの、レストランでの緊張ではなかったか。
まったく、いい加減で呑気なものである。苦笑が漏れる。


何はともあれ、ボンボヤージュ。元気で。そして、また近いうちに。







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