2018年9月19日水曜日

世界で最も遅い特急、グレッシャー・エクスプレス






サンモリッツに滞在した時間は恐らく、今回の旅のどの場所よりも短かっただろう。それでも、印象は深い。質素ながらも清潔で、駅から程よい距離であることを条件に選んだホテルは驚く程快適で、部屋に至っては大きく、フレッシュな森林の香りがした。


冬は雪深いのだろう。階段の踊り場には愛らしい橇が飾ってあった。レストランこそなかったが、朝食は暖かな木目調のホールに用意されており、恐らく旅の中でも最高に優雅なものであった。





駅は湖に面していたが、町自体は小高い丘に向かって発展していったようで、ホテルからは深緑に輝く湖面が見渡せた。爽やかな朝の空気を楽しみながら、駅に向かって下りていく。










さあ、これからツェルマットとサン・モリッツをつなぐ8時間のGlacier Express、氷河特急の旅が始まる。7つの谷、291の橋、91のトンネルを抜けて走るという。『エクスプレス』などという名を冠しているものの、世界で最も遅い特急とも言われており、車窓に展開する絶景をゆっくりと楽しむことが主目的だった。

旅の準備のエンジンさえ掛かると、一気だが、それまでに時間がかかってしまうことも事実。そして、今回もエンジンが掛かった時期がやや遅く、この旅行者に大人気のGlacier Expressの予約をしようとサイトで検索すると、ほぼ満席状態だったから、大層慌てたものだった。最近は一等車も二等車も天井までガラス張りで大パノラマが楽しめる車両になっているらしいが、一等車であれば、二席窓側が空いているものの、離れ離れ。二等車であれば、真向いの席がとれるが、通路側であった。究極の選択。

眺めの良さに軍配を挙げ、当初一等車の予約をしようかと大いに迷ったが、夏の天気の良い日などは上からの陽射しはきつく、むしろ通路側の方が無難であり、十分景色を楽しめる、などとの旅行者のコメントを見つけ、長時間でもあるし、二等車の真向いの席にしようと、そちらを選択。ところが、肝心の支払いのタイミングでサイトがバグってしまう。予約ができない状態に大いに慌て、已む無く、一等車の席を選ぶと、今度は簡単に支払いまでスムーズに進んでしまう。なんだか騙されたような気もしたが、背に腹は代えられない。もしも席がなかったら、今回の旅のハイライトの一つと位置付けている母に、どう申し開きできようか。

支払いをすませて母に報告すれば、8時間も席が離れているのは残念、と言われてしまう。そうだよね、と、今度はスイス鉄道に電話を入れて問い合わせてみると、今現在、予約で埋まってしまっているとのこと。出発一週間前であれば、予約変更が可能になるかもしれないので、試してみるように言われる。

恐らく、どこぞの旅行会社が席を押さえてしまっているのであろう。取り敢えず席を確保したことに安堵していたが、時々サイトに行っては、二人席が空いていないか確認していた。と、ちょうど旅行の二週間前。二等車のやはり通路側で真向いの席が空いている。今度こそ予約をし、支払いまで進む。そうして、その旨スイス国鉄にメール連絡をし、前回のチケットをキャンセルし、払い戻しを依頼する。驚いたことに、ちゃんとスイス国鉄はすぐに支払いに使ったクレジットカードに返金をしてくれた。

スイス国鉄のサービスはすごいじゃないか。車両は常に清潔だったし、ストもなければ、遅延もない。一体どんな景観が待ち受けているのだろうか。あれだけ苦労して入手したチケットだったが、どうやら始発、サンモリッツからの乗客は少ないらしく、拍子抜けする程車両はがらんとしていた。いそいそとザックを荷物置き場に載せ、山登りのジャケットまでハンガーに掛けてしまう。二等車なのに、この優雅さは一体なんなのだろう。窓ガラスはぴっかぴかに磨かれており、イヤフォンやガイドブック、地図までがサービスとして用意されていた。

各駅停車の特急など聞いたことがないが、今日はのんびりと鉄道の旅を楽しむとしよう。そんな呑気な思いで、ゆったりとした座席にご満悦で乗り込み、電車の揺れに身を任せていた。





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